Chapter 012_ドワーフの夢
「お客様っ、ようこそ!紅錬郷【モルタレスク】へ!!」
モルタレスクの郷は火山内部にある…
そう言っても、外から来るヒトはこの郷がどういった場所なのか?
想像もつかないだろう。
だから…
“八百聞は一見にしかず”…の言葉の通り
先ずはその瞳で、実際に見てもらうのがいい。
お客人は大歓迎だ
「ヌチルデンの門…先程潜った、外と内をつなぐ。荘厳なアノ門を抜けて。先ず最初に見えてくるこの景色こそ。モルタレスクを一望できる、この郷最上の景観でございます!!」
モルタレスクは12,000年以上昔に起きたとされる焔山大噴火
(一般に知られる【スフォルツァンド大噴火】…【黒雨の80年】の
発端となった事件)の跡地…岩漿(マグマ…と言えば分かるか?)
溜まりの空洞に築かれた特殊な郷だ。
実は、噴火の前から我らドワーフはこの地に住んでいたのだが、
噴火の予兆を感じとり耳長ども先んじて…
…と。
コレはまた、別の物語だったな。
本題に戻ろう…
「郷は緩い“すり鉢状”の窪地に沿って築かれていますが、その中央は盛り上がっていますよね?アレは、焔山内部の岩漿溜まりに“再形成された火山”…つまり、火山の中の火山なのです!!不思議でしょう!?…魔術だけじゃなく。大自然も時折、とっても不思議な事を引き起こすのです!…そしてこの“火山の中の火山”の麓に築かれ。地熱エネルギーを利用しているのが、私共ゴーレムを製造している工房を含む、主人達の仕事場…アトリエ地区となります!!」
特殊な地形のお陰でこの地は魔力ポテンシャルが高く。錬金術…そして
魔術そのものの研究にうってつけだった。
特に、地と金と火の3属性は、簡単な構文でブーストしてやるだけで、十分
実用的な魔力を生み出す事が出来る。
実現不可能と考えられる魔蓄技術無しに、無人で稼働可能なドワーフ共を製造
できたのも、このお陰だ。
ゴーレムにはそのような構文が綴られている。
こんなコト。他の地ではデキまい…。
ゴーレム共は我々の良き矛、そして盾。
時には乗り物にも…話し相手にさえ、なってくれた。
我ら焔のドワーフの傑作の1つと言えよう。
…もっとも。
山の魔力ポテンシャルを利用している関係で、
山から離れた途端。停止してしまうがな…
「モルタレスクの優秀な錬金術師様のご神技により、この山の岩漿は完全にコントロールされております!錬金術での利用は勿論ですが、畑で栽培している植物の光源。夜間の暖房。鉱物資源の抽出源としても利用されております。…むろん。噴火などという愚は、絶対に起こしません!!」
岩漿の流れをコントロールした数千年前のあの日…
我らは父なる山を征した。
母なる大地を飛び越えた!
岩漿を利用することで研究はいっそう捗り、
技術は飛躍的な進歩を遂げたのだ!
熱・光・大地・動植物に至るまで、
我らに扱えぬモノなど無かった。
いいや、モノだけではない!
魔導研究の結果…遂に我らは【魔力ポテンシャル】という概念を
見出すに至った!!
【魔力】とはナニか?
【魔法】とは?
なぜ【魔法印】が現れるのか?
【魔纏術】とは?
【錬金術】とは?
そして、【魔術】とは…ナニか?
…今もって完全には理解されていないが、しかし。
愚かな耳長共よりは理の近くにいると…
…そう、自負している。
「…え?岩漿に含まれている有毒な気体成分はどうしているのか…ですか?…お、お客様。ずいぶん、お詳しいですね…。…え!お客様は錬金術師様でも、あれる…そっ、そうだったのですか!?しかし…それなら納得です。…おっしゃる通り。岩漿には二酸化炭素や硫黄、塩素など毒性の高い揮発性物質が含まれているので、そのまま郷に放出することができません!ですので…そうならないように!錬金術の力で岩漿から有毒性分を抽出。一部を結晶化して錬金術の材料とし、残りは外に排気しております!…ご納得頂けましたか??…なら、良かったです!!どうぞ、安心してご滞在下さい!」
なんと!貴殿は錬金術師…なのか!?
