表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
380/476

Chapter 016_預かりモノ

「・・・ただ、()()()()です・・・」



…そう言った。

彼女の大きな瞳には…



「・・・だって。私・・・」


1万2千年…

文字しか見てこなかった私の瞳には、もう

映らない…



「魔女ですから・・・」


太陽と月と星の輝きが(とも)っていた…



「…そう…うん。そう…ね…。…うん。そう、だよ。ね…」


だから…

もう、きっと。こんな機会。

永遠に巡ってこないと思えるから…



「…ねぇ。フォニア君…」


彼女しかいないと

確信したから…



「・・・はい。」



こんな閉鎖空間で1万2千年も過ごしてこられた私はきっと、

普通じゃない。


【大図書館の魔法】に呪われ…魔法に“すべて”を飲まれている私は

精神的にも肉体的にも図書館と“一体”だ。



時間は苦にならない。


“誰も手に触れない”蔵書を丁寧に本棚に並べ、

“訪れない”来館者の為にせっせと情報を集める…


…1億3,000万回以上繰り返してきたその行為に、

一片の疑問も抱いていない。


司書は大図書館の奴隷だ。

【大図書館の魔法】は…()()()()呪いの魔法だ…



「…ひとつ…うぅん。ふたつ…。…お願いを聞いてもらえるかな…?…ちゃんと。報酬を渡すから…」

「・・・そんな。報酬だなんて・・・お世話になっているカルマート様の願いなら。何なりと・・・わ、私にできる事なら!」


…けど、一応。

たぶん…



…自信。

ないけど…




…たぶん。

私は…


     ヒト。


だ…



…まだ。

たぶん。まだ…



「…フォニア君。君にしか。できない事よ…」


…呪われてはいるけれど。

それでも、私の胸にも一応。


俗にいう“ココロ”に似たナニカがある。

まだアルと。信じている…



「・・・私()()()。ですか・・・」



私だって…


…私だって。


同じ樹の(もと)に生まれた仲間たちと一緒に

永久の航海に漕ぎ出すことができたなら…


…いっそ。悪魔が舞い降りて

こんな大図書館(ろうごく)

海の藻屑にしてくれたらいいのに…



…なんて。

そんな悲劇に憧れて…


…でも。

何千年待っても、ソンナコトにはならなくて…


…寂しくて。

  悔しくて。

   無力で。

    悲しくて。


止めどなく溢れる涙で

溺れてしまった夜もあった…



「・・・どうぞ。なんなりとお聞かせくださいませ。小声ながら、唱えさせて頂きます・・・」

「…ふふっ…。…小さくても。良く(とお)るステキな声よ。強くて真っ直ぐな。理の唄声よ…」

「っ///きょっ、恐縮です・・・」


こんな場所にはヒトが来るはずがない。

 私達は忘れ去られた。

  綴られることもなく。死ぬこともできず。

   降り積もる本の重みに耐え。

    アテもなくページを捲り。

     海の底に沈む貝のようになって。

      手の届かない、遥かな物語に思いをはせる…


…そんな風に悲観して。

本を読むのも、部屋の管理も、お料理だって、止めてしまって。

ただ、ベッドに座って。くじらさんの唄を聴き続けた日もあった…



「…まず。ひとつ目のお願い…。」


でも…


あの寂しかった朝も。

  虚しかった昼間も。

  泣いてしまった夜も。


…全部きっと。この日を迎える為にあったのだと思える。

あの日々が無ければ、きっと今日も無かった。


“ダレカの物語”と、別の“ダレカの物語”を繋ぐ…それが。

司書(わたし)の存在理由なのだから…



「…ドゥーチェ君の記憶である。この本…【夜は東に、日は西に】を。アドゥステトニアに帰してあげて欲しい…。…せめて。彼女の言葉だけでも…」


そして…



「・・・えぇと・・・お安い御用です。が・・・よろしいのですか?貴重な本なのでは・・・?」

「…いちど大図書館に収蔵した本は。何度でも写本にできるの…」


そういった私が



「…ほら。」


…ちょっと。

意識を集中して…



「ね…」


反対の手から

同じ本を出してみせると…



「・・・わ・・・」


…大きな瞳をさらに見開いた

彼女に



「…頼んだわ…」


ソレを預け…



「・・・た。頼まれました・・・」

「…お礼は…【知恵の実】で。どう…?」


…あの日。

グローティカに最後まで残った族長が

大図書館(わたし)に預けていった


アノ実を…



「・・・はい?チエ・・・のみ・・・?」

「…うん。知恵の実…」

「・・・チエのみ??」

「…知恵の実…。…今は無き【影の森】の世界樹(ユグドラシル)(みの)った。エルフの秘宝…」


「・・・・・・・・・う???」


唖然としてしまった彼女を前に



「…ちょっと待って…」


私はもう一度、私室に戻り



「…はい。コレが。知恵の実…」

「・・・」


“預かりモノ”を

“渡すべき相手”の手の平に…



「・・・ちょ、」



乗せると…?



