Chapter 002_火山の麓で
麓→ふもと
と、読みます。
「み…」
焔山らしき影をシュシュが見つけた3日後
「…どうした狐。…また何か見つけたのか?」
私達を先行して歩いていた小さなシュシュの、小さな声に最初に反応したのは
ロワノワールを操るルクスだった
「・・・う?」
私は、シュシュの声が聞こえてなくて。
ルクスの声に反応したんだけどね・・・
「…」
場所は、焔山の広大な・・・異世界島国が“まるまる”
入っちゃうんじゃないかな?ってくらい。広大な・・・焔山の裾野
裾野って言っても、広大(焔山は【単独峰】 要するに・・・FUJIYAMA!
みたいに、周りに他の山が無い)過ぎて・・・
遥か先。白(おそらく、万年雪)を冠した頂を望む
砂でできた“丘”って感じの・・・
・・・そんな場所
「…?おい!どうした狐!聞こえないのか!?」
何も無い・・・緩い上り坂を元気に先行していたシュシュは
突然立ち止まったきり、動こうとしなかった
「…どうしたんだい?」
「・・・わかんない。」
「シュシュちゃーん!どーしたのー!?」
「…」
私達の呼びかけにも応えず、ただ、大きな耳をそばだてていた彼女は・・・
「…にゅ………」
数秒経って
振り返り・・・
「誰かがナニカと戦っている…みたい。です?」
・・・と、
「「「「「…え?」」」」」
「・・・う?」
唱えたのだった・・・
・・・
・・
・
「誰かって…戦っているっていうのは、状況的にドワーフじゃないのか?」
ドワーフが魔物(?)に襲われている!?と、いうなら
急いで向かう所だけど・・・
「違うです!たぶん…」
どうも、ソウではないらしい。
少し距離があるせいで、シュシュ自身も詳しく分からない・・・けど、少なくとも
"普通の戦い”では無いようだ・・・
「・・・たぶん?」
「ハッキリしなさい!シュシュちゃん!?」
「うっ…。ご、ごめんなさいです…」
よく分からないけど・・・
「・・・ローズさん。シュシュを怒らないであげて。シュシュが言うのだから・・・本当に、よく分からない。ヘンな状況になっているのだと思う。」
・・・とりあえず。
近づかないコトには分からない。
それに、音がするのは私達が向かう先・・・
火山にあるという、ドワーフ王国の方角だからね・・・
「み…」「むぅ…」
2人をなだめた私は
「・・・フルート!何かみえる?」
並行して走るエオリカちゃんの上で
鷹の目で先を見つめるフルートに声をかけた。
「えぇと…」
すると・・・
「…ケンタウルス(?)が小山に突進しているように…み、見える。かな…」
「・・・う?」
・・・ナニ?それ?
「・・・ケンタウルス?」
・・・
・・
・
「…本当にケンタウルスが小山に突進しているな…」
「そ、そうですね…」
数分後・・・
「…何やってんだ?」
「さ、さぁ…?」
見えてきた焔山の・・・断崖絶壁の下には
トゲのような岩が所々から飛び出ている、こんもりとした小山があり・・・
「ケンタウルスって実在したんですね…?」
「・・・ね。お伽噺だけかと思ってた。」
小山に向かって槍を構え、突進を繰り返す盾持ちの半人半馬・・・
つまり、ケンタウルスがいたのだった・・・
「アレは…“ケンたぉリス”と。言うのですか?」
「ケ・ン・タ・ウ・ル・ス…だよ!シュシュちゃん!」
「ケ…ケ、ケンタウルス…?」
「…ん!」
「・・・シュシュは知らなかった?」
「初めて見たです!」
ケンタウルスと距離をとって立ち止まっていシュシュは、
追い付いた私を見上げ、そう言った
「…馬の体に人間の上半身…ケンタウルス以外の何物でもないな。」
「絵本で見た通りだね!」
「…ぼくも。本でしか読んだことはないなぁ…」
「・・・少なくとも、アドゥステトニアには目撃記録がなかったはず。・・・だよね?ゲオ様?」
「…あぁ。間違いない…」
グリフォンもドラゴンもいるリブラリアだけど、
実はコレまで。ケンタウルスを見た!という記録は無く。
実在するかどうか?
