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Chapter 013_シュシュの静かな初仕事

父様。私はアナタを恨みます。


あの時、アナタがあんな下らない契約をしたばっかりにこんな事になったのよ?

しかも任務の途中で下らないミスをして娘の私にそのツケを払わせるなんて…


アンタなんて死んで当然よ。



「準備よしっ…と。」


母様。アナタのことは勿論、大っ嫌いよ。


何が不良娘よ?元はと言えば、誰のせいで“こう”なったと思っているの?私も…そして父様も。巻き添えを受けた被害者よ。


アンタこそ、死ぬべきよ。



「この任務が終わったら殺しに行ってやるんだから…」



はぁ…

それはそうと…先程。


拷問を受けた残兵が第2部隊の目的地を吐いてしまった。

裏切り者はもちろん。これ以上余計な事を言わなくていいように、楽にしてあげたけど…このままでは明日の朝。魔女も知る事になるだろう。

“あの”魔女が知れば、きっと…



「さすがの私も、あの年の女の子を手にかけるのは気が引けるけど…」


…でも。

今なら隊長が言った言葉の意味が分かる。

「…いいかぁ!?魔女はバケモンだ!チャンスがあれば躊躇スンナ!でなきゃ…ヤラれんのはコッチだぜ!」

…と。


その実力を目の当たりにした今なら…



「…よし。」


行くか…


………

……






……

………



「み…」


来た…



「…んしょっ。うみゅう…ふとみょみょ…///」


ご主人様は寝ている時いつも、

抜け出そうとするシュシュを逃がすまいと腕と脚を搦めてくる。


そのたびにシュシュのお胸はキュッとして、

体中がハワヮッって熱くなって、お腹がクチュッとなって…

このまま身を委ねたいって思っちゃう…


シュシュは学んだのだ!

こういうのを【蠱惑的】って言うんだって!!



「…よいしょっ…と。」


で、でも…ここでその誘惑に負けちゃったら

ご主人様のお側には居られない。


命からがら夜の抱擁から抜け出して

預けられた2本のナイフを腰に佩いて


最後に、愛しいベッドを振り返り…



「…行ってきます。ご主人様………」

『パタンっ…』


………

……






……

………



「…」

「…」


曲がりなりにも魔女の従者(ペット)か…



「…ねぇ。狐ちゃん。そこを…」

「…刺突剣1本。投げナイフ6本。薬瓶2つ…」

「…」


感覚が鋭いのは分かっていたけど…


これほど…か。



間者として仕事をしている私だけど、曲がりなりにも隊長の部隊で仕事をしている身だ。気配を消す事に関してなら自信がある。


魔女のように姿形を完璧に消さずとも、闇に紛れて物陰に身を隠せば大抵の場面はやり過ごせる。

今夜みたいな、厚い雲に覆われて月も星も陰る夜なら尚の事。


ほとんどの人は、“いない人物”を見つけ出そうと思わないから…



魔女の唱えた影包魔法は確かに魔法の極致で、完璧なモノだったけど…

気配察知に敏感な獣人は逆に、“なにもなさすぎる事”に違和感を感じるらしい。

本人たちはそれを上手く説明できないみたいだけど…

行くところに行けば、そういう知識は学べるものだ。


だから、それに従って…不自然にならないように。

最新の注意をもって振る舞ったハズなんだけど…



「中身は…すんすんっ…“火”みたいな…香り?なにをするつもりか存じませんが…いずれにせよ。ご主人様が目覚めてしまったら大変です。ここは通せません。」

「…」


魔女め…いいペットを連れている。

これはもう、技術とか知識以前の問題だ。



「…魔女様に言付があるの。会わせて…」

「ご主人様はご就寝中です。その眠りを妨げる事は出来ません。誰にも。…言付ならシュシュがお受けいたします。」

「…あなたじゃ駄目よ。本人に直接…」

「朝食後にしてください。」

「…奴隷のくせに生意気ね?」

「…【(つるぎ)】ですから。」

「っ…」


少々、甘かったか…



「…どうか、お静かに。お下がりください。」

「ふ~ん…。…もし進んだら、どうなるのかしら?」

「…シュシュはご主人様から抜刀を許されています。」

「…」


魔女は比較的無事だった宿屋の一室(領主邸はじめ、貴族の家は使えないほど荒らされていた…)を使っている。


廊下は狭くて武器を振るうには適さない。

相手の獲物は小さな体に似合わない大きなコンバットナイフ2丁。


か…



「…」

「…」


なら、小回りの利くこちらが有利だ。

…獣人とはいえ、小娘ひとりの相手くらい私でも…



「…」

「…」


だ、大丈夫…

獣人の身体能力は人間を大きく超えるって言うけど、こんな子供じゃ実戦経験だって無いはずだ。


まったく隙なんて無いし…廊下が狭いから回り込むことも出来ないけど…

ふ、普通に正面突破できるはずだ!



