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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
22/476

Chapter 020_天使の契り

「・・・カトリーヌちゃん。・・・約束だよ?」

「…ひ、ひゃい!フォニア…しゃま………やくそく…///」



約束魔法(プロミス)は契約属性第1階位の・・・契約属性の中では唯一市井(しせい)に出回っている(約束魔法以外は奴隷商人ギルドが独占しているため学ぶのが難しい)魔法だ。

契約属性は8つの魔法属性の中で唯一、適性を問わず、魔力が足りて呪文とやり方が正しければ誰にでも行使可能と言われている。必要な魔力も少ないらしい。


やり方は簡単

製紙(本人が生み出す必要はない)を2枚用意して

①約束する相手の名前

②約束の内容

③自分の名前

をお互いに書き込み(直筆である必要はない)唱えるだけ。


魔法の効果としては、

①魔法を行使すると製紙が不腐(ふふ)(自然劣化しないこと。故意に破ったり燃やす事は可能)になる。

②約束を果たすと製紙が不滅(自然劣化しないし、破壊も不可能となる)

③約束の実現が不可能となった場合、紙が焼失する。


という1つの経過措置、2つの選択的な結果を製紙に与える。

不腐になった製紙には薄っすらと魔法印が浮かぶ。今、私の手の中にある製紙の表面にある紋様・・・透かしのようにほんのり輝きながらゆっくりと回っている・・・が、まさに“それ”だろう。

不滅とは名前の通り不滅だ。どんなに時間が経っても、強大な魔法の直撃を受けても絶対に破壊できない・・・らしい。製紙には魔法印が固定化され、永久にリブラリアに綴られる。

約束を破った時、製紙は普通の“火”による燃焼現象とは“異なる火”で焼かれ、灰のひと欠けすら残さずに燃え尽きるらしい。普通の火と違って延焼はしないけど、ちょっとだけ製紙と心が熱くなって、約束した本人はちょっとだけ火傷するんだって。


・・・もはや、物理云々(うんぬん)の問題じゃないよね。

それでもこの魔法はこの世界で、とても大切にされている。

おばあちゃんからも「大事な場面で、大事な人とだけ約束なさい」・・・って教えてもらった。


だから、今がその時だと思ったんだ・・・



「・・・欲しい?」

「もちろんですわ!!」

「・・・ん。」

「………はゎっ……………はへ?」


そして、これは魔法とは違うけど・・・約束魔法で使用した製紙をお互いに交換するという風習がある。

一種の儀式・・・かな。


カトリーヌちゃんに渡した製紙には、こう書いてある。



“カトリーヌ・ラレンタンド様

 あなたの体を必ず元通りに治します。

 離れていても、ずっと仲良し。

                  フォニア“



・・・こうやって人目に晒すのは、ちょっと恥ずかしいね。



「・・・カトリーヌちゃんのも・・・」


私が渡した製紙を眺めていたカトリーヌちゃん。

表情を変えずに長い間眺めていたので、声をかけると・・・



「………」

「・・・う?」

「…ほ、ほしい………ですか?」

「・・・・・・欲しいけど・・・」

「………………どうぞ…」


真っ赤な顔を途中で青くした(?)彼女は、いいと言いったものの・・・両手で製紙を閉じ込めて渡そうとしない。



「・・・」


それでも諦めず、じーー・・・っと見つめていると、



「…ど、どうじょ///」


数分後。ようやく決意が固まったのか、両手で作った秘密の貝殻を開けてくれた。

その中には小さく折りたたまれた、秘密の約束が・・・



「・・・ん。・・・ありがとう。・・・読むね」


それでは拝読・・・




「・・・」

「//////」


え・・・



「・・・・・・えっと・・・」

「ひゃ∀÷щ⊗≫ゃ⑨♂♀♢☆♀@しゅ…!!」


えっと・・・これ、マズくない?

あれ?



「・・・・・・あ、ありがとう。」

「ふにゅÅД―ηЮ♀れ~$±0~~!?!?!」


・・・あれ?



「・・・///」

「//////」


あっれー?


・・・

・・
















「ご、ご存じ…なかったのですか?」

「・・・ごめんなさい。」

「………そんな気は、していましたわ。」

「・・・本当にごめんなさい。」


カトリーヌちゃんから受け取った製紙には、ちょっとここには書けないような文字列が綴られていた。

一言だけだったんだけど・・・一言で、何千という人の命を奪った帝王の罪が許されるくらいの重みがあったよ・・・



「…今更謝っても無駄です。もう、魔法は発現されてしまいましたわ。」

「・・・」


そうだね。

カトリーヌちゃんから貰った製紙にも小さな魔法印が浮かび上がっているものね・・・



「…フォニア様。約束ですよ?…もうリブラリアに綴られちゃいましたから、取り消しなんて出来ませんよ?」

「・・・」


おばあちゃん。どうやらフォニアはやらかしちゃったみたいだよ・・・


リブラリアに綴られる・・・というのは、この世界に住む人々の世界観に因る言い回しだ。

この世界の人々は自分たちの存在・生活・空間・環境・思想・文化・文明・歴史・伝承・・・そういった、私達が言う所の【世界】のいち領域・・・は“文字として書き綴られたモノ”であると考えている。

