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Chapter 072_ルーツ

「・・・すー、はぁ〜」


カレント2,184年 星火の月23日。

お天気は海風の強い夏晴れ。



「魔女様。それでは…」

「・・・ん。」


場所はマスティアラーネ潟のある【レ・マスティ領】最大の港街・・・領都【マスティアラーネ】の高台にある、素朴ながらも雰囲気のあるお屋敷・・・侯爵閣下が暮らす侯爵邸だ。



「閣下!魔女様がお見えになりました!」

「…お通ししろ」

「はっ!」

「・・・」


私はこれまで何十人という上級貴族(公爵・侯爵)に出会ってきた。

皇帝と国王にすら、会ったことがある。


でも、だいたいいつも師匠かローズさんかお祖父様か・・・誰かが側にいてくれたから特別緊張した事は無かった。

そして、いつの間にか・・・普通に生活している限り決して会うことがない人物と対面したり、その人に手紙を書く事にも・・・慣れていた。


でも今は・・・



『トクゥッ、トクゥッ、トクゥッ…』

「・・・」


き、緊張・・・し、してる・・・






『ガチャンッ…』


「ようこそ魔女様!グリフォンを討伐した英雄様をお迎えする事ができ、光栄至極に存じます!私めがこの領地の長、シモン・マルカス・マスティアラーネ・オラールでございます!ご機嫌ようございますか?」

「初めまして!可愛い魔女様!!シモンの妻、トフィーでございます。…ご機嫌麗しゅうございますか?」


出迎えてくれたのは貫禄のお顔とお髭を生やした・・・苦労が伺える白髪交じりの・・・シモン()()()()

そして同じく、しわの多いお顔をいっぱいに崩して笑うトフィー()()()()だった・・・



「・・・っ///」


やっと・・・やっと逢えたっ・・・






「…魔女さま?」


いつまでも返事を返さなかったものだから、ここまで連れてきてくれた執事さんが(いぶか)しんでしまった。

い、いけない・・・



「・・・お、お招き頂きありがとうございます!シモン・・・サマ・・・トフィー様。学友共々大変なご歓迎頂き、感謝にたえません。・・・う、海はきれいで、空も広くて、お魚もとっても美味しいです!・・・お陰様で調子もよく、元気に・・・そして楽しく過ごさせて頂いております!」

「それは良かった!」

「田舎で大したおもてなしも出来ず…ごめんなさいね。でも、そう言ってもらえ嬉しいわ!」

「・・・///」


似てる・・・

お母様と同じ、シュっとしたお鼻だ。ティシアとも似ているかもしれない・・・

髪の色は・・・んふふっ。お祖母様と、いっしょ・・・



「…?」

「・・・///」


そっか。この長いまつげはお祖父様にもらったものだったのか・・・んふふふっ!



