Chapter 007_嶺獣 ベヒーモス②
お姉様は強い。
お姉様は頭もいい。
お姉様は魔女様だ…
私はずっと。
そう、聞かされて育ってきた。
でも…
旅のさなか、私の瞳に映ったお姉様は
強いのに泣き虫で
綺麗なのにダラシなくて
小っちゃいのに食いしん坊で
いつも優しいのに時々こわい
髪の色だけ私と一緒の。
ただのお姉ちゃんだ。
聞いてたんと。なんか違ぅ…
「・・・ツィーアン!弾幕薄いよナニやってんの!!」
『グッ、グルアァ!!』
…そー…。
「ツィーウー!!ナミちゃんフォローしてって言ったでしょ!!」
『クックルルウゥ!?』
思ってた………
「フーウェン『フリュウ!!』フーシェン『ピリュウ!!』遊んでないで!真面目にやりなさーい!!」
『『リュ、リュリュウー!』』
お姉様が魔法で戦っている姿を
ちゃんと見るのは…
「ご主人様っ!ホーコーきまぁーす!ですっ!!」
「っ!?ツィーアンツィーウー!」
『『グクルアァ!!』』
「フーウェンフーシェン!!」
『『フピリュリュウ!!』』
「水かがみぃーーーっ!!」
…コレが。
『パッチィンッ!!』
『『『『グクルリュリュウゥーー!!!』』』』
初めてだった…
「…///」
ローの背に乗ったお姉様は
空よりも蒼い魔法印を指に灯して
龍たちに次々と指示を出した
「お嬢様!砂丘下りますよ!捕まって!!」
「んっ!」
「ご主人様っ!フルート様が…」
「フルートは大丈夫よ!!」
「え、あ…っ…にゃ、にゃんです!」
「ツィーアン!『グルアァッ!』ツィーウー『クルルゥ!』!・・・水あそびの弾幕で、ベヒーモスをもう少し・・・こっちに誘導して!」
『『グクルアァ!!』』
「フーウェン『フリュウ!』フーシェン!『ピリュウ!?』ナミちゃんは・・・」
『フリュウ、リュウ!』
『ピリュリュウゥ!!』
「そう・・・引き続きお願いね」
『『フピリュウ!!』』
お姉様は。
ローの操作をローズさんに、攻撃の察知をシュシュちゃんに任せながら。
オトリ役の2人に気を使いながら。
「フルートー!!そろそろー!!」
「…りー!!」
砂煙を上げながら『ドドド!!』っと迫り
時折口から『ズブオオオ!!』って真っ黒な風を吐き出す
お山の魔物と戦っていた
「…来るか?」
「…だな。」
「準備は…」
「…できてるよ。あとは…」
「…フォニを待つばかり。か…」
みんな…敵であるベヒーモスすら…みんなが、
お姉様の唄の、魔法の、指先の
一挙一動に注目して、動いていた。
「お嬢様!まもなくです!!」
「ん!!・・・ツィーアン!ツィーウー!!次の魔法に移るから・・・手はず通り。しばらくお願いね!!」
『『グクルアァ!!』』
「フーウェン。フーシェン!!お父様とお母様の言うこと聞くのよ!!ナミちゃんをお願いね!!」
『『フピュルルウゥ!!』』
私達の待つ
砂の丘の近くまでやって来たお姉様は
「ヒュドラ!!」
と、言いながらローの上でジャンプ!!
『ブシュルルッ!!』
ローの背中…鞍の姿…から飛び出した蛇ちゃんは
銀色ボールになって
『とぷんっ!』
っと、お姉様を包んで
『パシャン!!』
っと、地面で拡がり
「ルクス!ゲオ様!!」
中から現れたお姉様は
「準備は・・・?」
指に絡まり直すヒュドラちゃんのことも
砂埃を上げながら急停止したローのことも
ローの背から飛び降り駆け寄るローズさんのことも
すぐ隣で耳を立てて戦場を見守るシュシュちゃんのことも
「お待たせフォニア!!」と言いながら嵐と共に現れたフルート君のことも
全部を映して!
「…おう。」
「…無論だ」
「ん!・・・ティシアも。ありがと!」
「ん、んぅ!!」
「・・・フルート!」
「あぁ!…エウロス!」「あぁっ!」
全員を信じて!!
「・・・唱えるよ!位置について!!」
「…あいよ。」
「りーっ!!」
唱えた通りの未来を綴っていた!!!
