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Chapter 020_時産みの紅

「・・・ティシア。」


真剣な表情(おカオ)で坑道から出てきたお姉様は

みんなを、崩れていた壁に開けた穴に招き入れ。



「…う?」


そして最後に、

ゲオ様と一緒に入ろうとしたテーに向かって



「・・・入るなら。覚悟・・・するのよ?」


そう言ったの…



「かくご…?」

「・・・壁の向こうからドワーフ・・・ナミちゃんの主人が見つかった。」

「ほ、ほんと!?テーも!」


駆け込もうとしたテーの腕を



「まって!」


パッ!と、掴んで…



「・・・8人いた。全員・・・亡くなられていた。」

「っ…」

「・・・高濃度の毒ガスと・・・たぶん。この山の魔力が複雑に作用して。遺体はアンデッドにならず、生前の姿を留めていた。まるで、眠っているみたいに・・・キレイ。だった・・・」

「…」

「・・・で、でも・・・」


ね様は…



「・・・彼らは、眠ってるワケじゃ・・・なかった。私には・・・ど、どうするコトも。できなかった・・・」


泣き虫魔女様は、悔しそうに…



「・・・わ、分かってたっ。はずっ・・・なのにっ・・・」


悲しそうに…



「・・・こ、こんな・・・こんなっ!こんな仕打ち、ないよ!アンナ姿を見せるなんてヒドイよっ!!」


大粒の涙を

止めどなく流しながら…



「・・・ねぇ、なんで!なんでよ!」

「ねさま…」

「わ、私っ・・・き、期待っ。しちゃったんだよ!奇跡ってあるんだって・・・そ、そんなコト!そんなコト思っちゃったの!信じちゃったの!」

「うん…」

「でもっ・・・つ、つめ。たく、て・・・ぜ、ぜんじぇん。応えて、もっ・・・く、くれ・・・なくて・・・」

「ぅん…」

「・・・ぶ・・・ブ、蘇生魔法(ブレス)も。・・・通ら、なくて・・・サリエルを。喚んだら、、、





さ・・・


300年 は。

経ってる・・・



・・・っ、


て・・・」


「………うん…」



「・・・わ、私・・・し、信じ・・・ら、られ。なく。て・・・」

「………」

「・・・それくらい。“キレイ”。で・・・」



「うん………」



「・・・ナミちゃんの。笑顔・・・み、見れるかなっ・・・て・・・



・・・も、もうっ!

寂しく。

ないんだ・・・って・・・。」


「…ぅん…」



「・・・き・・・


き、きた・・・い・・・

・・・しちゃっ



、た。


の・・・・・・



・・・っ


っっ・・・


。」


「うん………

   ……

   …










…悲しいね。

ね様…」



………

……























「みんな…」


ね様の手を引いて。

ヘビちゃんに付き添われて

天使ちゃんに導かれて。


中に入ると…



「…」


…まず、入口の側に控えていたルクスお兄ちゃんが…



「…」


…無言で



「…。」

「・・・ぁ、ぅ・・・」


ふらふらしていたお姉様を、私に代わって

支えてくれて…



「やぁ、妹ちゃん!」

「フルート君…」


エウロス君と向き合っていたフルート君は、

テーに気付くと…



「“彼女”の言う通り、ちゃんと換気はしてるけど…。奥の方は、まだガスが残っているかもしれない。…近づいちゃ、ダメだよ?」


…洞窟の奥を示しながらウィンクして。

そう言ったの…



「…う、うん……」

「ご令妹様!」

「…う?」


私に気付いたシュシュちゃんは、

元気な声で迎えてくれて…



「…お嬢様のお(なぐさ)め。ありがとうございました…」


ローズさんは、桶に浸したタオルをギュー…と絞りながら、そう言ったの…



「ぅ、うん…」


テーが答えると



「わきゃっ!?」


テーの…あ、頭に!?

何かがっ…



「ふっ…」


ゲオ様の大っきなお手々がテーの頭にあって…



「…ゲ、ゲオ様!?…あっ!」


そ、そういえば!

ね様とのやり取りで、隣にいたゲオ様のコト

スッカリ忘れてた…



「…え、えぇと…」


その事を思い出したテーが

恥ずかしくて下を向いていると…



「…えらかったな。テー」

「…///」


もっと恥ずかしくなって、真っ赤になって

下を向いたテーの後ろでゲオ様は



「…何をしている?」

「えっと…」


ローズさんと、お喋りを始めたの…



「お嬢様のご指示で。ご遺体を(きよ)めております…」


ね様の…



「…ゴーレム。お前は?」

「わ、私は遺品と遺体の確認を…」

「…。」


敬意をもって優しく遺体に触れていたローズさんに対し、

ナミちゃんのやり方は少し乱暴そうに見えた。


たぶん…ゲオ様が無言だったのは、

そのセイだと思う…



…テーは、ね様から


ナミちゃんはゴーレムさんだから、

私たちと同じように悲しい嬉しい、って感じるワケじゃない。

だから、“そういうコト”もあるかもしれないって…そぅ、聞いていたから

何とも思わなかったけど、


ゲオ様はそうじゃないから…

たぶん。そのせいなの…



「…ローズさん。」


それはそうと!



