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Chapter 064_主なき館

「…」


服っ。よーし!



「…うんっ」


髪もオッケー!



「爪も…」


バッチリぐーぐー!


鏡の前で身だしなみをチェックした私は棚に向き直り。いっぱいに並べられたお茶缶を見上げ…



「よしっ!!今日のお茶…は………」


やっと。


思い出した…



「…そうだ」


私のお嬢様は。今…



「今日のお茶は…お気に入りの。ディキャンで…」


………

……







お嬢様のいない畔亭…

これまでにも、お友達の家に遊びに行ったりして不在のことがあったけど。こんなに長期(もちろん。ご一緒させていただいたドワーフ王国は別として…)は初めて。

だから、このお屋敷は今、とっても静かで。寂しくて………



「…あ、あれ?アネットさん?」


独りで階段を下ってみると。

今日はお休みのはず(今はお仕事が少ないので。通いのアネットさんとクリストフさんはお休みが多い)のアネットさんの姿が…




「…あら、ローズちゃん!おはよう!」


いつも通りの挨拶…

仕事着であるエプロンも着ている

掃除でもするつもりなのか…ハタキまで手にしている。



「おはようございます…」


お休みなのに…?



「…あ!アネットさんだー!!おはよーございまーす!」

「おはようレアちゃん!今日は予定通り、書庫の大掃除をしちゃいましょう!」

「はいっ!こんな時にしか、できないですからね!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいアネットさん!」


住み込みのレアさんはともかく…



「ア、アネットさん!今日はお休み…です?よね?」

「えぇ、そうね!」

「えっと…お、お仕事をして頂けるのは有難いんですが。その…」


私達のお給金はお嬢様が毎月。直接手渡しして下さる。

本当なら立場上、私が家人の雑事をこなさないといけないんだけど…お嬢様は数字に強いし。なにより…

「・・・みんなにお礼を言いたいから。」といって、その役を譲ろうとしない。

お財布を預かっているのは私だけど…中身を把握しているのは、むしろお嬢様の方だ。

衝動買いした小物の値段まで覚えているから、いつも驚かされる。


でも。だからこそ…

お嬢様がいないところで家のお金をやり取りするのが難しくて…



「…あぁ!もちろん大丈夫よ!追加のお給金なんて貰うつもりはないわ!!…そうじゃなくたって。貰いすぎなくらい貰っちゃってるし…」

「お嬢様、気前良いですからねぇ…。ちょっとでも長く仕事をしていると、ザンギョーダイ…とか言って、お心を追加してくれちゃいますし…。」

「ホントよね…。逆に、こっちが気を使っちゃうほどよ…こんな時くらい、いっぱいご奉仕しとかないとね!」

「ですね!!」



やる気十分の2人。ま、まあ…本人達が言うなら…


そう思いながら2人を見守っていると…



「と、ところで…ローズさん?」


レアさんが、おずおず…といった様子で話しかけてきた。



「…はい?」

「…お嬢様のお寝間着を抱えて…どちらへ?」

「あちゃぁ~…レアちゃん。ソコには触れないであげるのが優しさよ…」

「へ?あっ…」

「………」



………

……






「うにゃにゃにゃにゃぁ〜!!」

『ダタタンッ!ダタタンッ!!…』


玄関先のお掃除でもしようかと外に出ると。ちょうどチェスちゃんのお散歩(?)をしているシュシュちゃんが家の前を通過するところだった。


手綱も持たずに全力疾走する事を“お散歩”と呼べるのか…分からなけど。


っと。それはそうと…



「気をつけるのよ!シュシュちゃん!!」

「にゃんでーすっ!!」


お嬢様が街の衛兵さんに挨拶をしに出向いた…とはいえ。

奴隷が単独で歩くことすら禁止されている上町で襲歩(しゅうほ)の馬と奴隷が並走する事が公認…なんて。前代未聞だ。


いくら近衛隊長(レオノール様)の認可と、お嬢様の折り紙があるうえ

朝の上町は人通りも(まば)ら…とはいえ。


事故でもおこされたら堪らない



「…んもぉ!本当に分かっているのかしら!?」


なんて言ってたら…



「あはははは!…侍女長様も気が休まりませんね!」

「ベルタさん…おはようございます。」

「おはよーございます!」


通りに面した小さなお庭(畔邸は家屋が通りに面しており、そちら側のお庭は蔓(蔦?違いが分からない…)の枝が伸びていただけなんだけど…ベルタさんが手入れして拡げ。今では緑と季節のお花で彩られた花壇となっている)の前で…ジョウロとスコップを傍らにベルタさんが笑顔を見せてくれた。



「まー、でも!あの2人…いや。1人と1頭…なら。大丈夫じゃないですかね?シュシュちゃんはよく気がきくし!チェスちゃんは頭がいいし!」

「だと良いんですけど…。それはそうと、ベルタさんはお庭のお手入れですか?」


彼女が何をやっているのかなんて…分かりきった事ではあるけれど。

話のついでに尋ねてみると



「あ。はい。病気になったり、虫がついていないかの確認と…土の健康診断ですね」

「へ、へぇ〜…」


ベルタさんが来てからというもの、畔邸はいつも花と緑で覆われた彩り豊かなお屋敷だ。

来た当初は殺風景だったのに…さすがベルタさん


…いや。さすが、ベルタさんを見つけたお嬢様!

