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Chapter 007_また逃亡

「つぎー…」

「・・・まだいるんですか?」

「まだまだいますよ!」


カレント2,186年 星火の月38日

お天気は晴れ。


私は何故か。

未だにダナンの王宮にいた・・・



「・・・むぅ~・・・なら、早く呼んでください。」

「はっ、魔女様!…おい次の者。早く来い!」


しっぽちゃんを送り届け。

彼女とティシアの奴隷紋(“奴隷印”と“奴隷紋”は・・・一般には同じ物だと認識されているけど・・・厳密には違う。・・・ま。簡単に言っちゃうと。“奴隷紋”は“ただの紋様”で、魔法効果があるソレを“魔法印”という。)を治癒魔法で消した今。この街に用は無い。


だから、アドゥステトニア大陸に渡る手がかりがあるかもしれないという、フルート君の故郷【風の森】に向けてサッサと出発したいところなんだけど・・・



「あ、あなたが魔女様ですか?ずいぶん小さいんですね?思ってたんと違う…」

「・・・むぅ・・・いいから。早く奴隷紋を見せて下さい。」

「は、はぁ…コ、コレです。」

「・・・ん。触りますよ。」

「え、えぇ…」


獣人の皆様からの強い願いにより

奴隷紋の消去作業を行っている



「・・・ちょっとチクッとしますよ。良いですね?」

「は、はぁ…ちょっと位なら構いませんから。イヤな思い出しかない奴隷紋なんて早く消して下さいよ!」

「・・・すー・・・『この手は何を成せるだろう この力は誰が為 小指に薬を 人差し指に毒を 祈り込めて払い清め』ディスペル。」


しっぽちゃんが王都に帰ったことで永久隷属法と改正隷属法の効果は完全に消滅したんだけど、


心に刻まれた“奴隷だった”という記憶が消えないのと同じように

身体に刻まれた“奴隷だった”という証“奴隷紋”も、消えてはくれない。


魔法の効果が消えれば“ただの痕”になるものの、

皮膚の深部にまで達する深い痕であるため除去するには患部の

完全切除が必要となる。


過去には、実際にソレをやったヒトも居たらしいけど

術後の消毒が不十分だったみたいで。感染症で死んじゃったらしい・・・


自分の体を削ぐなんて普通じゃない。

よっぽどイヤな思い出だったんだろうね。同情はするよ・・・



「ッツ!?い、イッテぇなおい!」

「・・・終わりです。痛みはスグに引きます。」


・・・ま。そんなワケで。

奴隷紋は、いちど刻まれたら2度と消せないと言われる“シツコイ痕”なんだけど。

治癒属性第5階位の【解呪魔法(ディスペル)】には毒や呪いを消し去る効果があり、体内の“異物”を取り除くことができる。奴隷紋も、唱えた通り。

※契約魔法による呪いは本来、治癒魔法で解除できないんだけど・・・奴隷紋は“その残渣”に過ぎないから可能なの。



「ったく!ふざけんなよ魔女!!めちゃくちゃイテーじゃねーか!!」

「・・・痛いと言ったではありませんか。」

「“ちょっと”じゃねーよ!!“ちょっと”じゃ!!」


奴隷紋は皮膚の感覚細胞にまで刻まれているため

除去しようとすると細胞を刺激し、

細い針で刺されたような鋭い痛みを感じる。



「・・・でも、もう。痛くないですよね?」

「は?あ…」

「・・・」

「………そうだな。」


涙目になる位には痛いけど・・・でも、

それも一瞬のこと。



「・・・お大事に。」

「お、おぉ…」

「・・・次の人を呼んでください。」

「つぎー…」


残りの物語を紋と共に生きていくことに比べれば

きっと、何倍もマシだ。



「っ!?ったぁ~い!!」

「・・・おしまい。」

「つぎー!」


「っだぁっ!?な、何が“ちょっと”だ!嘘つき魔女!!」

「・・・おしまい。」

「つぎー!」



唱える魔法は第5階位

しかも“寄生虫”や“生きた呪い”じゃなくて。ただの残渣

その消去だけなら消費魔力量も少ない。


けど・・・



「っっ!?てててぇ…あ!でも…ほ、本当に消えてるわ!」

「・・・ん。お大事に。」

