Chapter 005_キャラバンの危機
「・・・シュシュ。どうして?」
砂漠越え4日目
「に…。そ、その。えぇと…」
先行していたシュシュが戻って来たと思ったら、
目の前の砂丘を大きく迂回してほしいと言い出した
「何か…砂嵐かい?お耳ちゃん。」
「に…ち、違い。ます…」
「…魔物か?」
「そ、それも。ありますケド…」
「・・・う?私達じゃ、勝てないほどの魔物・・・とか?」
「そ、そんなこと無いです。シュシュひとりじゃ無理ですが、力を合わせれば…」
「・・・それなら・・・」
「で、でも…」
「・・・うぅ???」
シュシュにしては歯切れの悪いその様子に違和感を覚えた私は、
「・・・なにか・・・他の問題があるの?」
ちょっとだけ彼女を追求してしまった。
「っ…そ、その…」
そのせいで、
あんなオモイをするコトになるなんて・・・
「主人に秘密を作るなんて…許されませんよ!」
ローズさんに言われたシュシュは
「に…」
下を向き
耳を伏せ
尻尾を地に付け・・・
「正直に答えなさい!あの丘の向こうに、何があるの?」
「…」
沈黙の後・・・
「・・・」
黙って見ていた私の顔をチラッと見て。
「っ…………す…」
コートの袖をキュッと握り・・・
「………砂狐族のキャラバンが…襲われてる。です…」
となえた・・・
・・・
・・
・
「・・・ルクス。お願い。」
「ヤレ、ヤレ…だ。」
「・・・フルートはみんなを守ってあげて!」
「よ、よし!エウロス!嵐の壁だ!!」「あぁ!」
「・・・私は治癒を・・・」
「ロード!お手伝いします!」「ロード!微力ながら私、ウリエルも…」
『ルルゥ!!』「わ、私もお手伝いします、お嬢様!!」
「・・・みんなお願い!」
「「「「「願われた!!」」」」」
丘の向こうでは子供も含む十数人の獣人達・・・砂狐族の・・・が、
ライオンとヤギとヘビの頭をもつ、ワケ分かんない巨大な魔物に襲われていた
「まさかっ!?伝承にあるキメラか!?だとしたら厄介だぞ!…小僧!オレも手伝ってやる」
「ちっ…勝手にしろっ!」
「がっ、頑張れゲオ様!!」
そばには小さなオアシスがあり。
テントを含む荷物の残骸が散らばっているから・・・
砂狐族のみんなは、ここでキャンプをしていたとき
あの魔物に襲われたのだろう・・・
『メ゛エェ〜ッ!!』
「よ、避けろ小僧!!」
「は?…っんなぁ!?」
『ドガァァァーーーンッッ!!!』
「大丈夫か!?」
「かぁ~っ…ちいぃっ!…か、火球だと!?」
「伝承通りなら…ヤギの頭は魔術を!ヘビの頭は毒液を吐く!獅子の牙も要注意だ!!」
「くっそっ!…どっかの魔女並にめんどくせーなぁ!!」
「黙って動け!厄介なヤギからヤるぞ!!」
「命令すんなオッサン!!」
特級戦力のルクスとゲオルグ様を翻弄するほどの相手・・・
「に、にんげ…」
「・・・いま、治してあげるからね!」
「…ロード。重症者も多いです。お早く…」
「てっ!?、てん…し…?」
「・・・ん!・・・すー・・・」
砂狐のみんなは・・・抵抗したのだろうけど・・・自分達と同等の素早さを持ちながら、魔術と毒まで操る強力な魔物に為す術もなかったようだ
全員が傷つき、逃げ惑い、倒れ伏し
事切れているひとも少なく無かった。
治癒をするなら、早くしないと!
