Chapter 070_ランチは焼き鳥!
「フォニアァァッ!」
「・・・せんせ「フォニアッ!!」ふにっ!?」
クラスの皆が駆けつけてくれたのはヒュポグリフの死体を片づけている時だった。
「あー!ソフィ先生だぁ…」
「あぁ、ナターリアぁっ!「わぁっ!?ちょ、ちょっと先生っ!!」いいから抱かせなさいっ!」
駆け寄るなり抱きついてきたソフィ先生は傍に来たナターシャちゃんを引っ張って私とまとめてぎゅーっとした!
「・・・んふふっ。・・・ナターシャちゃんも一緒に抱いてもらお。」
「えぇっ!?…も、もうっ///」
「はぁっ…みんな無事で良かった…。ほらっ!コレットもアランもチコも!こっちに来なさい!」
「わー…いっ!」
「えぇっ!?ボ、ボクも…ですか?」
「…男だろ。覚悟を決めろアラン君。」
軽装…とはいえ鎧を着ている先生はちょっとゴツゴツしているけど…
「・・・ふにー・・・」
「フォニア!アンタは馴染み過ぎよっ!」
「ふふふっ!フォニアちゃん、頑張ったもの…ね!」
「な、何というか…」
「…カンと言うか?」
大人の女性はやっぱり気持ちいぃ…
「い、いやぁ…すごい光景だね…」
「いったい何頭いたというのか…。あの時の爆発からして大層な事になっているだろうとは思っていたが…。こ、これほどとはな…」
「はぁあ゛ぁ~…。やっぱ心配する必要なんてなかったじゃねーか…」
「ふぉっふぉっ!…さすがは魔女!3年で魔法科の全単位を取得しただけある!」
ソフィ先生から解放されてみると、先生たちは驚きと呆れ(?)と感心(??)の表情を見せ・・・
「ま、まじ…かよ…」
「戦争じゃ無いんだから…」
同級生のみんなは驚きと恐怖の表情を浮かべ、唖然としていた。
「こ、コレを…フォニアちゃんが…」
「やだ怖い…」
長閑な丘の先に突然、焼け野原が広がっていたら誰だってそうなるよね。
怖いって思われちゃうのは、ちょっと悲しいけど・・・
「…で?これほどの魔物…どうやって倒したんだい?」
「火魔法を行使したのはなんとなく分かるけど…こんな広範囲に壊滅的な被害をもたらす魔法、あったかしら?」
「まさかオメー!?失伝…」
「・・・秘密。」
禁忌魔法を唱えました!・・・なんて。
冗談でも言えない。
「ケっ!…そーかい!」
「ま、まあ…冒険者の仕事と思えば当然だね。こっちのヒュポグリフは…な、鉛弾魔法…かい?」
「じゃが…鉛弾魔法にしては威力が高すぎやせぬか?地面に穴が空いているのも不自然じゃしのぉ…」
「・・・ノーコメント。」
ステルス戦闘機がやりました!・・・なんて。
言った所で誰も理解してくれない。
もっとも、どっちも派手な魔法だから、いつかバレちゃうかもしれないけどね・・・
「ナターシャ達は…何か見たかもしれないけど、お友達の為にも言わないで上げなさい。」
出てきちゃメだって言ったのに・・・
班の皆は好奇心に負けて途中から私の闘いを見ていたようだ。
爆轟魔法は見ていないらしい(というか、見てたら死んじゃう)けど、ヒュドラとラプターは・・・
「あ、あははは…」
「「「は、はーい…」」」
「・・・」
・・・みんなのエッチ。
もっとも、黙っててくれるって約束してくれた4人のことは信用しているから良いんだけどね・・・
「…このグリフォン。変な死に方してるね。内側から破られたというか…」
「や、止めようよっ。ルクス君…」
「…は?何言ってんの?…魔女の戦いの跡なんて、そうそう見られるものじゃないだろ?よく観察しておかないと…」
「も、もうっ…」
最近ちょっと距離をとっているルクス君は、彼と同じ班のジゼルちゃんにくっ付かれながらグリフォンの死体を眺めていた。
「う~ん…魔物も含め、他者の体内に潜り込んで行使できる魔法は治癒魔法と契約魔法だけのハズ。なのに内側から…鋭利な刃物で斬られた?分からないなぁ…」
彼が言う通り通常、他人の体内で魔法を行使することはできない。