「…」

「…」


こうなる事も考えていたから、直線戦闘に特化した刺突剣を用意したんだ。

唱えた通りだ!

分はこちらにある。



「…」

「…」


大丈夫!


これまで何人もの巨漢をこの手にかけてきただろう!?

今更…こ、小娘ひとりに怖じ気づいてどうする!?

あんな小さな身体から発せられる殺気に気圧されてどうする!?



「…」

「…」


今更引く事なんてできない!

やるしか無いのよ!!



「…」

「…」


今更…


………

……











「…分かったわ。」


そ、そう…



「…」


そうだ。



「残念だけど…ま、魔女様とお話するのは明日にしましょう。」


何も私が命をかける必要なんて無い…

な、無いじゃないかっ!



「…そうですか。良かったです。」


わ、私はまだ…ま、まだ。

まだ何もしていない。


こ、この獣人の小娘もそう思っているはず。

だから自分から攻めて来ない。

“主人の為にならない”と理解しているから…



「え、えぇ…そ、それじゃあ。オヤスミ…」


ち、ちゃんと部隊に情報は伝えた。それでジュウブン…そ、そう!

私は仕事を…





















「…あぁ、それと。あなた様が放った小鳥…


…銀の翼は。

捥がせて頂きましたので。」






えっ…











「こんな夜中に困りますです。羽音でご主人様が起きてしまったらどうするおつもりですか?」


ま、まさか…



「…もちろん。魔法核となっていた銀勲はお返しします。ですが…」


ど、

どうし…て…



「“お手紙”の方は…預からせて頂きますね。」


獣人の小娘はそう言いながら、ポケットから大きな傷が刻まれた銀勲と、小さく丸めた紙片を取り出し…



「…どちらもあなた様の物で間違い有りませんね?…もっとも。魔力の特徴を見れば誰の瞳にも明らかなのですが。」

「…」


紙片だけを、再びしまい…


「ご主人様はご就寝中なので、ジュリアン分隊長様にご検分頂きましょう。ご同行お願いできますか?」

「…」

「…さぁ…」

「…」

「…」

「…」

「…」

「…っ!!!」


利き足を!

全力で!!

踏み込んだ私はっ!!!



「せえぇ…っ!!!」


袖に隠していたスティレットをマェ





「にゅ…」


………











『…ッ』

「ぐっ…」


その瞬間だった…



「…だから。静かにして下さいと言ったでは有りませんか。」


「な゛、な゛に゛ぃ…」

「…お静かに出来ないのでしたら。次は声帯を斬ります。…にゅふふっ。大丈夫。“どう”やればいいのかはご主人様から聞いています。声帯の筋“だけ”を斬っておみせます。お話はできなくなってしまいますが…死にはしませんよ。」


小娘は私の瞳を獣の瞳に写し

右手のナイフを、“この”首に押し当て

そう言った…



「っ…っ…、、、」


『つー…』っと。

生暖かいドロッとした何かが首筋を伝い…



「っ…、…」


その、あまりの恐怖に

叫ぶことも、息をすることすら…



「…そう。それで良いのです。下手に動くと食い込んで痛みますよ?…魔女様が魔法で砥いでくれた特別鋭い刃です。ちょっと触れるだけで容易く…」


そしてその左手には、

刃の全てを私の右胸に(うず)めた…


こ、このっ…この感触は…

せ、背中。までっ…



「…肺を貫きました。太い血管は避けましたから…動かなければ。抜かなければ…痛みで立っているのも辛いでしょうが…ひと晩くらいはそのままでも死んだりしません。」



た、助け…


「…もしかしたら、お優しいご主人様が治癒してくださるかも知れません!良かったですねっ!」


本当に嬉しそうに笑うその瞳には…もう、私なんて映っていなかった。

ここにいない…彼女の心と体を蝕んだ夜だけが。



「…にゅふふふっ!ご主人様ぁ///…シュシュ、うまくやったよ!撫でてっ!抱いてっ!!いっぱい褒めてぇ!!!」


その瞳を満たしていた…

シュシュたん

こわゎぁ・・・

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