「つぎー!」


・・・さすがに。

毎日まいにち・・・何百人もの獣人さんにそんな事やってたら

私だって魔力不足になるよ・・・



「・・・まだいるの?」

「まだ半分くらいです!」

「・・・うぎゅう・・・」


だから鎮痛魔法は無し。

・・・ま。痛いといってもトラウマになるほどじゃ無いしね。



「・・・魔力足りない。・・・お菓子ちょうだい。」

「またですか!?ついさっき食べたばかりじゃ…」

「・・・メなら止め・・・」

「っ…おい。魔女サマがオヤツを所望だ!スグに持ってこい!」

「「は、はい!」」


消せないと考えられていた奴隷紋を消す手段があると知るや否や

手の平を返した獣王様は私を大歓迎。


卑怯にも王城での歓待・・・という名の幽閉・・・をしたのだ!


そしてその裏で。奴隷紋を刻まれた国民を全国から呼び集め・・・翌朝



「偉大なる魔女様!集まった同胞の奴隷紋を…」

「・・・ヤ。もう帰る。」

「そ、そこをナンとか…。こ、今夜もお風呂とご馳走をご用意してお待ちしておりますぞ?色とりどりの花で彩られた香水浴とホロホロビーフシチューですぞ!」

「・・・」

「も、もちろん!ランチもご馳走です!グールーのローストと新鮮お野菜を挟んだ贅沢サンド!…美味しそうでしょう!?美味しいですとも!!」

「・・・・・・」

「デザートはパドでしか採れない珍しいフルーツを使った贅沢タルト!無論、食べ放題!!魔女様がお望みになれば、何時でも幾つでもご用意致しましょう!」


・・・なんて卑怯なの!!

頭脳戦を仕掛けてくるとは・・・脳筋じゃなかったのか!?



・・・

・・






「・・・うぎゅう・・・ち、ちかれた。やしょく。夜食・・・」

「お嬢様…シュシュちゃん!スグにご用意を!」

「にゃんです!!」


そんなわけで・・・毎日



「・・・もきゅ、もきゅ、もきゅ・・・」


食べては唱え。唱えては食べ・・・の、繰り返し。

ご飯とお風呂の時間を除いて、日の出前から夜遅くまでずーっと治癒術。


精神的にも肉体的にも疲労でいっぱい


ご飯を食べたらバタンきゅー・・・



「・・・悔しい。でも、おいしい・・・」

「お、お嬢様…」

「ご主人様…」


奴隷になった気分だよ・・・






「…おい。いつまでこんなコト続けるつもりだ?」

「・・・もきゅう?」


ローズさんのお茶でタルトを楽しんでいた私に

声をかけたのは・・・



「…こら!主人に意見するなんて生意気よ!ルクス!!」


・・・彼だった



「いくらお前でも毎日こんな時間まで何百回も唱えたら魔力酔になるだろう?さすがに限度がある!」

「・・・もくもくもく・・・」

「こんな所でノンビリしていていいのか!?アドゥステトニアに戻るんじゃなかったのか?」

「・・・んっくん。・・・んくんく・・・」

「っ…だ、だいたい!永久隷属法が破棄された時点で獣人共の奴隷紋は“ただの痕”になったんだろう!?そんなムリして…」


ふ〜ん・・・



「・・・心配してくれてありがと。ルクス。」

「なっ、ばっ!?」


・・・ま。

その気持ちは奴隷印から来ているんだろうけど・・・


でも、やっぱり。心配してもらえるのは嬉しい。

心の支えになるよね・・・




「・・・でも・・・ホントに大丈夫だから。」


そう言った私に・・・



「こんな時間まで食わないといけない癖に。何が大丈夫だよ…」


奴隷印のせいと分かっていても

こんなに心配してもらえると。ちょっと、、、



「・・・///」


ちょっと。ね・・・






「その奴隷の言う通りですわ!フォニア様!!」


そんな言葉と共に

深夜の貴賓室に現れたのは・・・



「・・・う?しっぽちゃん?」

「ご機嫌麗しゅう。フォニア様!」


黒いコートに身を包んだ王女殿下と

お付きの人だった・・・



「・・・ご機嫌麗しゅう。でも・・・こんな時間になんの・・・」


私が言い終えないうちに



「皆さま。準備はいいですか?スグに出発です!」


なんてコトを仰った?



