Chapter 034_使者の声
「…いいかフォニア。まず、二コラがいつでも奴を殺せるように控える。」
「お任せください!」
「ジャメルはいざとなったら突風を行使しろ。」
「イエッサー!」
「お前はそのまま影にいていい。奴を…引き揚げろ。」
・・・ふむふむ。
「・・・パッて払ったり・・・しない?さっきみたいに・・・」
「あぁ、しないでやる!ここにいてやる。」
「…いいからさっさとやれ。」くらいは言われるかと思っていたけど・・・案外、優しいじゃない。
やっぱり何だかんだ言っても、甘えてくる孫娘は・・・
「…やれ。フォニア!」
可愛いよねぇ・・・
んふふふっ・・・
「・・・ん。・・・すー『大地よ我が道となれ 頭を垂れて梁となれ その手を挙げて屋根となせ 架けろ』リフト!」
お祖父様のリクエストに応える為、まずは穴の底から使者を持ち上げる。
穴に落とした、キッモイ上にオッモイ使者を引き上げるのは大変なんだけど・・・
土属性第4階位 隆起魔法でもって、穴の底をエレベーターの様に持ち上げれば・・・
「ま、間近で見ると…」
「…油断するな。」
「い、イエッサー!」
なんて事は無い。
「…枝を解け。」
続いて、使者を縛り上げて拘束している木属性第4階位 捕縛魔法で生み出した枝を少し緩め、口の周りの拘束を解く・・・の前に、、、。
「・・・ん、んぅ・・・」
お祖父様の足に腕を回して、ちょっと力を込めて、ビターっと体をくっつけて・・・っと。
「…」
よしよし。無表情だけど・・・フォニアの瞳は、そのちょっとの身じろぎだって見逃さないぞ!・・・効いてる効いてるぅ。
「・・・外します・・・」
「はっ…」
「ゴクッ…」
そして、ウェヌカ兄妹の・・・お兄さんの方だった肉塊の、口に這わせた拘束を解く・・・と・・・
『k,kkkkkikikiキζ÷キッキェ$キェッッ〈Б…キキ……』
「うをっ…」
「う、うわぁ~ぁ…」
「集中せんかっ!!」
「「イエッサー!!」」
お祖父様のドスの利いた叱責で、2人は発動子を握り直し、使者への警戒を強めた。
・・・首を小刻みに、不規則にボコボコ動かすあの姿。キモイもんね。
声も『キーッ!』って鳴るから、耳障りでうるさいし・・・
私だって「うわぁ・・・」って言っちゃったもの
『sPissss…セプッ…セセセプτ…ァr刑ィィィnのnnnの~…piΠpiぇΣkaaaaか、カカカカ姫ヒメメメメメnnnлnÑriりRrri……』
「…」
「こ、言葉のようでもありますが…?」
「…何と言っている?」
使者の言葉は非常に分かり辛い・・・というか、破綻している。
けど・・・
「・・・セプテンアルケーのペチュカ姫なり。・・・と言っているようです。」
一応。
解読は出来ている・・・
「…分かるのか!?」
「・・・何度も聞かされましたし、それに・・・使者にかけられた呪いにその名がありました。つまり術者・・・アラクネの名です。」
この世界で呪いを受けると、それは対象の【存在】に文字通り【綴られる】。この為、診断魔法で調べると、その情報を文字列として読む事が出来るのだ。
・・・何言っているのか分からないだろうけど大丈夫。
私も全っ然っ!訳分かってないから!!
ただ「そうだった」・・・という事実を伝えているだけ・・・
「さ、さすがはお嬢様…」
「お辛かったですね…」
それはもう・・・気が狂うかと思ったよ。
治癒術師になって3年。初めて目の当たりにしたリブラリアの【呪い】というモノは・・・人の命を、体を、尊厳を弄ぶ最悪のモノだった。
【糸繰】というこの技には一切の遠慮も、躊躇いも、倫理観の欠片も無かった。
でも、だからこそ確信できた。
『〇nщんぅ~…グ,愚具ッ倶グンÑお怨////kkkkさrrr㋹✓るkkkkÅ』
「・・・万軍に侵されるか。」
『N~nnnnnnηηをDΖ出だだ§…セセセ@sss***†††―!!!!』
「・・・贄を出せ。・・・だそうです。」
アラクネは・・・まごう事なき【マモノ】だ。って・・・
「セプテンアルケーのペチュカ姫なり…」
「ま、万軍に侵されるか…」
「…贄を出せ…か。…はっ。まさに使者という訳か!」
おそらく・・・セプテンアルケーのペチュカ姫なるアラクネは、私達が自分の子供を大量に殺したことを知って存在が露呈したことを悟り、この使者を遣わしたのだろう。
「脅しをかけて来たという事は…交戦する気という事でしょうか?」
アラクネの言葉には、こちらの選択肢なんて残されていない。
死。または。死。
・・・そんなもの、選択肢とは言えない。こちらがどちらかを選ぶとは思っていないだろうし、言葉を完全に解せない傀儡にメッセージを持ち帰る事を期待しているとも思えない。
つまりこれは一方的な・・・宣戦布告。
