Chapter 003_ロワノワール
『ブシュルルルゥ…』
「・・・でた」
唱えれば、現れる。
「お馬さんだぁ!!」
「さすがご主人様です!!」「さすがお嬢様です!!」
ソレがリブラリアの理だ
「はぁ!?…え!?うぇ!?なんでぇ!!??」
「…チビ、諦めろ。アイツは“あぁいう”ヤツだ」
『ヒュブ…』
「・・・んふふふっ。これからよろしくね。」
『ヒュハッ!』
唱えた通りとは
このことか・・・
「いやいやいや!待ってよオカシイよ!フォニアにエルフの血が流れてるっていうのは聞いたけど…でも!それって何百年も前の話だろう!?楓魔法は純血の…い、一世代でも他の血が交じれば、宿せないハズなのに!?」
「・・・ソレが間違えだと、今、証明された」
「そんなっ!?そんなはずは…エ、エルフ5万年の歴史は…?」
魔法印から現れたのは、フルートのお馬より更に大きな・・・大人5人くらい乗れそうな・・・黒毛に黒い大きな瞳。長い睫毛の
屈強なお馬さんだった
ちょっと威圧感があるかもだけど・・・
『ブヒュルルルゥ…』
「ひやんっ!?・・・く、くすぐったいよぉ・・・」
『ヒュブブブ…』
「・・・も、もぉ・・・よし、よし・・・」
『ヒユ…』
ソレは見た目だけで。
中身はふつーの甘えんぼさん
「デカいな…」
「そ、そんな…ぼくのエオリカだって。他の”仲間の”に比べて、ずっと大きいのに…」
『ブフ…』
「ま、負けてなんか…負けてなんかいないぞ!エオリカ!」
『ヒュブ…ヒュブブ…』
「………エオリカ。ぼくには“気配り”をしてくれないのかい?」
「にゅふふふっ!お馬さんの仰る通りです!!」
「(泣)…」
「・・・?」
『撫でて』と首を下げたお馬さんをナデナデしている横で
みんなはワイワイと賑わっていた。
新しい・・・見るからに頼もしい仲間に
興奮しているのだろう!
「“エルフだけ”と言われていた伝説の楓魔法までお宿しになるとは!流石は“万象”の魔女様です!!」
「・・・ありがと」
なかでも、ローズさんは特に喜び
パチパチと手を叩き讃えてくれている
「ご主人様に不可能はありませんです!」
「・・・ふ、不可能はあるケドね・・・」
シュシュはドヤ顔
「ふわぁ…おっきいねぇ…」
「…帝国の戦車馬、3頭分くらいはありそうだな…」
「…せんしゃば?」
「戦車馬というのは戦車を曳く馬のことで…」
「せんしゃ?」
「戦車というのは…」
お馬を見上げるティシアはゲオルグ様とお勉強中
そして・・・
「…で、でも!どうして人間のフォニアが楓魔法を…?」
「…アイツにエルフの血が混じっているからだろ?」
「いや!さっきも言ったけど…たとえ“ハーフ”でも楓魔法は宿せないと言われているんだ!世代を重ねたフォニアが。なんて………なんでぇ?」
「…なら、瞳のせいだろ。」
「ソレを言われちゃうと。もう…」
魔術師の2人は仲良く魔法談義・・・と、
「・・・ね、フルート・・・?」
そうだ!
「…う、うん?なんだいフォニア…?」
すっかりウッカリちゃっかり忘れていたけれど・・・
「・・・楓魔法を教えてもらっちゃったの・・・いけなかった?」
楓魔法はエルフが“公式”に秘匿している。
ソレを意図せず・・・ちょ、ちょっとだけ意図的に・・・
とっちゃ・・・じゃなくて!“教えてもらった!”のは
マズかったかも・・・?
「………他のエルフの前では唱えないでね……」
フルートは・・・震えていた
「・・・ん、んぅ!約束する!!」
エルフは掟に厳しい種族だと聞く。
「・・・ね。フルート。」
バレたらきっと、
何かしらの罰が・・・
「な、なんだい…?」
・・・それなら。
「・・・他にも楓魔法・・・知ってる。よね?」
「えぇぇっ!?」
罪を犯すなら徹底的に
“ひとつ”も“全部”も同じコト
「…度し難いな。」
ルクスはこんなコト言ってるけど・・・
「・・・んふふふっ!」
わたし、魔女なもので!
