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Chapter 018_わがまま王子様

「それはウソだね…」


ひたすら想いを伝えてきたテノールと違い。

ドルチェお姉ちゃんはあの手この手で

ぼくを誘惑しようとした


泣いてみせたり。

三つ編みにしてみせたり…


…そういう誘惑だ。



「ウソなものですか!かわいいフルートちゃんにおねーちゃんがウソをつくはず…」

「いいやウソさ!」


そして、それでもぼくが揺るがないと知るやいなや。

今度はぼくを留める“言い訳”を始めた。


彼女もこの森が気に入ったと言っている…とか。

ドルチェお姉ちゃんとも仲良しで、本当の姉妹のようだ…とか。


そして…



「彼女が…なんでも唱えた通りにしてしまう。アノわがまま魔女が!何よりも大事な妹ちゃんを置いて、この森で暮らそうだなんて言うハズがないっ!!」


…とか。



「わ、わがまま魔女って…す、好きな()に対して。よくそんなコト言えるわね…」

「そういう所も彼女の魅力だからさ!」

「はあっ!?」


ぼくの言葉にたじろいだドルチェお姉ちゃんは



「………っ…」


ベッドの上で…シーツを被ったまま…



「…あ、あんな…」


身を起こし…



「あんな(むすめ)のっ。ナニがいいっていうのよ…」


両手を強く握り締めて…



「あ、あの娘…フ、フルートちゃんを利用しているだけだって。平気な顔して言ったのよ!家に帰る手段を聞きたいからって…そ、ソレだけだって!そう言って。私に脱走の手伝いをさせようとしたのよ!?信じられる!?あなたを森に残して。ひとりだけ逃げようとしたの!?…連れてきてもらったクセに…さ、最低じゃない!」

「はぁ~…まさか本当に。彼女を閉じ込めていたなんて…」

「っ!?…と、当然でしょ!!」


…当然。

か…


「………」


できれば、

その言葉は聞きたくなかったんだけど…



「…な、何とか言ってよ!!」


黙っていたぼくに

にじり寄ったドルチェお姉ちゃんは…



「っ…フ、フルートちゃんは…ソ、ソレでいいの!?利用されたままでいいの!?」


ソレでいいのか?…だって?



「…」


…確かに彼女は我儘だ

ぼくの気持ちをわかった上で

仕草と喉と身体と…そして瞳を武器として。


誘惑して…利用する。



「い、いいわけ…無い。よね…?」


けれど。アノ…


“あざと”いオネダリ。

花をも霞む笑顔。

ガードの薄い(ように見える)柔肌。

たまー…にくれる。トビキリの“ご褒美”


そして、

全てを飲み込んでくれる…(ひとみ)



「…っ」


…もっとも。ソレを得るには、

死ぬ思い(“思い”というか。実際に…)をしないと

いけないのだけど…



「なっ…なに。笑ってるのよ…」


…なんて。

考えていたら…



「勝手っ…過ぎるよ…」


…彼女に想いをはせていたぼくに

ドルチェお姉ちゃんは…



「あの娘も…フルートちゃん。あなたもっ!!」


胸の内を吐き出すように…



「何よっ!遊び回って振り回して!私がどれほど悔しかったか…どんな想いであなたを待っていたかっ!?森に縛られて何処にも行けない私“達”の気持ちなんて。ぜんぜん…ぜんっ、ぜんっっ!!…分かって無いんだから!!」

「…」

「たまたま…運良く。魔法に適正があったってダケなのに。ソレだけで我儘に振る舞っても許されるなんて不公平だよ!私だって…私だって!!コノ風が何処から吹いてくるのか知りたかった!何処にも行けない風見鶏(ヴェーン)なんかに、なりたくなかった!!」

