Chapter 021_罪作り
「・・・あーあ。・・・ちゃんと答えないから・・・」
広場に駆けつけたぼくの瞳に映ったモノは…
「ギイィゃあああぁぁーーー!!!」
炎に焼かれ
聞いたことも無いような絶死の叫びを上げる母様と…
「クレシェンドオォ!!」
「「巫女さまあぁ!!」」
何もできず…
ただ、その様子を見守り泣き叫ぶ父様と
里の者達。そして…
「・・・先程みたいに。素直にYesって唱えれば良かったのにね・・・んふふふ・・・」
小さな笑みを浮かべながら淡々と
その様子を見守る。ひとりの魔女だった…
「・・・ウリエル。」
「はっ!」
「・・・もう、ソレに用はない。刃を移しなさい。」
「御意に…」
ぼくを含めた観衆のことなど気にも止めず
「・・・さ・て・と・・・リュートどの。」
身動きがとれないのか…
跪いて怯えている父様に向かい
「・・・次は。あなたの番よ?」
すると、
「…た、頼むっ!魔女様!!」
「・・・う?」
父様は…
「あ、あなた様の質問には…も、求めにも!すべて答える!スベテお渡しする!!だからどうか!彼女を…」
そう言って泣き叫ぶ母様を見つめ…
「ク、クレシェンド…をぉ…」
涙ながらに
「・・・」
小さな支配者に
「お、お頼み…申し上げ。ます…」
心からの懇願を。
そして…
「ま、魔女様…」
「ど、どうか!」
「お許しを…」
「…どうか!!」
里のみんなも…
「・・・」
でも、
「・・・んふっ・・・」
無慈悲な
「・・・・・・どうして?」
魔女様は…
「ど、どうしてっ…て…」
「そんなのっ!」
「巫女様が可哀想だ!!」
「み、見てられないよぉ…」
燃え続け。絶叫を上げ続ける…
た、助け起こすことすらできない母様に
みんな悲痛な視線を向け、
そして、スグに瞳を逸らせて叫んだ。
けれど…
「・・・私はこの人に10日間も苦しめられた。なのに、みんな助けてはくれなかった。・・・私は?可哀想じゃ・・・なかったの?」
「「「「「…」」」」」
フォニア…
「・・・冗長な耳長どもと違って。私には時間がない。」
そう言ったフォニアは長いまつ毛を伏せ
瞳に理を宿し。
そして…
「・・・乙女の10日は・・・安くないわよ?」
“ぼく”の瞳を
「・・・」
まっすぐ…
「…」
………ぼくは。
なんてコトを…
「・・・・・・この【浄化の炎】は対象に悔恨の念を刻みつける為のモノで。物理的に肉体を焼くモノじゃない。・・・見た目は炎に呑まれているし。本人も灼かれる痛みと苦しみを味わうことになるけど・・・ソレだけ。死にはしない・・・と、いうか。死ねない。ただ苦しいだけよ。・・・・・・昨日までの私といっしょで、ね・・・」
「「「「「…」」」」」
「・・・ソレでも。どうしても。この炎を消したいというのなら・・・
・・・理に。
挑むことね。」
「「「「「………っ!!!」」」」」
仲間の反抗は、
『『『『『ドドドドドドドォォォォ―――ンッッ!!!』』』』』
『『『『『ドプンッ…』』』』』
ほんの一瞬のできごと…いや。
気付くより先に終わっていた…
「・・・んふふふっ・・・」
広場に集まっていた仲間は
「・・・そういえばっ!言って無かったかもしれないけど・・・燐塔魔法は、ホントは。ノーモーションで立てるコトができるの!・・・指パッチンは・・・ただの、気分よ。」
地面から立ち上がった轟炎と…
「…他愛ない。」
月の残光に切り落とされ。
残りは…
『『『『『ブシュルルルゥ!!』』』』』
蠢く銀に
呑まれた…
『るるぅるぅる〜!』
「・・・う?」
『る〜!』
「ひゃっ!?・・・も、もうっ!」
『るるぅ〜!!』
「・・・んふふふっ・・・よし、よし。」
『『『『『りゅ〜///』』』』』
「あっ…ず、ズルいぞ蛇!!私だって…」
「・・・んふふふっ。サリエルもおいで。」
「ロードっ!」
「・・・いい子。いい子・・・」
「ふぁ…///」
「くっ…」
「・・・んふふっ。ウリエルも後で・・・ね?」
「!は、はいっ!!」
精霊たちと和やかに戯れる彼女の横で…
「「「「「…」」」」」
…残された
ぼくと。ドルチェお姉ちゃんと。テヌートと。父様…
そして、炎の中の母様は
押し黙るしか、なく…
「・・・それにしても・・・なんで皆。反抗するのかな?・・・私。この里を壊滅させるつもりなんてゼンゼン無いんだけどなぁ・・・」
「「「「「…」」」」」
「・・・私。脅しに向いてないのかな?迫力無いのかなぁ・・・?」
「「「「「…」」」」」
ピンクの唇に指を当てて悩む彼女は可愛らしく…
そして。
「・・・もうちょっと、」
『パッ…』と
指を離した彼女は…
「・・・脅した方が・・・」
右手を…前に
「・・・素直にお喋りできる?」
親指と人差し指を…
『パッチィンッ!!』
『『『『『ドドドドドドドォォォォ―――ンッッ!!!』』』』』
