Chapter 014_夜は東に、日は西に④
『…パタンッ』
「ふぅ〜・・・」
閲覧室の窓が
茜から黒に変わったころ・・
「…読み。終わった…?」
「・・・はい・・・」
カルマート様オススメの【夜は東に、日は西に】を
読破したのだった・・・
「…すごいね。殆ど辞書も使わずに…」
「・・・ま、まぁ。短かったですし・・・難しい表現もなかったので。」
初めて読む魔神語の“物語”だったけど、
カルマート様が紹介してくれただけあって読みやすく。
殆ど“つっかえる”コト無く読み切ることができた。
「…難しい言葉はあったはず。【犠牲】とか。【奴隷】とか…」
「・・・ソコは・・・ま。ソレまでの流れから推測できたので・・・」
スピーキングは既に合格点をもらっているし、
読解に関してもコレだけ読めれば十分かなぁ・・・
「…どう。だった…」
ローズさんが注いでくれたお茶に口を付けていると、
カルマート様は姿勢を正して、そういった。
「・・・そうですね・・・」
「どう」・・・と、いうのは、
当然、言語学習のコトではなく。
物語の感想を聞いているのだろう・・・
「・・・伏字もあって。理解しきれない部分もありましたが・・・。感想としては。救いのない悲しい物語だと感じました・・・」
私が子供の頃に読んだ【黒の物語】は
【魔王】を倒して「めでたし、めでたし」だったけど、
この物語は魔王を倒した所から始まり
最後は・・・
「…そうね。悲しいお話ね…」
そう言う
カルマート様に・・・
「・・・あの。」
・・・私も。
聞きたいことが・・・
「…うん…?」
「・・・この物語は・・・主人公のドゥーチェちゃんが綴った日記が元になっていて。ドゥーチェちゃんは実在の人物・・・なのですよね?」
「…うん…」
「・・・ですが・・・この結末は。さすがに・・・創作ですよね?」
この物語は7,000年以上昔に綴られたと聞いている。
「…うん…?…綴られている。通りだけど…?」
カルマート様の言葉を真に受けるなら・・・
「・・・彼女は。その・・・【花のエルフ】に拉致されたというコトですか?」
「…うん。そう…」
「・・・うぅっ!?・・・で、でも!人間のドゥーチェちゃんには寿命が・・・」
「永遠に生きる」とか「魔王と同じ」・・・とか。
すっごく怪しい言葉が並んでいたので。
もしかして・・・
剣と魔法の異世界に“在りがち"なアレが
あったりなんか。したりなんかして・・・?
とは、思ったけど。
そんなまさか。まさかそんなハズは・・・
「…“らりるれろ”という伏せ字には。【知恵の実】という言葉が入る…」
「・・・ち、ちえの・・・み・・・?」
チエノミ?
チエのみ?
“チエちゃん”オンリー?
・・・まさかとは思うけど。
異世界転生ものに。たまー・・・に登場する
アレな樹の実のことじゃな・・・
「…✕✕は。【不老】…」
「・・・不老!?」
うええぇっ!?!?
「…【知恵の実】は。数万年に1度。あるか、ないか…くらいの確率で世界樹に実る。特別な樹の実…」
世界樹の・・・果実!?
・・・まさかっ!?
ほんとうにっ!?
「…人間がソレを食べると。【不老】になると言われている…」
えぇぇぇ〜!?!?
「…【黒の魔女】こと。ドゥーチェ君は【知恵の実】を食べさせられ…。今、この瞬間も【魔王】カエンと一緒に【花のエルフ】の兵器として生かされている…」
な・・・な、7,000年以上も!?