無理やり押し込もうとしても反発されて侵入出来ないのだ。
魔法とは相手の“外側“で物理現象を起こし、それによって影響を与える行為であり人体を“直接”爆発させたりすることは出来ない。
でも、ヒュドラは他の魔法にはない特殊能力を持っている。
その名は・・・【侵蝕】
他者(もちろん、魔物・人を問わず)の体・・・そして魔力に触れたヒュドラは相手の魔力に“馴染む”事が出来る。
この能力によって他人の体に(物理的にも魔力的にも)侵入し、反発されることなく自由に振る舞う事が出来るのだ。
今回はグリフォンの体内に潜り込んで固体化し、喉の内側から首を切り裂いて倒したけど・・・
魔法で強化した水銀毒で毒殺する事もできるし、相手の肺に潜り込んで窒息死させる事もできる。やろうと思えば腸内で気化してお腹を爆発させる事だってできる。
・・・最後のはとってもグロいからやりたくないけど。
「ねぇ、魔女様?コレ。どんな魔法だい?金属性のような気がするんだけど…合ってる?興味あるなぁ…魔女の魔法!」
「・・・」
勿論、答えるつもりなんてないし・・・
実は先日、ルクス君とはちょっとしたイザコザがあって、それ以来仲が悪い。お話ししたくない。
「ねえったら!どうやったらこんな猟奇的でエゲツな…」
沈黙する私にイラだった様子のルクス君が語調を強めると
「ルクス!?あんた、なにフォニアに近付いてるのよ!!離れなさいっ!!」
「・・・ナターシャちゃん」
両手を拡げたナターシャちゃんが私を庇うように間に立ってくれた!
さらに・・・
「…紳士的じゃないね。」
「・・・チコ君」
「ルクス君!君はもうちょっとデリカシーを持つべきだと思うよ!」
「・・・アラン君も・・・」
チコ君。そしてアラン君も立ちはだかってくれた・・・
「…何だよソレ…ちょっと質問しただk」
「あーあ〜っ!聴こーえな〜い!!」
「…マナー違反。」
「ルクス君ここは下がりなよ…」
「…」
3人の言葉。そして・・・
「「「「「…」」」」」
無言だけど厳しい眼差しの先生達の視線に晒された彼は・・・
「っ…あ〜もうっ!ハイハイッ!分かりましたよ!」
その言葉で踵を返し
「ま、待ってよルクスく〜ん!!」
「…」
ジゼルちゃんに後を追われながら離れて行ったのだった・・・
「…大丈夫?フォニア?」
「…気にする事はない。」
「そうそう!フォニアちゃんがボクら全員を守ってくれたって…他のみんなだって分かっているさ!!」
「・・・みんな・・・ありがと。」
「フォ、フォニアちゃ…ん…」
「・・・大丈夫。」
怖かったのか・・・少し離れて見守っていたコレットちゃんも、慰めに来てくれた。
何があったのか知らないけど・・・今年に入って急に変わってしまった彼の態度には困惑するばかりだ。
いったい・・・
「お〜い、魔女!ところで…」
ルクス君の事を考えていると、ふとセドリック先生が声をかけてきた。
「・・・う?なんでしょうか?」
「ヒュポグリフはともかく…グリフォンも燃やしちまうのか?」
リブラリアでは魔力を多く持つ生物の死体が長期間放置されるとアンデッド化してしまう。
普通なら死肉を漁る野生動物が片付けてくれるんだけど・・・マスティアラーネ潟にはヒュポグリフとグリフォンを補食する生き物がいない(海洋性の魔物がやってくる可能性も、“なくはない”けど・・・)ので死体を処分する必要がある。
「・・・そのつもりです。」
ストレージバッグがあるけど・・・こんな事が起こるなんて思ってなかったから、今回持ってきたのは容量少な目の物なんだよね。
だから尾羽と冠羽を何枚か回収しただけで残りは焼却しちゃうつもり。
グリフォンは強力な魔物で討伐数が少ないから回収できればひと儲け出来るんだけど・・・仕方ないね。
「ふーん…ま、仕方ねーか。」
「・・・ん。ちょっと勿体ないですが・・・」
「グリフォンは美味らしいけどな…」
えっ・・・




