Chapter 002_静寂の渚
『ザザァ…ン…』
3日後
お天気は、雲の多い夏晴れ・・・
『ザザザザッ…ザザザザッ…』
旅程は順調・・・いや。
順調過ぎた
「今日も静か…。ですね…」
「・・・・・・ん・・・」
海では小魚が太陽を反射し。
砂浜ではヤドカリが足跡を残し。
波打ち際ではヤシの実がコロコロと洗われている・・・
パス・パス地峡の海岸線は、そんな。
南国リゾートさながらの平和な渚のように見えた
聴こえる音といえば、
波の音、2頭の駿馬が砂を蹴る音、みんなの息遣い。
そして、南風・・・
「そこの…す、砂の島の先。なのです…」
「・・・ん・・・」
・・・昨夜。
「それでも向かう」と唱えた私に青い顔で頷いたシュシュは、
小さな肩を震わせながらも駿馬達に先んじて
向かう先から戻ってきた・・・
「・・・どんな魔物だった?」
「海に潜ってるみたいで…わ、分かんなかったです…」
「・・・そっか。仕方ないね・・・」
パド大陸 → ヴェルム・ウェルム大陸
へと抜ける【パス・パス地峡】には、ひとつ
ランドマークが存在する。
その名は、【影の森】
遥か昔。【影のエルフ】が暮らしていた
世界樹が根付いて“いた”森だ。
「こんな南国の渚のドコに森があるの?」と、
思うだろうけど・・・
影の森は、地峡の真ん中に空いた
穴の底にあったんだって・・・
「…海に潜っているだ?」
「って。コトは…本当に?」
影の森は2つの大陸に加え、地峡の中央から北東へ突き出した
【アムリム・ハムリム半島】という、大きな半島の
“付け根”にも位置している。
このため、
影の森は大昔からから交易の・・・そして、
勢力争いの重要拠点として。
よくも悪くも。
賑わっていたという・・・
「にゃんです…ナミちゃん様のお話の通りなのですよ…」
・・・けど、
ソレも今は昔。
影のエルフはとっくの昔・・・なんと、1万2千年も前・・・に滅亡。
影の森は“消滅”したそうだ・・・
「あっちゃぁ…。まさか、本当に“水没”していたなんてねぇ…」
影の森は滅ぼされ。
魔族の魔法で“完全に水没”させられた・・・
私達がその事実を知ったのは、
風のエルフとの“お話し”から・・・では、なく。
ナミちゃんとの会話からだった。
焔のドワーフは8,000年くらい昔から定期的に大キャラバンを編成して【神魔戦争】(※12,000年くらい昔に勃発した 魔族-エルフ 戦争のコト)の調査と、交易路開拓のために各地へ赴き。
その結果、影の森が水没しているコトを知ったそうだ。
(※因みに、ナミちゃん自体が8,000年も昔のキャラバンに参加していたワケではないらしい。彼女はドワーフの“物語”として、その知識を持っていた。)
「・・・ね。フルート。エルフは世界樹を通して他のエルフと会話(?)ができるんだよね?風のエルフ・・・と、いうか。フルートのお父様とお母様は。そんな大事件を・・・知らなかったのかな?」
一方で風のエルフは“影の森は既に滅んでいる”とは言っていたケド。
“水没している”なんて。
ひと言も言ってなかったし、フルートも知らないと言っていた。
「え?えぇと…」
「・・・う?」
「…ぼ、ぼくが知らなかったのは単に。不勉強だったから。だろうけど…さすがに。父様と母様は知っていたんじないかな?たぶん…あ、あえて。言わなかったんだと思うよ…」
・・・あ。
だから言い辛そうなのか。
でも・・・
「・・・あの時。ウリエルは2人の心をずっと読んでいたけど・・・。・・・2人とも。そんなコトは少しも“思い出していなかった”。って、言ってたよ?」
「マシェリの天使は…対象の“ココロ”を読んでいるんだろう?それなら、心を無にして余計なコトは考えず。聞かれたコトだけ機械的に答えればいいんじゃないかな?マシェリもあの時。“その質問”はしなかっただろう?」
