Chapter 020_因果応報
着想は:
ショパン作曲
「幻想即興曲」
「なっ!?ど、どうしてテメーが!?」
なにが・・・何が起きてる?
「っ…おねぇさまぁっ…っ…いやぁっ…」
あの時に似ている。
自分に似た誰かが理不尽な暴力に晒されている様を
少し離れて眺めているような・・・
「黙れガキがぁ!!」
「きゃぁっ!?」
「ロティア!?」
でも、暴力を受けているのは私じゃない。
大事な私の・・・わ、私の!
やっと見つけた 私の家族っ!!
「おぉっ…とぉ…う、動くなよ魔女!?テメーが動いたらこのガキは…」
「うっ…ぐっ…」
私の代わりに・・・私のせいでっ
妹が・・・
「・・・」
「…そ、そうだ!そのまま…ま、前を向いたまま後ろに下がれ!!」
「・・・」
「おっと!唱えるんじゃねーぞ!!ちょっとでも喉が動いたら…コイツの腹に、もう一本、ナイフを挿し込んでやるからな!!…そっちの奴隷のガキもだ!!」
「にゅ…」
だ、大丈夫・・・ヤツはまだ、
床を這ってベッドの下に潜り込んだヒュドラに気付いていない・・・
「うぐっ…ひぐっ…お゛、ぉねぇしゃっ…」
「うるせぇ!!黙れや!!」
「あぎゅっ!?っ…ゅっ………」
「・・・っ」
待っててロティア!
いま、お姉ちゃんが・・・
「よ、よーし…。そのまま…こ、この轡をハメろ!」
ソイツはそう言うと、手元に用意していたらしい・・・血の着いた轡を投げてよこした
「オラッ!早くしろっ!!」
「・・・」
い、今は・・・
ロティアが人質に取られている今は従うしかない。
でも・・・
「どうした!?妹が死んじまうぞ!!?」
あ、あと・・・すこ・・・
「・・・」
今だっ!
「ヒュドラ!!」
・・・と叫ぶつもりでヤツを睨みつけると!
「…お?おまっ!?」
『ブシャァァ!!!』
「んなぁ!?あがっ!!?」
ベッドの後ろに回り込んだヒュドラが
ヤツをベッドから引き摺り落とし絡まった!
「ヒュドラ!!そのまま固体化!!逃がすな!!」
『シュルルゥッ!!』
あの時の決着・・・ここでつけてやる!!
「すー・・・」
覚悟しろ!!
「『リブラリアの理第7原理 綴られし定理を今ここに』」
「んなっ!!クソっ!」
「『罪人よ 両手を合せて頭を垂れよ』」
「は、外れ…ねぇっ!?」
「『それは究極の治癒 遍く苦痛からの解放』」
『ブシュルルルゥ!!』
「『その身に積もりし数多の咎 我がひと振りで刈り掃う』」
「ご、ご主人様…い、妹…様が…」
「『眠りを誘う鎮魂歌 理からの堕落』」
「…」
「『両手を刃に添えて 祈り込めて唄う』」
「クソっ!!魔女のクソッタレがぁぁ!!!」
泣き叫ぶがいいっ!
あの時出来なかった復讐・・・この恨み!!
ここで晴らしてやる!!
「・・・レクイエム!!
・・・んふふふふふふふふふふふふふふっ!!!」
勝った!!
「んなっ!?ぎ、銀の…魔法印だと!?」
中空に現れたのは三日月形の 銀の魔法印
「お喚びですか?…マイロード。」
召喚したのは・・・
癒しを齎す銀の翼
眠りへ誘う銀の鎌
夜の衣をまとい
漆黒の光輪を携えた私の僕
「・・・サリエル!!全員殺せ!!」
「…イエス、マイロード。…理のままに。」
サリエルは恭しく頭を下げ
「…では早速」
そう言うと
「なにっ!?」
ヤツの瞳の前に転移
そして
「…ふふふっ。」
慈悲の鎌を
軽くひと振り・・・
「っ!?…てぇ……………」
「…お休みなさい」
それだけ・・・
だった。
「…ではロード。周りも刈って来ますね?」
「・・・ん。」
銀閃を残して消えたサリエルの向こう
窓の外には
夜で満ちた世界に死の細い月が・・・
『…』
「・・・」
世界を跨いだ私の復讐は
静かで・・・空虚な。
夜に包まれながら、一閃の下に成就したのだった・・・
「ご、ご主人様!!妹様が!」
「・・・!!!」
シュシュの叫びが耳に届いたのは、その直後だった
「ロティア!!」
慌ててベッドに駆け乗ると・・・
「っ!?」
裸で。
両手首をナイフで磔にされ、両脚の腱を切られ
「ロティアッ!!」
血塗れで、
首筋にドス黒い蝶を刻んだ・・・
「…」
開いたままの眼孔
半開きで泡を吹いた・・・
「ロティアーーッッ!!」
診断するまでも無い。
最愛の妹の・・・
「すー『リブラリアの理第7原理』!!」
い、急げ!!
