Chapter 011_リアン奪還戦②
決戦の朝。
太陽が
赤から、我が国の色…“金”に変わった時。
「筆に遅れをとるなぁ~っ!!とっ、つ撃ぃ→!!」
「「「「「フラァァーーーーッッ!!!!」」」」」
戦いの序文が綴られた!!
『『『『『ウオォォォーーーーーッッ』』』』』
私の軍が動き出すと、彼の軍も一斉にこちらへ向かってきた!!
特に…
「うおぉぉぉーーーーっつ!!」
歩兵を置き去りに。
私に向かって一直線に突っ込んで来る騎士様の一団がいらっしゃるではないか!
「…あらあら、まぁまぁ!」
元気な事だ!
直系の…おそらく、序列4位である“師父の犬”…隊長様に命令されて、
無残に命を散らすというのに。
張り切っちゃって…
…かわいそっ!
せめてもの救いに、私のアメちゃん(【晶棍アメジスト】)で、
名誉の戦死を…
「お゛お゛ぉ゛ぉ゛ーーーーーッッ!!」
…と。
思ったんだけど…
「まぁじょぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ーーーーーーーっっ!!」
血走った目に決死の形相。
涙と鼻水ダクダクと…
「うわぁ…」
言っちゃなんだけど。
引くわぁ…
生理的に受け付けない。
近づきたくない。
「…すー」
という訳で予定変更!
「…『龍よ目を覚ませ』
唱えちゃえ!!
『天より奪いし力を示せ』
「っ!み、みな離れろ!距離をとれぇ!!!」
「姫様が唱えるぞぉぉぉーーー!!」
『八千代の時を耐え忍び 冥府の谷を黄金に染めろ』
「「「「「イエッサーッッ!!!!!」」」」」
『咆哮は一瞬』
「魔女ぉぉ゛ォ゛ーーーかぁくゴォおおおーーっっ!!!」
『静寂は永久』
「くるぞぉ!!耳塞げ!瞳逸らせ!!馬押えろぉぉ!!」
「『放て』サンダーバレェーーー!!!」
完唱と同時に馬を急停止させ、発動子を前に突き出すとっ…
『ドオォンッ!!』
『『『『『ギャッ!?』』』』』
例の敵騎士の両側に!
魔法印の発現とほぼ同時に、真っ直ぐな2本の壁が立ちはだかる!!
この魔法はこの壁自体も攻撃になるけど…
「さぁ〜、イクわよぉ!!」
ここからが本番っ!!
一瞬で終わっちゃうから、よーく見とくのよっ!
「放てぇーっ!!」
…ま。
眩しいから!
私は瞳を閉じちゃうんだけどねっ☆
『ダガァァァァーーーッッンンッッ!!!!!』
土属性第7階位 雷谷魔法…
この魔法は地面から平行な2つの壁を生み出し、その間を雷で満たして敵を焼切る…致死率“ほぼ”100%の攻撃魔法だ。
効果範囲を幅十数m、長さ数十mの一直線にしか出来ないものの…
土魔法の中では最速に近い発現時間を誇り、
かつ、非常に高い致死性を有する一撃必殺!
大きな音と閃光で、威圧感も凄いしね!
「ふぅ…」
前回は万象の君にお願いしたけど…
初戦の第一撃は、相手の戦意を挫く重要なモノ。
だから絶対にハズせない!!
「…ふふふふっ。母なる大地にお還りなさい。」
もちろん結果なんて…
唱えた通りに決まってるでしょ?
壁の間には数え切れない敵兵が、獣人が。そして馬が…
『プスプスッ…』と。
煙を上げて倒れ伏していた。
「なっ、何が…何が起こったと言うのだぁぁっ!」
「あぁ、あぁぁーーっ!!!」
「ぐっ…め、目がぁぁっ!!?」
周囲の敵兵も足が止まり、
目や耳を覆ったまま悶え、
半狂乱になって叫ぶ者もいる。
馬が驚き落馬した騎士も少なくない。
「スッゲ…」
「こ、これが陛下の…」
「オレ達の…け、恵土の魔女様のちから…」
この魔法は効果範囲が限定的…という事は、
相手を“絞りやすい”…要するに“理論然”としている。
だから当然、わが軍に被害なんてない。
『ヒーブフフフフッ!』
「ど、どうどう!落ち着けっ!」
けど、魔法に合わせて足を止めさせちゃったし、驚き嘶く馬もチラホラと…
だ・か・らぁ!
