Chapter 030_対策会議
突然だけど私の家族の話をしようと思う。
なんでそんな話をするのかというと・・・今日、この後始まる対策会議に・・・というか、対策会議の参加者に関係があるからだ。
知っての通り、私には、染色体を分け与えてくれた両親がいる。
テオドールお父様と、チェルシーお母様だ。
それと、塩基配列の適合率がリブラリアで一番高い第一親等・・・つまり姉妹の、ロティアがいる。この3人は間違いなく家族・・・それも、血の繋がった家族だ。
あとデシさんがいるよね。デシさんは私の“血の繋がらない”家族だ。
デシさんは我が家のお手伝いさんで、まごうこと無き家族なんだけど・・・別に大したことじゃないから今まで言ってなかったんだけど、デシさんの身分は“お母様が所有する奴隷”であり、彼女は獣人だ。
詳しくは知らないけど・・・お母様が子供の頃は乳母・・・というか、ベビーシッターさんみたいな存在だったらしく、実家を出ていくときに連れてきて、そのままずっとお母様に仕えているらしい。
他の世界がどうかは知らないけど、リブラリアにおいて庶民が奴隷を所有しているのは普通の事であり、特に(農家を含めた)肉体労働の現場では、よき労働力(人間より体力があって頑強。けれど種族として魔法を行使できないから、命令しやすい)として奴隷が多用されている。
この街にだって沢山いるし、冒険者が戦力として・・・あるいは荷物持ちとして・・・連れている事もよくある。
ま、この話は今日の主題じゃないからこれくらいにして・・・
大事なのは、リブラリアでは“血の繋がり”が家族の条件ではない・・・という事。
もちろん血の繋がった家族は大事だし、お母様もお父様も私の事を自分の娘だから・・・と言って愛してくれる。
でも、血の繋がりがなかったとしても、大事で身近な、かけがえのない存在であるならば・・・この世界の人々はその相手を家族と呼び、家族と思い、家族として大事にする。そして、周りの人もそう判断する。
異世界では“家族みたいな存在”なんて曖昧な表現をしなきゃいけない相手も、この世界では紛れもない家族になれる。
プラトニックな“思い”の方がDNAの“コード”より公私ともに重要視されている・・・それがリブラリアという世界だ。
・・・もっとも、世界中の誰もが・・・という訳じゃないけどね。
一見いい事のように聞こえるこの考え方。実際、いい側面も沢山あるけど・・・悪い側面があるのも事実だ。
まず、家族の境界が曖昧になっているせいで重婚や同性婚・・・近縁結婚・・・ぶっちゃけ近親相姦も多い。
特に小規模な集落や、人里離れた奥地に行くと血縁関係が訳分からない事になっているらしい。もっとも、それは異世界島国だって似たようなものだけど・・・人間は純情じゃいられないんだよ。きっと。
ま、それに関しては・・・私は別に、悪い事だなんて思ってないけどね・・・
それと捨て子も多い。
魔法の実力で評価されるこの世界・・・目蓋を開いた瞬間、捨てられてしまう子供だっている。
この国は戸籍制度がしっかりしているから、一度捨てられて戸籍を失うと仕事に就けないし、行き場も失ってしまうので・・・やり直すのはとても難しくなる。
この世界は、これでなかなか厳しいのだ。
・・・そう。あえてはっきり言っておくけど・・・私だって治癒術師なんてやっているから、そういう人を見てきたよ。
それも沢山・・・
たまに、中途半端に慈悲深い人が治癒費払えないのに連れて来ちゃうんだよね・・・
家族の境界線が曖昧という事は、たとえ血が繋がっていたとしても「家族ではない」と考え、簡単に切り捨てる事もできるのだ。
それが・・・綴られし世界の現実。
リブラリアにおいて捨てられる子供の多くは・・・・貴族か、冒険者を親に持つ。
たとえば・・・そう。私のお父様とか・・・
「・・・初めまして。ベルトラン・コント・ピアニシモお祖父様。あなたの息子・・・テオドールの娘のフォニアです。・・・お会いできて光栄に存じます。ご機嫌麗しゅうございますか?」
