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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
19/476

Chapter 017_微睡

「…っ…」

「・・・」

「…!」

「・・・」「…す!」

「…っ!!…」


「・・・」

「………」

「…!!」

「…、…」


「・・・」



………

……






「・・・今日は・・・」

「まだ…」

「・・・そ・・・・・・」

「そ……よ!……しょ!?」

「・・・ん。」



………

……

















「…う…ぅ………」


朝…だろうか………


『…』


微かに聞こえる何かの音と、閉じた目蓋(まぶた)()かす朝日が私を今日という日に(いざな)う。



「……~…」


でも正直、起きたくない。

全身が(なまり)のように重いし、力も入らない。

頭は(かすみ)がかかったように、ぼんやりと…



「…」


もうちょっとだけ…


………

……




『カタンッ…』


「・・・」






「・・・おはようございます。カトリーヌちゃん。・・・ご機嫌麗しゅうございますか?」

「…」


「・・・まだ・・・お(ねむ)?」

「…」



「・・・そっか。・・・『祈り込めて擁する』ダイアグノーシス。」

「…」





「・・・おかしいなぁ。・・・どこも・・・。」

「…」





「・・・どうして目覚めないんだろう?」

「…」






「・・・とりあえず・・・すー『右手を右手に 左手を左手に 手と手を合わせて 祈り込めて(たまわ)る』ケア。」

「…」





「・・・これで、良しっと。・・・それじゃあ、体を拭くね?・・・『湧水よ』スプリング。・・・『熱よ 命の鼓動よ』ヒート。」


「・・・失礼して・・・んしょ・・・」



あったかい………


「・・・んしょ・・・んしょ・・・お肌すべすべ・・・」



気持ちいい…


「・・・んっ・・・んっ・・・髪もつやつや。相変わらず綺麗・・・」

「…」

「・・・んしょ・・・んしょ・・・」

「…ぅ…」

「・・・んしょ・・・んしょ・・・」

「…うん…?」

「・・・んしょ・・・んしょ・・・」


「…………どなた?」

「うっ!?」


それは柔らかな目覚めだった…



「…ここ…どこ?」

「・・・あ・・・・・・」

「…ぅん?…ど、どうしたの!?」


一生懸命に、私を温かいタオルで清めていたその子…

後にかけがえのない人となる小さな私の天使様は、声をかけると驚いて手を止め、そして・・・



「・・・よ・・・よかったぁ・・・よかったよぉ・・・」


大きな瞳から大粒の涙をこぼした。



「…ふぇ?…え?え?…な、泣かない…で。お嬢ちゃん…」

「・・・よかった、よかったっよかったよぉ・・・カトリーヌちゃん。よかったぁ!」

「…え?……私の名を…?」

「・・・えっぐ、ふえっぐ・・・よかった、ほんとうによかったっ・・・」

「???」


何を言っても彼女は「よかった」という言葉を繰り返し泣きじゃくるばかり…

事情も分からず、ただただ、彼女の頭を撫で、泣き止むのを待つことしか出来なかった…



「…フォニア―!どーしたのぉ…って。…あら?お目覚め?」

「…えっと……」


(しばら)くしてドアが開いたと思ったら、背の高い綺麗な女性が入ってきた。

フォニァ…?…この子の名前だろうか?

お目覚め…えっと、それは私に対して…?


…あぁ、だめ。

分からない…



「・・・いれぇーぬぅぅ~~~!」

「もうっ…。何泣いてるのよっ!…ほらっ!カトリーヌちゃん困ってるでしょ!」

「・・・だってぇ!・・・やっとめじゃめてくれたんだもん~~~!」

「あぁ、もうっ…はいはい。分かってるから。…良かったわねぇ。」

「・・・ん~~~!!!・・・よかったのぉ~~~!!!」


背の高い女性が入ってきた後も私の手を離そうとしないその子。

私の…心配をしてくれていた?…知らない子が?…なぜ?



「…あの…えぇと…」


ぼんやりした頭で理解できるか分からないけど、とりあえず事情を聞かないと…



「あ、えぇと…ほらフォニア!最後まで自分が責任持つって言ったでしょ!?あんたがやんなさい!」

「・・・んぐぅ・・・んぅ。・・・やるのぉ・・・」

「もうぅ~…ほら、これで顔拭きなさい!」

「・・・んん。ありがと。・・・ちーんっ。」

「ちょっ!?キタナっ!?」

「…」


よ、良く分からないけど…とりあえず2人の仲がいい事は分かった。

お互いにタメ口だし、呼び捨てにし合っているみたいだし…

でも姉妹には見えない。友達…にしては年が離れているし…

…どういう関係なんだろう?



「・・・ぐすんっ。ぐすんっ。・・・すー、はぁ~・・・ん。」

「…?」

「・・・改めて、おはようございます。カトリーヌ・ラレンタンド様。フォニアと申します。・・・ご機嫌麗しゅうございますか?」


顔を拭いて頭を振って深呼吸した女の子は、ベッドに横になったままの私にも見えるよう、半歩下がって小さく略式のカーテシーを決めた。

…礼儀正しい子だ。まだ小さいのに作法も完璧だし…貴族の子か何かだろか?