契約魔法は“良くも悪くも”絶対の魔法だ。
絶対に対象を逃さないけど、ルールに則している限りは裁けない・・・
「・・・なるほど。そうかもしれない・・・」
あの魔法を効果的に使うには、いろいろと
事前調査が必要かもしれない・・・
「…狐。」
「に?」
私が考えを巡らせている横で、
ゲオ様がシュシュに声をかけた
「…その魔物。ゴーレムが言っていたように…脅威ではないのか?」
私達が影の森に立ち寄ったいちばんの理由は、単に
“通り道だったから”なんだけど・・・・
実は、もうひとつ
“ついで”の理由がある。
「にゅ…少なくとも。敵意は感じないです…」
「…そうか…」
「それなら!お魚釣りできそうだね!ゲオ様!」
「…そうかもな。テー」
影の森跡地に魔物がいることは、ドワーフ達も
気づいていたので、調査もしたそうだ。
けど、
この魔物は深い場所から“あまり”動かないらしく。
ビジュアルを含めた詳細は分からなかったそうだ。
けど、限られた調査結果から
『一向に襲う気配がない。』
『安全と判断』
『他の魔物にとっては脅威』
・・・と
結論付け。
数百年おきにこの地を訪れ。
遺跡発掘をしたり。
魚釣りや海の幸の収集をしていたそうだ。
「でも…本当に安全なのでしょうか?他の魔物がいないにしても。当の魔物は…当然ながら…いるのですよね?」
私たちがココに立ち寄った目的も、
ドワーフたちと同じだ。
ストレージバッグに残っている食料は・・・まだ、残っているものの・・・
この先の旅程を考えると心許ない。
ソコで、焔のドワーフがしたのと同じ様に
この地でお魚を捕まえたり、海藻を採って
手持ちの食料を増やしたい!
と、いうワケ。
・・・考古学ファンの皆様。
期待を裏切ってごめんなさい。
フォニアは遺跡発掘より、お魚天国に
興味深々なの・・・・
「…どうだろうな…?」
「獣人王国で遭遇した龍みたいに。襲ってくる可能性も有るからね…」
「…魔物の行動は予測できん。」
・・・とはいえ、
危険を犯してまでするコトでもない。
食料が心もとない・・・とはいえ。“足りない”というワケでもないのだ。
それに、コレから向かう先・・・ヴェルム・ウェルム大陸は
“魔族大陸”と聞くと、物騒な・・・草一本生えていない荒野のように
思えるかもしれないけど。
実際は、そんな事無いらしい。
人間やエルフも暮しているし、集落もあるっていうから・・・
たぶん。アドゥステトニア大陸と大差ないんじゃないかな?
だから、大陸に渡ってから
食料補給できる可能性もある
「・・・シュシュはどう思う?」
現状、魔物の気配を唯一感じている(魔物は殺気を発していないし、魔術を行使しているワケでもないため、私達はその気配すら、感じ取ることができない。)シュシュに意見を求めると・・・
「えっ、と…こ、こんなに近づいたのに。なんの反応もしないので…こ、攻撃しない限り。大丈夫かもです…」
さっきまで震えていたシュシュだけど、
近づくにつれて、逆に落ち着いてきたみたい・・・
「…どうする?フォニ?」
ゲオ様のその質問に・・・
「・・・行ってみよう。」
・・・答えると、
「はーい!」
「はいです!」「にゃん…ですよ…」
「…ヤレヤレ。」「もちろんさ!」
「…そうだな。」
みんなの合意もえられた。
そうと決まれば・・・
「・・・ロワノワール。エオリカちゃん。フルート。・・・お願いね。」
『ヒューヒュブブブ!!』『ヒュッ!』
「願われたよマシェリー!」
イザってときは、
ロワノワールとエオリカちゃんの足と、
応用のきくフルートの風魔法が頼りだ。
みんなの準備が整うのを見計らって・・・
「・・・みんな。慎重に・・・ね。」
ヒトの身では勝てない。といわれる海洋性の魔物が巣くう
魔の海へ向った・・・