お父様の旧姓は【ピアニシモ】
数百年前から代々、ここノワイエ領の騎士団長を務める名門中の名門・・・伯爵位の貴族だ。
お父様が廃嫡された理由は・・・色々あったみたいだけど・・・主な原因は、お父様の生まれつきの魔力がとても少なかったためらしい。
リブラリアで成り上がるには、絶対に魔法の才能が必要だ。
ありとあらゆる場面で魔法行使が求められ、それに応えられる人がシビアに選ばれていく。
それは・・・私自身が一番、感じてきた事だ。
でも、だからと言って・・・
子供を捨てるなんて、私は許せない。
許さないよ。
だから現状、お祖父様は私の敵だ。
お父様のお祖父様に対する評価は 最低最悪、鬼畜、冷酷、無慈悲。
騎士団顧問でお祖父様をよく知るロジェス様の評価は 絶対強者、慧眼の将、冷酷、無慈悲。
お茶会や社交界でお祖父様と会ったことのあるレジーナ様の評価は 無表情、無口、冷酷、無慈悲。
お母様は会ったことが無いから評価できない・・・
・・・散々だね。
「…」
「・・・」
市長とこの街の衛兵隊とギルド関係者と東門の4人と私を交えたアラクネ対策会議の直前。
応接室に時間ギリギリにやって来て、席にドカッっと座ったお祖父様に歩み寄り挨拶をした私を、お祖父様は静かに見下ろしていた・・・
周りの人はちょっと驚いているみたいで、みんな無言。
ま、つい先日7歳になったばかりの農家の小娘が、いきなり伯爵さまの前に立って“祖父”なんて呼んだら誰だって驚くよね・・・
「…お前のような小娘。知るか。」
「・・・いいえ。ご存じのはずです。ロジェス・シェバリエ・ラングレ様がお祖父様宛のお手紙に確かに書いたと仰っておりました。」
「…覚えとらんな。」
「・・・では、今覚えて下さい。私の顔を。私の名を。」
「…おい!誰だ?こんな無礼な小娘を連れてきた奴は!」
「ベ、ベルトラン様!その子は…」
小さなボレーを入れてくれたのはこの街の市長様。
イレーヌは散々愚痴ってたけど、胃痛の治癒に出張した私にはお菓子をくれた。でっぷりしたおっさん。
私には結構優しい。ロリコンなのかもしれない・・・
とはいえ、市長さんは別に悪い人じゃない。ちょっと特殊な趣味を持っている(かもしれない)だけだ。それは構わない。
けど今は、正直言えばお祖父様との初対面の邪魔をしないで欲しい。
だからここは、無視して言葉を続ける・・・
「・・・私はこの街で活動している3級冒険者であり、同時にヒナ教会のセコンドでもあります。ここいるのは呼ばれたからであり、ここには自分の足できました。失礼があったとは思っていませんが・・・もしお気に障ったのなら申し訳ございません。」
「小娘の分ざ…」
「では、席に戻らせていただきますね。・・・お祖父様っ。」
「っ…」
突然始まったドメスティックなドラマに凍り付く応接室。
私はみんなの視線を感じつつも、あくまでも冷静に歩を進め・・・
「・・・」
自分の席に、たっぷり時間をかけて・・・さも余裕があるように・・・
・・・座った。
・・・も、もう・・・いいよね?
ちょっとくらい油断しても・・・
「・・・ふぅ。」
やっ・・・た!!!
やったぞっ!
あぁ~・・・・・・緊張したぁっ!!
お祖父様超怖い!!眼光鋭すぎ!!蛇に睨まれた蛙とは私の事・・・
ジャイアントタランテラの方がまだ可愛かったよ・・・や、蜘蛛はかわいくなかったけど・・・
「フ、フォニアちゃん!今の…」
「マジ!?」
「…驚いたな。」
「ねぇ、ほんとに?…お孫さん?」
「・・・ん。じつはn」「おいうるさいぞ!さっさと始めんか!」
「・・・ごめんなさーい。」
公式には、お祖父様と私の関係は赤の他人・・・という事になる。
けど、私はそんな事認めない。
いつか絶対に、お祖父様に私が孫だと・・・テオドールお父様の娘であると認めさせてやる!
それが私の次なる野望・・・の、1つだ!!




