Chapter 015_愛の檻 恋の鍵
あ、あれ・・・?
前回。間違えて
閑話でもないのに2話同時投稿しちゃいましたね X(
失礼いたしました。
今週から元に戻ります・・・
「うっ…」
「・・・う?あ・・・・・・目。覚めた?」
天使…
ぼくの瞳を支配した君は。
まさに天使そのものだった…
「こ、こ…」
「・・・ココは・・・宿屋の。一室・・・。」
ゆっくりゆっくり…
「まっ、」
「・・・大丈夫。魔物は。追っ払った・・・もう、安心。よ・・・」
意識のはっきりしないぼくでも理解できるように
ゆっくりとした速度で…
「そ…」
「・・・ん・・・・・・」
外は静かな雨が降っているようで、
雨音とおねーちゃんの声だけが
ぼくを優しく包んでくれた…
「…」
「・・・」
しばしの沈黙のあと…
「・・・今は、まだ。ボンヤリするかも、しれないけど・・・もう、大丈夫。スグに、良くなる。・・・本当よ。」
「…」
「・・・だから、今は・・・眠って。」
「で…」
「・・・大丈夫。また、スグに。目覚めるから・・・。だから、今は・・・眠って。・・・ね?」
「…」
「・・・そ。いい子ね・・・」
「. . . 」
「・・・お休みなさい・・・」
………
……
…
「ごめんなさい。フルートさん…」
…あれ?
「本当に。本当に…」
随分と
久しぶりな夢を見たものだ…
「気にしないでいいんだよ。ぼくが自分で決めた事だから…」
ぼくら【風のエルフ】は
広大なパッセ砂漠の中でも数少ない“緑生い茂る”【風の森】に身を寄せる
“森の民”だ。
“他の森のエルフ”に比べ、
ぼくら風のエルフは古の昔から獣人…そして、人間との交流が盛んだった。
砂漠を熟知しているぼくらは冒険者の案内や狩の手伝いをし。その見返りとして水や食料。その他、森では手に入れられない生活必需品。
何より…綴るべき【物語】…を
得ていたのだ。
「でも。私のせいでフルートさんが…。ま、まさか。父様がコンナコトをしでかすなんて。思っていなくて…」
世界樹を通して他のエルフから【永久隷属法】の内容を伝え聞いていたぼくらは
人間と袂を頒ち。交流の一切を拒んでいた…けれど。
長年の付き合いもあったうえ
遠い土地の出来事という意識から危機感も薄く
オマケに。発布された直後だったため。
220年前はまだ。
それまでと、殆ど変わらぬ付き合いをしていた…
「はは…。いいんだよ、ソフィア。だって…ほら!出逢ったあの日から。ぼくは君の奴隷みたいなモノだったのだから!…名実共に。そうなっただけさ!」
彼女…ソフィアは。
砂漠で見つけた遭難者だった。
砂嵐に遭い。仲間の全てを失い。
ただ一人。果てしない砂漠にポツンと取り残され
途方にくれていた彼女を見つけたのは
本当に偶然…いや。
【綴られるべくして綴られた】というヤツだった。
エルフの仲間とは違う…
“あどけなさ”の中に洗練された美と礼を持つ彼女に
ぼくはアッサリと一目惚れをした。
保護した当時、衰弱しきっていた彼女も
エルフの里の穏やかな風に包まれ
徐々に笑顔と元気を取り戻し。
そして、
ぼくに『そっ…』と。好意を寄せてくれた…
「帰りたい…」
彼女がそう言ったのは
出逢って数か月経った、風の強い日のことだった。
当然の願いだった…
「送っていくよ!ホラ、ぼく。召喚獣宿しているし!コレでも腕には自信があるのさ!」
仲間と母に心配され。
姉妹と父に失望され。
ソレでもぼくは彼女と一緒に居たい一心で
北へ…橋へと向かった。
…ソフィアが奴隷商“筆頭”の娘であり
参加していた商隊の目的が【“エルフも含む”奴隷狩り】であったことを知ったのは
彼女の勧めで橋に泊まり…彼女の父親に“唱えられた”
アトの事だった…
「ごめんなさい…」
毎日、毎日。彼女はぼくに逢いに…
謝りに…来てくれた。
「…だから。いいってば…」
彼女の好意は本物で。
彼女自身…そして、ぼく自身…こうなるだなんて。
夢にも思っていなかった…
…ソレが救いだった。
ソウ、信じていた…
「ごめんなさい…」
なのに…
「ご、ごめんなさい…」
奴隷という“身分”のせいか?
彼女の“立場”のせいか?
それとも単に。心変わりのせいなのかは、分からない。
「………ごめん…な、さい…」
けれど、徐々に彼女の心が
ぼくから離れていったのは間違いなかった…
「
………
……
…
ごめんなさい。」
その言葉を残して彼女は遠い故郷へ帰り。
2度と戻っては来なかった…
…そんなぼくが
220年以上もの間、売られるコト無く
“あの檻”に閉じ込められていたのは…
扱いが難しかった為か?
筆頭家所有の奴隷であった為か?