と、とても。貴殿のような幼い女子が…い、いや!
魔導においては見た目も歳も、まして性別など関係無いな!!…し、失礼した!!
しかし…そ、それならば!
この郷が如何に優れているか分かるであろう!?
途絶えぬ魔力を利用した超循環都市!
複雑な仕事をこなすゴーレム!
水も空気も無限に生み出せる!!
むろん。ドーム内の温度など、思いのままだ!!
砂漠の真ん中…とは。
とても思えないであろう!?
「モルタレスクには主人たち…焔のドワーフ…が、約1,200名。ゴーレムがその半数。錬金術を学びに来ているエルフのお客様が数名滞在しております。…他の郷を知らないので、比較はできませんが…周囲の環境を考えると、かなり栄えているのではないでしょうか!?…あぁ!それと…主人と、お客様と。そして私共ゴーレムの他に!忘れてはならない“仲間”が居ましたね!」
さぁ、お客人!
今夜は宴だ!!
火酒を…おぉ。女子に火酒はツラいか。
では、モルタレスク名物。ハゼルワカ工房の“蜂蜜酒”は如何か!?我には甘過ぎるが…しかし。旨いぞ。女子には大ウケだ!
…そうだ!貴殿と歳の頃が近い娘たちも呼んでやろう!
どうか、故郷や旅の話を聞かせておくれ!!
「主人達の記録によると。ヒトが暮らせる環境…とはいえ。やはり、日光も雨も風もない、この地下都市で動植物を飼うのは大変だったそうです。…しかし!生化学に秀でたヴェノム永祖が現れ、状況が一変したのです!!」
蜜蜂だけではない。
牛に羊に鶏に…そして魔物まで。
“創り変えた”のだよ。
我々の…この手で。錬金術を駆使してな。
…なに?治癒術?
こう言ってはなんだが…
人間の生み出した。あの、新しい…“まやかし”のような魔術…には、
興味がなくてな。
…すまんな。
気を害したのなら謝ろう。
ただ…わかって欲しい。
我らはこの地で何万年もの間
大地と焔を敵に…そして味方に戦ってきた。
その集大成である錬金術は【我らの技】であり、
誇りだ。矜持だ。生きる術だ!!全てだ!!
できるコトは“全て”やる…それが、理であろう?
…我らはそうやって命を繋いできたのだ。
それが…我ら。
【焔のドワーフ】だ。
「ご希望とあらば火山蜂の養蜂場や、焔印の牛乳が採れる牧場もご案内いたします!養蜂場は、主人達が品種改良の末生み出した火山でも花を咲かせる紅の花…紅錬花が一年中咲き乱れており、圧巻ですよ!…牧場の家畜達も、他では見られないモノです。旅の思い出に、一見の価値がございます!!」
そして我らは見つけたのだ
一族に伝わる山の宝珠を!大地の精霊を!!
この、閉ざされた門の中で
我らは至った…
至らざるを得なかった…とも、
言えるがな…
「ふふふっ!見るところも…綴ることもいっぱいですね!でも、安心して下さいませお客様!!過去の経験から、この郷には数百人規模のお客様をお泊めできる余裕がございます!!」
久方ぶりのお客人よ。
我らの到達点を見るがいい。
そして、綴ってくれ。
父がどれほど厳めしいモノかを!
母がどれほど畏れ多いモノかを!!
それでもなお。理は美しいという事を。
そして………
我らは。
確かに。
この地で生きていたという事を…
…頼む。
綴ってくれ。
…………頼む。
せめて…
「どうぞ!時間など忘れ、何日でも、何年でも…何百年でも!」
時無しの紅を…
林檎です!
2話続けて短いお話でしたので、
今回は閑話を1つ用意しました。
よろしければ 「次へ>>」
を、どーぞっ!




