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Chapter 071_彼・・・

3年生になってすぐの

ある春の朝のことだった・・・



「・・・・・・う・・・」


いつもの広場にルクス君の姿はなかった。

気配もしないし・・・近くにはいないみたい。



『ヒュブブブブ…』

「・・・どうしちゃったんだろうね?」


彼と一緒に走ることを楽しみにしているチェスも、その姿を探してキョロキョロするけど・・・



『ブフッ…』

「・・・お休み・・・かな?」

『ヒュフ…』


・・・ま。

約束しているわけじゃないし・・・彼には彼の事情というものがあるのだろう。

仕方ない・・・



「・・・チェス。襲歩」

『ヒュブ…ヒーヒュヒュンッッ!!』


何かあったのかな・・・?


・・・

・・






「・・・おはよ、ルクス君。今朝だけど・・・」


朝のホームルームに向かうと前の席には普通に彼が座っていた。


因みに余談だけど・・・

入学式の後、学期ごとに席替えが行われて隣の席にナターシャちゃんが来たりコレットちゃんが離れちゃったり、色々あったんだけど・・・


私とルクス君の席は1度も変わっていない。


席替えの方法は相変わらず(しかも今は“自分の”製紙を選ぶだけのイージーモード)。

ソフィ先生はその事に気付いているみたいだけど、咎められたりはしない。

むしろ、「どうしてあの2人はいつも同じ席なのかしらねぇ…」なんて言っていた。他の生徒にこのカラクリを気付かせるための措置(教育的指導)なのかもしれない。


・・・いじょう。余談おしまい。



「…」

「・・・う?」


私の呼びかけに・・・彼は答えなかった。



「・・・ね。ルク「おはよルクス君!」」


ちょっとだけ声量を上げて呼びかけたら



「…あ。おはよ。ジゼルちゃん」



後ろからやってきたジゼルちゃん(ジゼルちゃんとは相変わらず仲が悪い。私が避けているのが原因だけど・・・)


以前綴った通り、ルクス君はクラスのみならず、学園全体の女子から人気がある。

ジゼルちゃんも彼に憧れる1人で・・・



「うんっ!…今朝は珍しく寒かったねぇ!コート出してきちゃった!」


私と彼がよく話をしている事も気に食わないみたいだけど・・・



「ははは、本当にね!」

「だよねー!」


・・・ま。好きにやってもらえばいいんじゃないかな?


それより気になるのは、ルクス君の方で・・・



「こんな日に朝早くから出払うなんて…どうかしてるよ!」

「え!?えぇと…で、でも。ルクス君は毎朝…」

「誰かさんに願われてイヤイヤやっていたけど…急にバカバカしくなってね。それはもう止めたんだ!」

「そ、そうなんだ…そ、そうだよね!ルクス君の言う通りだよ!」


お願いなんて一度もしてないのに・・・

それでも、いろいろ教えてくれたのは本当。だから別にいいけどさ。でも、なんか・・・ヤな感じ・・・



『カラーンッ…カラーンッ…』


「おはよう!みんな!…さぁ、朝のホームルーム始めるわよ!」

「「「「「はーいっ!!」」」」」



「あ…先生来ちゃった!またね!ルクス君!」

「うん。またね」

「・・・」


・・・

・・






「…ねぇ。今朝の…ルクスのあの態度!何よアレ!?」


その日のお昼休み。食後のカフェにて



「…調子ノッてる。」

「ジ、ジゼルちゃんは相変わらずだったけどね…」

「吹雪の中でも剣振ってた癖に…この程度の寒さがなんだってのよ!あの女に気でもあるのかしら!?女たらし!!」

「・・・私にその気は無いってば。」

「フォーニーアー!アンタもあんたよ!毎朝会っておいて…今更何言ってるのよ!?!妖精が話をしているのだって知ってるでしょ!?」

「・・・」


みんな、そういう話好きだよね・・・



「にしても…ら、らしくなかったよ…ね?」

「・・・朝練にも来なかったんだよね。急にどうしちゃったんだろ?」


ルクス君はコレまでにも、近づいたと思ったら距離を取ったり・・・学園を抜け出したり(学園を抜け出すのは勿論、校則違反なんだけど・・・結構やる人が多いらしくて、見つからない限り黙認されている節がある。だから生徒同士の話題に上ることがある。なのに、ルクス君は決してそれを認めようとは、しなかった)・・・変な行動をする事があったけど。今日みたいな“あからさま”な事はしてこなかった。

それなのに・・・



「…痴話喧嘩?」

「・・・だから違うってば。」

「何でもいいけど…喧嘩なら早く仲直りなさいよ!見ているコッチも気分悪いわ!」

「・・・」


そう言われてしまうと・・・

でも。本当に身に覚えが無いんだよなぁ・・・



「…ね!それより…来月のバレンタインデー!!またイベントやるんでしょ?聞かせてよぉっ!」

「そう言えばもう、そんな時期だったね…」

「ま、またメイドさんの服を着れるのか…な?」

「…今年はボクもそっちにしようかな?」

「せ、攻めるわねチコ…。似合いそうなのが悔しい…」


どうしたものか・・・


・・・

・・





次の日。お天気は(みぞれ)


