Chapter 008_沈没図書館③
空が嫌い
喧噪が嫌い
お喋りが嫌い…
当時の私は賑やかな里から離れひとり
世界樹の下で本を読むのが日課だった。
月と太陽と星々と世界樹と。
それらを包む物語…
それが私の家族で。恋人で。
リブラリアのすべてだった。
…だから。
【花のエルフ】と【風のエルフ】、【青のエルフ】そして私たち【影のエルフ】
4民族合同(筆を執ったのは、案の定【花】だったらしいけど…)で
2大陸に跨る【大図書館】を建立すると決まり。
私がその【司書】に選ばれたと告げられた時。
生まれて初めて飛び跳ねて、
手をたたいて喜んでしまった。
嬉しくて。泣いてしまった…
………
……
…
・
・・
・・・
「・・・では、カルマート様は・・・影のエルフの生き残りに間違いないのですね?」
「…うん…」
彼女・・・エルフ様の名前は
カルマート・ライブラリアン・シャドゥ・ジェミニ
と、いうらしい。
「まさか。影のエルフに生き残りがいたとはね…」
「…風のエルフが里から降りて。こんなところまで来るなんて。珍しい…」
「あ〜…、あははは…」
カルマート様によると・・・
【影の森】が“こう”なったのは
魔族が行使した超大規模魔法が原因で。
世界樹まで枯れてしまった(エルフの“いち民族”の滅亡と同義。カルマート様はこうして生きているけど、【影のエルフ】という“民族”は滅亡している。)のは事実だそうだ。
・・・ま。そうは言っても。
影のエルフの生き残りが他のエルフの里に逃げ延びたため、
今でも、その子孫が存命だという。
「…もっとも。純血の影のエルフは私が最後だけどね…」
「・・・」
森羅ちゃん・・・アドゥステトニア大陸の【大図書館】司書様・・・によると、
彼女たち大図書館の【司書】は【大図書館の魔法】の力で
外に出ることも、死を選ぶこともできないそうだ。
つまり彼女は。
影の森が戦災に遭った1.2万年前からずっと・・・
「…フォニア君達は。どうしてココへ…?」
「・・・え、えぇと・・・魔物の調査をしていたら。見つけました。」
「…魔物…?」
「クジラのことです!」
「…クジ…あ。『くじらさん』ね…」
「・・・はい!」
「…でも、それじゃあ…図書館に来たわけじゃ。なかったんだ…」
グラスを両手で包み、
下を向いてしまったカルマート様に・・・
「・・・え、えぇと・・・」
どう返そう!?
そう思った矢先、
「み、見つけたのは偶然ですが!大図書館に興味はあります!!…ですよね?お嬢様!」
ローズさんの助け舟に
「・・・ん、んぅ!!」
大きく頷き。
さらに!
「…2大陸にまたがる大図書館…で、あるならば。ヴェルム・ウェルム大陸の資料もあるだろう。事前に情報を得られるなら、渡りに辻馬車だ。」
ゲオ様による大人の魔法
【気配り】!!
「・・・そ、そうだね!!」
「え、えぇと…カ、カルマート様!?資料を拝見することは…」
空気の読める風魔法使い君が
言葉をつづけると・・・
「っ、」
その大きな瞳から、
琥珀が零れ落ち・・・
「…もっ。もちろんっ…。…か、影の森は。死んじゃったけど…。…で、でも。この図書館は生きてるっ…」
肩を震わせ・・・
美しい顔を、美しいまま濡らし・・・
「…っ…っ。」
「っ、、、…」
「。。………」
けど、
暫くすると・・・
「…っ…、、、っ、」
カルマート様は胸に手を当て
「…すー……」
吸って・・・
「…はぁ~…。」
・・・吐いて。
琥珀をしまい込んで
「…ご、ごめんな。さい…」
ほんのりと、頬を染めて・・・
「…う、嬉しくて…な、泣いちゃい。ました…///」
・・・ギリギリ聞き取れるくらいの
小声で・・・
「・・・あ、あの・・・」
「…?」
「・・・よ、よかったら・・・その。お話しましょうか?アドゥステトニア大陸や、私たちが経験してきたお話。・・・む、むこうの。アドゥステトニア大陸にある【北のエルフ】が建立した【大図書館】のお話も・・・」
「いいの…?」
「・・・お安い御用です。・・・あ。あと。向こうの本も数冊あります。旅の途中で見つけた本もあるので・・・よ、よければ。ご納本頂き・・・」
「いいのぉっ!?」
「・・・も、もちろんです。・・・むしろ。大変、光栄な事で・・・」
「あっ!…う、うんっ///…えへっ、えへへへっ…。…っ!そ、そうだわ!」
ナニカを思い立った彼女は席を立ち
「・・・う?」
私の横にしゃがみこんで
手を握り・・・
「…せっかくなら。ココに泊っていくといい…。」
「・・・とまる・・・?」
「…客間を。用意してあげる…」
「・・・うぅぅ!?」
うえぇぇっ!?
泊る!?
泊れる!?
全リブラリア人憧れの
【大図書館】に!?!?
「よ、よろしいのですか…?」
「…もちろん…」
「…床で寝ろってんじゃないだろうな?」
「…人数分のベッド。簡易キッチン付きの個室…」
「…あ、あるんですか…?」
「…用意できる…」
「…おい。魚釣りはどうする?」
「…館内に。釣り場がある…」
リブラリアには
クジラが誘う竜宮城があった!!
「・・・お世話になりますっ!!」
異論は認めーん!!