はたまた。今となっては“亡き人”であろう 彼女の願いか…
…
……
………
「えっ!?アレから…5日も経っているの!?」
翌朝…たぶん、翌朝。
「・・・ん。」
天気は晴れ。
「でも…ぜ、ぜんぜん。お腹も空いてないし?」
「・・・治癒魔法で栄養を補給したし・・・そもそも。生理現象を最小限に抑えていたからね。・・・ただ、その反動があるから・・・元通りの生活に戻るには数日かかると思う。」
おねーちゃんの宣言通り
次の目覚めはしっかりとした“覚醒”であった。
まるで
普段通りの朝を迎えたかのような…
「そ、そう…で、でもっ!」
「・・・大丈夫だから。焦らず・・・ゆっくり。ね?」
「…」
「・・・んふふふっ。大丈夫。妹も・・・2人のおにーちゃんが頑張ってくれたって。知ってるから・・・」
「………」
その後おねーちゃんは「・・・ご飯までお話しよう。」と言って
目を覚ましたぼくに
何があったのか?細かく説明してくれた…
………
……
…
「それじゃ。全部おねーちゃんがヤったって事じゃないか…」
…まぁ。
ぼくがこうして無事だというコトは“そういうこと”だろうと
予想していたけれど…
「・・・そんなことない。みんなが魔物の気を散らしてくれたから詠唱する時間を・・・」
「“みんな”って…おねーちゃんの召喚獣の事だろう!?」
「・・・・・・ま」
「ソレ!おねーちゃんの力だからね!!」
「・・・・・・そ、そんなこ」
「あるよ!」
「・・・」
案の定…か。
ははは…
「はぁ~…おねーちゃんにかかると。龍も形無しだね…」
「・・・むぅ・・・」
「ぼくら。死に損じゃないか…」
まったく…
“悲劇のヒロイン”になってくれないなんて。
男泣かせの、困ったオヒメサマだなぁ…
そんな風に思い。チョットだけイジワルを言うと…
「むぅ~う~!」
コレである…
「ははは!」
…おねーちゃん“らしい”可愛らしい反応に
思わず笑みがこぼれる
そして同時に
「…」
“彼女”とは…髪の色以外。ぜんぜん違うのだと…
そう、痛感させられる
「・・・そ、そんな事ないもん!」
故郷を飛び出したぼくが里に戻るには
“言い訳”が必要だった。
里で度々問題になる“呪い”を解決してくれる可能性が高い彼女は、
そのための“手土産”だった。
「・・・2人には感謝してるの!」
彼女に好かれようと振る舞ったのは…
半分は“言い訳”のためだったけれども。
もう半分は、浅はかで子供な“ぼくの復讐心”…かも、しれない。
“鍵を開けた彼女”に、“檻に閉じ込めた彼女”を重ね
今度こそ…今度は。
…そう、想ったことは
否定しない…
「・・・2人が守ってくれなかったら。私は今頃・・・」
邪な考えをしてているぼくの横で、
おねーちゃんは“らしく”もなく『しゅん…』と、
しほらしくなっていた。
そして…
「・・・2人には・・・特に。フルート君は“本当の善意”で私を助けてくれたから。だから、ちゃんと・・・お礼がしたい。」
…そんな事を伝えられた。
「お礼って…こうやって。治癒を…」
「・・・それじゃ足りないから言ってるの。」
「もう十分だよ。」
「・・・でも・・・」
「…どうしてそんなに拘るのさ?」
ぼくのその言葉に
『パチパチ』と瞬きを2回したおねーちゃんは
「・・・だって・・・助けてもらったら。お礼をするのが当然でしょ?それが理よ。」
「…」
実に彼女らしい言葉で答え。
「・・・ね。」
更に、ぼくの手を取って…
「・・・私にできる事なら何でもするから!」
ぼくの姿を大きな夜に映し…
「だから・・・」
「…///」
…か、“彼女”の夢を見たその朝に
別の女の子に見つめられて赤くなってしまうなんて…
「じゃ、じゃあさ!」
その気恥ずかしさと、悔しさを隠すために
「キ…」
「・・・き?」
「キスしてよ!おねーちゃん!!」
初心な女の子を揶揄うつもりで
“彼女”ともシなかった“特別”を強請ってみると…
「・・・・・・う?」
『きょとーん・・・』とした
おねーちゃんは『パチパチ』を何度も繰り返し…
「な、何でもって言ったろ!?」
「・・・きす・・・鱚?お魚食べたいの?・・・残念ながら手持ちは鮭とウナギだけ・・・」
「何で魚が出てくるのさ!?「鱚して」ってどういう意味さ!?」
「・・・食べたいのかと・・・」
「食いしん坊の誰かさんと一緒にしないでよね!!キスって言ったら“ちゅー”の事に決まってるでしょ!!」
「・・・ちゅー・・・せっぷん?」
「ちがっ…って、違くない!!ソーだよ、ソレだよ!!」
さ、300歳にもなってキスの1つもシた事ないのを気取られたくなくて。
まくし立てると…
「・・・キス・・・」
艶めく唇を
指輪とネイルで彩った細い指で撫で
「・・・ちゅー・・・・・・」
唇に指を置いたまま
「・・・」
ぼくを見つめ直し…
「・・・えっ・・・とぉ・・・///」
なんだっ
「・・・し、してほしい・・・の?・・・わ、私・・・に///?」
なんだっ!
「わぁ-!!無し無し!!」
その表情は―っ!!!
「じょ、じょうだ…」
今のは冗談っ!
「んっ・・・」
「!?」
そう言おうと…
「・・・ふぅ・・・」
「ぇ………」
言おうと…
「・・・」
「……」
「・・・え、と・・・」
「…」
「・・・・・・ご、ご飯っ。持って来るね・・・」
………ほ、ほんと…に…?
ごほーび!