「…はい?」

「テーも…する。の…」


顔を上げたテーに



「…」


ローズさんは…



「…はい。(うけたまわ)りました…」


優しく明るい笑顔でそう言って



「よいしょ…と…」


バッグから真っ白なタオルと、“ナントカ”っていう魔物の皮で造られている(…と、前にね様が言っていた)パツパツの手袋を取り出して



「…ご令妹様。コチラを…」

「あ、ありがと…」


手渡してくれて…



「…ご遺体にはまだ、強い毒素が残っているそうです…」

「どくそ…」

「…ですから。必ずその手袋をはめて、決して素手では触らないコト。1度使ったタオルは再利用しないこと。…後でまとめて、お嬢様が焼却処分してくださるそうです。」

「う、うん…」

「…また、作業中は毒素を吸い込まないように、できるだけお喋りもしないこと。終わったら、手洗いうがいを忘れずに!…お嬢様のご指示です。よろしいですね?」


「うん…」


ローズさんに渡されたタオルを握り締めて、

テーは…



「…やるの。」


唱えたの…


………

……























「・・・リフト。」


砂漠の夕陽が紅色に染まった頃…



「…」

「…ほぉ…」

「おぉ!」

「「さすがお嬢(ご主人)様です!」」


焔山の外…

ヌチルデンの門が見える砂漠の片隅



「ね様…」


ね様は土魔法で、



「・・・」


ドワーフさん達の忘れ形見…

小さな絵本の挿絵にあった。



「【紅錬花(こうれんか)】ですか…。懐かしいですね…」


大っきなお花の装飾をあしらった寝台を“7基”。


用意して…



「私には、この行為の意味が測りかねますが…。確かに主人達も遺体を焼いていたと記録しています。魔女様も…シて。下さるのですね?主人に代わって、御礼を…」

「・・・」


頭を下げたナミちゃんの前で、お姉様は…



「・・・暗くなる前に始めるよ」


泣き腫らしたお顔で、



「は、はい!」


告げて…






『パチンッ!』

『…!』


セトちゃんに命じて



「・・・ガーンド殿・・・」


坑道から運び出したご遺体を



「・・・貴殿が切り開いた道は確かに未来へと繋がっておりました。その功績は大きく。その行いは勇気と忠義を尽くしたものでした。・・・勇敢なお話を直接お伺いできない事が・・・



・・・残念で。


なりません・・・」


火葬台に移し替えながら…




「・・・せめて、せめて。今の私のできる、精一杯の方法で。貴殿の功績が砂に埋もれることの無いように。その名と、功績を綴り。大図書館に納めることを。私・・・フォニア・マルカス・ピュシカが。貴殿のご尊父(そんぷ)たる焔山の御前(ごぜん)で。ご母堂(ぼどう)たる大地の上で。・・・この黒瞳(こくびょう)に誓い。紙を介して、お約束致します。」


5頭の幻蛇(げんじゃ)

4輪の虹と

2柱の天使と

1座の星を


従えて…






「・・・続いて・・・イグナストム卿。卿が造られたゴーレムは間違いなくリブラリア最高傑作であり、後にも先にも他では綴られぬ唯一無二の、技術の粋であると。錬金術師【烏】の銘をかけて、ここに宣言させて頂きます。焔のドワーフの・・・」


亡くなった8つのご遺体。






「・・・ルブラ殿。貴殿は皆の心の支えとなり・・・」


ひとりひとりに・・・



「・・・ヅルガ殿。そして、ミミューラ・・・殿下。貴女がたの愛が本物だった事は、リブラリアの歴史に深く紅く決して消えぬ焔となって永遠に綴られる事でしょう。・・・300年の時も。火山の炎も。巨大な魔物も。強大な精霊も。ナニモノをもってしても解けなかった・・・


・・・繋いだ、その手が。

何よりの証拠でございます。


ちょっと、妬けてしまう程です・・・」


春のそよ風より、

夏の星空より、

秋の雨より、

冬の日差しより、


もっと、もっと。

ずっと柔らかい所作でもって…



「・・・300年後の貴女がたは・・・どのような国王夫妻であらせられたのでしょうか?父なる山を破壊した魔女を(とが)めたでしょうか?無知なる小娘に道を示して下さったでしょうか?前者なら・・・ふふふっ。全力で唄わせて頂いたかもしれませんが。後者なら持てる全てでお慕い申し上げる所存です。・・・いまは・・・そんな物語を。綴ることが、できず・・・


遺憾(いかん)の。

極みに。

存じます・・・」


これまで見た中で、

いちばん優しい微笑みと共に…



「・・・お会いしとう。ございました・・・」


さっきまで、妹のテーに泣きついてたなんて

思わせないほど、堂々と



「っ…」

「殿下…マイスター…」

「ね様…」


囁き、啜り泣き

全部を受け止めながら………



「・・・」


慈愛に満ちた両手を合わせ



「・・・すー・・・」


夜を開けて



「・・・

・・・

・・



はぁ~・・・」


昼を閉じ込め






「・・・


『業火よ


炎をもって火の粉を払い


熱を持って熱を奪う


焦熱の獄炎』」


300年前と

今を



「・・・バー・・・ン・・・」



当時と同じ



『パチィンッッ…』


紅色の焔で…




「・・・・・・


・・・

・・






・・・おやすみなさい・・・」

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