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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
35/476

Chapter 033_森の使者

「・・・チェス、襲歩!!」

『ヒーヒュヒュンッ!!』


お祖父様との初対面を果たした翌朝。天気は小雨

おじいちゃんを打ち負かしたことで特訓は終わったけど、早寝早起きの習慣が抜けない私は今朝もまた、チェスと共に朝練に来ていた。



『ッダタンッ!ダタタタンッッダタタタンッッ…』

「・・・んふふっ。・・・ねぇ、チェス聞いて!昨日、お父様に褒めてもらったのよ!・・・さっきも言ったけど。・・・んふふふっ。」

『ブフッ…』


すっかり私に懐いてくれたチェスは、最近では手綱や(あぶみ)の操作なしでも私のいう事を聞いてくれるし・・・意思を汲もうとしてくれているのが分かる。

人馬一体とはこのことか・・・これはなかなか快感である。

思わず、何度目か分からない自慢話を披露(ひろう)しちゃうくらいには!



『ヒュブブブブッ!!?』

「・・・きゃう!?・・・う?うう?」


と、言った途端、チェスが急停止!!

首筋にしがみ付いたから平気だったけど・・・



「・・・チェス!?どうしたの!?」


急にどうしたというのだろう?



『ブフフッ…ブフフフフッ…』

「・・・ど、どうどう・・・」


チェスは怯えたように耳を伏せ、鼻を鳴らしながら前を警戒していた。



「・・・何かあるの?」

『ブフフフフッ…』


場所は森と街の間・・・明るくなり始めても涙を溢す鉛色の空の下。暗い茂みをしきりに警戒するチェスに(いぶか)し気ながらも・・・前へ



「・・・どう、どう・・・大丈夫だから・・・」

『ヒュブブブッ…』


渋りつつも、私の言葉を聞いて前進してくれるチェス。

その背に乗って、慎重に、さらに進む・・・と・・・



「・・・う!?」

『ヒーヒュヒュン!!』

「わ!」


茂みがガサッと音を立てて揺れたではないか!

驚いて(いなな)き、踵を返したチェスから飛び降りた私は、纏風魔法(ウェアー)の出力を上げて、短剣を抜いて・・・



「・・・何か・・・いる?」


警戒度を上げて、茂みをかき分けてさらに進む。



「・・・」


やがて、茂みの間から見えてきた・・・



「・・・え・・・」


モノは・・・


・・・

・・











……

………


昨日は最悪の1日だった。

長旅で疲れているというのに面倒な会議に参加させられた挙句(あげく)、兵を呼び集めるための事務仕事をしなければならず…結局、床に就いたのは日を跨いでからの事。

もっとも、小娘が存外役に立ったからその程度で済んだ…ともいえるがな。



「お、おはようございます!団長!」


そして今日もまた、最悪の1日となった。



「挨拶はいい。どこだ…」

「はっ!こちらに…」


まだ朝も早い時間に、宿に帰るのが億劫(おっくう)で兵舎で夜を明かしたワシを起こしたのは騎兵の一人だった。一瞬沸いた殺意を無理やり飲み込んだワシがそいつに尋ねると、こんな事を言うではないか…



