Chapter 031_対策会議(本編)
「つまり…災害級魔物が出現したのは、その冒険者の責任なのだな?」
「その可能性が高いかと…」
「なら話は早い。ギルドで処理しろ。騎士団は関与せん。」
「なっ!?だ、団長様とて、ここがどういうギルドかご存知でしょう!?騎士団の協力が無ければ街の防衛は危ういですぞ!!」
「そ、それでは困ります!!そ、そもそも街の防衛は騎士団の…」
さてさて・・・オジサマ3人(騎士団長のお祖父様。ギルマスのロドルフさん。ロリコン市長。の3人)による論争は盛り上がっておりますが一向に活路は見出せません。
話の論点は“責任の所在”と“資金源”に終始し、3者はその擦り付け合いをしているだけ。
どこの世界でも、立場がある人のやる事は一緒だね・・・
「ふぁ~…」
「ちょ、ちょっとアベル。失礼だよ…」
「…ぐぉー『ゲシッ』ごふっ!な、なにが!?」
「…ジル。真面目に聞きなさい!」
意見を求められたわけでも無い私達冒険者5人にやれることなんて無い。ぶっちゃけ暇だ。
みんなの緊張感も限界。
私も・・・
「・・・んっく、んっく・・・もくもくもく・・・」
お茶飲んで、おかし食べるくらいしか、やること無いなぁ・・・
「ギルドの問題はギルドが処理する…それが設立当時からの取り決めであろう?」
「時と場合に因りましょうぞ!!現実を見て下さい!!」
「…では、騎士団を派遣したとして、その費用は誰が持つ?ギルドか?それとも…貴様か市長?」
「街の防衛はギルドの管轄外です!!」
「へ!?…い、いやいやいや!!そんな余裕この街には…」
この三本のベクトルに、交点なんてあるのかなぁ・・・
・・・
・・
・
「・・・ただいま帰りました。」
「おねーさまー!!おっ帰りぃ―!!」
夕方になって解放された私は、そのまま自宅に帰った。
「フォニアちゃん。お帰り。」
「おーかえりー!」
「・・・ただいまです。お母様。お父様。」
「お帰りなさいませぇ!お嬢様ぁ!…さ、お手とお着替えを…」
「・・・ん。・・・ロティア。ちょっといい?」
「はーい!…おねーさまっ、早くね!」
「・・・ん!」
ほとんど椅子に座っていたはずなのに・・・今日は疲れたなぁ。
早くご飯にしよーっと!
「ぶふっ…な、なんだと!?」
「…え?じゃ、じゃあフォニアちゃん…お義父様にご挨拶したの!?」
「・・・もっくん。」
「おじーさま?」
「・・・お父様“の”お父様の事よ。」
「おとーさま。の。おとーさま………」
夕食中の話題は今日の会議の事。
でも、結局何の成果も無かった会議本編の話はつまらないので割愛して、お祖父様にご挨拶したお話をした。
騎士団長が来る・・・ということは昨日のうちに伝えてあったけど、挨拶する・・・とは言ってなかったから、お父様もお母様も驚いたようだ。
「な、なんでまた…」
「・・・だって、それが礼儀だし・・・知らん顔は出来ない。」
「そ、それは…どうなんだろう…」
礼儀・・・とは言ったけど、実は私がやったことは、リブラリアの礼儀作法からするとかなりグレーだ。
リブラリアの礼儀作法では基本的に、目上の者が目下の相手に先に声をかけた場合に限り、挨拶を含め言葉を交わす事が許される。
会議や打ち合わせの場で挨拶を求められることなんてまず無いから、声をかけられない限り、議論の域を越えて言葉を交わす事なんてない。
だから今回の様に、私の方からお祖父様への挨拶をねじ込んだ事は無礼・・・と、言われれば、その通り。
けれど同時に、私とお祖父様は血の繋がった家族だ。
公式には家族じゃないけど、家族の境界線が曖昧であるが故、血の繋がった家族もまた、“非公式の”家族として認められる。
そして、家族間で交わされるドメスティックな話題には礼儀作法も何もない。
だから私がしたことは、伯爵様と農家の小娘・・・と考えれば無礼の極みだけど、祖父と孫娘・・・と考えれば礼儀作法の範疇外。
そんな訳で、私のしたことはかなりグレー。グレーだけど、黒じゃない。
