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Chapter 004_開戦

「…ねぇ、父様?」


私、レベッカは学園を卒業して故郷のルスクェルト王国 ベルン領に帰ってきた。


はじめは国軍に入隊しようと思っていたんだけど…欠員が出たとかで

故郷の騎士団が大変そうだったから、そっちに入ることにしたの。


陛下が直接指揮を執る“軍”と、いち領主の私兵にすぎない“騎士団”を比べると劣るけど…転勤とか無いからずっと故郷にいる事が出来る。父様や兄様の手伝いもできる。

キャリアとか、報酬とか…そういうのじゃないけど、やりがいを感じている!


今は、ここに来てよかったと思っているわ!!



「…どうした?レベッカ?」


そして今日。非番だった私は事務作業が溜まっているという父様を手伝う事にして、パラパラと帳簿を捲り眺めていた。



「…半月前、商隊に国境越えを許したって有るけど…この商隊。不自然じゃない?」

「…なに?」

「所属はリンデン(ルスクェルト王国の王都の事よ!)。目的地はラエンって有るけど…いまさら船便?汽車じゃなくて?それに、荷が小麦というのもおかしいわ。王都から穀倉地帯のラエンに穀物を送る事なんてあるのかしら?逆なら分かるけど…」

「…見せてみろ。」


ズイと体を寄せてきた父様に問題のページを見せると…



「ほら、ここ…」

「…」


その顔は厳しいものに変わり…



「………くそっ!大臣を…いや!緊急収集をかけろ!」

「え?えぇっ!?き、緊急収集!?」


緊急収集とは大臣・騎士団長含め、責任者全員を(非番でも)呼び集める号令だ。


確かに不自然な記載だったし、異常な取引が行われた可能性が高いけど…そ、それほどのこと!?



「あぁ、そうだ!国の…リブラリアの有事だ!ページが捲られるぞ!!」

「えぇっ!?」


それって…それってツマリ!?


………

……











……

………



「国境付近に出ている者がいないか、スグに確認なさい!!特に南西部!!仕事投げていいから、スグに帰ってくるよう伝えなさい!」

「「は、はい!」」


「カ、カトリーヌ店長!?定期便は…」

「待機よ!!」


「お客様は…」

「はぁ!?公式な発表は“まだ”だって言ってるじゃない!?いつも通りに決まってるでしょ!!」

「し、失礼しましたー!!」


国からの連絡より早く、従業員から(もたら)された情報は3つ。


まず1つ目としてルスクウェルト経由でラエンに“何か”が輸送された。

ルスクウェルトの役人が関わっている上、奴隷商人ギルドも絡んでいる可能性が高く、何が?どれ程?動いたか分からないけど…

十中八九。モノは“相当数の”兵器(兵士とドレイ)だ。



続いて2つ目。エヴァーナがいつの間にか彼の国に事実上、支配されていた。

これまでそんな素振りはなかったし、蜂起で混乱したあの地を納めていたのは名のある国王派の重鎮だった筈。なのになぜ…



そして3つ目

これが1番マズいんだけど…


王都南西(王都エディステラにもほど近い)にあるリアン領に所属不明の兵が集まっている。


リアン領は王都以西にあるから西方領になるけど、王都の防衛を担う為に国王派の…というか、王家の血縁者が治めている。


先代国王のご令娘様…元殿下…が領主閣下のご婦人だったはずよ!?



「国からの要請は?」


真相はまだ分からないけど…一刻を争う事態なのは間違いない。わが家はこの国を基盤に商売をしているのだから、手を貸さないワケにはいかない。



「まだです!」

「…あら、意外ね?もう宣戦を受けていそうなモノなのに…」

「混乱しているのではないでしょうか…」

「…それもそうか。とりあえず、備蓄を確認して頂戴!すぐに動かせるように準備しておくのよ」

「「「はいっ!」」」


戦争は国の有事なので、知人友人や従業員の安否が不安ではあるけれど…

この機を逃すワケにはいかない!


ほぼ全ての商店にとって、戦争は大きなビジネスチャンスだ。

剣や弓矢・馬や戦車といった兵器に始まり、兵士たちの食料・娯楽・薬、防御壁を築くための建材なども必要になる。

輸送業者である我が家は、それはもう…“赤ん坊に唱えてほしい”ほど、忙しくなる。



「て、店長!レ・マスティからの情報入りました!!」

「ほんと!?フォニア様は…?」


もちろん可愛いあの子のことを忘れたわけじゃない。

ラレンタンド家は全国規模の商会だ。情報の速さと量に関してなら、誰にも負けない!



「魔女様がグリフォンを討伐し、街は一時騒然となったらしいですが…数日で落ち着きを取り戻し、海沿いの領地は軒並みいつも通り。別段変わった様子は無いそうです!そして今日は、領主閣下が魔女様の栄光を称える昼食会を催す予定とか…」

「そう…西(あっち)は平和なのね。良かったわ…」


私は優しい彼女が好き。

唱えている時の、かっこいい彼女が大好き!


だけど…それ以上に



「その様で!」

「…私の手紙は届けてくれたのよね?」

「もちろんです!昨夜のうちに隼便で!」


彼女には平穏無事に過ごしてほしい…


だから。もう、ちょっとだけ



「ですが…は、果たして“あの”魔女様が受けてくれるでしょうか…?」


レ・マスティにはわが家の支店がある。私達一家が過ごすための別荘もある。


美味しい海の幸も沢山用意しています!

ぜひ!わが家と思って…いいえ。貴女に差し上げますわ!


