Chapter 006_王都【ダナン】
『シューゥ…』
「ついたの!?ね様?」
「・・・ん!」
カレント2,186年 星火の月31日
お天気は・・・夕日が燃える 晴れ。
「こ、ここが…」
「・・・さ。しっぽちゃん。」
「う、うん…」
前の駅で伝令に出てくれた獣人さんがいたおかげで、
ダナンの駅には
「リザ…リ、リザなのか?本当に…」
「リザアァァ!!!」
国王夫妻 御自による
お出迎えがあった・・・
「…グーズ陛下。ロゼ殿下。第2王女リザ=パド…こ、ここに。故郷への帰還を申し上げますわ!」
「っ…」
「リザァァー!!」
過去の資料によると・・・
獣王グーズ=パド様は単身で千の兵に突っ込んでいくくらいの
勇猛な戦士
ロゼ殿下は自ら旗を振ってソレを送り出せるくらいの
肝っ玉お母さん
・・・だったらしい。
でも、今は・・・
「ほ、本当に…ほんっ、ほ、本当にっ!?」
そこまでのお歳では無いはず(まだ40代のはず・・・)の
グーズ陛下の髪は真っ白で。
疲れ果てた顔に、ただ驚きをうかべ・・・
「リザっ…り、リザァ…」
ロゼ殿下はヤツれた小さな体で娘にしがみつき、
周囲の目も気にせず泣きじゃくっていた・・・
「はい…はいっ!リザにございます!!ご心配おかけし、本当に…」
「そんな…そ、そんなコトはどうでもいい!」
「へ、へいか…お、お父、様…」
「っっ………っ、よく…よ、よく!帰ってきた!!」
「っ……は、はぃっ…ひぐっ…は、はいっ!!」
17年ぶりの王女の帰還・・・ではなく。
17年ぶりの親子の再会
その感動的なシーンに群衆からも
すすり泣く声が聴こえた
「まさか、本当に…」
「よくぞ御無事で…」
「大きくなられて…」
荒廃した夕暮れの駅舎には、
そんな言葉が飛び交っていた・・・
「しっぽのおねーちゃん…」
その様子を眺めていると、ふと・・・
「おとーさまと、おかーさまに会えたんだね…」
もらい泣きした妹が、
そんな言葉を口にした・・・
「・・・・・・ん・・・」
自分はもう、両親とは会えないということを知っていながら
ヒトの喜びに涙できるなんて・・・
「ぐすっ…よかったね…」
この子がこの先も
優しい子でいてくれるように・・・
「・・・ん。よかったね・・・」
私も・・・
頑張らなきゃね
・・・
・・
・
「そ、それで…」
場所を改め
玉座の間・・・
「の、呪いを解いた魔女というのは…」
伝令さんのお陰で私達の安全は保障されていた。
でも・・・
「陛下!!永き苦痛から我らを解き放って下さった“偉大なる”魔女様に。その尊大な態度は何ですか!?」
「リ、リザよ。しかし…」
「魔女様…フォニア様は!我ら獣人の救世主です!彼女がいたからこそ。その椅子に座っていられるのではありませんか!?」
「それは…」
「その椅子をフォニア様に明け渡したっていいくらいなのですよ!?それなのに…“名乗らせ”ようとするなど。失礼の極みです!!恥を知りなさい!!」
「い、言い過ぎだぞ!?リザ!!」
「言い足りませんわ!!」
人間への報復行為は王都でも同じ。
全ての人間が牢に閉じ込められ、辱められ。
毎日残酷な処刑が行われているとか・・・
「・・・リザ殿下。私はべ・・・」
玉座の間に“入っていい”と言われたのも
私とシュシュ(シュシュはパド大陸に入ってから
ずっと獣人の姿のままでいる)の2人だけ。
他の皆は貴賓室(最初は牢屋みたいな控室に通されたんだけど、フルート君がエルフだと気付いて、慌てて貴賓室に変更された)に閉じ込められている・・・
「フォニア様もフォニア様ですわ!貴女様はリブラリアに綴られる大事をなさったのです!我らにとっては救世主…いいえ!“神”のようなお方なのです!」
「・・・言い過ぎ。」
「いいえっ!言い過ぎどころか言い足りませんわ!!もっと尊大に構えて下さいまし!」
「・・・そんなこ・・・」
「それと!私のコトは親しみを込めて“しっぽちゃん”と呼んでくださると仰っていたではありませんか!?今更そんな…他人行儀な呼ばれされたら。寂しいですわ!」
「・・・そんなコト言われても・・・」
魔女の戯言を真に受けて
我儘放題のしっぽちゃんが全面的に私達をフォローする
と、言ってくれたものの・・・
「で、殿下に対して…し、しっぽだと!?」
「獣人への侮蔑だ!」
「しかも…へ、陛下の椅子に座るだと!?」
「神ってるとな!?なんという自惚れ!!」
「コレだから人間は…」
「分を弁えろ!!」
「・・・」
世間知らずの王女様の“おかげ”で、
私に向けられる視線は厳しくなっていった・・・
「“しっぽ”という呼び名は私がお願いしたのですわ!!誰にも文句は言わせませんことよ!!」
「「「「「…」」」」」
後付出しのフォロー
本当にありがとうございます。
「フォニア様も!“ちゃんと”呼んでくださいませ!」
「・・・・・・はい・・・」
「「はい」ですの!?」
「・・・えと、・・・ん。しっぽちゃん・・・」
「うん、よろしい!」
「・・・・・・」
励まそうと思って昨夜言った言葉・・・
取り消してもいいかな?