もっとも、私個人からすればグレーも純白も黒の一部だけどね・・・
「お、親父は…何か言ってたか?」
まあ、一介の小娘が無礼かどうかなんてどうでもいい。
私が無礼だというのなら、無礼で結構だ。
大事なのはお祖父様と私・・・そして家族の事。
やっぱり、お父様は気になるのだろう・・・
「・・・ご挨拶の時は、私の事など知らないと仰っていました。」
「そ、そうか…」
「・・・でも。」
「でも…?」
お父様とお母様の顔を見つめてから・・・
「・・・会議の後。お祖父様から声をかけられました。」
「「えっ!?」」
・
・・
・・・
「…小娘。言われた事だけ答えろ。いいな?」
それは会議が終わった後の事だった。
熱い議論を交わす3人の重鎮をしり目にパクパクおやつを貪る私が面白かったのか・・・メイドさん達が止めどなくお茶とおやつのお代わりを用意してくれるものだから、私の周りにはお菓子やフルーツが沢山並んでいた。
捨てるのはもったいないと思い、会議が終わった後も帰る人たちを他所に1人で残りを食べていたら・・・隣にやって来たお祖父様から、声をかけられたのだった。
「・・・ふぁい?」
「…食ってからにしろ。」
「・・・んっく、んっく・・・はい。」
お茶でお菓子を流し込み、返事をすると・・・
「…写し紙を作れるな?」
写し紙・・・というのはトレーシングペーパーの事。
トレーシングペーパーはあの後、エマール商会から販売され続けている。
もともとトレーシングペーパーは需要に対して森羅様の供給量が物凄く少なかったため常に品薄状態だった。だから、無名の術者の作・・・とはいえ、私のトレーシングペーパーは飛ぶように売れ、今ではエマール商会の目玉商品の1つになっている。
・・・でも、私が目立ちたくなかった事と、供給元を知られたくないエマール商会の利害が一致して、作者非公開のはずなんだけど・・・
「・・・はい。でもn」「よし。ついて来い。」
ちょっ!?
私の言葉を無視して、お祖父様は踵を返してツカツカと応接室の出口へ向かってしまった。
「・・・う?うぅ?」
キョドっていると・・・
「フ、フォニアちゃん!急いで団長に付いていくんだ!!」
その様子を見ていた二コラさん・・・この街の衛兵隊長で立場は分隊長。位は騎士。最近生れた娘さんにぞっこんラブの優しいお父さん。朝練の厩でほぼ毎日会う顔見知り・・・が駆け寄ってきて、そう耳打ちしてくれた。
しかし・・・
「さっさと来んか馬鹿者!!」
「ひゃいっ!!」
二コラさんに忠告を受けた直後、くるっと振り返ったお祖父様に怒鳴られちゃった!!
思わず返事をしてしまった私は椅子から飛び降り、素直にその背中を追いかける事にした。
「…ったく。」
「・・・ごめんなs」
「黙って歩け!!」
「っ・・・」
怖いっ!怖いよぉ!!
恐怖に慄きながら鬼の様な形相のお祖父様と、済まなそうな顔の二コラさんに挟まれ歩き・・・
「・・・兵舎?」
「…」
何故か街の兵舎に連行され・・・
「…いいか。これからわしが書く手紙を複写しろ。26枚だ。」
「・・・う?なz」
「黙れ。」
「・・・」
「『理の願い』バージンリーフ。………………」
執務室でお祖父様が手紙を書く姿をじっと見て・・・
「…ま、こんなものか。…ほれ。」
「・・・う?」
お祖父様が書いた、領内に散らばっている騎兵隊を呼び集める命令書を見せられ・・・
「…さっさと仕事に取り掛からんか!!」
「・・・う!?こ『理の願い』バージンリーフ!!・・・・・・・・・・・・」
た、たぶんこの命令書と同じものを26枚用意しろ・・・という意味なんだろうと解した私は、とりあえずトレーシングペーパーを生み出し、お祖父様の手紙を下敷きに写し取り・・・
「・・・こ『理の願い』バージンリーフ」
表面が真っ黒で裏が白い、お祖父様の手紙と同じ大きさの製紙を用意・・・したところで
「ちょっとまて。」
お声がかかった。