「…団長!!お嬢様が例の魔物の…し、使者なるモノを捕えました!!」


お嬢…あぁ、あのフォニアとか言う小娘の事か。

例の魔物…というと………


使者…



「………なんだと?」


小娘め。また余計な事を………






「・・・あ、お祖父様!・・・おじいさま。」


案内役の兵士について行った先では(くだん)の小娘が馬の頭に抱き付いていた…が、ワシを目にすると駆け寄って脚にしがみついてきた。


「…さっさと案内しろ。」

「・・・あうっ。」


脚を引いて振り払いつつ、そう言うと…



「・・・こちらです。・・・二コラさんが見てくれています。」


小娘が歩き出した先には確かに二コラがおり、厳しい眼差しで地面をじっと見つめていた。



「団長。おはようございます!…失礼をお許しください。」


ワシに気付いたニコラはこちらに目配せだけして挨拶をした。

見れば、その手には発動子が握られたまま…


二コラは真面目な奴だ。少々真面目過ぎるところもあるが…しかし、何もない場所で剣を抜くようなやつではない。



「…そのままでいい。」

「はっ!」


何か居るのは、間違いなさそうだ。



「…?」


兵の先導に続くと、

二コラが見つめている先が少々開けている事に気が付いた。

訝しんでいると隣を歩く小娘が口を開いた



「・・・逃げ出さないように捕縛魔法(アイビー)で縛り、さらに孔穴魔法(フォール)に落としました。」

「…ふむ。」


魔物の使者なるモノがどのような物か分からんが…そこまで対処していれば、逃がす心配は無かろう。

あのクソジジイの入れ知恵か二コラの助言かは分からんが…少なくとも二コラは金属性、前を歩く兵は風属性に適性があったはずだから、その対処を行ったのは小娘だろう。


なるほど、3級というのも間違いではなさそうだ…






「団長。危険は低いと思いますが…用心を。」


傍に寄ると、二コラは視線と剣先を動かさずに体だけ横にずらした。


「…」


その視線の先…人の体が丸々入る程の穴を覗き込む…と…












「………………なんだあれは?」


そこには…異形…としか言えない物体があり…不気味に(うごめ)いていた。



「・・・アラクネの固有魔術【糸繰(いとくり)】で作られた・・・傀儡(くぐつ)です。」

「傀儡…だと?」

「・・・診断魔法で調べたところ・・・」

「ちょ、ちょっと待て。治癒魔法を行使したのか!?…アレに!?」


治癒魔法は対象に直接触れて初めて発現する魔法だ。

それを行使したという事は、即ち…



「・・・い、嫌でしたけど・・・一番、確実です。」






「…結果は?」


なるほどな。



「・・・あれは、一種の呪いです。」

「呪い?」


クソジジイが評価するだけはある。

3級になるだけはある。

セコンドなだけはある。

定期報告で、兵たちがわざわざ報告してくるだけの事は…ある。



「・・・傀儡の中には、アラクネの子供・・・つまり蜘蛛が・・・1匹入っていて、アラクネの魔力で編まれた糸で死体と直接的に繋がれ、操作しています。・・・ちょっと変に聞こえるかもしれませんが・・・アラクネは“我が子”に死体と連結する呪いをかけた・・・という言い方が、一番的確です。」

「つまり…あれは魔物か?」

「・・・その通りです。・・・親に呪われた、魔物です。」


魔物の固有魔術は未知の部分が多い。

この小娘は…それを調べ上げたのだろう。


こんな草原のど真ん中で、

おそらく、二コラ達が駆けつけるよりも前に、

いつ襲われるかも分からないというのに1人で…



「人の首が2つ乗っているように見えるが…」

「・・・っ・・・・・・ゆ、行方不明だった冒険者パーティー。ウェヌカ兄妹の2人に・・・間違い、ありまっ・・・せんっ。」

「知っているのか?」

「・・・・・・・・・っ、はいっ・・・っ・・・。」

「そうか…」


わしは気付かぬうちに、べそをかく小娘の頭に手を乗せていた…






「…団長。」

「なんだ?」


ややあってから声をかけたのは二コラだった。


「あの使者は…声を、発するそうです。」

「…なんだと?」


使者の…声?

そういえば、最初に報告を受けた時からおかしいと思っていた。

ただの魔物ではなく…使者?


そう思っていると小娘が声を上げた…



「・・・あ、あの魔物・・・は。・・・人の頭を操作することで、人の・・・こ、声を発することができるようです。」

「なっ…」

「そ、それじゃあ、この穴の中にいる奴も…」

「・・・お、同じ言葉を・・・ずっと、繰り返しています。」

「同じ言葉?」

「・・・はい。故に・・・使者と。」

「何と言っている?」

「・・・・・・」


「…お嬢様。ここには我々も…団長もおられます。絶対に大丈夫です。術を…解いていただけませんか?」


口を挟んだのは再び二コラ。

見れば、穴の底で蠢く…人の体をデタラメにつなぎ合わせた肉塊の、その2つの歪な頭の顎には漆黒の太い枝が絡み付いていた。

小娘の行使した捕縛魔法…だろう。


つまり、二コラが来た時にはすべてが終わっていた…と。



「・・・」

「小娘…心配か?」

「・・・・・・こ」

「こ?」

「・・・怖い・・・です。お祖父様っ。」


そう言って小娘は再び足にしがみ付いてきた。

さすがに今度は、涙を浮かべて震える小娘を払い除ける気にはならなかった。



だがしかし…


3級冒険者でセコンド…ということは、それなりに修羅場は見てきたはずだ。

だいたい、あんな、おぞましいものに素手で触れる胆力があるんだ。いまさら何が怖いというのか…



「・・・っ・・・っっ・・・」


…まったく。世話が焼ける。

林檎です。


見直し中に誤字を発見!訂正させていただきました!!

申し訳ありません・・・

・・・よろしくね。(22/04/18 -13:40)

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