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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
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Chapter 019_天使のお休み

「うふふっ。ふふふふっ!チェス―、チェスチェス~!!」

『フブッ!』


「きゃはっ!…行け―チェス!!かけあしかけあしっ!!」

『…』


「…むーっ。おねーさまぁ…!」

「・・・チェス。駈歩。」


翌日は綺麗な秋晴れとなった。

ちょうど家族が畑で種蒔きをするというので手伝う事にした私は、最近朝練以外で外に行く機会が無くなりイライラしているチェスを連れ出す事にした。



『ヒーヒュヒュンッ!!!』


『パカラッ、パカラッ…』

「きゃぁあぁ~~~~っっ!!はっやぁぁ~~い!!」


ようやく私を信用してくれたチェス。

ちゃんと指示も聞いてくれるし、妹を抱きながら乗っても暴れたりせず、すっかり私のパートナーになってくれた。

もっとも、今日は久々に連れ出してあげたから、はしゃいでいるだけかもしれないけど・・・



「あっ!こらー!!2人で遠くに行っちゃダメでしょー!!」

「・・・すぐ戻りまーす!」

「…もうっ!」

「ははっ。いいじゃないか…久しぶりなんだから。」

「ですねぇ…」


家族とはもちろん毎日家で会っているけど・・・こうやってのんびり過ごすのは本当に久しぶりだ。

ここ何か月も朝食は家族より早く摂って、すぐに治癒院に向かっていたし、夕食は治癒院で何か摘まんで家に帰ってから一人で食べていた。

今日は朝ごはんも、お昼のお弁当も、夕ご飯も、ぜーんぶ家族と一緒だ。

ほんとうに久しぶり・・・



「きゃぁぁ~~!」

「・・・そろそろ戻るよ?みんな心配しちゃう。」

「うぇ~?はーい…」

「・・・チェス。常足にしてUターン。」

『ヒュブブブブッ…』


『カッポ、カッポ…』


「・・・いい子ね。」

『ヒュフッ…』



「…ねー、おねーさまぁ。」

「・・・う?」

「明日もタネマキだよ…」

「・・・ん。」

「明日は…?」

「・・・明日は教会に行くの。」

「そっか…」

「・・・ん。」

「…そっ…か………」


『カッポ、カッポ…』


「・・・でも、明後日はお休み。」

「ホントっ!?」

「・・・ん。・・・一緒に遊ぼうね。」

「うんっ!なにしてあそぶっ!?!?」

「・・・んふふっ。ご本がいい?それとも・・・折り紙?」

「うーん…両方っ!」

「・・・ん!」


イレーヌが言っていることは正しい。

私はカトリーヌちゃんに依存しているんだ・・・多分。


それに、それが彼女の為にならないというのも本当の事だろう。

彼女にはこの先、世界最大の流通業者であるラレンタンド商会、商会長の1人娘としての輝かしい未来が待っている。

長く休んでしまっている学園生活も・・・待っている。


こんな所にいつまでも居ちゃ、駄目なんだ・・・



「ねぇ、おねーさま…?」

「・・・う?」

「おねーさまの、その…ケガした…おともだち…」

「・・・・・・カトリーヌちゃん?」

「…うん。」


ロティアに彼女の話をしたことは無いはず。

多分・・・お父様かお母様から聞いたのだろう。



「カト…ちゃん。…まだ、お家にかえれないの?」

「・・・もうちょっと・・・かな。」


『カッポ、カッポ…』



「…さみしいね。」

「・・・。」

「だって…カゾクに会えないんでしょ?」

「・・・カトリーヌちゃんのお父様が毎日会いに来てくれる。」

「おとーさまが?」

「・・・ん!」

「じゃあ、おかーさまは…?」

「・・・・・・お母様とは・・・まだ会えない。」


『カッポ、カッポ…』



「…さみしいね。」


『カッポ、カッポ…』



「・・・・・・・・・寂しいね。」


『カッポ、カッポ…』



・・・

・・
















……

………



「…フォニア様。」

「・・・う?」

「……お、お休みは…如何でしたか?」


翌朝…

フォニア様はいつも通りの時間にやって来てくれた。

もう、来てくれないんじゃないかって不安に思ったけど…そんなこと無かった。



「・・・家業の手伝いと・・・あとは、妹と遊んできた。」

「た、楽しかった…ですか?」

「・・・・・・ん。」


フォニア様と会えない日はいつぶりだろうか?

