Chapter 007_女王陛下のお気に入り
「・・・う、うそっ!?ラエンが!?」
翌昼。
お天気は引き続き土砂降り。
「そう…1万近い敵部隊がラエンに向かったようなの。目的は…」
お昼前。
食堂にやってきた陛下はいつも通りの美しい女性だった。
けど、いつもと違って無口だった。
食事は静かに簡単に。
おはようの挨拶もひと言だけ・・・
私はちょっと面食らって。
でも、本人や周りの人にワケを聞ける雰囲気でもなくて
ひょっとして・・・
何の説明もなく・・・そうなると分かっていながら・・・寝かしつけて。15時間に及ぶ“金の時間”を奪ってしまったことを怒っているのかなって・・・疑ったりして。
ちょっと悶々としていた。
「ありがとう」のひと言も言ってくれない陛下に、ちょっぴり「むーっ・・・」と思ったりもした。
「い、急いで向かわなきゃ!」
「待ちなさい!」
「うっ!?」
「気持ちは分かる!私も同じよ!…君にはラエンに向かってもらうことになる!!だけど…だから! 今は聞いて!!」
「・・・」
「敵の足取り、規模…。何の情報も無く向かって…どうするの?それでラエンを救える?」
「・・・・・・」
「…座りなさい。」
「・・・・・・・・・はい」
反論なんて出来るはず、なかった。
「…いい?私の…そして君の。ひと振り、ひと足、ひと唱えが。何百、何千、何万の命を左右する。…自覚なさい。」
「・・・はい。」
「君が20日もの時を飛び越えてきてくれたから…何万人もの、“救えないだろうと”思っていた命を救う事が出来るわ!だから…そのためにも!今は聞いてっ。ここにいてっ!!お願い。万象の、キミ…」
誰よりもこの大地を愛している
ディアナ・ロア・エディステラ・オリゾンドレ女王陛下・・・
「…お願い………よ。」
・・・母なる大地に。
「・・・・・・・・・願われました。」
「……………うん…
…うんっ!よしっ!!みんなっ!2,000年続くコノ戦争…私達で綴じるわよ!!」
「「「「「オォォォーーーーーーッッ!!!」」」」」
誰もが従い頭を垂れた・・・
「レオノール!唱えなさい!」
「はっ!!」
開始早々、私が遮ってしまった作戦会議はこうして始まった
・・・
・・
・
「リアンの敵軍は推定2万2千。」
「偵察の結果。かなり数を減らしていることが判明しました!恐らく…」
「リアン騎士団。そして市民が抵抗したためかと…」
「しかし現在は完全に制圧されています。」
「そう…。みんなの頑張りに応えなきゃね。」
「更なる援軍はあるか?」
「確認できません!」
「現状、わが軍の規模は1万6千弱。内訳は…」
「国王軍6千。ラトラ騎士団2千弱。周辺領から、もう2千。残りは獣人です。」
「兵種としては騎兵3千8百。魔法兵2千。残りは歩兵と工兵と…」
「…魔弾部隊。40ばかりですが全員連れてきました!」
「期待してるわよ!」
「はっ!必ずや!!」
「対するラヴェンナ軍の編成は…」
「騎兵8千強。歩兵6千…合わせて正規兵1万4千ほど。残りは獣人です。」
「確認は出来ておりませが…」
「直系の“誰か”がいる可能性が高いかと。」
「はぁ~…っま。やるしかないでしょ。…ラエンの方は?」
「ラエンに向かった敵部隊は1万弱。」
「うち、正規兵は4千強!全員が騎馬持ちで…」
「それは発見時の情報だろう!?現在は…?」
「そ、それが…」
「…ラエンとは一切連絡がつきません。【湖畔の栄壁(ラエンの美名)】の現状は…不明です。」
う・・・・・・
「分かっている事といえば、“おおよそ”の数とルスクウェルト経由で侵入されたという事。それと…」
「おそらく…ほ、ほぼ確実に。領都ラエンが侵略される…あるいは、既にされた…という事。」
「ノ、ノワイエ騎士団が調査の為に斥候を出しています!詳細は順次届くかと…」
領都ラエンは湖沿いの美しい街だ。
住民はみんな優しくて、笑顔が絶えなかった。
そして何より。コレットちゃんの・・・
そのラエンが戦場に!?