「…」


勝手…か。

確かに“そう”かもしれない…


風属性魔法に高い適性を持っていたぼくは哲学者(フィロソファー)とよばれ。

幼い頃から優遇してもらっていた…



「か、各地を旅して見地(けんち)を拡げるのがあなたの仕事でしょ!?なのに…な、なによ!女の子アソビしてただけじゃない!騙されて捕まって…ま、また捕まって!200年以上遊び歩いて。我儘娘ひとり連れ込んで。それが成果?…笑わせないでよ!!」

「…」

「フルートちゃんが居ない間…な、仲間が奴隷商人に捕まりそうになったり!畑のお野菜が全滅しちゃったり!ヘンな魔物に襲われて戦士がケガしたり!!いろいろあったのよ!?こんな時に、あなたがいたら…って!そう、何度も思ったのよ!!」

「…」


「で、でも…わ、私は信じてた!きっとフルートちゃんは帰ってくるって!そう、信じて………」

「…」


「………そして。帰ってきてくれた…」

「…」


「………唱えた通りに…か、帰ってきてくれたっ!」


黙っていたぼくに



「ね、ねぇ…」


ドルチェお姉ちゃんはシーツを(こぼ)して

摺り寄り…



「わ、私“は”。ちょっ、ちょっとくらいのアソビなら…ゆ、許して。アゲルから…」


…そのままの姿で

抱きつき…



「…そ、束縛なんてしない。付いていくなんて絶対に言わない!帰って来てくれた時は精一杯癒やして…ご、ご奉仕だってするよ!!わ、私だって…お、大きくは無い。カモ…だけど。…で、でも!里の中ではイチバンなんだよ!」


強く押し付け…



「………っ///…ね、ね?…ちゃ、ちゃんと。アル…でしょ?」


真っ赤になりながら…



「………わ、私の…な、名前だって。知ってる…でしょ?」


「こ、この胸の高鳴りも…き、聴こえる…でしょ…?」



「だ、だから…」



「…っ///」



「わ、わたしの…名を…







…唱えて。








…お願い。


王子様………」


………

……


……

………



「ごめん。」

「…」







………せめて。


もう少し…



「その想いには応えられない」


時間をかけて。

悩んでから…



「ぼくは…たとえ。彼女(フォニア)が選んでくれなかったとしても…フォニアを選ぶよ。」


答えて欲しかった…………



「………」


受け入れがたい現実(ことば)を前にした私に



「そう…だね。ぼくって気まぐれで勝手で…わがままなんだよ。一所(ひとところ)に留まるのも苦手だしね…」


王子様(カレ)

清々しい笑顔を浮かべて



「たぶん…振り回されるのが好きなんだよ!…ほら。風属性使いだし?気紛れな風がお友達…ってね!」


ココにはいない

ダレカの瞳を瞳に映して…



「だから…お姉ちゃんには似合わないよ!」

「あっ…」


私から離れて…



「…迎えに行ってくるよ。」

「っ…わ、私はどうすればいいのよ!?」

「どうって…どうもしないだろ?今まで通りさ」


ふ、振り返えることさえ。

なくて…



「あ、あなたに告げちゃったのよ!…い、今まで通りでいられると思う!?」


そして…



「あ〜…。ソレなんだけど…」


軽い調子で…



「…たぶん。彼女なら何とかしてくれるよ!」

「っ!?」

「ほら!彼女、呪いを解くの得意だし!?きっと…」


…急に。

得意気に…





















「バカにっ…」


その背中にぃっ!!!



「…すんなぁーーーー!!!!」

「ぎゃあああ!!!」


全力パンチ!!



