Chapter 035_抗戦会議
「・・・プリマヒーラー、イレーヌと相談した結果。使者にかけられていた呪いは不完全なモノだったのだろう・・・という結論に至りました。」
その日のお昼過ぎ。使者の到来を受けて対策会議は抗戦会議と名を変え、再開された。
私は会議室で椅子の上に立たされ今朝の出来事、そして使者について分かった事を説明させられていた・・・
「不完全な…呪い?」
「・・・実験体・・・と言ってもいいかもしれません。そこかしこに綻びや修正した痕が見受けられ・・・試行錯誤したのだろうと考えられます。」
「そうか…」
「なんと痛ましい…」
「・・・実は、あの場では説明しませんでしたが、今朝現れた使者には・・・その。・・・治癒術を受けた痕がありました。」
「ち、治癒術を!?」
「くっ…やはりマザーはあの子を素体に…」
「可哀想に…」
本当にね・・・
「・・・アラクネの狙いは数人分の素体を治癒術と呪いで融合し、強力な傀儡を作る事ではないかと考えています。・・・使者の診断結果と過去の症例を突き合わせた結果、その可能性・・・つまり、素体融合の可能性を見出せました。」
「つ、つまりアラクネは…」
「に、人間で…キメラを作ろうと!?」
「・・・そう・・・かも、しれません。」
そんな事の為に治癒術を使うなんて・・・
「うげぇぇ~…」
「お、オレ達も、もし捕まっていたら…」
「考えたくないな…」
「ほ、ほんとうよっ!」
だよね。絶対やだよね・・・
「…フォニア。」
「・・・はい。お祖父様。」
隣の席のお祖父様に声をかけられ、聞き返すと・・・
「素体融合。…できるのか?」
と、聞いてきた。私とイレーヌの答は・・・
「・・・素体を操り人形のように操作している“だけ”なら良かったのですが・・・中の蜘蛛と素体は、糸と呪いで編み合わされており、存在のレベルで同一個体とみなせます。それは・・・素体の数が増えても変わりません。このため、治癒術が適用されてしまいます。」
「…つまり?」
「・・・つ、つまり・・・可能です。」
「「「「「なっ…」」」」」
その言葉で会場はざわついた。
人間の感覚からすれば決して受け入れられない事をアラクネは行おうとしているんだもの。
みんなが驚くのも、嫌悪するのも当然・・・
「・・・属性は瞳に、魔力は喉に宿ると言われていますから・・・数人分の瞳と喉を編み合わせた傀儡を作れば、多数の属性を操り、豊富な魔力を有する傀儡を生み出す事が・・・・・・り、理論上は、可能です。」
「…どこぞの小娘みたいだな。」
「・・・お祖父様ヒドイです!!そんな事、言わないで下さい!!」
そんな事言うからみんなに嫌われるんだぞ!!
「…ふっ。」
「・・・もうっ、、、」
「し、しかし…それはマズいな。アラクネの固有魔術と治癒魔法の相性がこんなに悪いとは…くそっ。おいデュラン!例の冒険者…今はもう、女王となったペチュカ君以降、この森で行方不明になった者は何人いる?」
「ちょ、ちょっと待ってください!えぇと、確か…」
ギルマスのロドルフさんに言われたディランさんは急いでメモの束をあさり、そして・・・
「よ、4パーティー。総勢15名です…」
「…うち2人は回収できたから、残りは…13名。」
「多いな…くそっ。」
「ぜ、全員がそうと決まったわけでは…」
「…いや。最悪の可能性を考えるべきだな。」
「そう…ですな。」
「・・・魔法の知識も呪いの一環で植え付けられるようです。逆に、人の知識はアラクネが・・・い、一部だけでも摂食すれば手に入るわけですから・・・」
「じゅ、15人分の魔法の知識があるって言うの!?」
「傀儡は相当に厄介…と言うことか。」
「ふ、フォニアちゃん!何か…じゃ、弱点とか無いかな?」
そう聞いてきたのは東門のアベルさん。
弱点か・・・
「・・・肉体的には脆弱です。継ぎ接ぎだらけで魔力の巡りが不均衡なので・・・恐らく魔纏術は使えません。」
「つまり、打たれ弱いと…」
「・・・はい。操作している蜘蛛を倒せば簡単に無力化できるはずです。ただし・・・」
「た、ただし…何よぉ~…」
「・・・今回の使者がそうでしたが、操作している蜘蛛を傀儡の奥深くに隠されてしまうと見つけ出すのは容易ではありません。そして傀儡はその構造上、やろうと思えば同時多発的に魔法行使が可能です。」
「うわっ…」
「・・・それと・・・」
「そ、それと!?…まだあるのかいっ?」
「…そいつが肉体的に弱いのなら、周囲を固めればいい。防御魔法を唱えてもいい。…魔物とて自分の弱点は百も承知だろう。対策を講じてくる筈だ…」
「・・・お祖父様の仰る通りです。例えば、かなり後方に控えるとか、ジャイアントタランテラに乗せるとか・・・やりようは幾らでも。」
「そ…そう。です。ね…」
