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Chapter 017_右手に生を 左手に死を

「何故そんなことをしたっ!?」

「・・・ナゼ・・・ソコに助かる命があったからです。」

「その為に、ヒトの体を接ぎ木のように移し替えたというのかっ!」

「っ・・・そっ、そんなツモリは!!」

「エスに…エスに頼まれでもしたのかっ!?」

「・・・わ、私が到着した時。エスプレシーボ様はすでに・・・し、“死亡”していました。あの方の希望ではありません。私の・・・独断です。」

「なっ…な、亡骸に手を伸ばしたというのか!?ふざけるなっ!!」


私が4人の元に付いた時


既に全員が心肺停止状態だった。

けど・・・



「・・・しょ、所見でエスプレシーボ様は外傷が無かったので違和感を感じました。そして・・・」

「まてっ!外傷が…ない?魔物の攻撃を受けたんじゃないのか!?」



3つの焼け焦げた亡骸と、

その1つに覆いかぶさるエスプレシーボ様・・・


雷撃を受けたにしては“キレイすぎる”その姿に、私ははじめ

彼女はひとり魔物の攻撃を逃れ。生きているのだと思った




「・・・エスプレシーボ様が亡くなられた原因は。その・・・“魔物の攻撃”では、ありません。」

「なっ!?で、では!エスはなぜ…」

「・・・え、と・・・・・・」


エスプレシーボ様の心臓が“止まった”理由

それは・・・



「原因は…!?」


・・・



「・・・その・・・わ、分かりま・・・せん。」


・・・たぶん。

これが最適解・・・だよね?


エスプレシーボ様・・・



「分からない…だと!?治癒魔法で診断したんじゃないのか!?」

「・・・そ、その・・・じ、時間が経っていたため。詳しい事は分からずじまいで・・・」

「じゃあ、どうやって!?その…う、”移し替えた”というんだっ!?」


・・・エスプレシーボ様を診断できなかった・・・というのは、嘘だけど。

でも、



「・・・胸を開いて・・・直接。」


コレは、ホントの事・・・



「んなっ!?」


土魔法で密閉室を作って

火・水・風魔法のコンボで無菌状態にして

金属魔法で極限まで鋭利にしたナイフを手に

サリエルとウリエルとヒュドラに助手をお願いして


持てる知識の全てを使って・・・



「なぜ…」

「・・・なぜ?ソコに助かる命があったからです」


・・・移植を。



「そ、そこまで…」

「・・・ち、治癒魔法だけが治癒術ではありません!時には外科処置も・・・」


リブラリアには治癒魔法があるけど、そもそも宿しているヒトが多くないから薬や包帯もあるし。骨折したり、棘が刺さった時に外科的な処置をする時もある。


当然、治癒術師もそれらの処置を学び、知っている。


【治癒魔法】は治癒術の技の1つに過ぎず、

投薬処置や外科処置・・・異世界と同じような“医療”・・・もまた。治癒術の一環なのだ。



「だ、だからって…し、心臓を。え、抉り出したというのか…」

「・・・・・・え、えぐ・・・ま、まぁ。そう・・・です。ね・・・」


外科処置は治癒術のいっかん・・・


・・・そうは言っても。

リブラリアにおいて【内臓移植】は未知の領域


臓器がどういう働きをしているか?についてはある程度知られているから

移植の可能性に気付いたヒトはいるだろう。


けど・・・実際にやったヒトは

“まったく居ない”か、“少ない“に違いない

恵賜魔法(ギブ&テイク)を宿していたという、今は亡き魔術師様を除いて

成功例は・・・・ナイと。思う・・・



「…」


ゲオルグ様は無言だけど。

要するに、こう言いたいのだ「コイツ。マジやべぇ…」



「・・・」


エスプレシーボ様はその時、“呪いに由る死”という特殊な状態にあった。

原因が“呪い”であるが故か・・・根拠は判然としないけど・・・その身体は治癒魔法を受け付けてくれたから診断できたのだ。


けれど、その呪い(呪いは未知の魔術で綴られていたものの、綴られている言語が(かえで)語(エルフの独自言語)だったため解読できた。とはいえ、時間が無くて焦っていたし、ところどころ伏せ字(?)もあって全部読むには時間がかかりそうだったから、解除方法“だけ”調べて。あとは読み飛ばしちゃったんだよね・・・)・・・


呪い自体は。

エスプレシーボ様の“書”に綴られた“先天性の呪い”だったから

解呪はできない。


でも、死亡条件さえ“崩せ”ば、その可能性が・・・あった



一方のゲオルグ様は損傷が激しくて・・・

治癒魔法は“生物”以外を対象にできないから行使できなかった。


そして同時に、誰の目にも明らかなほど。

“有機物”として一刻の猶予もなかった。



限られた時間の中で私が思いついたのが・・・“直接的な”移植だった。



「オレは…エスを奪ったのか?」

「・・・それは違います!」

「…?」


もちろん。こんな事をやったのは初めてだ。

イレーヌやベルナデット様から外科処置の手技をいろいろ教えてもらい、

解剖に立ち会った事もあったけど・・・

便利な治癒魔法のおかげで出番が無かった。


人生初の外科手術がイキナリ心臓移植だなんて・・・


・・・これ。なんて無理ゲー?