「・・・う?」



出発って・・・何処に?

こんな時間に??


ハテナ?

を浮かべた私をよそに



「お嬢様。スグにお召替えを…」

「ローズさん?」


「ご令妹様はシュシュが…」

「シュシュまで・・・」


「いやいやお耳ちゃん。彼女はエウロスが預かるよ。それより…ほら。君は大事な主人のために、いち早く敵を見つけるんだ!」

「ヤレ、ヤレ…だ。」

「・・・フルート君?ルクスまで・・・」


みんなも荷物を取り出して

準備万端!といった様子


先に寝ていたティシアも

ミノムシみたいにお布団に包まれて

エウロスに抱かれてるし・・・



「・・・」


そんな皆の姿に



「・・・ひょっとして・・・まえから準備してた?」


訊ねた私に



「…ふふふっ。」


ローズさんはイタズラに笑い



「に、にう…」


シュシュは、すまなそうに下を向き



「あはははは!おねーちゃんらしいね!」


フルート君は普通に笑って、



「…アホか。」

「・・・」


ルクスには(けな)された・・・



「ま、まぁ!他の者に気取られないよう、“あえて”お伝えしておりませんでしたので!それに…フォニア様。ずっと、お忙しくて…」

「・・・しっぽちゃん・・・」


・・・すると彼女は私の両手を包み込み



「…フォニア様。何度目になるか分かりませんが…改めて。一族を代表してお礼を申し上げますわ。」


跪いて・・・



「っ!?」


って!

相手は王女殿下よ!?



「や、ヤメてしっぽちゃん!そんなコト・・・」


けれど彼女は



「偉大なる魔女様…呪いを解いていただいた上。私を含めた多くの同胞に癒しと安らぎを齎して下さり。本当に本当に…本当にありがとうございました。貴女様との出逢いは…あ、貴女様にとってはお気紛れの我儘に過ぎなかったかもしれませんが…一族にとっては至上の幸運。綴られし白金の頁でしたわ!」


彼女の言葉に合せて、お付きの獣人さんも膝を突いて深い礼をしたのだった・・・



「・・・な、何度も言っていますが。私は、ただ。妹の・・・じ、自分の為に」

「…ふふふっ。私も何度も言っておりますが…それでも!ですわ…」

「・・・うぅ・・・」


跪いた彼女は

語尾を強めて



「しかし…フォニア様。もう、十分なのですのよ。ココから先は魔女様のお望みをお叶え下さいませ。」

「・・・で、でも・・・」

「…ふふふっ。お優しい魔女様の事ですから。全ての獣人に唱えようとお考えだったのではありませんか?ですが…パド大陸だけをみても。奴隷紋を刻まれた獣人は何万人といるのですよ!?その全てを魔女様ひとりに押し付けるなんて無茶な話です!!」

「・・・それは・・・」

「…これから我々が直面するであろう。差別や偏見…そして。残された人間との付き合い方といった困難はきっと。我々自身が乗り越えなくてはならない問題なのです!それを魔女様に解決してもらおうなんて都合のいい話…とても、許されませんわ!」

「・・・しっぽちゃん・・・」


すると彼女は・・・



「さてっ!」


パッと立ち上がり!



「長居は無用ですわフォニア様!こんな“貰い物”で着飾った“(ハリボテ)”。貴女様には似合いませんことよ!!」


スラっと長い腕を差し出し・・・



「・・・しっぽちゃん・・・」

「次に会う時までには必ず!誇り高く雄大な…綴られた通りの…この(ダナン)にしてみせますから!」

「・・・っ・・・」

「…そ、そしたら。また…ご、ご令妹様とっ…い。いっしょぉ…にっ!あ、っ…あっ、遊びにっ。き、きて…くだしゃいねっ!」


「・・・っ・・・んっ!か、必ず行くよ!!」


こうして私は

“ずっ友“リザ王女殿下との再会を誓い・・・



「またね!魔女様っ!」「またね!しっぽちゃん!!!」


王都ダナンを後にした・・・

300話!

たっせーい!!


どんどんパフパフー!!

XD



お祝いが欲しいなぁ・・・

な、なんちてっ;p

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