表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
38/476

Chapter 036_戦いの朝

「ロティアも行くのっ!」

「・・・メ。」


カレント2,177年 恵土の月 38日

その日は思っていたより、ずっと早くやって来た。



「い~く~のぉ~!!」

「…ロティア。わがまま言うんじゃありません。あなたはまだ子供でしょう!?」

「おねーさまだって子供だもんっ!!」

「お姉様は魔法が使えるでしょ?」

「おとーさまはマホーが使えないもんっ!!」

「…お父様は大人でしょ?」

「ず…ズルいもんっ!ロティアだってマモノみたいんだもんっ!!」


使者が現れてから今日までの7日間。私達は出来る限りの準備をしてきたつもりだ。

堀も造ったし、街を守る壁も強化した。見張り台だって用意した。

森との間の草原は見晴らしが効くように草刈りをした。

協力してくれたのは冒険者だけじゃない。市民の人たちも沢山手伝ってくれた。

街を出ていった人も少なくなかったけど・・・残ってくれた人の方が多かった。


みんな、ルボワが大好きなんだってわかって・・・嬉しかった。



「・・・ロティア。あなたにはあなたのお仕事があるでしょ?」

「ぶぅーっ…。おうちで待ってるだけだもん…。」

「・・・違うわ。」

「ふぇ?」

「・・・お母様とデシさんを守るのが、あなたの仕事でしょ?」

「まもる…ロティアが?」

「・・・ん。ロティアが2人を守ってくれるから、私とお父様は安心して出かけられるの。・・・だよね?お父様?」

「お、おぉ!…ロティア。頼んだぞ!」

「うふふっ…お願いね、ロティアちゃん。」

「あ…う、うんっ!たのまれたっ!!ねがわれたっ!!」

「ロティアお嬢様が一緒ならぁ、安心ですねぇ!!」

「まっかされよ―!!」


昨日までに駆けつけてくれた騎士団の人数は、騎兵366名。歩兵138名だそうだ。

ノワイエ領の騎士団員は、全部で4,000名ちょっといるらしい。だから、この短期間でその1割強もの人を集めたお祖父様は、やっぱりすごい人なんだと思う。

でも、敵の数を思うと・・・



「…フォニア。」

「・・・う?」

「お前は…親父と一緒だっけか?」

「・・・ん。・・・お父様は?」

「オレは東門で荷物運びだ。何もできないオレにはお似合いだな…」

「・・・そんなこと有りません。今日みたいな大規模戦では、物資の補給が命綱になります。」

「おぉぅ…なんだか難しいこと言うな…」

「・・・お父様もお祖父様も・・・みんな必要だってことです。みんなで戦って・・・みんなを守るんです。・・・ね?お父様?」

「そうか…そうだな。」

「・・・そうです!」


一方、冒険者は62名。

冒険者は職業だ。得られる物が無く、見返りは少なく、リスクは高い・・・そんな殲滅戦に参加する人なんてそうはいない。

広域募集を見てきてくれた人なんていなかったけど・・・それでも数十人もの冒険者が残ってくれたんだから、ありがたい話だって・・・そう、思う事にしている・・・・・・



「…やっと来たかフォニア。ほれ、チェスもお待ちかねだぞ?」

『ヒーヒュヒュン!!』

「・・・おじいちゃん。チェス。・・・今日はよろしくお願いします。」

「あぁ。お願われた。」

『ヒュブブブブッ…』


おじいちゃん・・・ロジェス様は今日、私と一緒にチェスに乗って。魔法行使でほとんど動けなくなる私の事を守ってくれる。


つまり・・・私のナイト様。



「フォニアちゃん。この人なんて“こき使って”いいから…精いっぱい唱えなさい!」

「・・・おばあちゃん・・・」

「あなた!私の大事な愛娘に傷なんかつけたらどうなるか…」

「わ、分かっとるわ!」

「老い先短いあなたはいいけど、この子にはまだ未来があるんですからね!…身を呈して守っておやり!!」

「い、言われなくてもそうするわ!まったく…」

「・・・お、おばあちゃん!そこまで言わなくても・・・」

「ふふふっ。この人は頑丈だから大丈夫よ。だから…」

「フォニア。お前はいつも通り、自信を持って唱えよ!」

「唱えよ、さらば現れる…ね!…頑張って来なさい!私のかわいい子…」

「・・・はい・・・はいっ!唱えてきます!!」

「行くぞっ!」

『ヒーヒュヒュン!!』


蜘蛛の群れが現れたのは昨日の夕方。

発見したのは見張りに出ていた冒険者さんだった。

すぐに最後の抗戦会議が開かれ、決戦は蜘蛛たちが森を出るタイミングの翌朝と決められた。


いよいよ・・・、そう。いよいよだ・・・



「あ~ら、フォニア!ナイト様に守られて…いいご身分ねぇ!」

「・・・イレーヌ。今日は協力できなくて、ごめんね。」


イレーヌは助産師さんと共に城門の近くに待機して治癒術を施す予定だ。



「あははっ!いいのいいのー!どーせここに来るのは万年胃痛の市長様だけよっ!」

「・・・。」

「ほらっ。そんな顔するんじゃないの!!…がんばんなさい!頑張って早く終わらせて…また治癒院を手伝いなさい。」

「・・・ん。」

「…騎士様。どうか…うちのセコンドを。どうか、よろしくお願いいたします。」


イレーヌはロジェス様にそう言って頭を下げた・・・



「…あぁ。確かに願われた。」

「お願い…お願いしますっ…ホントにっ…この子を…どうかっ…っ…」


イレーヌ・・・



「・・・イレーヌ。」

「なっ、なによぉ…」

「・・・行ってきます。・・・また後で。」

「っ!?…え、えぇっ!後で手伝ってもらうんだからねっ!…さっさと行って、さっさと終わらせてきなさいっ!!」

「・・・ん!」


蜘蛛の数は数えきれない程で・・・本当に1万匹くらいいるのでは?と見積もられている。

一方こちらは、600名と少し。

【戦争は数】の言葉に従えば、万に一つも勝ち目なんてない。


でも・・・勝つのは私達だ!