そんなっ!そんなコトって・・・
「・・・え、えぇと・・・ソレは。本当に・・・?」
「…この物語以降に出版された本にも。彼女の存在を仄めかす記載がある。まず、間違いない…」
「・・・」
「…たしかに。フォニア君が思っている通り。私は…この瞳で。直接それを見聞きしたワケじゃない。全部、活字を通して知ったコトに過ぎない。
でも…
…この。綴られしリブラリアで。
綴られた言葉を信じないで。
なにを。信じる…?」
そ、それ。は・・・
「…さっきも言ったけど。この物語以降に出版された物語…【花のエルフ】や【影のエルフ】の生き残り。魔族や、人間や、ドワーフも…が出版した本の中には“彼女”を仄めかすモノがある。【呪われた夜】…とか。【花たちの使い走り】…とか。…それらを精査した結果。ココに綴られていることは真実であると。私は結論付けた…」
「・・・」
「…それに。この物語…【夜は東に、日は西に】は【禁書】に指定されている…と、言った。よね…?。
「・・・は、はい・・・」
「…作者は…いちおう。“当たり”はつけているけれど…公には“不詳”とされている…」
「・・・」
「…本の装丁も。粗末だったでしょ…?…本の題も。内容を示唆していない…。…まるで。どこにでもある普通の物語を装っているかのような…」
「・・・」
「…どうしてだと。思う…?」
「・・・」
「…作者…出版者は。分かっていたのよ…。…この本が。どれほど“問題”かを…。…だから。目立たないように…【花のエルフ】の目を盗むようにヒッソリと。出版された…」
「・・・」
「…結局。ワリと早い段階で。見つかっちゃったみたいだけどね…。…でも、確かに出版された。だから。大図書館の本棚に並んでいる…」
「・・・」
「…アドゥステトニア大陸にこの物語が渡ったのはおそらく。出版された直後…。…【花のエルフ】の瞳を盗んで【天空回廊】を越えた本が。巡り巡って“ただのよくある”お伽話に仕立て直されたのだと思う…」
「・・・」
「…それ以降。ヴェルム・ウェルム大陸では。出版の規制が格段に厳しくなった。反体制的な書物は言わずもがな。ただ“在りし日”の出来事を紐解いた歴史書すら、規制対象となる。もし、花のエルフに都合が悪い書籍を書いたら…例え、同族だとしても。作者が処罰されてしまう始末…。…今を生きる人間や、獣人や、ドワーフ…寿命がある種族…は。彼らが何をやってきたか知る由もない。何をしているのかも、分かってない。搾取されている現実を…ただ、“綴られた通り”に受け入れている…」
「・・・」
「…彼らは。綴られている【花のエルフ】の美談を信じ。唱えられた通り【毒花】を讃え。【神】と崇めている…。…生き残るには。そうスすしか、ないから…」
「・・・」
「・・・あの・・・」
・・・ふと。
「…うん…?」
疑問がわいた
「・・・カルマート様も・・・エルフ。ですよね?その・・・この大図書館の設立に大きく関わったという【花のエルフ】に。どうして。その・・・」
カルマート様は・・・なんていうか。
【花のエルフ】にいい印象を持っていないように思える・・・
私達のように他種族ならともかく。
同族なのに・・・
「…たぶん。フォニア君が思っている通り…」
「・・・え、えぇと・・・」
「…簡単に言うと。私は嫌い。【花のエルフ】が嫌い…」
「・・・」
「…私は、この【本の海】で。エルフ・人間・ドワーフ・獣人・魔族・・・そして、それらのハーフ…。…あらゆる人種が綴った本を読んできた。みんな、あの頃と何も変わらない。みんな。悩んで。迷って。選んで。成功したり…時々、失敗して。挫折して。苦悩して。時々絶望して…ときどき、救いを求めて…。…再び立ち上がって。高みを目指す…。…世界樹のように。真っ直ぐ空へ。手を伸ばす…」
「・・・」
「…種族なんて関係ない。エルフも。人間も。ドワーフも。獣人も。魔族も…。…いい人もいれば。悪い人もいる。…だから…他種族や多民族の文化や歴史や心情を重んじない排他的な花のエルフが嫌い。利用するだけ利用して、自分たち以外は滅亡してもいいと思っている利己的な花のエルフが嫌い。自分たちを神か何かと勘違いしている。思いあがった【毒花】が
大っ嫌い…」
おぉう・・・
"あの"カルマート様が「大っ」を付けるなんて・・・
“よっぽど”なのでしょうね・・・




