Chapter 003_オーバー・ザ・レインボー
「・・・虹越え!!」
『『グクルルワァッ!!』』
「うわぁ!?」
魔女がそう唱えた途端、2柱のドラゴンが咆哮をあげた!?
「んなぁっ!?…に、虹!?」
すると魔女の前に
虹によって縁取られた青一色の水面(ドラゴンが行使した魔術!?)が出現
「・・・行くよっ!ツィーアン!ツィーウー!!」
『グルワァ!!』『クルルゥ!!』
ソレに向かって魔女は駆け出し…
「んー!!」
そ、そのまま飛び込んだ!?
「お、おい!見ろ!!」
「き…消え…い、いや!アレは!?」
『バシャァンッ!!』という水音と共に魔女は虹色の球に包まれ
「うを!?…シャ、シャボンか!?」
「あの子は…?」
そのまま弧を描いて…
まるで、虹そのもののになって…
「見えなくなっちゃった…」
「お、おいおい…」
「嘘…だろ?」
「今の…ま、魔法よね?」
彼方へと
飛び去ってしまった…
「な、何よ…今の…?」
魔女の気配は虹と共に遠ざかってしまった。
その意味する所は、つまり…
「フォニアちゃん…に、虹の向うに行っちゃったのか…な…?」
そういう事なのだろう………
「クソッ…」
まさか、こんな魔法を宿していたとは
迂闊だった…
「フォニアちゃん…ど、どうしたんだろう?どこ行っちゃったのか…な?」
「さ、さぁ…?ちょっ、ちょっとルクス!…あんた、フォニアと喋ってたじゃない!!何か知ってるんでしょ!?教えなさいよ!!」
これは…
ちょぉ…っと。マズいかも?
今の魔法の効果が予想通りとすれば
きっと今日中…下手をすれば数時間内に…エディステラに辿り着いてしまうかもしれない。
だとすると…
「…そんなの、ボクに聞かれたって困るよ。フォニアちゃんの事だから…お腹でも空いてたんじゃないかな?」
計画通りなら既に親書が、もう一人の魔女…恵土のババア…の手に渡っているはず。
今更、止める事など出来ないだろう。
う、う~ん…
さすがに、父様に怒られちゃうかなぁ?
なんて謝るか、よく考えておかないと…
「い、いくらなんても。それ…は…」
「そんなわけないでしょ!?ルクス…あんた最近。妙にフォニアに冷たいじゃない!あの子もあれで気にしてるのよ!?ちょっとは優しく…」
それにしても、こっちの魔女も参戦するとしたら…オジさん。
死んじゃうんじゃないかなぁ?
…きっと死んじゃうよね。ご愁傷サマ。
「でも、ま…」
仕方ないよね!
ボクのせいじゃ無いし!!
リブラリアに「魔女によって惨たらしく殺された…」なんて綴られるのは不本意だろうけど…弱いのが悪いんだから仕方ないよ!!
オジさんドンマイ!
もっとも、この時期に黒いのが参戦するとなると…
くくくっ!アレを直接瞳に映す事になる可能性も…ある!ワケだ
「でも、ま…なによ!?」
「…」
「ちょっ…ちょっと!ナントカ言いなさいよ!!」
「…」
くくくくっ…
次に会ったとき、君がどんな顔をするのか…実に楽しみだよ!
「無視すんなぁー!!」
「くっくっくっくっ…」
「な、何が可笑しいってのよ!?」
「あーはっはっはっはーっ!!!」
「っ…な、何よコイツ!?…コレット!もう行こ!」
「う、うん…。ルクスく…ん…。どうして変わっちゃった…の………」
………
……
…
・
・・
・・・
「・・・ふぅ。」
【虹越え】はツィーアンとツィーウーが宿す長距離高速移動魔法だ。
あくまでも“高速移動”であって瞬間移動・・・いわゆる“ワープ”ではない。
移動速度は2柱の気分と、私の魔力次第だけど・・・今はマッハ3くらいでている。時速で言うと3,700km/hくらい。
・・・うん。充分過ぎるほど速いね。
レ・マスティからエディステラまで直線距離1,000kmを17分弱で結ぶ予定だ。
この魔法が発現すると、虹に縁取られたゲートみたいな魔法印が現れる。
飛び込めむと2柱が虹色をした水の膜(虹玉)で私を覆い、併走しながら目的地まで運んでくれるから・・・
後はその中で、到着するのを待つだけで良い。
因みに、実はこの魔法・・・2柱と相談して編み出した新しい魔法だったりする。
自力で空を飛べる龍には、こんな魔法必要無いからね・・・
座標の確認とか障害物を避けるとか・・・そういうのは全部、2柱がやってくれる。
マッハ3の高速飛翔物体を操縦するなんて、何の訓練も受けていないフツーな乙女には無理!
