Chapter 021_夢のあとさき
「やはり…」
300年ぶりに主人との再会を果たした夜…
「ここに居られましたか…」
魔女様が開けてくださった第18坑道には先があった。
「…陛下。殿下…」
坑道の先は山の中心…【聖域】へと繋がっていた。
遺された王女殿下の日記から、この聖域に
国王陛下と王妃殿下が残されていることが判明した。
しかし、魔女様は…
「・・・山の神髄でもある【聖域】に“その山”のドワーフ以外が立ち入るなんて・・・いいのかな?」
…と仰り。
その役を、私ひとりに託してくださったのだった…
「…私のような“物”が御身に見えるなど、失礼の極みではございますが…なにとぞ。お許しを…」
第18坑道は数ある坑道のなかでも
岩漿のすぐ横を通る危険な道だった。
…少なくとも。私の記録の中では…
そのような場所に貴人が赴かれていた理由も、
殿下の日記に綴られていた
「ご機嫌麗しゅう…ございますか?」
「「…」」
私が仕事に赴いたのち、
主人達は山の外…ではなく。中に活路を求められた。
その事を“人間”である魔女様は不思議がっておられたが…
主人たちは“山の子”【ドワーフ】。
“山から出る”などという発想は、そもそも無かったに違いない。
この山に居れば必ず生き残れる…
もし【解】が必要だとすれば、それは父なる山に眠っている…
そのように考えるのが
【ドワーフ】だ。
「…」
「「…」」
主人たちは起死回生の為に山の聖域を見つけ、
【秘宝】を手に入れようとした。
もし、秘宝が有るならば。ソレはきっと、山の中心に最も近い、この坑道の先に…
少なくない犠牲を払いながら、危険な坑道を掘り進めていったそうだ。
そして…
「………カレント2,187年。金海の月1日。午前01:09分31秒。薨御あそばされたことを…確認。致しました…」
「「…」」
…そして。掘り当てた。
山の中心に開いた、空洞…
真紅の結晶が伸びる焔山の
【魔力ポテンシャル】の特異点
山の【聖域】を…
「コレが。その…」
そして、
ひとつの【王笏】…
紅の水晶でできた
【晶棍 アゲート】を…
「…あ、あの精霊も…」
…最後に。
ソレを守護する“いち座”の精霊も………
「…あの精霊も。見つけた当時は聖域の中央に静かに鎮座し。主人が御前(もっとも。球形をしたアノ精霊の何処が正面なのか…?)に立っても、呼びかけても。何の反応も示さなかった。と、綴られていたのですが…。陛下をこのような御姿に変え、坑道を火山ガスで満たした上、郷まで崩壊させるほど暴れたのは…
王笏を手にしたせいでしょうか…?」
聖域…という名の空洞に無造作に打ち捨てられた王笏。
その傍らにある…
赤黒い、塊。
陛下と殿下…そして、側近たちのご遺体は、王女殿下達のソレとは異なり、
凄惨な物だった。
いずれも原型を留めない程にひしゃげ、乾いた肉から骨がハミ出た
平べったい塊に成り果てていた。
その下に遺された服の断片や遺品から人だったのだろう…と。辛うじて、
分かる程度だ。
「…よもや。このような事になっていたとは…」
…王女殿下に同行していた侍女様の
日記によると、
精霊に見えた陛下は
殿下の“目の前”で潰された…との事。
ショックで立ち上がれなくなった殿下をヅルガ様が抱え。
家臣様方で支えながら聖域から逃げおおせたものの…結局。坑道の途中で
落盤が起きて閉じ込められ。最後はガスに…
「さて…」
見様見真似で【御祈り?】というものをしてみたが…この先は、
どうしたものか…?
「…」
ご遺体をこのままにはしておけない…かと言って、
旅支度を整え、日の出とともに旅立とうとしている魔女様にお願いをするのも…
「…」
最後に遺された坑道すら、コノ有り様だ。
生存者がいる可能性は、もう…
「……」
…と、すれば。
魔女様が居なくなれば。
私のすべきコトは…
もう、何も残っていないコトになる。
「………」
私の…存在意義は…?
「…………」
…誰か。私めに、
「唄を………」
………
……
…
・
・・
・・・
翌朝、日の出前
「・・・それじゃあ・・・行くね?」
朝から火葬なんて。やだなぁ・・・
でも、ナミちゃんはもっとツライはず。
私もイヤイヤ言ってられない。
頑張らなきゃ!