「このタイミング…団長が街にいるタイミングで使いを出したのは偶然…でしょうか?」
「さすがに偶然だろう。…多少、頭が良いからといってこんなにもタイムリーに使いを送れるとは思えん。」
「と、なると…」
「・・・魔物は魔物で・・・焦っているのかも。食料が心もとないとか・・・」
「冬になる前に…とでも思ったのかもしれんな。あるいは…」
「・・・兵の準備が出来た?」
「恐らくその両方だろう…」
「そ、そんな!?」
「マズいですね…」
そう、マズいのだ。
もしかすると今日にでもアラクネの言う万軍が街にやって来てしまうかもしれない
「…フォニアよ。もう一つの首の拘束を解いてみろ。何か他にも情報を持っているかもしれん。」
ウェヌカ兄妹のうち、兄のアルフレッドさんだったモノの拘束だけ解き、妹のドローテさんだったモノの拘束を解かなかったため、お祖父様は私にそう命令した。
けど・・・
「・・・もう一方の首は・・・拘束を解かない方がいいと思います。」
「…なぜだ?」
「・・・呪文を唱えているようでした。」
「なんだと…」
こっちの首は、かなり恐ろしいから本気で解きたくないんだよね・・・
「・・・すぐに拘束しましたし、そんな気がする・・・というだけですが・・・」
「お、お嬢様。コレは、何の魔法を…」
「・・・分かりません。」
「じゅ、呪文じゃ無い可能性は…?」
「・・・その可能性もあると思います。ただ・・・」
「…ただ、何だ?」
恐ろしい事に・・・
「・・・高位の火魔法を唱えているような・・・そんな気がします。」
「なっ!?」
「よりにもよって…」
火属性魔法はとても繊細な魔法で、ちょっとでもミスをすると暴発してしまう。
こんな歪な魔物に、そんな魔法を制御する技量が備わっているとは思えない・・・
「…なぜそう思う?呪文は分からなかったのだろう?」
お祖父様の質問に対する答は・・・
「・・・生前、ドローテさんが火魔法使いだったというのも理由の一つですが・・・。一番の理由は・・・勘です。」
「か、勘…ですか?」
「かん…」
そうだよ、勘だよ!シックスセンスだよ!!
何か、そんな気がするんだもん。仕方ないじゃん!!
「…そうか。止めておこう。」
否定されたらどうしよう!?と、思っていたけど・・・
意外にもお祖父様はあっさりと引き下がってくれた。
「よ、よろしいので…?」
ジャメルさんがお祖父様に恐る恐る尋ねると・・・
「…少なくとも、今この場でこの魔物について一番理解しているのはフォニアだ。コイツが解かない方がいいと思うのなら、それが良かろう。」
「そ…そうですね!」
お祖父様・・・昨日はあんまりな態度だったのに、急に変わるなぁ・・・
もちろん、信用してもらえるのは嬉しいけど、ね・・・
「…フォニアよ。コイツから引き出せた情報はそれだけか?」
私を見下ろしつつお祖父様はそう聞いてきた
「・・・はい。・・・診断結果については、後でプリモと相談する必要がありますが・・・」
「…コイツを殺すとなにか起こるか?例えば…アラクネに知られるとか…」
「・・・有りません。この呪いは対象・・・つまり、コレを操る子蜘蛛の存在に一方的に刻まれ、それで完結しています。・・・フィードバックはありません。」
「一番確実な処分方法は?」
「・・・蜘蛛を殺せば止まりますが、この塊の中での正確な位置が分からないので・・・まず、首を落として攻撃手段を奪ってから、拘束したまま焼くのがいいかと。」
「うむ。念には念を入れた方が良いな。最後に…一応聞いておくが、元に…つまり人に。戻す事は?」
「・・・・・・不可能です。」
「よく分かった。…二コラ。枝を落とせ。」
「はっ!」
お祖父様の命を受けた二コラさんは躊躇いなく蔓の隙間に刃を通し、デタラメに生えた首を切断していった。
「・・・ひぅぅ・・・」
「こ、これはまた…」
切った断面からはヘドロの様な黒い粘液があふれ出し、その断面からは真っ白な細い糸が何本も覗いていた。おそらく、あの糸で文字通り、操り人形のように操っていたのだろう。
「『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール!!」
その直後お祖父様が火球魔法を行使。使者は炎に包まれ・・・
『…ッ……ッ…』
・・・残された肉を少し動かしただけで、すぐに動かなくなった。
『…』
「・・・」
アルフレッドさん。ドローテさん。
どうか、安らかに・・・
林檎です!
いっぱい誤字報告いただき、ありがとうございます!
全部じゃないですが・・・適用させていただきました!
沢山読んでいただきありがとうございます!!
これからもよろしくねっ!(22/08/29 -20:20)




