Chapter 014_手段と目的
「うそ・・・でしょ?」
カレント2,184年 星火の月 30日 天気は曇り
「…」
「・・・なんとか言え!」
「…い、言った…とお」
「ふっ・・・ふ、ふざけるなっ!!」
「ぎゃっ!?」
・
・・
・・・
朝。
私のいち日はローズさんの口付けで始まる。
けど・・・今日はいつもと違い
シュシュが胸に収まって、シッポでシーツをパタパタさせながら
満面の笑みで私を見上げ、そして言った。
「おはようございますご主人様!!…ね、ねぇ!シュシュ…が、頑張りましたですっ!褒めて…ほしぃ…」
事情はよくわからないけど・・・
ベッドサイドのローズさんは不満気ながらもシュシュを許していたので・・・
とりあえずモフり
ほっぺにチューして
不満を2割増しにしたローズさんにワケを聞くと・・・
「…夜中に間者がお嬢様を襲おうとして…シュシュちゃんが、それを捕らえたそうです。」
「・・・う?かんじゃ・・・患者?」
「スパイの方ですっ!」
「・・・間者?」
「はい…。犯人は第14分隊分隊長のグレース様だったそうです。シュシュちゃんが与えた傷を治癒したところ、大人しくなって自白したとか…」
「・・・・・・・・・う?」
なにそれ?映画?
「その件で、ジュリアン部隊長が相談したいとのことです。朝食後に参りましょう。」
シュシュが。スパイを・・・
「ゅふぅ〜…れふぅ〜………♀///」
ほっぺにチューしただけでメルトダウンするこの子が・・・?
「・・・」
ち、ちょっと想像し辛いけど・・・
とりあえず
「・・・ん。」
話を聞かない事には始まらない
「はいっ!…では、お嬢様。さっそくお支度を…シュシュちゃん!聞いていたでしょ?お嬢様はお着替えなの!!退きなさい!!」
「にゃへ〜………?」
「ちょ///…い、いつまでソコにいるつもり!?いい加減にしないと怒るわよ!?」
「ふにゅ〜…柔らかぁ、ぬくぬくぅ………////」
「あんっ・・・シュシュ。あんまり擦っちゃメ。」
「にゅふふふっ…だってぇ///」
「ひゃっ///・・・も、もぅ・・・いけない子。」
「あぁ、もうっ!ウラヤマけしからんっ!!替わりなさーいっ!!」
・・・
・・
・
「はぁ、はぁ・・・」
感情のまま間者に殴り付けた私・・・
「ぐっ…」
「っ!・・・こんのぉっ!」
「ま、魔女様っ!落ち着いて下さい!!」
ふたたび振り上げた腕を取ったのは、
ジュリアン部隊長だった
「!・・・じゃ、邪魔しないで!」
「ま、待ってください魔女様!!」
「そうです!魔女様が手を痛める事は有りません!!」
さらにローラン分隊長が間者との間に入り、痛んだ右手を包んでくれた。
そして・・・
「…離せ。」
「え!?あ…」
「ま、魔女様の天使様…」
「ロード。御手をお預かりしますね…」
サリエルが現れ、
ローラン分隊長が掴んでいた、折れた手を・・・
「…コ、コイツにはタップリと代償を払わせます!ですから…」
「い、今は…こ、これからの事を!」
「…さぁ、ロード。これで元通り。」
・・・それで少し落ち着いた私は、
「・・・」
瞳を閉じて暫し考え。
そして・・・
「・・・すぐに出発します!」
唱える。
・・・
・・
・
「・・・すー『空を切り裂く銀よ 父より身を投げ遥かまで 母を飛び越え彼方まで 翼拡げて遠く遠く 今一度の逢瀬を信じ 翔けろ』シルバーウィング!」
『パチィンッ!!』
間者が齎した情報は2つ。
まず1つ目はラエンを襲った第2部隊の目的地
この国最大の領地である【エンス・オー・プリヴェンス】領・・・だ。そうだ。
目的は国王派とは一線を介すエンス派の長、エンス領の領主 シャルル公爵と結託してこの国を内から外から乗っ取ろうというもの。
エンス領が敵に回れば必然的に、国の2割を占めるエンス派領主も敵についてしまう。
中立派の領主もそうするかもしれない。
ラヴェンナ本国が攻め込んでいるこの状況で、もし、そうなれば・・・
エンス派はもともと、国王派とは仲が悪い。
けど、ラヴェンナ王国と結託しようと考えるほどでは無かった(エンス派からしてもラヴェンナ王国は敵)はず。
なのに、何故・・・?