前の日に引き続き私を無視する彼の事が気になったので放課後になってから強引に彼を呼び止めることにした


「・・・ね。ルクス君。」

「…」

「・・・ねっ!」

「…」

「・・・ねぇっ!私・・・何かした!?気に触るようなこ」

「気に触るか…だって?触るに決まっているだろ!」

「・・・う・・・?」


「“魔女”なんかと3年間も同じ空気を吸わないといけないなんて…気が狂れるかと思ったよ!」

「・・・」

「はぁ〜…でも、それももうすぐ終わりだ!やっと解放される!」

「・・・何を言って」

「くくくっ…ふはははっ!!」

「・・・」

「はーはっはっはー!!」

「・・・」


訳もわからず笑い続ける彼は、まさに狂人のようだった。



「あははははっ!ひーっ、ひーっ!!…くくくくっ…ははっ!はっ、ははははっ!!」


私は怖くなって・・・



「っ・・・」


そのまま、逃げ出した・・・


・・・

・・






さらにその数日後。


「・・・テオドルス・・・」

「ドゥカ・ナルキッサス・コープルー…直系第3位。師父の【橋】であり…奴隷商人ギルドの筆頭…ですわ。」


カトリーヌちゃんが苦労して集めてくれた情報によると、彼は・・・



「・・・ルクス君は、その・・・息子?」

「確証は…え、得られませんでしたが。そう考えると、これまでの不自然な行動にも説明がつきますわ。」


彼は類まれな身体能力でカトリーヌちゃんが用意した追手をいつも煙に巻いていたらしい。

そして何度目かの追跡の末、ようやく見つけた彼の目的地が・・・


「“奴隷商人ギルド エディステラ支部”…彼が入り込んだ下町の小さな館は、一見、エディステラの街にいくつかある普通の商館のように見えますが…実態は違います。この国の全ての奴隷商をまとめるギルドとなっていますの…」

「・・・そこに、彼が・・・」

「入ったのは間違いありません。けれど…そのあと商館の前で張り込んだのに一向に姿を見せず…結局出てきたのは半月以上経ってからですの。十中八九、荷馬車に紛れて何処かへ行っていたのでしょう。…奴隷商人ギルドは情報やルールの管理が徹底されており、外に厳しい…契約違反は許さないし譲歩もしない…組織ですが。その厳しさは内にも向けられていますわ。そんな商館に潜り込んでイレギュラーな振る舞いができる人物なんて…余程のVIPか、筆頭と。それに準じた者くらいしか思いつきませんもの…」


奴隷商人ギルドは約220年前に各国がお金を出し合って作った奴隷(獣人と、犯罪者)の売買と流通を担う、ほぼ独立した(関税とか奴隷の利権に関して、“国家”に縛られる事無く運営できる)組織だ。

奴隷の管理と契約魔法の知識をほぼ完全に独占しており、秘密主義も徹底している。



「残念ながら…当会の情報網をもってしても、その足取りを追う事は出来ませんでした。オマケに、彼の本当の名前さえ分からず終いで…お役に立てずごめんなさい。」

「・・・それは仕方ないよ。むしろ、ここまで調べてくれてありがとう。」

「うぅぅ…そう仰って頂けるのは嬉しいですが、やっぱり情けないです…」


下を向くカトリーヌちゃんを慰めてから、再び上げてくれたその瞳を見つめて・・・


「・・・それより・・・どうしてそんな大物が学園に?」

「…それも…わ、分かりません…」

「・・・そもそも、どうしてそんな人物が学園に通えるのかな?陛下は・・・知っているの?」

「そ、それについては調べましたわ!ですが…け、結論としては…」


カトリーヌちゃんはそこで、ひと呼吸おいてから・・・



「彼…ルクス…の身元は…か、完璧…でしたわ。」


そう、唱えた・・・



「・・・う?かんぺき・・・?」

「ルクス・ポンセという人物は実在します。下町の小さな…そこそこに裕福な…商館の息子として生まれ、これまで1度も住処を替えておりません。…住民台帳には、そう…何処にでもいる、普通の商人の普通な息子だと…綴られていました。」

「・・・つまり、えぇと・・・」

「住民台帳は役所の中でも警備の厳重な場所に保管されていますし、定期的にグランリブラリアに納められております。だから偽造はかなり…わ、私どもでは不可能なほど…難しい事…ですわ。それに、万一偽造したことが見つかれば重罪は免れません。だからこそ信用されており、身分証に意味と価値があるのです。で、でも…“契約”の知識に勝る奴隷商人ギルドが本気を出せば………。おそらく陛下も、仮に知っていたとしても…“どうすることもできなかった”のでは…ないでしょうか?」

「・・・綴られている以上は仕方ない・・・?」

「えぇ…」


リブラリア人は歴史や書物を重んじるあまり“綴られている事”を鵜呑みにしがちだ。

もっとも、テレビやネット、噂話をスグに真に受けてしまう異世界人も大差無いけどね・・・


それに加えて、リブラリアでは綴られている事を“覆す”のも難しい。

“綴られている事=理”であると。みんながそう考えているから・・・



「…シュシュちゃんをお預かりしている、ウチの子飼いの奴隷商ですらこの件に関しては口を閉ざしてしまいましたわ。おそらく“契約”に抵触しているのでしょう。他を当たっても無駄ですわね…」

「・・・彼が急に態度を変えたのは・・・どうしてだろう?」

「分かりません…ですが、水面下で事が動いているのは間違いありませんわ。以前お伝えした通り、各国が戦の準備を整えつつありますし…」

「・・・」


「フォニア様。きっと…そう遠くない内に。ページが大きく捲られますわ。どうか御用心を…」

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