「…ちよ…?」

「・・・ちょっ、ちょっと困ります!こんな物受け取れません!」


「…受け取って…」

「・・・無理です!」


「…この実は腐らない。何万年経ってもみずみz…」

「・・・そういう問題ではありません!!」


声を大きくした彼女に…



「…これは。【影のエルフ】の総意…。…君が無事にアドゥステトニアに戻れば。私の…私達の…【影のエルフ】の存在が。本の山に埋もれずに済むでしょ…?…このままじゃ。今のままじゃ。私達【影のエルフ】は歴史の影に葬られてしまう。インクの隅にすら残らない。この図書館も忘れ去られてしまう。フォニア君。君だけが。頼りなの…」

「っ・・・」


「…その為になら。族長(おとうさま)だって…きっと。世界樹(おとうさま)だって…きっと…。…許して。下さるわ…」

「・・・・・・」


「…知恵の実には。“そうでない者”を【不老】にするのと同時に。物凄い回復能力もあると言われている…。…君は治癒魔法を宿しているみたいだけど…それでも。きっと、何かの役に立つ…」

「・・・・・・・・・」


彼女は…私が手の平に置いたその実を

『じっ…』っと。見つめていた…



「…」


…君によく似たドゥーチェ君は。この実を食べて不幸になった…と。

今しがた話したばかりだ。


同じ物を渡したところで喜んでもらえないのは分かっている。


でも…


私が()()()()()ものの中で。

イチバン価値があるものが。コレだから…






「・・・わかり・・・ました・・・」


やがて…



「・・・食べるつもりはありませんが。依頼に対する報酬として・・・頂戴いたします・・・」


…思いが通じたのか。

根負けしてくれたのか…



…おそらく。その両方で…



「…どうも。ありがとう…!」

「・・・私。フォニア・マルカス・ピュシカは。叡智なる【影のエルフ】が大図書館の司書であらせられる カルマート・ライブラリアン・シャドゥ・ジェミニ様の依頼に基づき。この大図書館での得難い経験。万感の思い。海の森の青さと深さと、そこに住まう【珀海(はくみ)の魔女】様の誠実さ。そして“この本”を・・・アドゥステトニア大陸の大図書館に納める事を。紙を介してお約束いたします。」

「…ふふふっ。紙を介して。か…。…人間らしい。言い方ね…」

「・・・お嫌でしたか?」

「…まさか。それじゃあ…」



………

……





















「・・・それで・・・」


フォニア君と約束を交換した後・・・



「・・・2つ目の願いとは・・・?」


…彼女は。

私の言葉をちゃんと。覚えていてくれた…



「…うん…」


…そんな。

優しくて聡明な彼女になら…


…うぅん。

治癒魔法と契約魔法…

その両方を宿している彼女にしか



「…もう一つのお願いは。“ある人”に逢って欲しい…」


預けるコトなんて。できない…



「・・・あるヒト?」


………

……





















……

………



挿絵(By みてみん)

『コポンッ、ゴポコポコポ…』


夕暮れ時の。“だん話室”…



『…よ、よろPiく(たまわ)(そうろう)(スケ)…』

「…い、妹ちゃん。だいぶ…意味が。分からないよ…」

「はぅう…」


「…テー。ソコは『ゴチャゴチャ言わずにいいからヤレ』と言えばいいんだ。」

「違うから!全然違うからね、ゲオ君!!正解は、『よろしくお願いします。』だからね!?」


ね様がお勉強している間、

(テー)とゲオ様のお勉強は、フルート君が見てくれていた。



「…2人とも。もーいっ回!」


『よろしく賜りソーロー…』

『…よろしくしろ。』


「う、うぅ~ん…。…な~んか、違うんだよねぇ…」


大図書館はとっても静かな場所で…


私たちの声と、ときどき『コポコポ…』という水の音が聴こえる以外、

物音ひとつしない。


少し離れた“えつらん室”(私たちは“だん話室”)に

ね様がいるなんて信じられないくらい。静かなの…



『…、』

「…う?」


でも、だからこそ…



「…どうした、テー?」

「いま。ナニか物音が聴こえた気が…う?」


普段なら聴き逃してしまうホドの小さな音まで、

耳に届いてしまう…



「…物音?」


…実は、物音がしたのはコレが初めてじゃない。



「…ぼくも聴こえたよ。微かな…足音みたいな?」

「ん、んぅ!…私も足音かなって思ったの!」

「…また狐か、フォニじゃないのか?」


足音の正体は、

本を取りに行ったシュシュちゃんだったり、

テーたちを見に来た、ね様だったコトもある。


けど…



「…でも。上の階から聴こえた気がするの…」


私たちがお勉強をしているのは2階で、

ね様たちがいるのは1階だ。


加えて、私たちがいる場所は

大階段の直ぐ側…壁で仕切られていない、階段を登り切った広間にあるから…



「誰も通ってはいないと思うけどね…」


誰か階段を登って来れば

スグに分かる…



「…今日だけで…4回目か?」

「ん、んぅ…」

「気になるね…」


おとといも同じように、上の階から足音がしたので皆で見に行ったけど、

ソコには誰もいなかった。



「シュ、シュシュちゃん…呼ぶ?」


図書館の中は魔法が使えないので、フルート君も、

風を使った感知ができないそうだ。


こういう時、

一番頼りになるのはシュシュちゃん…と、いうのは。

ね様からの受け売り。


その時も、シュシュちゃんに確認をお願いしたんだけど…

「にゅ~…海の匂いがチョットしますけど。それ以外は何も…で、でも。微かに…にゅ~う…?」

…とのコト、だった…



「…そう…だな。」


私の提案に先ず乗ってくれたのは、

天井を睨み立ち上がったゲオ様。



「だが…」


…けど。

いちどは私の提案に乗ったゲオ様だったけど…



「…う?」

「…なんだい?」


私達の方を見て…



「…先に。オレ達で確認しておこう…」


静かに。唱えたの…

・・・怪しい物音?

なんだろう・・・妖精さんかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