だから…



「………そんなの…」


もう少し…この戦争が終わる、その日まで…



「…知らないわよ………」


海の街を堪能してきてくださいませ。

気まぐれな、魔女様…


………

……











……

………



「っ…やってくれるじゃない!あんのっ、クソジジイィ!!」

「「「「「…」」」」」


王城の会議室。

彼の地からわが手に届けられた親書にはこう書かれている。



- - - - -


魔女よ。


貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ。



アガペトゥス・クラール・ラヴェンナ・グラナトゥム


- - - - -


「何よこの文句!!何世代前のモノよ!?元ネタ分かる人いないわよ!!」

「「「「「…」」」」」


私の吐いた暴言に皆は聞かぬふりをして下を向いた。


この手紙の意味が分かっているし、国内外で起きた異変にも気付いている。



「はぁ〜…」


動き出した筆は、もはや誰にも止められない…



「…レオノール。説明を」

「はっ…」


それは、誰の瞳にも明らかだった…











「はぁ〜…じゃあ、なに!?麦秋祭で出会った美女とイチャコラしている間にまんまとかすめ取られたってワケ?」

「そ、それは…」

「そうなんでしょ!!」

「………はい」


ラエンに敵勢力が侵入したのはルスクェルト王国の貴族のせい。


エヴァーナが取られたのは、すげ替えた領主が行方不明となった(おそらく既に…)せい。


リアンに敵兵が現れたのは間抜けな叔父様のせい!

エヴァーナがまだ不安定なこの時期に新任の騎士団長に全部任せちゃうなんて信じられない!

だいたい、麦秋祭終わってひと月以上経つのに、なんでまだ王都に居るのよ!?

サッサと帰って無能な領主として処刑されてこい!!



「へ、陛下。それくらいに…」

「…ふんっ!」

「パ、パトリック閣下は…と、とりあえず、、騎士団の規模と編成をご教授願います。…べ、別室で。」

「あ、あぁ…そ、そうだ…な…」


たまたま王都に居合わせたリアン領主と、他の領地の代官。それと大臣でひしめく会議室は静かで、間抜けな叔父様が部屋を出ていく間も、誰も何も言わなかった。


…まったく。



「…はぁ〜」


ストンッ…と椅子に座りながら、皆を見渡して



「…で?どうする?」


尋ねると…



「ベ、ベルン領主には抗議の…」

「当然のこと言う必要なし!リアンの大軍には私が向かうから…“まだ”良いとして!何を()()()()か分からない、ラエンに向った1万もの兵をどうするのかって!!…そう聞いてるのよ!!!」

「は、はいーっ!!」


リアンの大軍が本命なのは間違いない。

奴らの狙いは何時だって私の首で、“私のエディステラ”だ。


でも、だからこそ。

わざわざ戦力を分けて…ラヴェンナ人で構成されている正規兵を含む別働隊を、“本命とは思えない”ラエンに向かわせた意味が分からない。


何か目的が…あるいは、罠?


…あぁ面倒。

調べないといけないじゃない…もうっ!



「こ、国王軍から。いくらか…」

「本隊はあくまでもリアンよ!引き抜きは多くて3分隊くらいだからね!」

「そ、それだけではとても!?…あ、相手は1万ですよ!?」

「しゅ、周辺の諸領主に速報を!」

「オルソート領とノワイエ領は勿論として…」

「ラトラは!?」

「ラトラはダメよ!ラトラ、トゥルーズ、サルベイユの3領はリアンに攻め入った大軍の防波堤。1兵たりとも余裕はないわ!」

「では、エンスに…」

「果たして、シャルル閣下が応じてくれるかどうか…」


シャルル・デュック・オー・プリヴェンス・ルノー…

エンス・オー・プリヴェンス領を治める公爵で…



「…時間の無駄よ。他を当たりなさい。」

「「「「「…」」」」」


エンス派という、この国の結束を妨げるお邪魔虫だ。


あんな奴っ…



「た、確かに…」

「時間と…ページの無駄ですな。」

「す、少し距離はありますが、国王派の他領を当たってみます…」

「そうして頂戴。」


「しかし…ま、間に合うのでしょうか…」

「そ、それは…」


どんなに急いだとしても敵軍が領都ラエンに攻め入るのを防ぐことはできないだろう。

数だけで言えばラエン騎士団も決して劣りはしないのだけれど…


何の準備もしていないラエン騎士団は領内の至る所に兵力を分散しているはず。

仮に、常駐兵が1,000。周辺の街にもう1,000いたとしても…合わせて2,000。

五分に持ち込む事すら、難しい…


できる事と言えば、被害を最小限に抑える事だけで…



「万象様が居ないのが悔やまれますね…」

「隼便を出しましたが。今からでは…す、少なくとも、もう20日は…」

「そればっかりは…」


フォニアちゃん。早く帰ってこないと…



「仕方…ないわね…」


私達の故郷が無くなっちゃうわよ…



- - - - -

<作者注釈!>

お話のさ中に、失礼します!


言葉だけでは地理的なコトが分かりづらいと思いますので、

関連地域の地図を挿します!


「2nd Theory」 -Chapter 006.5-

でUPしたのと同じものですので、説明は省きます!


挿絵(By みてみん)

※ちなみに、

マスティアラーネ半島は小さすぎて、この縮尺では解像度不足!!

エディステラの真西(左)にある大きめの半島の南(下)のちっちゃい半島のさらに南にあります。


※※ちなみのちなみに、

リアンの北。サルベイユの西の地域も、もちろんエディアラ王国の一部ですが・・・

【西方領】であるため、王国には非協力的・・・どころか、裏切る可能性が高いので。陛下も大臣たちも、戦力として考慮しておりません。


以上!

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