「…君。あなたにはラエンに向かってもらうわ。」
「国王軍の騎兵隊より第4、第11、第14分隊…総勢18名を付けさせて頂きます。」
「ごめんなさい。少ないけど…コレが精一杯なの。」
「・・・いえ。そんな・・・」
「万象様には3分隊からなる…人数は少ないですが。名目上…第2大隊の指揮を採って頂きたいと思います!」
「指揮を…と言っても。実際に兵を動かすのは各分隊の長だから。君は好きに動いていいわ。」
「第2大隊の責任者は第4分隊分隊長のジュリアン・ビコント・ルーセルとする。…頼んだぞ。」
「はっ!大役、精一杯務めさせて頂きます!…頼まれました!…万象様。どうかよろしくお願い致します!」
「・・・こちらこそ、よろしくお願いします。ジュリアン様。」
「第2大隊の任務はラエンに侵入した敵軍の調査。その目的を…ね。」
「・・・ラエンの解放は・・・」
「それは、“もし”可能なら…」
そ、そんな・・・
「敵と遭遇した時の対応は…」
「…君に任せるわ。」
陛下・・・
「ひ、姫様…」
「君。私は貴女の判断を…選択を信じる。ただ、コレだけは覚えていてね。ラエンに侵入した敵部隊は何か…ナニか。特別な任務を受けているに違いない。それを放置したらどうなるか…」
「・・・」
「…くれぐれも。よろしくね。」
「・・・はい!任されました!!」
・・・
・・
・
…
……
………
「お疲れ様でした。姫様!」
「えぇ!…アリスもお疲れ〜!」
夜…
「ふあぁぁ〜っ!う〜…眠っ」
「ふふふっ!…スグにお休みのお支度をさせて頂きますね!」
「たのんだわぁ〜…」
「頼まれました!」
万象様を迎えて行われた会議のあと
雑事に追われた姫様は…結局。日を跨いでからのご就寝となった。
明日は夜明け前から会議があって朝も早い。もっと長く寝て欲しいのだけど…
「…あ。」
「うん?」
「いや、その…え、枝毛が…」
「げっ…」
「…け、ケアしておきますね!」
「た…頼んだわ!!…ね、念入りにね!!」
「頼まれましたっ!」
もっとも、全く睡眠時間をとれなかった一昨日までに比べれば全然マシ。
顔色も良くなったし!気持ちに余裕ができたのか…冗談も言えるようになった。
コレもなにも、あの子の…
あの子………
「…姫様。」
「なーにー?」
「万象様の事ですが…」
「…うん?私の君のこと?」
「…そ、その…その呼び方は…い、如何なものかと。」
「あらっ!?私に意見しようっての?」
「め、滅相もございません!ただ…よ、妖精がよからぬお喋りを“しないとも限らない”ので。そのぉ…」
【君】という言葉は“自分と同列の者”に対する尊敬と親しみを伴った敬称だ。
エルフが発祥らしく(私はハーフエルフだけど…エルフの父とは会ったことが無く。人間の母の手で育てられた。だから、エルフの仕来りに詳しくない…)、エルフ達は気軽に使うらしいけど、人間でこの言葉を使うのは身分の高い人だけだ。
ま、まあ。姫様自身はこれ以上ない程身分が高いから良いんだけど…
あ、相手はタダの騎士位の小娘(出身は農家!!)なのよ!?
い、一応。【魔女】だから…
“そういう意味”では…“二つ名もち”という意味では姫様と同じと言えなくもないから…
だから目を瞑っていた
でも!!
「私の」が付くと意味が全然違ってくる!!
そ、それじゃあ。まるで………
「…あらぁ?どんなお話なのかしら?」
「そ、それは…い、言わずともおわかりでしょう!?」
「ふふふふっ…」
ネグリジェに装いを改めた姫様は可笑しそうに笑い。そして…
「…アリス。あの子はこの戦争でさらに名を上げるわ。だってそうでしょ?このピンチに颯爽と現れるなんて…まるでおとぎ話の正義の味方みたいじゃない!今は未成年だからいいけど…成人すれば他国も黙っていない。その時の為にも…」
私の耳に喉を寄せて…
「……“噂”という名の首輪を着けておくべき。準備は早い方がいい。………そう、思わない?」
「えっ…ま、まさかっ!?」
「ふふふふっ…。お〜やぁすみぃ〜!」
ベッドに飛び込んだ!!
「あぁっ!?ちょ、ちょっと姫様ぁ!?」
「すぴー…すぴー…!」
「もーっ…ウソ眠じゃないですかぁ!?」
「ふふふっ…すぴー…すぴーっ!」