人間を圧倒する動体視力を持つ水龍。ツィーアンとツィーウーがいて、初めて成立する魔法なのだ!
『グルワァ!』『クルルゥ!』
加えて2柱は「もっと速く飛べるよ!」なーんて言っているけど・・・
「・・・こ、これくらいで大丈夫だから!」
速い方がいいのは勿論だけど・・・何事にも限度ってあるよね。
私が入っている虹玉は音速越えの超高速・・・ぶっちゃけ、ラプターよりも速く動いている。
このため・・・当然だけど・・・進行方向正面は大気とぶつかって高い圧力を受ける。
この圧力をそのままにしておくと虹玉が潰れちゃうから、そうならないようにマジカルな効果で虹玉を維持しているんだけど・・・
“圧力を受ける”
という事実は変わらない。
さらに速度が増すと、その圧力に抗いきれなくなって虹玉が少しづつ圧縮されていく。
スペースが狭くなるけど・・・私が入る隙間が無くなるほどじゃない。
問題なのは・・・
【断熱圧縮】
という物理現象が起きて、虹玉の温度が上昇してしまう事。
水属性魔法の中には水の“温度”を操作できる魔法があるけど、虹魔法はそうじゃない。
だから、外因によって水温が上下する。
するとどうなるかというと・・・
“空飛ぶサウナ”が出来てしまうのだ!
もちろん。そうならないように・・・虹玉の水を循環させたり、気化熱を利用して放熱してくれたり・・・ツィーアンとツィーウーは頑張ってくれる。
けど・・・
速度が増すと虹玉の操縦が難しくなる(もっとも、“虹越え”では2柱が併走するから目立っちゃうし、風や気圧の影響も考えて高度3,000mくらいを飛行する。障害物になるような物なんてほとんど無い。強いて言えば・・・山とか。塔型のダンジョンとか。グリフォンとかドラゴンとかフェニックスとか・・・あれ?意外と多い?)から、さすがの2柱もそこまで気が回らなくなる。
以前、テスト飛行した時はマッハ10まで出せて2柱は自慢気だったけど・・・
中にいる私は、久し振りに感じた灼熱(“虹越え”行使中は魔力とイマジネーションの関係で他の魔法[“エアコン”こと纏風魔法含む]を行使できない)地獄に息も出来ないほどだったよ・・・
“蒸しフォニア”には、なりたくないの!
『グルルゥ…』『クルゥ…』
「・・・今の速度でも十分速いから!あ、安全運転でよろしくね!」
『『グクルルワァッ!!!』』
・・・
・・
・
…
……
………
「にゅっ!?」
それは“トツゼン”だった。
いつもみたいに“ほとーり邸”でお昼ご飯を食べていたシュシュは、お空の向こう…ずっとずっと。ずうっと遠くから感じたご主人様の魔法の気配に、思わず立ち上がって叫んでしまった。
「こらっ、シュシュちゃん!お行儀悪いわよ!食事中に立ち上がったりしちゃ駄目じゃない!?」
普通、人間様と奴隷は別々にご飯を食べるモノなんだけど…ご主人様のお願いで家人全員が一緒に同じ物(ご主人様“とも”同じメニュ〜!)を食べる事になっている。
本当はご主人様もみんなと一緒に食べたいらしいんだけど…流石にそれは、ローズさんに止められたらしい。
…ローズさんってば。いつも怒ってばっかりだね!
「ま、まぁまぁローズさん。それより…どうしたの?シュシュちゃん?」
「にゅっ!」
っとと!そうだった!!
ベルタさんの言葉で大事な事を思い出したシュシュは、みんなに向って…
「ご主人様が帰ってくるですよ!!」
唱えたっ!!
「「「「「え…?」」」」」
林檎です!
【断熱圧縮】は熱力学第2法則に関連する、けっこう難しい内容です。
スペースシャトルが大気圏突入するときにファイアーしちゃうのも、これが原因の1つなのだそうですよ!
・・・ま。そうはいっても。
テストに出たりは、しませんから :p
普通に生活する分には「ふーん…そうなんだ!」で、いいと思います!
もし気になっちゃって、夜も眠れなくなっちゃった方は・・・
熱力学の深淵へと向かいましょう!
なーんちて ;D
・・・よろしくね!




