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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
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Chapter 022_森の異変?

ラレンタンド商会で買い物をした私は嵩張(かさば)る本の配達を頼み、その後、資産運用の相談をしてから会館を後にした。



「・・・おなかへた。」


時刻はお昼前。

家に帰っても家族は畑でいないし・・・イレーヌとランチでもしようかな?と思い立った私はパン屋さんでバケットを買い、お肉屋さんでハムを切ってもらい、屋台のおばちゃんからレタスとトマトとオニオンを切ってもらって準備万端!


さぁ、ランチに行こう!!

北風も止んで暖かくなってきたのでお外に敷物敷いて!イレーヌにアイスティー作ってもらって!!お菓子も出して!!!



「・・・んふふ~っ!」


・・・と、鼻歌交じりに歩き出したところで






「フォニアちゃん、ちょうどいいところに!!ちょっと来てくれないか!…頼むよっ!!」


ギルドから顔を出したデュランさんに捕まった。



「・・・・・・・・・頼まれました。」


・・・

・・











「・・・もくぅ?そう・・・なの?」

「そうなんだよ!劣級の魔物はほとんど見かけなくなっちゃったし、低級の魔物はやたらと臆病になっているし、中級の魔物は反対に狂暴になってしまったらしい。どうやら森で、何か起きたみたいなんだ…」

「・・・もくもくもく・・・」


デュランさんによるとここ最近、森の様子がおかしい。のだそうだ・・・

弱い魔物は数を減らし、強い魔物はお腹を空かせたようで狂暴になっている・・・それは即ち



「マスターの見解としては森の生態系に異変が起きたんじゃないか…って。」

「・・・もくぅ・・・」


魔物は魔力の影響を受けて極端な進化をしている場合が多いため環境の変化に敏感。

微妙なバランスで保たれている生態系はちょっとしたきっかけで簡単に崩れてしまう。

例えば、強力な新種の魔物が現れたり・・・反対に、強力な個体が討伐されたり・・・



「・・・ひょっとして、私がルーフベアとか倒した・・・せい?」


バケットサンドから口を離して、上目遣いでデュランさんに尋ねると・・・



「いや、それは無い!フォニアちゃんが倒した魔物はどれも個体数が少ないとはいえ“それなりに”は、いた。過去の討伐記録を見ても今回の様な事が起きたという記録はない。」


その言葉にホッと胸をなでおろし・・・



「・・・ならよかった。・・・でも、それじゃあどうして?」


森に異変があったのなら、何か原因があるはずだ。

私が()()でないのだとすれば、何が・・・



「…フォニアちゃんなら知っていると思うけど…ルボワの森はレダ川(エディアラ王国を東から西に大きく蛇行しながら流れる2本の大河の1つ。流れは穏やか。)の支流とラヴェナ川(エディアラ王国と南の国々との国境になっている大きな川。流れは速い。)で周囲の森とは分断されているから新種が入ってくることは稀だ。もちろん、その可能性も無いとは言えないけど…でも、ボク達は森内部で変化があったんじゃないかって考えている。」


ルボワの森が初心者冒険者の聖地みたいになっている理由はこれが大きい。

ダンジョンが孤立しているから生態系が内部で完結しており、故に安定しているのだ。

要するに、いつも同じ魔物がいて、未知で危険な魔物が現れる可能性が低いからリスク管理しやすい・・・という事。

そんなの“冒険”じゃないっ!・・・って言われちゃうと、そうかもしれないけど・・・でも、リアルに死んじゃう可能性があるなら、誰だって初心者のうちから無理をしたくはないでしょ?

“冒険する者”という名前ではあっても、“冒険者”はあくまで“職業”。


未知との遭遇や命がけの危険を(おか)したいのであれば他にもいっぱい・・・グリフォンやドラゴンが生息するような・・・危険で未踏のダンジョンが沢山あるのだから、そっちへ行けばいい。



「・・・もしかして、主が・・・」

「…進化した可能性は…あるね。」


進化・・・エボリューションは遺伝子の突然変異によって引き起こされる生物多様性と自然淘汰(とうた)の原動力である・・・というのは異世界のお話。

ここ、リブラリアで【進化】と言えば、魔物の“種としてのステージアップ”の事である。

一定条件・・・例えば年齢とか、食事量とか・・・を満たすと魔物が別の魔物・・・大抵は“より”強くて、特殊な性質を持つ・・・に変化する現象の事で、ほとんどすべての種類の魔物で起こる事らしい。

イメージとしては昆虫の“変態”に近く、見た目や行動原理も別物になる事が多いとか。


・・・ま、ポッケの魔物とか・・・ゲームでもお馴染みだから分かるよね。要はアレの事。



「・・・進化・・・マザータランテラは何に進化するの?」


この森の主は【マザータランテラ】という名の中級魔物。種類は“蜘蛛”

森の奥地にある朽ち果てた遺跡に巣くい、進化前個体である【レッサータランテラ】や【タランテラ】、【ジャイアントタランテラ】と共に他の魔物を狩って、時々子供を増やしながら静かに暮らしている。