「ほーらみんなぁ!?ボーっとしてると手柄を全部とっちゃうぞっ!」
兵たちに振り返って…
「…綴られたければ走れっ!戦えっ!!エディアラの騎士たちよ!!」
鼓舞をする!
「いっくぞぉ→!!!」
「ひ、姫様に続けー!突撃ぃーーーー!!!」
「「「「「フラァァーーーーッッ!!!!」」」」」
この戦い…
敵軍の目的はおそらく、“時間稼ぎ”だ。
獣人や一部の兵に私達の相手をさせ、
本隊はゆっくり後退するつもりだろう…
「く、食らえ魔女ぉぉ!」
「させるかぁぁぁ!!」
「ぉぉぉ…って!?ぎゃっ!!」
「…陛下に近付かせるものかぁぁっ!」
わが部隊に紛れ込んだ間者は粗方片付けた。
あの女に色仕掛けで籠絡させられ、彼方へ情報を流そうとしていたバカな騎士も処分したから…万象の君の事は、たぶん。
まだ彼方に伝わっていない。
もっとも、もし伝わっていたら…私1人がギリギリの人数で攻め込んでいるこの状況で
中途半端な抵抗をするわけがない。
是が非でも…大きな被害を被るとしても。
わが軍を打ち破る事が、この戦いの“彼方の最適解”だった。
…気付かなかったみたいだけど。
だから、この戦いは我が軍にとってチャンスだ。
いずれ伝わってしまう万象の君のことを知らずに、油断している今がチャンス。
この機会に、できるだけ敵兵力を削り、彼女が仕事を終えて帰ってくる(そして、我が軍の戦力が揃う…)までの時間を稼ぐ…
…ふふふっ。
時間稼ぎは向こうと同じね。
「ファ、ファイアーボール!!」
「んなぁ!?あ、あの魔法使い…人間の女の子だとっ!?彼の国では女性が兵士になる事は無いんじゃ…」
「…おそらくリアンの市民だろう。占領され、奴隷印を刻まれたに違いない。可愛そうに…」
「そ、そんな…」
「…楽にしてやれ。」
「し、しかし…」
「一度綴られた隷属魔法は書きかえられん!それに…どのような事情があっても、陛下に唱えた事は許されん。罪を重ねてしまう前に…やれぇっ!」
「い、イエッサー………すまない…」
彼の国は…何千年経っても、魔女だ、なんだ。と女をバカにして
色仕掛けなんていう古風な技を行使する…化石みたいな連中だけど。
知恵がないわけでもない。
そうじゃなきゃ、君が不在の合間(君は「・・・分からない。偶然では?」なんて言っていたけど…彼の国が何かしら工作をしてタイミングを合わせた可能性が高い。)に…注意していたのに…その予兆すら見せずに。奇襲をしかけるなんて出来ないもの。
彼の国の兵は武術も魔術も長けており忠誠心も篤い。
だから、攻められる時に攻めて…可能な限り兵力を削って…
裏の裏をついて戦わないとっ!
「…グラベルアローっ!!…ふぅ。…ちょっとみんなっ!!声が小さいぞぉ!!」
「ま、魔法兵っ!何やってる!?しっかり唱えろぉぉっ!!」
「「「「「フ、フラァァーーーッ!!!!!」」」」」
今は…今はまだ。筆はこの手にあるはずだ。
ギリギリとはいえ、リアンの奪還は果たせるはず。
敵の動きも予想通り。
万象の君がソツなく熟してくれれば、多くの領主が私に付く事にもなるだろう。
そうすれば兵力もまして、我が国長年の目標である紫の大地をこの瞳に…
…うん。
ぜんぶ唱えた通りになっている。
唱えた通りにしてみせる!!
この瞳で…この喉で!!!
「「ファイアーボール!!」」
「!?」
けど…
「姫様を守れっ!!」
「っ『林の願い 北の森を往く』ブレスッ!!」
『ボォンッ!!』
「…た、助かったわ。アリス…」
…何故だろう?
ナニか…まだ何かが、あるような気がする。
大きな何かが…見落としが。
「い、いえっ。…そ、それより姫様!前を!」
「…えぇ、分かってる!!…すー…」
「!?み、皆!!姫様が再び唱えるぞ!!構えろぉぉ!!!」
「「「「「イエッサー!!!!!」」」」」
「…『リブラリアの理第6原理』!」
だから注意して…
いつも以上に慎重にやるのよ。
冷静に。
理論然と。
合理的に。
いつもの君らしく…
頼んだわよ。私の君…