・・・そんな気持ちでベッドから起き上がった私を
待ち構えていたのは
「はいっ!…道中、どうかお気をつけて!」
・・・想定外にハイテンションの
ナミちゃんだった・・・
「・・・お土産まで。どうもありがとう。貴重な遺産なのに・・・こ、こんな素晴らしい指輪を・・・」
「いえいえ!コレくらいは当然です!…もう、手に取る方もおりませんから…どうぞ!ご遠慮なさらず!」
「ナミちゃん!テーにまで…ど、どうもありがとう!大事にするね!!」
「ふふふっ!…喜んでいただけたなら幸いでございます!1年遅れのお誕生日プレゼントでございます!」
「・・・ほら。ルクスもお礼を・・・」
「…どうも。」
「・・・あ、有難う!ナミちゃん!!・・・ルクスにはエルフの剣を渡していたんだけど・・・あ、合わなかったみたいで!もらった・・・オ、オリハルコン!?の剣。ありがたく使わせてもらうね!」
「いえいえ!3本の1本に過ぎませんし…この山のドコカに、もう2本も在るはずですから!…お役立て頂ければ幸いです!」
「…こんなヤベー剣が。あと2本もあんのかよ…」
「…アゲート…とかいう王笏は見つかったかい?」
「は、はい!おかげさまで…。で、ですがその。アレは…」
「あぁ!も、もちろん欲しいとかじゃないよ!ただの確認!!…だ、だよね?マシェリ?」
「・・・ん。あれは焔のドワーフにとって、一番大事な遺産。・・・どうか。大事に守ってあげて・・・」
「もちろんでございます!!」
お土産持参のナミちゃんは
始めて逢った時みたいに満面の笑みで、
小さな尻尾をハタハタと振っていた。
郷の未来や、自身の身のフリなんて、
まったく心配してないみたいに・・・
「・・・ダ、ダゥグバム様(ドワーフ王の名前)の火葬は。本当にいいのね?」
「それは…。先ほど申し上げた通り。陛下の遺体は動かすコトができなくて…」
「・・・さっきも言ったけど。そういう事情があるなら、聖域には精霊だけを・・・」
「た、旅立とうという魔女様に、そこまでしていただくワケにはまいりません!」
ナミちゃんも、昨日のうちは
聖域に私たちが立ち入ることも「別によいのではないですか?」などと言っていたのに・・・
「・・・ちょ、ちょっとくらいなら出発を遅らせても構わないんだけど・・・」
「そういうワケにはいきません!」
「・・・」
・・・なのに。
今朝になったら180°方向転換。
急に、断固反対の立場に立った。
「・・・ま、まぁ・・・む、無理にとは、言わないけど・・・」
彼女の変わりようは気になるけど・・・
・・・ま。
強要するコトじゃないし。私も、
好き好んで故人の火葬をしてるワケじゃない・・・
「…ソコまで言うなら強要はしないが…それならば、火葬はお前がするんだぞ?」
っと!そうだった!!
そうも言っていられない事情があるんだった!
「マシェリの善意を何でソコまで拒むのか解らないけど…とにかく。ゲオ君の言う通り。遺体は君の手で始末するんだよ?…でないと、アンデッドになっちゃうからね…」
リブラリアでは死体を放置すると精霊が宿って
アンデッド化してしまう事が多い。
・・・もっとも。ココの王女殿下がそうであったように
“絶対”の法則ではないけれど・・・
ちゃんと処理するのが、無難だろう・・・
「…」
ふたりに言われたナミちゃんは・・・
「…そう…ですね。折をみて…」
・・・歯切れが悪い?
「・・・う?」
私は首を傾げ
「…折をみて。じゃない。スグにやるんだ。」
ゲオ様は口調を、ほんの少し強めて・・・
「…ワケありかい?」
フルートは疑念を口にした。
「え、えぇと…」
すると、ナミちゃんは・・・
「い…そ、そう!遺体から引火性のあるガスが検出されまして!」
「・・・燃えやすくて良いんじゃない?」
「えぇっ!?え、えぇとっ………せっ、聖域全体に充満しておりまして…」
人間ばりに狼狽え、
論理的に反論してきたゴーレムさんに
「・・・」
私・・・そして
「「「「「…」」」」」
みんなも、
疑いの目を向けた。
けど・・・
「・・・そ。それじゃあ・・・」
・・・ナミちゃんにも、
思うところはあるだろう。
安全を考えれば、ちゃんと確認したほうが良いのは
間違いないけど・・・
「・・・任せる。から、ね・・・」
他の人が立ち入る可能性の低い聖域・・・
もし襲われるとしても。
対象はナミちゃん“だけ”だろう・・・
「任されました魔女様!!」
アンデッドの数も少ない。
金属でできたナミちゃんが、一介のアンデッドに負けるとも思えない・・・
「・・・ん・・・」
・・・なら。
彼女の気持ちを優先してあげたいって・・・
「・・・じゃあ・・・また来るね。ナミちゃん・・・」
「…はい!またいつか…紅錬郷モルタレスクへ遊びに来て下さいね!!」
・・・そう、
思ったんだよね・・・
「…魔女様!次にお見えになった時は…必ず!!
“主人と共に”
歓迎させて頂きます!!!」