ラエンを執拗に攻撃したのは、道中にあって邪魔だから・・・という事の他に、他の領主に向けて「自分達に逆らうとこうなるぞ!」というアピールの目的があったそうだ。
つまり見せしめ。
確かに効果的だろう。
けど、だからと言って・・・
よくもっ、友の故郷を・・・
エンス領主は“何らかの条件”と引き換えにラヴェンナ王国と共闘するという、
【紙を介した契約】(契約魔法を行使している。という意味。)をしているらしい。
第2部隊がエンスを目指すのも、その契約が果たされる為の条件だそうだ。
「なぁ!?」
「な、何だこれは!!?」
「…随分大っきい鳥さんですね?お嬢様?」
「鳥ぃ?ねぇ、ご主人様。この黒いの…鳥さんなんです?」
「・・・スピリット・オブ・レイブン。・・・空飛ぶ砲台よ!」
敵の第2部隊をエンスに到着させるワケにはいかない。
スグに対処しないと!!
本当なら証拠となる契約書や、敵部隊の隊員を生け捕りにした方が
スマートなんだろうけど・・・
「・・・レイブン。スクランブル発進!」
「…いえす。ますたぁ。カウント1分前…」
「・・・40秒で支度なさい!」
「い、いえす!…がんばるっ!」
そんな余裕・・・ないよ!
「・・・この魔法で敵の第2部隊を超遠距離攻撃します。」
【スピリット】は異世界でも珍しいΔ型の全翼機
ステルス戦略爆撃機だ。
ラプターのように音速は越えないし、空中格闘戦も苦手だけど・・・
航続距離が段違いに長いうえ、1万m以上の超高高度から爆撃を行うために高精度計器を沢山積んでいて、敵部隊の発見・即時爆撃に適している。
「こ、この魔法で。と、言われましても…」
「敵部隊は少なく見積もっても、数十km以上離れていますよっ!?」
「・・・この鳥の航続距離は1万kmを越えます。何の問題もありません。ジュリアン様とローラン様は後始末をお願いします。」
「い、いちまん。“キロ”…」
「後始末!?ま、魔女様はどうなさる…」
そして
間者が齎した2つ目の情報・・・それは
「・・・無論。ルボワへ向かいます!!」
故郷、ルボワの危機だった
「し、しかし…」
「ここからルボワまでは馬でも12日以上かかる道のりです!?い、今から向かっても…」
「あ、あの女が言った事が本当かどうかも…」
「それでも行くしかない!!」
ラヴェンナ王国は密かに
ルボワへ小部隊を派遣していたらしい。
目的は・・・“私への”囮と、見せしめ。
・・・私がエディステラ入りしたタイミングでルボワの情報を広めて誘い出している間に
エンス派連合軍とエディステラを攻め
さらに、ルボワについた私に見せしめを・・・
・・・ふざけるなっ!!
「・・・ごめんね。チェス。無理させちゃうの・・・」
『ヒーヒュヒュンッ!!』
「お任せください!…だ、そうですよ!ご主人様。」
「・・・ありがと。」
『ヒュブブブッ…』
「シュシュもご一緒しますです!!」
「勿論、私もですよ!お嬢様!!」
「・・・2人もありがと。」
本当なら【虹越え】で、すぐ向かいたいところなんだけど・・・
あの魔法は“晴天時の日中・屋外”でしか行使できないという条件が付いている。
ついでに、術者である私ひとりしか運べない。
レ・マスティからエディステラへ向かうときは良かったけど、今は・・・
「・・・レイブン。敵部隊を発見したら即時攻撃。核攻撃以外の全ての武装行使を許可します。無力化したら直接、私の元へ帰還。私の判断を待つ必要はないけど・・・報告は逐次。」
『…いえすだよ。』
「・・・お願いね!」
『…願われました、ますたぁ!…テイクオフだよっ!』
「・・・いってらっしゃい!!」
『…ますたぁも!ぼんぼやぁ~じゅ!』
レイブン(ちなみに、【レイブン】というのは私専用機であるスピリットのパーソナルネーム)はラプターと同じく高精度A.Iを搭載している。
確実に敵部隊を無力化してくれることだろう
「ちょっ、ちょっと待ってください魔女様!!」
「て、敵部隊は…それに!魔女様おひとりを行かせるわけにはいきません!!」
「・・・ご心配には及びません。レイブンは確実に敵部隊を無力化してくれます。唱えた通りに。・・・瞳に誓って。」
「うっ…ひ、瞳に…」
「そう。言われてしまうと…」
「・・・では失礼します。・・・チェス!駈足!!」
『ヒーヒュヒュンッ!!』
「にゃんです!!」
「お、お嬢様ぁ!?ま、まってぇ!!」
今は
一刻も早く!!!