「んっふふふふっ・・・」
「「「「「っ…」」」」」
………
……
…
「…ま、魔女。さま…」
「・・・う?」
やや…間を、
置いて…
「…ど、どうぞ。続けて下さい。」
白銀だった髪を白く染め、
白い顔に死相を浮かべた父様が
「お唱えになるスベテにYESと返させて頂きます…」
そう、唱えると…
「・・・むぅ。・・・それじゃあ、まるで。私が悪いみたいじゃない?私はただ・・・」
「お願い申し上げます!!」
「・・・」
「何なりと!…さ、さあ!!」
「・・・」
この夜を早く終わらせたい…
そんな父様が叫ぶと
「・・・はぁっ・・・」
彼女は息を突き
そして…
「・・・じゃあ、先ず。さっきクレシェンド様が答えに詰まったお話を聞かせて。この大陸のドワーフのお話。・・・あ。面倒だからYESじゃなくて。普通に答えていいから。」
「そ、それは…」
絶対裁判を再開したのだった…
………
……
…
・
・・
・・・
「…い、以上でございます」
「・・・」
「…」
「・・・」
「…?ま、魔女…さま?」
「・・・」
燐炎の塔が聳える
夜の森の真っただ中・・・
「魔女様!」
「ぅ・・・うっ!?」
・・・私は、目覚めた。
「お…お、お話は。い、以上…です…」
「・・・あ・・・ぅ、ぅ。ん・・・」
“眠りから”の目覚めじゃない。
「わ、私の持つ情報はスベテ…ク、クレシェンドの錬金術についてはもちろん。道中にある【焔山】…フ、【焔のドワーフ】の情報や…ヴェ、【ヴェルム・ウェルム】大陸への行き方。そして、ヴェルム・ウェルム大陸とアドゥステトニア大陸を結ぶ道…通称【天空回廊】の情報も…スベテ。お話しました!…お、お渡しできるモノもスベテお譲りしました!!」
「・・・ぅ、うん。・・・うん・・・」
・・・“魔法から”の目覚めだ・・・
「…も、求められたモノはこれで全てです!も、もう…もう!我々には何も…お、お渡しできるモノはナニも御座いません!!」
・・・これまで。
“魔力酔”からの目覚めは意識の目覚めと同時だった。
朝起きて。
チュッ、てされて。
んー・・・って、して。
「・・・」
・・・また、やっちゃった・・・
って。後悔して・・・。
「い、偉大なる魔女様!!どうか…ど、どうか我等にお慈悲をっ!っ…」
だから・・・いつも、“あとのまつり”だったから。
後悔はするけど、
もう、ドウしょうもないって分かっていたから
諦めるコトができた。
次はもっと気をつけようって。師匠に言われた通り
冷静さを欠いちゃダメだって・・・
そう、反省して。
・・・それで紐を閉じていた。
「フォニアちゃ…じゃ、無くて!魔女様!どうか…わ、私も…こ…こ、これまでのご無礼の数々。誠心誠意、謝らせていただきますっ!も、申し訳…ございませんでした………」
「…わ、私も謝ります!!!ごめんなさいでした!!」
「フォニア!どうか…う、受け取ってくれ!!どうか………」
よりにもよって。こんなタイミングで目覚めるコト
無かったのに・・・
「っ・・・」
・・・いっそ。
気絶してしまえば良かったのに・・・
「「…」」
『…』
私の魔力を糧としている召喚獣達は
魔力酔で暴走した私を止めるコトができない。
彼らは、なんだかんだ言っても、やっぱり
瞳の“内側”にいるから・・・
「ま、魔女様!せめて…せ、せめてクレシェンドだけでも!彼女の苦しみを取り除いて下さいませ!!…わ、私はどうなっても構いません!ですから…お、お願い申し上げます!!」
家々を焼き。
世界樹の枝を焼き払い。
風のエルフを“絶滅危惧”にまで追い込み・・・
「ど、どうか…お、お母様の炎を!」
「おっ、おとー様に向けられた刃を!!」
「「お納め下さい!!」」
“後戻りできない”判決台に
家族を乗せてしまった私を・・・
「フォ、フォニア…き、君の怒りは良く分かった。ぼくも…父様も…さ、里の皆も反省してる!!だから…も、もう!終わりにしよう!?…ね!?」
「・・・」
「こ、これ以上は…これ以上はっ!わ、分かるだろう!?エルフを殺し。世界樹を傷付け。更に…ぞ、族長まで手にかけたら、フォニア。君は…き、君は!本当に“エルフの”敵になってしまう!!だから…」
こ・・・こ、こんな時にまで私を心配してくれる
彼・・・か、彼ですら!
「っ・・・っ・・・っっ・・・」
「フォニア!」
きっと・・・
「・・・っ・・・ご、」
「…?」
「・・・ご、ごめ・・」
「っ…」
「・・・ごめんなさい・・・・・・」
「あぁ…あ、あぁ!」
「・・・ご、ごめんなしゃい!ごめんなさいぃ・・・」
「っ…い、いいんだ!いいんだフォニア!!ぼくも…」
・・・その時。
「今よっ!」
「うんっ!!」
「「『茨の願い』」」
「っ!?」
「「『花の森を這う』」」
「やめろぉぉぉーーー!!!!」
「「ニードルッ!!!」」