「…お、おはようございます。フォニア…ちゃん?」

「・・・ん。・・・体調はどう?」

「…たいちょ…う?………ごめんなさい。…なんだか…霞がかかった様で…よく、分からなくて…」

「・・・・・・そう?・・・ねぇ、イレーヌ。どう思う?」


私の言葉を聞いたその子…フォニアちゃんは振り返り、入り口で見守っていた女性にそう訊ねた。



「う~ん…ショックで混乱してるだけだと思うけど…」

「・・・そう?」

「…今朝も異常無かったんでしょ?暫く様子見で良いんじゃないかしら?」

「・・・・・・ん。それもそうか・・・それしかないか。」

「…あ、あの??」


ついていけない私が声をかけると、2人はこちらを向き…



「・・・あのね。よく聞いて。」


何があったのか、ゆっくりと教えてくれた…


………

……






「え…?私が…ケガ?」

「・・・ん。頭を強く打ったの。・・・ぼんやりしちゃうのは、そのせいだと思う。」

「えぇと…」

「・・・大丈夫。時間と共によくなるから。」

「そ、そう。よかった…」


彼女によると、私は事故で怪我を負い、治癒術師様に治されたとの事。



「あの。わ、私を治して下さった治癒術師様というのは…イレーヌ様…でしょうか?」

「あははっ。私じゃないわよー?」

「そ、そうなのですか?ぜひ、感謝を…」


事故した記憶も、それを治してもらった記憶もないけれど…きっとそれは本当の事だろう。フォニアちゃんの反応からして、そうに違いない。

私を治癒してくれた治癒術師様に感謝を渡さなくては…



「…だって。…ほら、ちゃんと名乗りなさいよ。」

「・・・ん。・・・カトリーヌちゃん。」


私の質問を受けたイレーヌ様はフォニアちゃんに向き直り…

そして、フォニアちゃんは私を見つめた


「はい…」

「・・・あなたを治癒したのは・・・私。」

「…?」

「・・・」

「…?」

「カ、カトリーヌちゃん。気持ちは分かるけど…本当よ。」

「えっと…でも…」


私も子供だけど…フォニアちゃんは、私よりさらに下に見える子供だ。

治癒術どころか、製紙魔法だって…?



「・・・ま、それはいいや。」

「良くないわよ!ちゃんと理解してもらわないと今後の治療に差し障るでしょ!?…ほら、カトリーヌちゃん。この子の目!瞳!よーく見なさい!」

「ひとみ…」


そう言われた私が、それまで意識していなかった彼女の瞳を覗き込むと…



「・・・」

「…」


「・・・」

「…」


「・・・えと・・・」

「…………………綺麗…」


そこには…理があった。

全てを溶かし全てを飲み込み全てを受け止める永遠の夜が私を見つめていた…



「………///」


綺麗だった。

とにかく綺麗で…他に言葉が浮かばなかった。



『ちゅ…』

「・・・んぅっ!?」

「へっ!?」


なんでそんな事したのか…分からないけど…



「……あ///」


身体が勝手に…


………

……






「ご、ごめんなさい!フォニア様///」

「・・・い、いい・・・けど・・・」


我に返った私は居住まいを正し、

燃え上がりそうな顔をそっぽに向けて

非礼を詫びた。



「何やってんのよ、あんた達…?」

「・・・///」「…///」


何をやったと言われても…その…

だ、だって…そのぉ…



「…はいはい。ちょっと落ち着きなさい。特に…カトリーヌちゃん。」

「ひゃいっ!!し、失礼しましたぁっ!!」

「・・・いいけど・・・」



イレーヌ様の言う通りだ…

な、なんだって私はあんなことを!?相手は5つも6つも下の…しかも

女の子なのに!?!?



「・・・そ、それで・・・私が治癒術師だという事は・・・」

「は、はい!承知いたしました!全く問題ありません!!」

「・・・お、落ち着いて。・・・深呼吸・・・」

「は、はいっ!…すー、はぁ~…」


私が落ち着くのを見計らって、彼女はそれまでよりも、もっと。ゆっくりとした口調で話し始めた…



「・・・大丈夫?」

「はい…。あ、あの…」

「・・・う?」

「ありがとうございました。」

「・・・んーん。」

「い、今は体が動きそうにありませんが…後で感謝を…受け取って頂けますでしょうか?」

「・・・気にしないでいいのに。」

「そうはいきません!お願い…します…」


感謝を受け取って…というのは、相手に深い感謝を感じた時、その言葉を自分の製紙に書いてリブラリアに綴り、さらに相手に渡すことで想いを伝える行為を言う。

最近では言葉だけに省略され、実際に製紙を渡す事はほとんど無いけど…



「・・・・・・願われました。・・・じゃあ、元気になったらね。」

「はいっ!」


フォニア様には渡さなければならない。

私の感謝を、想いを伝えなければ…



「・・・それでカトリーヌちゃん。あなたの傷は・・・」


その想いを自覚し、フォニア様の言葉を一字一句逃すまいと気持ちを引き締めると…



「…っ!?っあぁっ!!!」

「・・・う!?大丈夫!」


突然、強烈な頭痛に襲われてしまった。



「だ、大丈夫…ですっ…っ!」


とはいったものの…これまで感じたことの無い痛みに、重い腕を無理やり伸ばして頭を抱える。

い、痛いよぉ…



「フォニア!」

「・・・ん!」


そんな私を見たイレーヌ様は素早く駆け寄り、フォニア様と共に私が頭を押さえる手に、その手を重ね


「「(・・・)せーの、『抱擁(ほうよう)微睡(まどろみ) 祈り込めて揺蕩(たゆた)う』テンド!」」


唱えた…




「ふぇ………」


すると突然意識が遠のき…



「・・・お休み。カトリーヌちゃん」


天使に抱かれたまま、



「………すぅ…」


再びの眠りへ

誘われた…

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