Chapter 016_無力な女の子
「はぁ〜…もう止めてくれ。テノール…」
両親にフォニアへの想いを打ち明けた
あの日から
「ひぐっ…えっ…ど、どうし…どうして!?あんな人間の小娘なんかより私の方が…っ…」
「………はぁ〜…」
ぼくは鍵付きの一室に閉じ込められてしまった…
「ひぐっ…ひ、ひどいっ。ヒドイよ…」
「…」
…もっとも、鍵付きと言っても牢屋というワケではない。
見張りも居ない。ただ“鍵が付いている”だけの部屋で…何なら、窓だってある。
出ようと思えばいつでも出られる。
けれど…
「っ…っっ……」
さめざめと涙を流す妹を、押し退けられずにいた…
「テノール…ごめんよ。何度も言っているけど、君の想いには答えられないんだ…」
テノールの想いに応える事はできない。
けれど、無下にすることもできない。
長いこと家を留守にした引け目もあって強く言えないぼくは、
この部屋で時間を浪費していた…
「わ…わ、分かってる…わ、私だって分かってるもん!!フルート様の気持ちくらい!」
「なら…」
フォニアとは…もう、何日も会っていない。
も、もちろん心配しているさ!
けれど、聞いたところによると彼女は
森を散策したり。果物狩りをして
毎日楽しく過ごしているという…
彼女はこの森の…空の実の…秘密を解いてみせると意気込んでいたし…
この森に生えている果物や、栽培している野菜は独特なモノが多い。
だから、
“さもありなん” だと、思えた…
彼女がぼくの故郷を好きになってくれるのなら本望だ。
満足するまで自由に見て回って欲しい…
…ソレが、ぼくの願いだ。
それに、長年の呪いからぼくらを解放しくれた彼女を
仲間のエルフがどうにかするとは思えない。…思いたくない。
なにより彼女の事だ。
ぼくに会いたいのなら会いに来るだろうし。
こんな森。出ようと思えばいつでも出られるはず。
ソレが無いって事は…きっと。
大丈夫ってことだ。
だから。今は…
「で、でも!!…ちょっ、ちょっとくらい私のキモチを分かってくれたっていいじゃないですか!私はずっと…に、200年以上も!あなたの帰りを待っていたんですよ!?」
「それは…」
…本人が言う通り。
200年も放置してしまった婚約者たちと…
「わ、私は。私は………本当はイヤだけど…あ、あの子の“次”でも、いいもん!!だから………だ、だ。から…ね?このまま…/// 」
…故郷とに。
「………ごめん。」
決着を
「っ〜…!?いっ、意気地なしーーーっ!!!」
つけなければ…
………
……
…
・
・・
・・・
「・・・」
風の森に来て・・・7日
「フォニアちゃん…お、お散歩行かない?風が穏やかで.。いい日和よ…」
体調を崩したあの日以来。
私はドルチェお姉ちゃんと、時々やってくるエルフの患者様以外、
誰とも・・・フルートとも・・・逢わせてもらえない
監禁生活を送っていた・・・
「・・・お気遣いありがとうございます。でも・・・結構です。」
もっとも。“監禁”と言っても牢屋に入れられている
ワケじゃない。
素朴ながらも広くて過ごしやすい。
テラス付のツリーハウスに。だ・・・
「そ、そう………」
側にいつもドルチェお姉ちゃんと数名の警備・・・という名の監視員・・・が
いることを除けば自由行動が許されていた。
お茶だって淹れてもらえるし、
監視付き・・・とはいえ。お散歩に行く事もできた。
「・・・今日は誰か?」
「今日は…うぅん。特に予定はないようね。…ふふふっ。フォニアちゃんが来てくれたお陰で、里のみんな。元気いっぱいよ!」
「・・・」
「…きゅ、急患が来ない限りは。今日も自由にしていていいからね…」
することといえば、日に1度くらいのペースで
やってくる患者様を診ること・・・ソレくらいだった。
ソレが仕事で・・・義務だった。
「・・・そうですか・・・」
あの日以来、どういうわけか。
この身に有り余っていたハズの魔力が消えてなくなってしまった。
“からっぽ”・・・と、いうワケでは無いので、
魔法を行使できなくもないけど。量が大きく減っちゃって・・・
診断魔法と下級の治療・処置魔法を唱えただけで
目を回してしまう
当然、召喚獣を喚べるほどの魔力はない。
水銀に唱えても“液体”のままだし。
天使たちは喚んでも応えてくれなかった・・・
「・・・はぁ・・・」
魔法や魔纏術を駆使すれば“この部屋”くらいなら
逃げることができるかもしれない。
でも、その先には空が・・・“庭の端”があるので。
後が続かない
魔力の無い魔女なんて、ただの無力な女の子だ。
「…そ、そうだわ!お茶…お茶を淹れてあげるわね!!」
「・・・」
彼らの対応からして・・・私の魔力がなくなったのは
作為的なモノだったのだろう。
だとすれば。その原因となった何かが、あった筈
けど、呪いの詩を唱えられたワケじゃないし。
アヤシイお薬飲まされた自覚もない。
だから。一番可能性が高いのは、
出された食事に毒を・・・
・・・い、言い訳をすると!