分かっていなかった・・・
「キメラしかり。ボルカノスコーピオン(前の話で少し話した、火炎放射するサソリ)しかり。パド大陸には珍しい魔物が沢山いますね…」
「今はコチラに気づいていないようだが…」
「…用心しろよ。」
世界によっては、ケンタウルスが仲間になるコトもあるみたいだけど・・・
リブラリアのソレは“魔物”・・・と、されている。
一応、ヒトっぽい部分があるので。
アラクネと同じようにコミュニケーションできる可能性は
あるけどね・・・
「・・・んぅ。そうだね・・・」
ゲオ様とルクスが言う通り。
用心するに越したことはないだろう・・・
「…どうするの?」
「気付かれる前に迂回…で。いいんじゃないか?」
「そう…ですね…」
「・・・美味しくなさそうだしね・・・」
「フォ、フォニア。君は…」
「何でも食おうとするなよ…」
「・・・う?」
「お姉様の瞳には。アレが食べ物に映るんだ…」
「・・・うぅ?」
なんて、
みんなで話をしていると
「…みゅ?」
ふと、シュシュが・・・
「…ご主人様ご主人様。」
「・・・う?」
私を見上げて
「あの…ケンタウルス?アレは、たぶん。食べられないですよ?」
・・・なんて、言いだした。
「・・・う?・・・どうして?」
聞き返すと・・・
「生き物じゃないからです。」
え・・・?
「…生き物じゃない?アレが?」
リブラリアには無生物の魔物(数日前には、砂漠のど真ん中で乱舞する・・・生存目的が全くわからない。名も無き"剣の魔物”に遭遇した)もいる。
けど、瞳に映っている、あのケンタウルスは
項垂れたり・・・疲れ果てて肩で息をしたり・・・と。
“かなり”生き物っぽい動きをしている。
シュシュを疑っている訳じゃないけど、
私も生き物だと思っていた・・・
「…なぜそう思う?狐。」
ルクスの問に
「えっと…」
シュシュは・・・
「鼓動が聴こえません。」
「は!?」「なにっ!?」
「う!?」
明確な解を!?
「こどう?」
「…心臓が動いていないという意味だ。」
「ふえっ!?し、死んじゃってるってこと!?」
「どうだろうな…」
心臓が動いていない・・・と、
いうことは・・・
「・・・無生物の魔物かな?」
目の前にいるアレも。
ケンタウルスっぽい見た目の”ナニカ"なのかもしれない・・・
『…ガシャンッ』
「み!?」
すると・・・
「気づかれたです!」
「なっ!?」
話し声に気が付いたのか、
例のケンタウルスが立ち止まり
コチラを見つめているではないか!?
「みゅ!」
その瞬間!
シュシュはナイフを抜いて構え、
「くそっ!」「警戒しろ!」
ルクスとフルートは発動子を手に飛び出し、
「お嬢様!」
「ん、んぅ・・・」
「…テー!」
「うんっ!」
ローズさんとゲオ様は、私と妹を馬上で引き寄せた
『シャン…』
しかし・・・
「………みゅ?」
当の
ケンタウルスは・・・
「…うん?」
「アレは…」
「槍を…下ろした?」
手にした槍と盾を下ろし。
「・・・う?」
「何かを…」
取り出して?
「…槍の?」
穂先に
取りつけ始めた??
「何を…」
背中のローズさんがそう言ったタイミングで・・・
『シャンッ…!…トスッ!』
「…?」
私達に向かって槍を掲げて
前足を
『シャンッ…!』
上げたり・・・
『…トスッ!』
・・・下げたり
「アレ…は…」
ケンタウルスが掲げる槍の
その穂先には・・・
「・・・灰旗?」
小さな。三角形の
「灰色の旗って…コ、コーサンの印だよね!?」
異世界の白旗と同じように、
リブラリアにも”降参”の意思を示す合図がある
ソレが"灰旗”だ
・・・因みに、
"灰色”は治癒属性の"銀色”を模したもの・・・
「…そのハズだ。どうする?」
ゲオ様は・・・ケンタウルスからは視線を外さず
問いかけた
「・・・」
・・・さて。
『シャンッ…!…トスッ!』
どうしよっ、か・・・?