魔物は、2人が何とかしてくれる
「・・・ジェントリーフェザー!!」
「熾天使!早くその患者を側に連れてきなさい!!ロードに余計な負担をかけるな!!」
「や、やってるだろう!?」
『ルゥー!』
「ヘビ!お前も遅いぞ!!」
『ルルゥ〜ウー!!』
「わ、私は何を…」
「侍女長殿は治った者を濡れたタオルで拭いてやって下さい!感染症予防になります!」
「は、はい!」
「テ、テーも…」
「…ティシア様は私と一緒に。皆様をタオルで拭いてあげてください!」
「う、うん!…やるよ!」
「エウロス!コッチはもう、大丈夫そうだから…小僧達を手伝ってやろう!戦いの余波が尻尾の仲間に飛ばないように、嵐の壁を維持しながらね!」
「よし!」
仲間のみんなは、
それぞれできることをしてくれた
「み…」
ただひとり・・・シュシュを除いて。
「…」
いつも側にいるシュシュが、
今は離れた場所でコチラを伺っていた
あの優しいシュシュが危機だというのに、近づこうとしないのだから・・・
きっと、“それほど”の仕打ちを受けてきたのだろう。
シュシュを追い込んだ彼らに“思うところ”が有るのは確かだ。
でも・・・
「き、傷が…」
「痛く…にゃ、にゃい!?」
「しゅ、しゅごいにゃ…」
傷付いた彼らを見捨てる事なんて、
できない
「に、人間に…た、助け。られ。て……」
「しまった………」
今はただ、自分の信念に従おうと思う
ひとりでも多く。1秒でも、長く・・・
・・・
・・
・
「みなさーん!お食事の用意が整いましたよー!!」
大人3人
老人2人
子供8人
「「「「「…」」」」」
ソレが、残された砂狐族の全てだった・・・
「え、えぇとぉ…」
「・・・フルート。貴方が呼びかけてみて。エルフである貴方なら・・・」
「う、うん!そうだね…ほ、ほら!尻尾の仲間たち!見ての通り、ぼくはエルフさ!き、君達の安全は、風の(ウィンド)エルフであるぼく…フルート・フィロソファー・ウィンド・ファインが保証するよ!ほら、お腹空いただろう?ご飯にしよう!」
「「「「「…」」」」」
子供が多いのは・・・
大人の砂狐達が囮になったのが理由のようだ。
「安心して!変な薬なんて…ほ、ほら!モグモグ…うんっ!さすがローズちゃんとゲオ君!!いつも通り美味しいね!!…ね?ぼくが食べても大丈夫だろう!?」
「「「「「…」」」」」
先程遭遇した【キメラ】という魔物はこの砂漠最強の魔物の一端で、
残忍かつ執拗。
万が一にも襲われれば・・・エルフだとしても・・・キャラバンの全滅と
引き換えに、数人を逃がすのが精一杯なほど・・・強力な魔物だったそうだ。
救いは個体数が極めて少ない・・・というか。恐らく1頭しか存在しない事。
目撃例は・・・エルフの記録でも・・・片手で数えるホドだという。
『グゥ~…』
「ゴクッ…」
「お、お腹…へった。ね…」
「食べて…い、いぃ。の…?」
「もちろんさ!」
リブラリアの魔物は“ヘン”なモノが多いけど・・・
それにしたって、3つの生き物が“いい感じ”にミックスされたあの魔物は異常だ。
3人が倒してくれた個体を確認したけど・・・
3つの生き物は各々個体として独立しながらも融合しており、解釈次第で3体としても。個体としてもみることができる“都合のよい”存在であった。
内蔵の配置も合理的。
そしてアレには生殖能力が無かった。
“生物”と呼ぶにはあまりにも・・・不自然。
セプテンアルケーの蜘蛛姫様が、もし、
あの技を極めていれば、きっと。ココにたどり着く・・・
・・・そんな風に。思えた。
ま。ヒュドラだって(もっとも、ヒュドラは“精霊”であって“生物”じゃ無い。)
似たようなモノだし、
リブラリアは不思議でいっぱいだから・・・
「…や、止めなさい!」
考え過ぎかも。
しれないケドね・・・
「…エ、エルフ様!危ないところを助けて下さり。ありがとうございました!」
「お礼を言うなら。ぼくじゃな…」
「ですが!…ニ、ニンゲンは…いけません。」
「…」
「わ、私達を…ど、奴隷に?」
・・・ま。
魔物のことは、とりあえず
終わった事だから一端置いておこう。
それより今は・・・
「私達…つ、捕まっちゃう…の?」
「そんにゃ…」
「お、お父さんが…お母さんが。…に、にっ…逃してくれた…にょにっ?」
「そ、そんなワケ無いだろう!?」
「では、何故助けたのですか!?」
「あ、あの小さなニンゲンの子供が唱えた…ま、魔法。アレは…ち、治癒魔法………です。よね?」
「そ、そんな魔法で治されても!私たちに返せる物なんて。何も…」
・・・この、怯えきった人たちと
どう向き合うかを考えないといけない。
そして・・・
「まさか…ア、アノ忌み子が案内したのですか!?」
「イミコ…?」
「アノ!コチラを伺っている…し、白毛で“ふたつ目”の、呪われた子供の事です!」
「に…」
「・・・」
・・・決着。
つけなくちゃね・・・