エルフが出す食べ物(お野菜や果物)は初めて見るものばかりで
毒や薬効の知識が無くて。
サリエルも反応してくれなかったんだよ!ホントだよ!!
(※私の知識に無ければサリエルもスルーしてしまう。こういう時は、“野生の勘”を持っているシュシュが頼り)
原因は。たぶん・・・
「…フォ、フォニアちゃん。そんなに落ち込まないで?フルートちゃんにも、そのうち会えるようになるから…ね?」
「・・・」
「き、今日は何しよっか?また何か、ご本を持ってきてあげようか…?」
「・・・ね。ドルチェお姉ちゃん」
「な、なぁに!?」
・・・“たぶん”というか。
ほぼ、間違いなく・・・
「・・・“お水”を頂戴・・・」
私の魔力は、
「え?えっと…お、お茶を!お茶を淹れて…」
彼女に管理されている・・・
「・・・コノお茶は飽きちゃった。ただのお水が欲しいの。・・・お願い。」
「………お水は用意が無くてね。私も水魔法は苦手で…」
「・・・それなら・・・唱えても。いい?」
・・・ま。
その原因が分かったところで
「…ダメよ。」
今の私に
「そんなワガママ。許すハズ…」
できるコトなんて・・・
「…ない。でしょ?
…いいから飲みなさい。魔女…」
・・・
・・
・
…
……
………
「…お嬢様。遅いなぁ…」
私の天使様は、
天に昇ってしまった…
「…じきに帰ってくるだろ。」
「お姉様。マイペースだからねぇ…」
毎日…日に何度も…い、1時間に1回くらいのペースで…
同じ言葉を呟き、空を見上げる私に、
ゲオルグ様とご令妹様は、視線を移すこともなく。
お勉強の続きをしながら呟いたのだった…
「で、でもぉ!さすがに遅すぎるんじゃ…」
お伽話には、知恵を授けてくれる
賢く優しいエルフが登場するけれど、現実の耳長は違う。
【森】という…どんなに豊かだったとしても。やはり限界がある…
箱庭で暮らす彼らは、自分たちの技や経験。そして“知識”を
“商売道具”にして。
欲しいモノと交換することによって、悠久の時を生きてきたのだ。
何を言いたいのかって言うと…要するに。
耳長は案外、“ちゃっかり”しているってこと。
今回も、無料で帰り道を聞き出せる可能性は低いと思っていたし、
お嬢様もそう考えていると伺っていたので。
数日のお泊りは有ると思っていた。
けど、まさかソレが
こんなにも長くなるなんて…
「…チビも付いてる。大丈夫だろ?」
「あ、あんなエロフが頼りになりますか!?」
「フルート君。信頼無いんだね…」
お嬢様には魔法があるし。召喚獣もいる。
よっぽどのことなんて起こらないとは思うけど…
「ね、ねぇ。シュシュちゃん!?何か…な、何か見えた?お嬢様の魔力は感じない?」
私と同じように…
ずっと、空を見上げているシュシュちゃんにたずねてみるけど…
「………にゃにも…」
答えは、
いっしょ…
「そ、そう…。ル、ルクスは!?」
テントの横で剣の手入れをしていた奴隷にたずねても…
「…さてね。」
いつも通りの
そっけない答えしか…
「も、もうっ!!あなたのご主人様でしょ!!少しは心配…」
心配しなさい!
そう言おうとした私に…
「心配。ねぇ…」
剣の手入れを続けながら…
「…まぁ。食いモノに釣られでもしない限り…大丈夫だろ?」
…なんてコトを!?
「お、お嬢様はそんな食い意地張ってません!!」
綴られし魔女様がそんなコト…
「…だと。いいがな…」




