Chapter 021_お買い物
林檎です。
誤字修正しました。(21/11/06)失礼いたしました。
「フォニア様!ようこそお越しくださいました!!…ご機嫌ようございますか!?」
「いらっしゃいませフォニア様!ご機嫌麗しゅうございますか!?」
ある秋の日。
頼んでいた製品が入手できたと連絡を受けた私はラレンタンド商会ルボワ支店へとやって来た。
「・・・こんにちはモルガン支店長さん。ミランダさん。元気です。」
支店長のモルガンさんとミランダさんはカトリーヌちゃんを治癒院に連れてきてくれた方々だ。彼女のお見舞いにも来てくれたから私とも面識がある。
「…さぁ、フォニア様!本日は風も冷たいので、こんなところで立ち話も難です。早速応接室へまいりましょう!」
「・・・ん。」
最近忙しかったからお買い物も久しぶり。今日は楽しもうっ!
・・・
・・
・
「…どうぞフォニア様。ドゥクエの初物です。」
応接室に入るなりミランダさんがお茶(リブラリアでお茶といえば紅茶の事。稀にハーブティーもある)を入れてくれた。
高級品であるドゥクエ(デュクサヌ・ウェーバル宗主国の歴史ある茶園。・・・因みに、お茶の知識はおばあちゃんの受け売り。淑女の嗜みだって)の初物とな!?
「・・・いい香り・・・」
「うふふっ。…さ、冷めないうちにお召し上がりください。」
「・・・頂きます。」
セントジェルマ(デュクサヌ・ウェーバル宗主国にある磁器ブランド。白地のシンプルな食器が多い。因みに“セントジェルマ”というのは同国にある聖なる山【ジェルマ山】から取られている)のシンプルな白磁にドゥクエの薄い水色が良く映える。
透き通るような爽やかな香りも心地いい。
お味の方は・・・
「・・・んっく・・・ん・・・青リンゴのようにスッキリしていて・・・なのにお茶の味はしっかりで・・・おいしい。」
おいしゅうございますぅ・・・
「おぉ…フォニア様はお茶も嗜んでおられるのですか?」
「・・・ん。・・・おばあちゃんが勉強しとけって。」
「流石でございます!」
実を言うと私・・・前世からお茶が好きで、よく飲んでいたんだよね。
実家(テオドール家)には素朴な麦茶しか置いてないけど、レジーナ様にお茶好きな事が知られてからはお茶に誘ってもらえるようになった。
おばあちゃんは毎回違うお茶を用意してくれるからとっても楽しい!
勿論、コーヒーも嫌いじゃないけど・・・私は断然、お茶派かな!
何処かで緑茶や青茶(烏龍茶)も飲めたらなぁ・・・
「お気に召しましたか?…もしよろしければ、あとで茶葉をお分け致しましょうか?」
「・・・いいの!?」
なんと!
ドゥクエは有名な茶園なので高価な筈。そんなものを6歳児に渡していいのだろうか?
も、勿論欲しいけど・・・
「えぇ、勿論!…お帰りの際、お渡ししますね!」
「・・・ありがと!」
太っ腹!
「お喜び頂けたようでよかったです!…さて、フォニア様。本題の件ですが…」
・・・っと、そうだ。本題を忘れてはいけない。
姿勢を正して、1冊の古びた大きな本を取り出したモルガン支店長との会話に集中する・・・
「…こちらがご所望の上級魔法大全でございます。」
「・・・これが・・・」
魔法には階位と呼ばれるレベルがあるって言ったけど、階位が低い方から
生活魔法(第1階位)、初級、中級、上級、王級・・・という、階位とは別の順位・・・呼び名・・・が付けられている。
モルガン支店長が出してくれた本は、その中の上級・・・第4階位・・・の魔法の大全・・・その階位の魔法を全て纏めた魔導書・・・ということになる。
ま、“全て”といっても治癒属性と契約属性は除くんだけどね。
「魔導書も“上級”ともなると市場に出回っていないのですが…今回は偶然。ある筋から入手することが出来ましたので、ご用意できました。」
モルガン支店長が言うように上級魔法の魔導書の入手は困難。強力な分、取り扱いづらいし使い手も限られる上級魔法は教育機関や研究機関・・・あとは一部の貴族や騎士団でもない限り必要とされないため、そもそも発行部数が少ないせいだ。
それなりに運が良くないと手に入れる事が出来ない・・・
「・・・拝見しても?」
とはいえ、出されたものをそのまま買う事はできない。