そんなはずは・・・そ、そんなことは!ない!!!
させないっ!!
「『綴られし定理を今ここに』」
あぁっ、なんて事なの!?
「『それは光 瞳に映りし原初の光』」
なぜ!?なぜもっと早く気付かなかった!!
あんなヤツ放って、この子のそばに駆けよらなかった!?
「『いま一度の光をここに 終に射し込む目覚の光』」
まだ・・・まだだ!!
絶対に唱えたとおりにしてみせる!!
こんな事、あってなるものか!!
「『両手で注いで 祈り込めて呼び覚ます』」
理は瞳にあるハズだ!!
「ブレスッ!!!」
治癒属性第8階位 蘇生魔法は文字通りの効果をもつ魔法だ!!
発現と同時に包むようにした両手に、タプタプとした光る水が生み出される。
「ロティア!ほら、飲んでっ・・・ひぐっ・・・ほらっ!!」
それを彼女の、開きっぱなしの口に注ぎ込む・・・と
「ヒャグッ!?!?」
「ロティア!!」
跳ねるように、身体を大きくのけぞらせた!!
慌てて抱きとめ
「ロティア!ロティアッ!!」
その名を呼ぶ!
「お…ね…………」
「ロティア!!」
僅かに動いた唇に、瞼に
力いっぱい呼びける!!
「………」
・・・
「・・・う?・・・ロ、ロティア!?ロティアッ!!」
「…」
「・・・ロ・・・ロティア?」
「………」
「・・・ロ、ロティア!!・・・ねぇ、起きて!起きてよロティア!!お姉ちゃんはここだよ!!助けに来たよ!!起きてロティアァ!!」
「…………」
そ・・・
「そ・・・そ・・・そ、そんなはずは無い。呪文は間違っていない。イマジネーションも完璧。魔力量も最適だった!!なぜ!?何故だ!?そんな筈ない!!」
「…」
「起きて!!ねぇ起きてよロティア!!お姉ちゃんを困らせないで!!お願いだから・・・いい子だから!!さぁっ!!」
「…」
「うそ・・・うそっ!!うそうそうそうそうそ!!だって・・・だって!!」
「…」
「っ・・・すー『リブラリアの理第7原理 綴られし定理を今ここに それは光 瞳に映りし原初の光 いま一度の光をここに 終に射し込む目覚の光 両手で注いで 祈り込めて呼び覚ます』
・・・すー ブレスッ!!!」
「ヒァグッ!!」
「ロティ!!」
「ッ…………………………………
」
「ア・・・っ。・・・う、うそ。うそ!!嘘だ!!すー『リブラリアの理第7原理・・・』」
「ご、ご主人様!!?」
「『・・・祈り込めて呼び覚ます』ブレス!!」
「………」
「起きてっ!!ねぇ、起きてよロティアッ!!すー、り、、、『リブラリアの・・・』」
「ごしゅ…まっ!!」
私はもう、必死で。
他に何も思い付かなくて
「ブレス!!・・・ブレスブレスブレスッ!!起きてっ!!お願いっ・・・お願いだからっ!!」
何度も何度も何度も何度も
「ブレスッ・・・っ・・・ロティアァァ!!お、お願いっ・・・ひぐっ・・・い、いい子だからっ!!」
唱えて
となえて
トナエテ
「ブレスッ!!」
「 」
「ッ・・・・っっ・・・」
ヒナ様に
天使に
カミサマに
理に
祈りを込めて・・・なのにっ
「ブ、ブレスッッッ!!!」
「 」
「ひぐっ・・・ロティァ・・・あ、あぁっ。あぁ〜〜〜っっっ!!!!」
なのに・・・・・・
・・・
・・
・
「・・・い、今ひとたびの・・・ひ、ヒカリ・・・を・・・」
「…ただいま…ロ、ロードッ!?」
「・・・こ、ここ・・・に・・・」
「ロード!!しっかり!!」
「・・・・・・・・・う?」
「ロード!!お気を確かに!!」
「・・・・・・うっ・・・う?・・・しゃり・・・エル?」
魔力も声も枯れ始めた頃・・・
見慣れた天使が目の前で銀光を放っていた・・・
「はい!貴女の僕です!!大丈夫…では無さそうですね?ただいま治癒を…」
「・・・チ、チユ・・・ちゆ!?そ、そうだ治癒だ!!」
「は?」
「サリエル!!私じゃ無くてロティアを・・・こ、この子!・・・な、治しっ・・・お願いよ!!」
「この……」
サリエルはベッドへと視線を移し・・・
「子…………………」
慈悲に満ちた瞳になって…
「………ろーど。」
私に・・・
「・・・ぅ?」
振り返って・・・
「…一緒に唱えましょう。理の歌を…」