そして、それらを寄せ集めた場所として図書館・・・リブラリアを想起し、それが異世界で言うところの【世界】に1番近い言葉だ。


ここで大事なのは、世界(リブラリア)という言葉に未来が含まれていない事。

異世界において【世界】という言葉には時間概念が含まれていないけど、リブラリアにおける【世界】という言葉は既に起こった事、既にある物を指すので・・・明確に過去を表すのだ。


つまり、リブラリアに綴られるとは、世界の一部になるという意味であり、同時に取り消せない過去になったという意味でもある。

約束を破り・・・不腐になった物を破棄する・・・とは即ち、世界の理を反故(もこ)にするという意味であり歴史を大切にするリブラリア人にとっては恥ずべき行為である。



「…フォニア様。その製紙に綴った私の気持ちに嘘偽りはありませんわ。…私は貴女様に救っていただいたこの命尽きるまで…いいえ、尽きたあともずっと…貴女様にお慕い申し上げます。私に出来ることは限られていますが…それでも!必ず貴女様の力になってみせます!…絶対ですわっ!!///」


重い。重いよカトリーヌちゃん・・・



「・・・・・・ありがとう。」


他になんて言えばいいのさ・・・



「ど、どうか…どうか忘れないで下さいね!お願いしますっ!」

「・・・願われなくても忘れないよ。」

「絶対ですよ!」

「・・・ん。絶対。」


なんて深刻なんだろうか・・・

これは後になって知った事だけど、約束魔法は婚姻の時や、死地に(のぞ)む大切な人と交わすものらしい。

要はそういう事である。

ここで「NO!」なんて言ったら乙女心を(もてあそ)んだ魔女以外の何者でも無くなってしまう。

同じ乙女として、それは避けねばなるまい・・・



「約束…ですよ?」

「・・・ん。・・・約束。」


・・・ま、いいか。



・・・

・・
















翌日は風の強い秋晴れの日となった。

東の彼方に微かに(そび)えるエチェンバルレ山脈から吹き降ろす強い風が、まるで彼女の背を押しているような・・・そんな日だった。



「それじゃあ…これで…」

「カトリーヌお嬢様っ!どうか…」

「「「「「お気をつけて―!!!!!」」」」」


「皆。本当に世話になったな。以後、よろしく頼むぞ!」

「会長っ!」

「「「「「勿体ないお言葉です!頼まれました!!」」」」」


治癒院の前にはカトリーヌちゃんが乗る馬車が3台止まり、お見送りのためにラレンタンド商会ルボワ支店の従業員の皆さん、ヒナ教会のみんな、さらに私の家族が集まり賑わっていた。

カトリーヌちゃんが寂しくないように、賑やかにお見送りしないとね・・・



「…ほら、これ。あなたのカルテよ。向こうに付いたら大聖堂のベルナデット・ラフォン女史(じょし)(たず)ねて、これを渡しなさい。ベルナデット様は私の師匠で…サリエルのお使い様(上級外科処置魔法(トリートメント)までのすべての治癒魔法を宿した治癒術師に与えられる称号)だから、あなたの足も診てくれるはずよ。ちょっとお金はかかるけど…間違いないわ。」

「あ、ありがとうございます!イレーヌ様っ!何から何まで…本当にお世話になりました!」

「…いいのよ。…しっかりね。頑張るのよ!!」

「はいっ!!」


「カトリーヌちゃんファイト!」

「頑張れぇっ!!」


「皆さま…ありがとうございますわ!」


治癒院は入院設備を備えているけど、実際に入院する人はごくわずか。仮に入院しても、数日の事が多い。

そんな中カトリーヌちゃんは2か月以上も入院したものだから、他の巫女さん達とも仲良くなった。

みんな、彼女との別れが寂しいんだ・・・



「カト…ちゃん!うるわしゅ―!!」

「うふふっ!…ロティアちゃんも。ご機嫌麗しゅう!」


お見送りにはロティアも連れてきた。

カトちゃんという呼び方はどうかと思うけど・・・カトリーヌちゃんも喜んでいるし、いいか。



「王都まで行くんでしょ?気を付けてね!」

「頑張れよ!」

「は、はいっ!ご母堂(ぼどう)様、ご尊父(そんぷ)様…ふ、不束者ですがよろしくお願いします!!気を付けます!頑張ります!!」

「…へ?」「お、おぉ…?」

「・・・き、気にしないで・・・」


両親も来るというので連れてきたけど・・・ちょっと失敗したかな?

でも、機会は少ないから・・・ね。






「…フォニア様。」

「・・・カトリーヌちゃん。」


荷物の積み込みも終わり、お父様に車椅子を押された彼女が最後の挨拶に来てくれた。



「…」

「・・・」


座った彼女と私・・・ちょうど、背の高さは同じくらい。



「また…会えますよね?」

「・・・もちろん。」


金と緑と青の混ざった彼女の複雑で明るい瞳が、私の黒い瞳を映す



「王都でお待ちしておりますわ…」

「・・・ん。必ず行くよ。」


私の黒い瞳にも、彼女の瞳が映っているはず



「………またね。私の天使様。」

「・・・またね。カトリーヌちゃん。」











「「(・・・)んっ。」」

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