買うにしろ、しないにしろ・・・とりあえず見てみないとね。
「勿論です。どうぞ…」
「・・・ありがと。」
許可を取った私はさっそく、ミランダさんが目の前に移してくれた本を観察する。
手に取った古めかしく分厚いその本は・・・黒一色の硬い表紙で彩られており、如何にもそれっぽい本だ。ひっくり返して裏表紙を捲り、著者名を確認すると・・・
「・・・あ、な、と・・・う!?アナトリア・・・もしかして、“あの”アナトリア様!?」
「はい。“あの”アナトリア様の原書となります…」
「・・・原書!?」
アナトリア様・・・というのは、私の住むエディアラ王国の北に位置する【ヴィルス帝国】に現存する魔法研究機関【オクタシア】の創始者の一人。たしか・・・1,000年くらい昔の人だったはず。
1,000年前の原書って・・・世界遺産じゃないんだから・・・
「えぇ!…ちゃんと、銘のある錬金術師様に鑑定頂きましたから間違いありません!鑑定書はここに…」
「発刊日も記載してあったと思いますが…」
「・・・カレント1,099・・・ほ、本当に・・・」
今年はカレント2,177年だから・・・せ、1,078年前の本。
完全に世界遺産でしょ・・・
こんなものを6歳児に本当に渡していいの!?
「少々お値段は張りますが…滅多に出ない掘り出し物にございます!」
いや、滅多に出ないというか1点物なんじゃ・・・
因みに、贋作では?という心配はまず無い。
モルガン支店長がテーブルに置いてくれた鑑定書には確かに錬金術師様が持つ【銘】(刻印)が押されているし、本のページも製紙魔法によって生み出された製紙に違いない。著作名のサインも直筆だ。
そして何より、ラレンタンド商会がいまさら裏切るとは考えづらい。
「上級魔法大全自体、偶然が重ならないと手に入れることは出来ません。これを逃すと次はいつになるか…」
それはそうなんだけど・・・
因みに、
「・・・おいくら?」
世界遺産の古書。
そのお値段やいかに!?
「えぇと…大金貨8枚で如何でしょう…」
・・・え?
8枚・・・だ、大金貨を8枚!?
大金貨!?!?
た、たっかーい!?!?
「・・・オマケして。」
だって大金貨8枚だよ!?
大金貨は1枚で500万ルーン。その8倍だから・・・4,000万ルーンの・・・本!?
ルーンは日本円とほぼ同じ価値。つまり、目の前にある本を売れば都内近郊でそこそこのマンションが買えちゃうって事!!
「…申し訳ございません。これ以上は本当に…」
「あ、あははは…」
分るよ・・・本当は5,000万ルーンって言いたいのに精いっぱい値引きしてくれたのは分かる。
でも、う~ん・・・
「・・・」
「…ほ、保存状態も良く乱丁や落丁もありません。…表紙だけは200年ほど前に張り直されたようですが…それ以外は当時のまま!言葉通りの原書です!こんな貴重品、もう二度とお目にかかる事は無いでしょう!!そういう意味でも、これ以上ないお買い得品でございます!!」
「わ、私共としましても本当はお嬢様の命の恩人で、一番のご友人でもあらせられるフォニア様にお譲りしたいくらいなのですが…こ、この本に関しては他にも求めていらっしゃる方が大勢いる故、なかなか…」
本音を言うと、私は1度読めば呪文も効果も覚える自信があるし、魔法の効果も実験を重ねてアレンジしちゃうから“いい魔導書”を手に入れる必要なんて無いんだけど・・・
「・・・」
「た、確かに“普通の魔導書”をお探しのフォニア様のご意向にはそぐわない物かもしれませんが、しかし…」
「これを逃すと、次はいつ入荷できるか…私共にも予想できなくて…」
そこなんだよなぁ・・・
上級魔導書は高価で貴重なため、一度手に入れたらお蔵入りされちゃうから滅多に市場に出回らない。目の前にあるこの本は、本当に掘り出し物なのだ。
「あの時買っていれば・・・」なんて、後悔したくないし・・・
「い、いかがで…」
買えない訳じゃないし・・・
「しょうか…」
・・・ま、いいか。
林檎です。
次回予告します。
次話「Chapter 022_」から物語が大きく傾き、1st Theoryの終話まで駆け抜けます。
フォニアもいっぱい戦います!
どうぞご期待ください!