「い、いたたたたぁ…」

「なによぉバカっ!!そんなっ…か、軽い覚悟で私が唱えたとでも思ってるの!?」

「え、え〜と…」

「もうっ…も、もうっ!もういいもん!!!フルートちゃんを殺して私も死んでやる!!」

「はぁ!?」

「『茨の願い』」

「ちょっ、まっ!?」

「『花の森を這う』」


側にあった枕を

発動子に



「ニード…」

「エ、エウロ…!」


愛の棘で彼を貫き、自分も死のうと思った私を…



『ドゴーンッ!!』『ガズッッ!!』

「うをっ!?」

「きゃあっ!?」


止めたのは…



『パチィンッ!』


私の体を…

包むように、何本も



「っ!?」


そそり立った…



「…さぁ、ロード」


夜を統べる



「こちらへ…」


蒼い…



「・・・ん。」


炎の柱………






「・・・お取り込み中のところ申し訳ないんだけど・・・フルートを借りるよ。」


部屋のドア…

ド、ドアのあった壁は


主人に恭しく頭を下げた2柱の天使によって

粉砕・切断され…



「・・・あ。その炎・・・加減しているから、それほど熱く感じないだろうけど・・・ぶつかったら、一瞬で昇華(しょうか)しちゃうからね。・・・動かないでね。」



「ひっ…hっ……」


う、動けるはず…ないよっ…



「・・・フルート。」


…そして。

熱と恐怖で息もできない私に

興味を失った魔女は…



「は…はぃ…?」


フルートちゃんの

前に立ち・・・



「や、やぁ!フォニア。元気そ…」

「・・・私が大変な目に遭っている間に・・・ずいぶん。お愉しみだったみたいね?」

「そ、それはゴカイだよっ!?」

「・・・言い訳無用っ!」


左手を突き出し・・・



「・・・ヒュドラ!」

『『『『『『ルッ!!!』』』』』


へ、ヘビを!?



「ぎいぃやあぁぁあ!!!」


魔女の指から飛び出したヘビはたちまち巨大な…

で、伝説の魔物ヒュドラ!?になって



「ぶっ、フォ!」

「・・・窒息させてやりなさい!ちょっとずつ・・・ね・・・」

『ブシュル!!』

「っ〜!!!………ッ、ッ…」


フルートちゃんを一瞬で締め上げ。



「・・・コレは初日の断食(だんじき)の分。」


さらに…



『パキンッ』


ひぃっ!?



「・・・コレは2日目の分」

『ペキッ』

「っ〜!っ〜!!」


…そ、そそそ



「コレは3日目の・・・」


っ〜………



「・・・さっさと助けに来れば。こんな面倒なコトしなくて済んだのに・・・ヒュドラ。手足の指だけじゃなくて。肋骨も粉砕してあげなさい。」

『りゅりゅ~!』

「っ〜…………」


そっ、そして…

フ、フルートちゃんの…



『パキンッ…』

「ッ。。。。。」


か、体を…



『ゴキンッ!』

「。。。。。。…」


ど、どんどん。と…



『バギッ!!』

「…」


つ、潰っ…て………っ…



「はあぁ~っ・・・まったく。」

『パチィンッ!』


酷い音を立てて…

捻り潰され形を変えたフルートちゃんが



『ズルッ…』

「べぇ゛…」

「ひいっ!?」


床に捨てられたと、思ったら…



「・・・で。仕上げにっ・・・と・・・」


魔女の言葉で



「・・・乙女の心を弄んだフルートに・・・」


部屋の外で揺らいだ蒼は



「・・・ギィルティ」

『パッチィンッ!!』


指擦りの音で



『ドオオオオォォォォォ――――ンッッッ…!!!!!』


フルートちゃんを…



「゛〜!!!!」


炎で…炎に…



「っ………」


目の前に顕現した天の炎に眩んだ私は顔を背け、



「・・・フルート。首も斬っておく?」

「っ…ゅ、ゅ゛…」


耳から入って来る声に耐えつつ、


壁に空いた穴の先を『そ~…』っと見ると

そこには…



「ぇ…」


見慣れた森の真ん中に

蒼き炎が立っていた…



「・・・大丈夫よ。何度でも書きなおして。また、焼きなおしてあげるから・・・」

「…っ…」


私達を脅かさんとする

悪魔の…魔女の…


支配の象徴




「・・・ぎぃるてぃ。」

『パッチィンッ!!』

『ドオオオオォォォォォ――――ンッッッ…!!!!!』


ソレは森を焼く

支配の…



「蒼い…と、塔………」

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