「…いいよ…」
か、勝手に決めちゃったけど・・・
「…はぁ~。…まさか。【大図書館】に厄介になる日が来るとはな…」
「あはははぁ~…ま、まぁ。いい経験でしょ!それに、情報収集と思えば“最高”の環境だろぅ…?」
「…ヤレ、ヤレ…だ。」
男性陣も
異論は無いらしい
「…で…司書よ。ココにはちゃんと、“最新”の情報があるんだろうな?…1万2千年前の資料“だけ”では…」
「…もちろん。この【大図書館】は健在…。…【パド大陸】と【ヴェルム・ウェルム大陸】でこれまでに出版された。全ての本…1億3,068万4,863冊を所蔵している…」
「…いちおk!?…ま、まぁ。時を考えればソレくらいになるか…」
1億3千万冊・・・1万2千年分の知識!?
読みたい!知りたい!!宿したい!!!
「・・・///」
わっくわっく!!
「…ご主人様っ!」
・・・なんて。
期待に胸を膨らませていたら・・・
「・・・シュシュ?」
大慌てのシュシュが
飛び込んできた?
「ご主人様っ!ご令妹様が…」
「・・・う?」
ティシアが・・・何か?
シュシュが指さした先を見ると・・・
『ブシャ!』
・・・ヒュドラ?
『シャァーッ!』
「うぅ!?」
“揺り籠”にトランスフォームしたヒュドラの声に
椅子から飛び上がり
駆け寄る!!
「…ぃくちっ…」
「・・・ティシア!」
ヒュドラの籠の中には
「…ふぇ?…ね、ねさ…っ、ひくちっ!いくちっ!!」
赤い顔に苦しげな表情で、
「いくち、いくちっ」と咳を繰り返す
妹が・・・
「おい!どうした?」
「ゲ、ゲオしゃ…」
「ご令妹様!?」
「ローすしゃn…」
駆け寄るみんなを見上げて
辛そうに微笑むティシアの・・・
「・・・ティシア・・・」
「ね、ねさ…」
「・・・静かに・・・」
「ぅみ…ぃっち…」
オデコを触ってみると・・・
「・・・熱い・・・」
熱も・・・
「・・・すー」
こうしちゃいられない!
「・・・『右手を右手に 左手を左手に 手と手を合わせて 祈り込めて給』」
待っててティシア!
「ケアっ!」
いま、
お姉ちゃんが治してあげる!
「・・・」
そう思って。
唱えたのだけれど・・・
「・・・うぅ?」
「お嬢様…?」
・・・いつまで経っても
効果は現れなかった・・・
「・・・うぅ?な、なんで!?・・・って!」
そういえば!?
セトの魔術も発現しなかった。
ひょっとして。図書館内では・・・
「…今のって。ちゆ魔法…?」
「・・・カルマート様・・・」
「…ごめんなさい。たぶん。現れない…」
「・・・うぅ!?」
現れない!?・・・ほ、ほんとうにっ!?
「…館内では魔法が現れないように“している”の。例外はないわ…」
カルマート様のその言葉に
「…いくちっ」
「ティシア!っ・・・」
咳を繰り返した妹の姿を見て・・・
「なんだと!?…それも【大図書館の魔法】とやらの力か?」
・・・ゲオ様が。
怒鳴るように叫び・・・
「…うん。そう…」
「なぜだっ!?」
「…なぜって…。本を読むのに魔法は必要なぃ…」
「今まさに、目の前で必要になっているだろう!?」
「…」
ゲオ様の言葉に
身じろぎひとつしないカルマート様は『じっ…』と、無言で。
ティシアの苦し気な表情を見下ろし。そして・・・
「…ごめんなさい…」
ティシア。私。そしてゲオ様を順番に見つめてから呟いt・・・
「ふざけるな!」
そんなカルマート様にゲオ様は・・・
「解け!今すぐ、その魔法を解け!!」
「…できない。」
「なぜだっ!?」
「…言えない。」
「ふざけるなっ!!」
強い剣幕で詰め寄った。
けれど・・・
「…ふざけてない。魔法は。使わせない…」
カルマート様は
本当に真剣な眼差しで・・・
「き…」
そして、
「…貴様ぁッ!!」
ゲオ様が抜こうとした剣を
「ルクスッ!」
私の声にっ!
「ったくっ!!」
ルクスの伸ばした腕が、
『ガッ!!』
ゲオ様の、
「なっ!?」
剣の柄の先を押さえつけ!
「なっ…な、何をす…」
叫んだゲオ様に
「抑えてください!ゲオ様!!」
唱えるっ!!
「ふ、ふざ…」
「・・・冷静になってください!」
「冷静…だと!?テーに治癒…」
「・・・ティシアはただの“風邪”です!大事ではありません!」
「………かぜ…?」
「・・・はい!治癒魔法は使えませんが・・・手持ちの薬で治療可能です。・・・薬を飲んで。安静にして・・・一晩も寝れば。元気になるでしょう。」
私の説明に
「…」
ゲオ様は
「…そ、そう。か…」
腕に込めた力を抜いてくれた・・・
「…」
「・・・」
「ふんっ…」
目配せで
ルクスに腕を引いて貰い・・・
「・・・カルマート様・・・」
向き直り・・・
「…なに…?」
「・・・ベッドをお借りできませんか?」
「そ、それとっ!手持ちの飲み物が水筒の紅茶だけなので…できればお水も!」
私と、ローズさんの言葉を受けたカルマート様は
「…すぐ。用意してあげる…!」
立ち上がって鍵を取り出し、
駆けていったのだった・・・
カルマート様も林檎の嫁!!
(公式)
あ!
活動報告もうpったので
・・・よろしくね!