傀儡は勿論、脅威だけど・・・なにより厄介なのは、アラクネの持つ【軍】だ。傀儡はその、1兵科・・・と思った方が良い。
「ど、どどどど~するんですかぁ!?」
「ギ、ギルドとして緊急依頼は出しますが…そもそも残っている人数が少ないですし…」
「それに、うちに登録している冒険者は初心者ばかりですから…」
「事が事だ。騎士団も出してやろう。間に合うかは分からんがな…」
お祖父様ったら、昨日から準備していたくせに・・・
「差し当ってできる事と言えば…」
「・・・堀でも造りましょうか?」
「何もないよりマシか…」
「フォニア。水堀にしとけよ…」
「・・・ん!」
「ぎょ、行政から土木担当官を派遣しましょう!彼女は市民と共に水路建造を行った経験がありますから、きっと役に立ってくれます!」
「…ついでに市民の協力も仰ぐんだな。」
「冒険者ギルドとして、昨日のうちに緊急広域依頼を出しておきましたが…来てくれる者がいるかは分かりません…」
「オ、オレ達も何か…なぁ!?」
「うんっ」「…だな」「勿論よ!」
「…暇なら衛兵どもと交代で見張りでもやってろ。」
「・・・お祖父様。協力を仰ぐのにその言い方はあんまりです。「…」・・・皆さん。お願いします。」
「「「「願われた!」」」」
「衛兵の人数も限られているので正直助かります。皆さま、頼りにさせていただきます…」
こうなるともはや、街を上げた総力戦で迎え撃つしかない。
みんなで協力しないと・・・と、そうだった。
「・・・プリモも手伝ってくれるそうです。あと、これから相談になりますが・・・薬を扱える助産師さんにも声をかけるとの事です。もちろん、私も・・・」
「おぉ、それは有難い!!」
「ここのプリモは評判だしな!頼りになる!!」
「…フォニア。お前は前に出ろ。治癒術師は必要だが…今は戦力が少なすぎる。」
「・・・ん。お祖父様。」
「フォニアちゃん。会議が始まった時から思っていたけど…お祖父様と随分仲良くなったのね?」
「そう言えば…」
「昨日は小娘だったのに、今は名前だしね。」
「・・・ん。今朝デレたの!」
「デ、デレたって…」
「…何か言ったか?小娘?」
「・・・何でもありませーん。・・・それよりお祖父様。今後の流れは?」
「はぁっ…。…そうだな…まずフォニア。お前は堀造りに専念しろ。市長、担当官含めその手の専門家…例えば左官…にも協力させろよ。あと、土魔法を使えるやつにもな。」
「・・・ん!」「…う、承りました!」
「…おっと、市長。市民への協力要請もお前の仕事だということを忘れるな。いくつか商館も有るだろう?商売続けたきゃ協力しろと言っておけ。」
「………はい。」
「…教会の協力はどれくらい期待できる?」
「・・・プリモは全面的に。他の巫女さん達も・・・治癒術は出来なくても、炊き出しくらいなら出来るかもって言ってた。」
「…そうか。折を見てそっちもやっとけよ。」
「・・・ん。やっときます。」
「…ギルドは戦力の把握と、可能なら森の監視をしろ。」
「そうですね…。」
「へ、減ったとはいえ、まだ冒険者が残っていますから!出来ることは沢山あると思います!!」
「そこの冒険者共は…そうだな。ヒヨッコ共に蜘蛛との戦い方でも教えてやれ」
「そ、そうだな…よしっ!」
「監視も手伝うよ!」
「武器の整備もしておかないとな…」
「他にもできることが無いか…探してみるわ!」
「ニコラ。街の防衛はお前が責任を持て。必要なら何人かギルドから借りろ。」
「イエッサー!」
「…とりあえずこんなところだろう。会議は明日から毎日、1つ目の鐘(街の鐘塔で一日3回、8時/12時/16時に鐘が撞かれる。回数やリズムは決められていない。地域ごとにルールは違うらしいけど、ノワイエ領は領令で撞く時間だけが統一されている)としよう。…死にたくなければ抜かるなよ。」
「・・・ん!」
「「「「「はいっ!!!」」」」」
「「「イエッサー!!」」」
林檎です。
物語も終盤に近づき、だいぶ盛り上がって参りました。
お楽しみ・・・頂けてますか?・・・心配です。
それはそうと・・・最近登場したフォニアの実の祖父、ベルトラン。頑固なお祖父ちゃんかと思いきや・・・何だかんだ言っても、やっぱりは孫が可愛い様子ですね。“できる孫”なら猶更です。
ジジデレにどれ程の需要があるのか分かりませんが・・・
泣く子も黙るベルトラン様のデレは・・・さらに加速!?
そして、その様子をチェスの陰から伺うもう一人のおじいちゃんが・・・
次回!
Chapter 036_おじいちゃん戦争!!
~おじいちゃん!私の為に争わないで!!~
乞うご期待!!
※小説の内容は予告なく変更される可能性があります。
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