もっとも、

いちど蘇生できちゃえば。後は魔法でドウとでもなる・・・

という事が分かっていたし。


実際。その通りだったんだけどね・・・



「・・・私が到着した時。エスプレシーボ様の心臓は既に止まっていました。けれど、ゲオルグ様に移し替えた途端、鼓動を始めました。・・・ゲオルグ様の体に入ったからこそ。エスプレシーボ様も蘇った・・・ゲオルグ様が生きている限りエスプレシーボ様もまた、生きていると言えるのではないでしょうか・・・?」


ゲオルグ様の体を蘇生しないとエスプレシーボ様の呪いが解けないのに、

エスプレシーボ様が動いてくれないとゲオルグ様に魔法を行使できない・・・


リブラリアの魔法は便利だけど、“何でもできる”というほど便利じゃない。


だから私は魔法じゃなくて。

物理的に心臓を移植して


開胸した状態で・・・心臓を“直接”マッサージした


色々足りないゲオルグ様の体に無理やり心臓を継ぎ接ぎして血液を流した“アレ”を

“蘇生”と呼んでいいかは、分からないけど・・・


・・・でも。

エスプレシーボ様の心臓は、それを“ゲオルグ様の生”だと認識してくれた。


その瞬間を見計らって治癒魔法で2人の体を一気に“書換え”た

2人の心と体は“1つ”であると・・・


祈りを込めて



「エスが…生きている?こ、この体の中で…」

「・・・ゲオルグ様もエスプレシーボ様も…どちらが欠けても、今はありません。」

「…」





・・・あの大手術を終えた 今なら。

移植なんて無茶をしなくてもエスプレシーボ様の呪いを“書換え”て。彼女を救うことが“できた”と思う。


私はずっと、

【書換魔法】の効果を勘違いしていた。


この魔法は“書直す”魔法じゃなくて

文字通り“書換える”魔法だったのだ。



対象の身に綴られた痕を“今のページ”で・・・時間経過による成長や老化といった本人の変化を相互矛盾が無いように最適化して・・・“書換える”


“治す”ための“摺合せ”・・・付随効果だと思っていた、この“最適化”こそ

書換魔法の真髄だったのだ。


だから別々の身体であったゲオルグ様の身体にエスプレシーボ様の心臓を置き換えることができたし、血液型も成長過程も種族すら違う2人の身体をゼロミスマッチで融合することができたのだ。



もし、あの時に戻れるのなら・・・

エスプレシーボ様の呪い“そのもの”を消すことができなくても、

彼女が生きていても矛盾が無いように


“書換える”事ならできたハズ・・・



「エス…こ、ここに。いるのか…?」


・・・でも。もし、

それをやっていたら。ゲオルグ様は・・・



「エスッ…っ…」

「・・・・・・」


私がやったことは、

倫理的に“正しくない”事だろう。


本人たちの承諾を得ずに“死”を奪い。

理を捻じ曲げ。

“2人とも助からないかった”と綴られるべき頁を

力づくで書換えた。


私の都合で。

“片方”ダケを選んだ・・・



「・・・エスプレシーボ様がいたからこそ、ゲオルグ様は息を吹き返し。ゲオルグ様がいたからこそ。エスプレシーボ様は動き出すことができたのです・・・」



私だって・・・悩んだよ。

“2人は1つ”なんて言葉、所詮はキレイ事だ。

ゲオルグ様に言った言葉は、自分(わたし)を正当化するための言い訳なのっ!!



“移植”したというコトは、

ドナーが犠牲になったというコトに他ならない


エスプレシーボ様の心臓はたしかに動いているけれど

彼女の瞳は、喉は、長い耳はもう。

動かない・・・



「そ、そうかっ…エスっ…っ…」

「・・・」


・・・ね。イレーヌ。

私がやったことは・・・正しかったかな?

「1人だけでもいい。1秒だけでもいいから…生きて欲しいの。…それだけ。」


・・・あなたのその言葉を

私なりに実行してみたのだけど・・・



「エスっ…エスッ。。。っ…」

「・・・」


・・・分かんないよ。

イレーヌ・・・


・・・

・・

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