か…



「う〜む…もうちょい窒素が要るかなぁ…?」

「ち、ちっそ?…見てわかるものなんですか?」

「カンですね!あとは…葉っぱの色合いとか?」

「はぁ…」


…実は今。畔邸のお庭で花を咲かせている植物は少ない。

と言うのも、ベルタさんが「お嬢様がいない時くらい、土を休ませてあげないとね!」

…と言って、その多くを剪定して、引っこ抜いてしまったからだ。


実習に向かったお嬢様を私達と共に玄関先で送り出したヒマワリの花は、その日のうちにベルタさんの手により引き抜かれ、切り刻まれ、納屋の裏の堆肥置き場でヒナ様のもとへ還ってしまった…



「ローズさんは…お掃除ですか?」


殺風景な玄関でストイックな畔邸の庭師殿の事を考えていたら

当の本人から声をかけられた



「え?見たままですけど…」

「えっと…」

「…?」


言い淀む彼女の言葉を待っていると…



「………そ、その…モップで…お外を?」

「………」

「あと。その…お嬢様のお寝間着は持ち出さないほうが…。よ、汚れてしまいますよ?」

「………それはいけませんね。」


………

……






「し、指摘されても手放さないとは…コ、コイツは重症だなぁ…」

「は、ははは…」

「しーっ!…ムシュー!!乙女のハートは小さな傷でも割れちゃうのよ!!そっとしてあげなさい!」

「おぉっ!?お、おぉ…」

「あと、ノエル君は…笑うなんて最低ね!!そんなんじゃ、お嬢様にキラわれちゃうわよ!!」

「!?ご、ごめんなさーい!!!」


こんな時でも畔邸のお茶の時間は健在だ。

コレは仕事なのだから。当然なんだけど…



「…クリストフさん。私はいつもと変わりませんよ?ノエル君は…お嬢様が居ないからって取り乱してはいけません。いつなんどきも、心穏やかでなくては…」

「「…」」


もっとも、お嬢様が側にいると心臓が跳ねちゃって。逆に心穏やかで居られないんだけどね…

ふふふっ……



「お、おい…お嬢の服に顔埋めて…わ、笑ってるぞ!?」

「ひー…さ、さすがにコレは。ボクも…」

「こ、怖いです…」

「ちょ、ちょっとローズちゃん!!本当に大丈夫!?」

「う〜ん…今日のお茶も美味しいですねぇ!?えぇっと、コレは…な、何とかホープ?」

「…ベルタさん。アウトー。」


(私を除いて)唯一平常心を保っているベルタさんは立派だけど…

彼女、植物に詳しいくせにお茶の味を覚えてくれない。お茶の葉っぱも植物なのに…



「…ベルタさん。いい加減ディキャンの味くらい覚えて下さい。」

「ぜ、善処します…」


やる気は、あるみたいなんだけどなぁ…



「…って。今日もディキャンなのか…」

「ここのトコ毎日…」

「し、しーっ!ローズちゃんの精神安定剤なんだから。黙って飲みなさい!!」

「も、もはや。なんの為のお茶会なのか…分からなくなってきました。」


他のみんなは取り乱したままだし…

はぁ…



「お嬢様。早く帰って来てください…」


お嬢様がいないと、このお屋敷は崩壊してしまいます…






「………な、なぁ…ローズちゃん。本当にヤバいんじゃ無いか?」

「心の声がダダ漏れですしね…」

「て、天使様に来てもらいます?」

「ダメよ!そんなことしたら…きっと、イロイロを思い出して悪化するわ!」

「にゃー!ただいまでーす!」

「シュシュちゃん。帰ってきたら、まずはお手手を…」

「まーまー皆さん。お茶でも飲んで落ち着きましょう!」

バッチリぐーぐー!


林檎です。

・・・ふふふっ!



そういえばベルタさんが言っていましたね。

強力な魔力の源がそばにあると、周囲の植物がヘンな成長をすることがあるって・・・



きっと人間も同じように

気付かないうちに影響を受けて変わってしまうんでしょうね・・・


こわいこわい。

魔女様こわいw!


- - - - -

林檎です。


Chapter No.間違えていましたね!?

ごめんなさい。


修正しました!!

(23/10/10 7:50)

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