「はて…」

「・・・」


ずっとその顔を見つめていたせいか・・・疑問符を上げたお祖父様はさらに言葉を・・・



「…どこかでお会いしたことが?」

「…アナタも?じ、実はわたしも…何故か、そんな気が…」

「・・・!!」



・・

・・・






「・・・ね。お母様。」

「なぁに?フォニアちゃん?」

「・・・お母様の、お父様とお母様・・・つまり、私のお祖父様と、お祖母様は・・・?」

「あぅ…え、えぇと…」

「・・・う?」

「その…」


まだ実家にいた頃。

お母様に祖父母のことを尋ねたことがある。


けど、その答えは・・・



「ふ、普通の…おじいちゃんと、おばあちゃんよ!」

「・・・ふーん・・・どこに住んでいるの?」


お母様の(そして私の)髪の色はルボワでは珍しかったので、生まれが何処か別の場所なのは分かっていたけど・・・



「そ、それは…えぇと…に、西の方よ!そ、そんな事よりフォニアちゃん!そろそろレジーナ様の所にお勉強に行く時間でしょ!?」

「・・・う?う、ぅん・・・」

「早く行きなさい!レジーナ様を待たせちゃメよ!」

「・・・う・・・は、はい・・・」


何か理由が・・・例えば、お父様と同じように喧嘩別れしてしまったとか・・・

・・・理由があるのかと思って。



「い、行ってらっしゃい!」

「・・・行ってきます・・・」


「…」

「・・・」


それ以来、その話題に触れることは無かった・・・


・・・

・・






時は経て。

ルボワの実家からノワイエの本家へ里帰りする、その前夜のことだった・・・



「…ね。フォニアちゃん。」

「・・・う?なんでしょーか?おかーさま・・・」

「ずいぶん前に聞いたわよね?私の両親…つまり、あなたの祖父母について…」

「・・・・・・でも、それはもう・・・」


「あなたなら…あなたならいつか。あの人たちに逢うこともあるかもしれない。だから、伝えておくわね…」

「・・・」


お母様が出自について教えてくれたのはその時だった・・・



「・・・レ・マスティ・・・う?・・・ごめんなさい。それって・・・何処?」

「うふふっ…知らなくて当然よ。ココよりずっと西…西海に面した、とても小さな領地だから…」

「・・・海のそば・・・いいなぁ。行ってみたい!」

「ふふふっ。でも…海はきれいだけど、嵐の日は怖いのよ?洗濯物も潮くさくなっちゃうし…見るだけならいいけど、そこで生活するのは大変なの。」

「・・・う~・・・そっか。でも、やっぱり憧れちゃう。」

「うふふふっ。そうね…晴れた日は波の音をジッと聞いて…貝殻集めたりして…空が広くて青くて………綺麗だったわ。」


故郷の景色、両親の名前、新鮮な海の幸・・・

思い出を語るお母様は楽しげで。誇らしげだった。


お母様が妙に作法に厳しかったり、お手伝いのデシさんを連れていた理由も、侯爵令嬢という身分を知って納得した。


そして同時に、どうして身元を隠しているのかも・・・



「…フォニアちゃんは…知っているわよね?この国の【東西問題】について…」

「・・・・・・はい。」






・・

・・・


エディアラ王国は【東西問題】と呼ばれる社会問題・・・格差と差別の・・・を抱えている。


東西問題は数千年という長い時間をかけて(つちか)われた、とても根の深い問題だから説明するのが難しいんだけど・・・簡単に言うと


①私達が暮らすアドゥステトニア大陸には元々、独自の文化を持った原住民が暮らしていたんだけど数千年前(時期はハッキリしない)に大陸移動してやって来た“新人類”に侵略された。現在この大陸に暮らす人間の大多数は、侵略者たる新人類。


②新人類はアドゥステトニア大陸の中でも特に、豊穣の大地たる東方・・・具体的に言うと王都エディステラより東・・・を占領していった。そして原住民は、西へ西へと追いやられていった。


③この大陸の川はほぼ全て、東から西へ向って流れている。リブラリアには下水処理施設なんて無いから当然、汚水は垂れ流し。結果的に西へ行くほど水質は悪化。加えて、海に近づくほど勾配が緩くなるから川が大きく蛇行し、氾濫の危険性も増す。・・・要するに、大陸西方は水害が頻発するし環境も悪いって事・・・


④エディステラ以東を支配した新人類はさらに、西へと追いやった原住民の住処を併合していった。ポイントは“侵略”じゃ無くて“併合”だった事。つまり、現在西方にある領地を治めているのは“エディアラ王国に従わざるをえない原住民”・・・


⑤もちろん原住民も反発したけど・・・新人類の方が戦闘に長けていたらしく、対抗できなかった。結果的にどんどん西へ西へ・・・最終的に、今のラヴェンナ王国まで追いやられた。


⑥原住民は同族意識が強く、そして新人類とは文化様式・・・特に信仰心・・・が、大きく違っていた・・・


・・・格差と差別の理由。

そして、どうしてラヴェンナ王国がエディアラ王国の宿敵なのか・・・これでわかったでしょ?


・・・

・・






「私の故郷…レ・マスティはね。西方にあるけど王国寄りの領地だったのよ。エディステラから最短の貿易港として栄えていたのが原因ね。海運は危険…とはいえ、近海はそれ程でも無かったから…。でもある日…黒線(鉄道の事)が登場して事態が一変したの…」

「・・・黒線が・・・」


「…そう。黒線の方がより安全で速かったし…何より、海路はラヴェンナ王国沿岸を通過するとき莫大な航行料を要求されていたのよ。イザという時使えなくなる危険も孕んでいたわ。代替が進んだのは理のままね…」

「・・・」

「レ・マスティは坂道を転げ落ちるように、ひと月もしない内に窮地に陥ったわ。周辺領から目をつけられている中で王国の後ろ盾と収入を失い、内戦直前までいったの。父様は…あ、あなたのお祖父様は…それはもう、頑張ったわ。周辺領へ出向き、あの手この手を使って何とか危機を回避しようと頑張った!でも…」

「・・・」


「…私には…ね。2人の姉がいたんだけど…ある日。目覚めたら…上の姉が居なくなっていた。訳を聞いたら………と、父様より上の…周辺領の領主の許に嫁に行った…。と…。そう、聞かされたわ…」

「・・・」


「でも…でもね。貴族同士が結婚して祝宴の一つも挙げないなんて事。ある筈がないの。姉様はお嫁に行ったんじゃない…文字通り…み、身を…捧げたのよ。………故郷の為に。」

「・・・」


「2人目の姉様が居なくなったのは、その十日後の事だった。次は私の番だった…」







「だから…怖くて…嫌で………私は……に、逃げたのよ…」

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