リブラリアに勝利を綴る為に、今日まで頑張って来たのだから・・・


・・・

・・











「遅いぞ…」


街の外に出た私達は真っ先にお祖父様の所に向かった。

今日の防衛線では、お祖父様が全体の指揮を執るのだ・・・



「・・・おはようございますお祖父様。遅れてませんけど・・・」

「お前の様な下っ端は最初に来るものだ。」

「・・・出来るだけ魔力を蓄えておくように。と、お祖父様が仰ったのでギリギリまでご飯を食べていました。」


挨拶に来ただけなのに・・・

ウンザリしつつお祖父様の嫌味に反論していると、ナイト様が加わり・・・



「ベルトラン。お前は相変わらずだな…。不必要に人を煽ってどうする?だから部下が逃げ出すんだぞ?」

「引退したクソジジイは黙ってろ…」

「なんだと!?貴様とてジジイではないか…」


余計、面倒な事になりはじめた。

軌道修正しなきゃ・・・



「・・・2人ともやめて。こんなところで・・・恥ずかしいよ。」

「「…」」


おばあちゃんによると・・・この2人は幼馴染(ロジェスおじいちゃんの方が少し年上)で若い頃からずっとこんな感じらしい。

仲が良いのは結構だけど、こんな時までじゃれなくてもいいのに・・・



「…で?フォニアよ。万全に備えてきたか?もっとも、今更泣き言を言っても遅いがな。」


仲良く2人、同時に咳払いをしてからお祖父様は私に問いかけてきた。

・・・何だかんだ言いながらも、ちゃんと心配してくれるのね。



「・・・大丈夫です。お祖父様も、どうかお気をつけて。」


私はお祖父様とは別行動になるけど・・・今回の戦いはお祖父様の手腕にかかっているし、前線にも立つことになるから危険も多い。


どうかご無事で・・・



「…ふんっ。………小娘に心配されるわしではない。」

「心配してくれる人がいてよかったのぉ、ベルトラン。」

「クソジジイ…」


・・・と、再びおじいちゃん戦争が始まろうとしたその時。



「もー…父様っ!素直じゃないんだから…」


スピアを後ろ手に持った、背が高くてスタイル抜群のお姉様が近づいてきた。

この人。お祖父様を・・・父様って呼んだ?


もしかして・・・



「何の様だバカ娘。」

「何の様だ。じゃないわよ!呼んだのは父様でしょ?…ご無沙汰しておりますロジェス先生。ご機嫌麗しゅうございますか?」

「久しいなクロエ!見ての通り、まだまだ歳には負けんぞ!!お主も相変わらず息災か?」


クロエさん!!やっぱりそうか。

う〜ん・・・似てない!



「えぇ!相変わらずですわ!それで…ふ〜ん。あなたが噂の…」

「・・・はじめまして、おはようございます。クロエ・ピアニシモ伯母様。・・・テオドールの娘フォニアです。ご機嫌麗しゅうございますか?」


この人はお父様の双子のお姉様。クロエさんだ!



「チャオ!姪っ子ちゃん!!元気よ~!それにしても………うぅ…。オバさんかぁ…。まあ。そうなんだけど…」

「・・・クロエお姉様・・・」


クロエさんはお父様と、いち番仲良しの姉弟なんだって。

いい人そうだし・・・双子の姉弟なら仲良しなのも納得だね。



「っ…いい子っ!!」

「・・・んふふっ!」


クロエさんは手綱を握るおじいちゃんの隙間に入り込み、器用に私を抱きしめてくれた。私も屈んでそれに応える。


因みに、お父様とあまり似てないのは二卵性双生児だからだと思う。男女の双子って確か、かなりの確率で二卵性双生児だったよね・・・



「…クロエも戦うのか?」

「そーなのよっ!父様ったらヒドイのよ!…どうせ暇なんだから来い。なんて手紙よこして!!」

「…事実だろうが。」


クロエさんはおじいちゃんに向き直り、お祖父様を横目で見ながらそう言った。


何でもこのクロエさん。武術だけなら強者揃いのピアニシモ家でもトップなんだとか。

魔法無し、武術だけの戦いで唯一おじいちゃん負かしたのが、このクロエさんなんだって!

カッコいいよね!!



「ふーんだ!余計なお世話ですよーだ!…まったく。大急ぎで来てあげたっていうのに…失礼しちゃうわ!」

「はっはっはぁ~!こやつの嫌味なんぞ気にするなクロエ!お前が居てくれて、わしは大層心強いぞ!今日は頼んだ!」

「・・・よろしくお願いします。」

「うふふふっ…。はーい!…頼まれた!!願われた!!まっかされよー!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