魔物が静かに暮らしている・・・というのは変な響きかもしれないけど、この魔物は大人しくて摂食以外の理由で他の生き物を襲うことが無い。給仕(きゅうじ)係のレッサータランテラとただのタランテラは臆病な劣級魔物だから人間に挑もうとしない。だから、人的被害は無謀な冒険者が必要以上に巣に近づいた際、ジャイアントタランテラやマザータランテラに自己防衛として襲われるに留まっていた・・・と、考えられている。

もっとも、これらの情報はこれまでの観察記録からの推察でしかなくて、魔物の生態は良く分かっていない事の方が多いけどね・・・


とりあえず言えるのは、タランテラ達は人を襲う事はほとんど無いけど、他の魔物にとってはそれなりに脅威で、故にダンジョンの主の座についていた・・・という事。

もしこの魔物が進化して、より強力になっていたとすれば・・・



「…分からない。世界中に蜘蛛の魔物は沢山いるけれど、どれも独特過ぎて系統化が難しいらしいんだ。けれど、この森で進化する可能性も、その時大きな脅威になる可能性ももっとも高いのがマザータランテラだ。」


因みに他の中級魔物はといえば・・・パラレルテールは番で高い山に住んでいないと進化しないと言われているし、サブヘルアントは進化すると住処を砂地に変えてしまう。ルーフベアは分かっていないけど・・・有力な進化後個体が見つかっていないから、あれが最終進化形態では?という説が有力だ。

そして、下級魔物や劣級魔物は進化してもすぐに大きな脅威になることはない・・・



「・・・もくぅ・・・どうするの?」


原因が何にせよ異変が起きている以上、何もしないわけにはいかないだろう。

バケットサンドの咀嚼を再開しつつ訊ねると・・・



「実は既に調査を始めているんだ。…フォニアちゃんも知っているだろう?【東門(ポルテエスト)】の4人。」

「・・・もひほん。」


東門の4人・・・というのは、この街で長年活躍している冒険者パーティーの事。

男性2名女性2名の・・・ダブルカップルパーティーで、とっても仲良しの4人組。私も何度か・・・一緒にご飯を食べたり、罠の作り方を教えてもらったり、狩りをご一緒した事だってある。

全員まだ20代だけど、入れ替わりの多いこのギルドでは経験豊富な古株であり・・・全員が3級冒険者だったりする。



「彼らには主の確認を含めた調査を依頼している。遺跡がある森の最深部までは片道5日だから往復で10日か…遅くても12日あれば済む依頼の筈だ。ただ…」

「・・・ふぁふぁ?」


ただ?



「…調査を依頼したのは17日前。出発したのが14日前。だが…まだ帰っていない。」

「うっ!?」


帰って・・・いない!?

バケットから口を離して聞き返す。



「・・・じゅ、14日間も!?それ・・・マズくない!?」


片道5日の道のりに14日もかかるなんて明らかに異常だ。何か・・・何か起きたに違いない!



「…か、かれらはベテランだ。森に異常が起きている事は伝えたし、可能な限り危険を冒さないように…場合によっては調査を断念してもいい事は伝えた。当然、準備万端で旅立ってくれたはずだ。だが…」

「・・・どうしてもっと早く知らせてくれなかったの!!そうすればっ!!」



彼等はお世話になった先輩であり友人だ。失いたくない!!

何かあってからじゃ遅い!!もっと早く知らせてくれれば助けに行けたかもしれないのに!!


そう思った私が思わず叫んでしまうと・・・



「だ、だから今日、声をかけたんだよ!フォニアちゃん最近、忙しそうだったし…」


デュランさんは気まずそうに下を向いた。



「・・・あ・・・そ、そう・・・か。・・・ごめんなさい。気を使わせていたのは私・・・ですね。」


冒険者ギルドは治癒院と情報交換をしているのでこちらの状況・・・

ここ2カ月間、私が彼女に付きっきりだったことも・・・

怪我をして帰って来る冒険者が多くて忙しかった事も・・・

・・・知っているはずだ。


もっとも、デュランさんはもっと直接的に情報を入手しているだろうけど・・・



「い、いや!いいんだ。気にしないでくれ!!結局のところ、ボク達ギルドの危機管理の問題だから…」


頭に血が上り叫んでしまった私・・・

反省しないといけないのは私の方だ。


私はこれでも、このギルドで5人しかいない3級冒険者なのだから、もっと・・・



「・・・」

「フォ、フォニアちゃんのせいじゃないからね!本当だよ!!それに…そんなつもりで呼んだんじゃないんだ!君にお願いしたいことがある!!君にしか…出来ないんだ…」

「・・・う?」


落ち込んで下を向いていると、慌てて駆け寄り、しゃがんで話しかけてくれたデュランさん。

私を覗き込むように見上げて唱えた・・・



「…3級冒険者である君に依頼をしたい。東門(ポルテエスト)の4人、全員の救助と…それが出来なければ、確認を。」

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