・・・
・・
・
『ヒュブブブゥ…』
「・・・う?名前?」
結局、
フルートは他の楓魔法を教えてくれなかった。
だから、今夜。“彼が好きな服”に着替えて迫ろうと決意した私が
瞳をお馬さんに戻すと・・・
『ヒュハッ!』
待ってましたと言わんばかりに
先ほどの言葉を投げかけられたのだった
「あぁ…名前をくれって。せがまれたんだね?」
私の言葉に反応したのはフルート
「・・・ん。」
「精霊馬…スレイプニル…は、宿主が現れると、必ず名前を欲するんだよ。…もしかしたら、ソレが“契約”なのかもしれないね」
「・・・なるほど・・・」
【駿馬魔法】というのだから、“スレイプニル”と呼べばいいかと思っていたけど・・・
種族名が“スレイプニル”で。固有名は無い・・・とか。
そんな感じなのだろう・・・
『ヒュブルルルゥ…』
「・・・そうなんだ・・・」
『ヒュブ。ヒュルブフフ…ヒュブルッフ!』
「・・・なるほど。」
ヒュドラやツィーアン&ツィーウー。天使達とも、
炎舞蝶とも、木魔法とも、違う・・・ということか。
「・・・教えてくれてありがと。」
『ヒュハッ!』
勉強になるなぁ・・・
・・・で。
「・・・名前だけど・・・」
『ブフッ、ブフッ!』
話を戻すと、お馬さんは興奮した様子で『トフッ、トフッ!』と、足踏みを始めた
よほど嬉しいらしい・・・
「ねー、お姉様!このお馬さん。男の子?女の子?」
名付けに興味津々のティシアが無邪気な笑顔で聞いてきた。
「・・・男の子よ。歳は・・・」
『ヒュフゥ?』
「・・・う?」
『ヒュブ…ブヒュルル…』
「・・・ふ、ふーん・・・」
「…う?ねさm…お、お姉様?」
「・・・えっと。この子は・・・」
お馬さんの説明によると・・・
【駿馬魔法】で喚び出す精霊馬は初行使の瞬間、
術者の魔力で“生み出された”新しい精霊なんだそうだ。
だから、強いて年齢を言うなら・・・“ゼロ歳”
というコトになる。
子鹿タイムが無い。生まれた瞬間、屈強なお馬さんが
哺乳類であるハズが無かった
「ふ〜ん…“せーれーば”って、凄いんだね!」
そのコトをティシアに説明すると、そんな感想が帰ってきた
「・・・ほんとね。」
誰かの唄で生みだされるなんて・・・
ティシアが言う通り“凄い”存在である。
“命”とは何か? なんて、哲学的な事。
考えるだけ無駄である。
『ブフフゥ…』
「にゅふふふっ!ご主人様に名付けてもらったのはシュシュの方が先ですよ!シュシュの方がセンパイ…“お姉さん”なのです!」
『ブフゥ…』
このお馬さんは私が喚んだ存在だ。
私が“生んだ”と言っていい
“生まれた”のだから、“生きている”というコト。
こんなにイキイキと喋るモノが、生きていないハズがない。
“生”という言葉の意味なんてどーでもよくて。
重要なのは、私が彼を“生きている”とおもぅ・・・
「・・・」
・・・あ。そっか、、、
「…うん?どうしたフォニ(ゲオルグ様は最近。私の事をコウ呼ぶ。)?」
「・・・ん、んぅーん。なんでも。ないの・・・」
ゲオルグ様とエスプレシーボ様のことも・・・
「そうか…?」
「・・・・・・ん。」
・・・そっか。
コレが理か・・・
「・・・お馬さ・・・駿馬。貴方の名前は
【ロワノワール】よ。」
『ブフッ…』
私が彼に向き直り、名を告げると
ロワノワールは居住まいを正し。まっすぐ私を見つめた。
「ロワノワール…“黒い王”ですか。ぴったりですね…」
「かっこいいです!」
でしょ?
ひと目見た瞬間。思い付いたの!
決して、
世紀末覇者のお馬様にインスパイアされたワケじゃないよ
「ロ、ロワノあ…う?」
「ロワノワール…愛称はロワール…いっそ、ローでいいんじゃないか?」
「ローちゃん!」
早速、派手に略され。“ちゃん”付けまでされるロワノワール
カワイソス・・・・
わ、私は本名で呼んであげるからね!!
「大層な名前…と、言いたいところだけど。この容姿じゃあ。ね…」
「…王の背に乗る魔女…か。ふっ…、お前にぴったりだな。」
「・・・んふふっ!そうでしょ。」
2人の嫌味(?)も
ナンノその!
「・・・ロワノワール。これから、長い付き合いになると思うし。無茶もお願いすることになるかもだけど・・・どうか。よろしくね。」
ロワノワールの両頬に手を当て
そう言うと・・・
『ブフッ!ブヒュルルルゥッ!!』
ロワノワールは、
大きく嘶いたのだった!!
そんなワケで!
新章も始まり、さっそく新しい仲間の登場です!!
逞しいお馬様
ロワノワール君(♂)ですっ!!
・・・よろしくねっ!