『コ、コホンッ!』
娘のやりとりを玉座から見守っていた獣王様は『コホンッ!』と咳払い。
そして・・・
「…リザ。お前は外せ」
「えぇぇっ!?」
「お前がいると話にならん。」
・・・うん。
ホント。その通りだと思うよ・・・
「で、でもぉ…」
私を振り返り眉をよせるしっぽちゃん。
・・・私の事を心配してくれているのだろう。
でも・・・
「・・・しっぽちゃん。玉座の間での、陛下のお言葉なのですから・・・」
「うぅぅ…」
「・・・護衛も付けさせて頂きましたし・・・コレでも、かの“ディアナ女王陛下”と渡ってきたのです。ご心配には及びません。」
「「「「「…」」」」」
ディアナ女王陛下・・・という名前を出したため
玉座の間に緊張が走った。
永久隷属法に署名させたオリゾンドレ家は獣人にとって仇敵だからね。
「うぅぅ…で、でもぉ…」
「・・・シュシュもいるし・・・ほんと。大丈夫だから。」
「…」
それでも粘るしっぽちゃんに・・・
「…リザ。いい加減にしないと兵に命じるぞ。」
「っ!」
獣王様から
ドスの効いたキツーイお言葉が。
そしてついに…
「…わ、分かり…ました…。ま、また後でね。フォニア様…」
「・・・ん。」
『しぶしぶ…』といった様子で娘が退出したのを見届けた獣王様は
『はぁ~…』・・・と。
大きなため息をつき。そして・・・
「さて…魔女どの。」
威圧的な低い声で
「永久隷属法の解呪と娘の救出…まずは大儀であった。ほめて遣わす。」
「・・・ありがたきしあわ・・・」
「しかし!」
小娘相手に・・・
「…憎き人間である貴様の居場所など、この大陸にはない!即刻帰るが良い!!」
“叶わない”という事を知っていながら、
そんなコトを言うとは・・・
「それと…魔法だか呪いだか知らんが。娘に付け入るとは随分じゃないか?あぁっ!?だが!そのような“まやかし”世間知らずの娘にしか通じないと知るがいい!図にのるなよ!…ふんっ。」
・・・どんな物語にもいるよね。
こういう、人の話を聞かないで突っ走る大人って。
ついさっきまで疲れた顔で娘に抱き着き
ワンワン泣いていたとは思えない
見事な手の平返しである。
「・・・」
呆れてモノも言えない・・・というのが本音だけど。
何も言わないでいると我が家の暴走小狐が
玉座の間を赤く染めちゃいそうなので・・・
「・・・分かりました。スグに発ちます。」
「にゅ!?ご、ごしゅ…」
「・・・ですがその前に。ひとつだけ、やり残したことがあります。それを成してから発ちたいと思います。」
やることやって・・・
「やり残したコトだと?…立場が分かっていないようだが…どれ。叶えてやるかは別として。話くらいは聞いてやろうではないか。…言ってみろ。」
「・・・しっぽちゃんの奴隷紋を消して差し上げたいと思います。」
サッサとお暇しちゃおうっと・・・
「「「「「…は?」」」」」
林檎です。
一部、表現の間違えがありましたので訂正させていただきました。
失礼いたしました・・・(23/04/09 12:55)