「ご主人様!ベヒーモスがコッチを…」
「・・・大丈夫よシュシュ!ナミちゃんと4柱が必ず注意を引いてくれる!」
「に、にゃん。です…」
いつもよりずっと凛々しくて
「むっ・・・ルクス!琴線曲がってるよ!「げっ…」んもぉ!!真っ直ぐに張らないとでないと上手く飛ばないって言ったでしょ!?・・・スグに直して!!」
「へーへー…」
「フルート!仮想バレル早く準備!!」
「や、やってるよっ!!」
いつも以上にキビシくて
「…フォニ。たて続けに唱えているが…大丈夫か?」
「・・・んふふっ!心配には及びません!ゲオ様も。立派な銃座を有り難う!!」
「ふっ…安いもんだ。」
「・・・ティシアもね。一緒に造ってくれたんでしょ?・・・どうも有り難う!」
「う、うんっ…。そ、それよりお姉様!」
いつもより。ずっと…
「頼んだぞ!」「がんばって!!」
「んっ!」
ずぅ~~~っと!!
「ルクス!」
「…あぁ!」
「フルート!」
「あぁっ!」
「・・・唱えるよ!!」
カッコよかった!!
………
……
…
・
・・
・・・
ベヒーモスはコレまで出逢ったどの魔物よりも
巨大で力強かった
「・・・レールは・・・」
「…お前の唱えた通りだ。」
「・・・ん。」
「…心配か?」
「・・・んーん。・・・信じてるよ。ルクス。」
「っ…ふ、ふんっ…///」
ツィーアンとツィーウー
2柱が同時に突進しても、ちょっと“ふらつく”だけ。
進路を変えることもできない。
「・・・フルート!砲身は大丈夫?」
「んっ?えぇっとぉ…エウロス!?」
「…任せろ、主人!お嬢も!!」
「…だって、さ!」
「・・・ん!信じてるからね・・・フルート。」
「りぃっ!!…お任せあれ!」
エウロスの嵐と、4柱の水あそびを合体させても
撹乱以上の効果は無かった。
「・・・すー・・・」
大きくて。重くて。硬い・・・ただ、ソレだけ。
ソレが何よりの武器だった。
ただ、歩いているだけで。街の1つや2つ
平気で崩壊したことだろう。
「・・・はぁ〜・・・
・・・いくよ」
「…あぁ。」
「あぁっ!」
ナミちゃんは情報を与えられなかったから、
知らないと言っていたけど・・・
焔ドワーフ達は“こうなること”を予期して
ベヒーモスに戦いを挑んだのかもしれない。
この焔山の周囲には、他の種族・・・どころか。
ヒトが住めるような場所が一切ないから。
逃げ出すこともできず。
故郷の山に留まったのかもしれない・・・
「・・・『龍よ目を覚ませ』」
「…はぁ~…」
「…はは。緊張してるのかい?小僧?」
・・・ま。
真相のホドは・・・ソレこそ。
ドワーフ本人に聞かないと分からないんだけどね・・・
「『天より奪いし力を示せ』」
「…誰がっ!」
「…はははっ…ま。頑張ろうよ!…フォニアの為に…ね。」
何がともあれ・・・
「『 八千代の時を耐え忍び』」
「…ったく。はぁ~…よし。」
「…頼んだよ。」
今は・・・目の前の脅威に
「『冥府の谷を黄金に染めろ』」
「…『老い錆らし囚人』」
「さて。ぼくもっ…とぉ…」
放つべき1射に
「『咆哮は一瞬』」
「『大地の枷を外してやろう』」
「『鷹の願い』」
全神経を・・・
「『静寂は永久』」
「『鈍光散らして敵を砕け』」
「『地平を臨み』」
・・・今日まで積み重ねた
全てを!
「『 放て』」
「『閃け』」
「『原始の森を往く』」
このっ、ひと唱えに!
「サンダーバレー!!!」
「レド・バレット!!」
「ホークアイ!」
『ドゴォンッ!!』
完唱と同時に生み出されたのは
【雷谷魔法】による2本の岩の柱!!
それと・・・
『ギイイィィィッッ!!』
ルクスの【鉛弾魔法】による、
特大の砲弾!!
『シュウゥゥッ…』
フルートが【鷹の目魔法】で生み出した疑似レンズ!!
「ルクス!」
生み出した砲弾を、
予め準備してくれていた【琴線魔法】の
2本の平行線の間に留めた彼に
「こいっ!!」
「んっ!!」
そしてっ!
「フルート!」
【鷹の目魔法】の疑似レンズで照準を合わせ、
【風神魔法-東風】の仮想バレルで的を絞った彼に
「おいでっ!」
「んっ!!」
さぁ、
「・・・イクよっ!」
「おうっ!」
「あぁっ!」
2人と一緒に!
長き夢から覚めた秀嶺に!!
「放てぇぇえl!!!」
「うおぉぉ!!」
「いっけぇ!!」
唱えるっ!!
『パチィンッ!!』