イレーヌ様からは、自分が休むように言って無理やり休ませたと聞かされたけど…


いずれにせよ、私が拘束していたせいでお休みを取れなかったのは事実だろう。

フォニア様は年下…子供である私から見ても子供だけど、とっても頼りがいがあって、強くて、魔法も凄くて、知識も豊富で、落ち着いていて、カッコ良くて、優しくて、可愛くて、時々お茶目で無邪気で、誰からも愛されていて…



「そ、そう…ですよね…」

「・・・」

「ご令妹(れいまい)様かぁ…可愛いんだろうなぁ………」


そんなフォニア様がずっと、私だけの相手をしてくれたのは…私が以前、彼女がお休みした日にグズったのが原因…なのだろう。

もしかしたら、お父様が何か言ったのかもしれないけど…


事故の事はあまり覚えていないけど、目を覚ましてから初めてお父様と再開した日。

私の手を強く握りしめながらベッドに頭を押し付け、いつまでもいつまでも…娘の私に初めて泣き顔を見せたお父様の姿を見て…

たっぷり時間をかけて、何度も謝りながら、私の動かない足の事を説明してくれたフォニア様の悲痛な顔を目の当たりにして…


事の重大さを知った。



「・・・カトリーヌちゃんさえ良ければ・・・」

「…うん?」

「・・・今度、連れてこようか?」

「ほんと!?」


だからこそ余計に、卑しい私は…………この天使を独占したいと思ってしまった。


可哀そうなヒロインを演じて、動かない足をことさら強調して…

そうすれば、優しいこの子が心配してくれると分かっていたから。そばに居てくれると知っていたから…



「・・・(うるさ)くしたらごめんね。」

「ぜーんぜんっ!ですわっ!!…むしろ、元気を分けてもらいたいですっ!!…あぁっ!フォニア様のご令妹様っ!!お会いするのが楽しみですわっ!!」

「・・・妹も喜ぶ。」

「はいっ!これでっ…これ…で………」


そう…

悪いのは全部……私…



「これで………こ、これで…こ、心残り…っなく………かっ、帰れますわっ!」

「・・・うっ!?」


だから、こんな嫌な役目をフォニア様にさせるわけにはいかない。

最愛の彼女を悪者にするわけにはいかない。


我儘で甘えん坊で、唱えた通りにしようとしたのは私…なのだから…



「しゅ、出発は…明日…ですの。」

「・・・明日!?そ、そんな・・・急にどうして!?」


昨日…フォニア様がいない間にお父様と、イレーヌ様と巫女長のサンドラ様を交えて今後のお話をした。

イレーヌ様が言うには、私はもう退院できるくらい回復しているとの事。

お父様は好きにしていいと言ったけど…本当は王都に帰りたいはずだ。

そしてサンドラ様は何も言わず、ただ黙って微笑んでいらっしゃった。


だから…



「・・・イレーヌに言われた!?それとも・・・」

「ち、違いますわ!私が…自分で決めたんですの!…イ、イレーヌ様にも焦る必要は無いって言われました。お父様には無理を言いましたわ。でも…」


だから私は他でもない、天使様の事を思って決めた。

彼女はこの先、きっと…絶対っ!凄い人になる!


他の魔女様たちよりもっとずっと、すごい魔女になって、全てを唱えた通りにしてしまう!!

本当の天使様になって、数えきれない人を救うに決まっている!!

そして、私が想像もできないような凄い事をして………



「………で、でもっ。いつまでもこんな田舎にいるわけにはいきませんの!学園にありますし…」


リブラリアに綴られる!



「・・・それは・・・」


だから…



「お父様も王都でのお仕事が溜まっているようですし、早く帰らないと…」

「・・・」

「それに、お母様にも元気になったって………さっ、最高の治癒術師様を…天使様を…小さな魔女様を見つけたって!ご報告しないといけませんわ!!」


………だから。











「・・・約束」

「…え?」

「・・・カトリーヌちゃん。約束する。必ずあなたの足を治してみせる。この瞳にかけて、唱えた通りにしてみせる。それが理だって・・・証明してみせる。」

「…っ…」


フォニア…しゃま…



「・・・だから約束しよう。紙を介して。」

「ええぇっっ!?!?」


か、紙を…介して!?

本気で…言ってるの!?



「・・・すー『理の願い』ヴァージンリーフ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん。・・・カトリーヌちゃんは・・・嫌かな?」


い、嫌な事なんてこれっぽっちも無いけど………

そんなことされたら、想いに歯止めがかからなくなっちゃうよぉぉ~…


うぅ~うぅぅ~~~!!



「い、嫌なわけ…無いじゃないですか…っ!!…す〜、『理の願い』ヴァージンリーフ。………………こ、これ…で…」


わっ!私のバカぁ~~~!!!

無意識に何やってるの!?!?

フォニア様とお別れするという決意はどこへ行った~~~!!!



「・・・じゃあ・・・いくよ?」

「はっ、はいっ…」


「「(・・・)せーの、『(ゆわ)いて綴る』プロミス」」



と、唱えちゃっ…たあぁぁ…

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