表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/476

Chapter 059_ガチキャン!

「コレット!1尾行ったわよ!!」

「う、うんっ!…すー『洞窟(どうけつ)よ 風をはめ込み 落せ』フォール!!」


『グキュッ!?』


カレント2,184年 星火の月 15日 お天気は快晴!!



「アラン君!」

「任せて!!うをおぉぉーっ!!」

「…ナターシャちゃん。残りは矢で縫い止めた!」

「偉いチコ!!いくわよー」「…火球デュエット」「えっ!?あ、う、うん…」

「「せーのっ!!『炎よ 侵略者なり』ファイアーボール!!」」


学園3年生の恒例行事【実習】にやって来た私達。

ルクス君を除いた(クラスの上位3人が纏まるのはマズイ。という学園側の判断で別の班にさせられた)私達5人は実習地である【マスティアラーネ(かた)】という初級ダンジョンにいた。



「ぜりゃあっ!!」

『グキュッ!?』

「アラン君ナイスだ…よ!!」


コレットちゃんが落とし穴に落としてアラン君が槍で突いたのが、【アウトゴビー】という、大型犬サイズの“ハゼ(泥の中に棲む魚)”の魔物。



『『ドゴォォーーンッッ!!』』

『ゲゲッ…』『キュゥ…』『グギュゥ』

「ふぅ~っ!!」

「…今回はよく燃えた。」


ナターシャちゃんとチコくんがユニゾンで3尾まとめて燃やしたのが【ドレインゴビー】という、アウトゴビーの進化()個体。

大きさは・・・ひと回り小さい、中型犬くらいかな。


マスティアラーネ潟は、王都エディステラからレダ川を3日ほど下った所にある、海に突き出した半島の大部分を占める(広さは異世界島国で踊り子がいる半島を少し小さくしたくらい。)干潟だ。


けど、広さの割に生物多様性ではルボワの森に遠く及ばず。出現する魔物はわずか4種。

既に登場したアウトゴビーとドレインゴビー。

あと、アウトゴビーを大きくした【フロウゴビー】という、この魔物の最終進化形。


脅威度は、小さい方から、

ドレインゴビー:(れつ)

アウトゴビー:劣級

フロウゴビー:初級


残る魔物は、砂の中に潜っているエビ型の【ブラッディーシュリンプ】という不穏な名前をした魔物。

でも不穏なのは名前だけで・・現れても、スグに泥の中へ逃げてしまう臆病な魔物だそうだ。

打ち上げられると『ピチピチ』するだけで攻撃してこない。


脅威度は劣級。



「・・・みんな、お疲れ様!!」


そんなわけで・・・

一応、1級冒険者である私が出る幕はない。


先生に言われたから・・・という訳じゃないけど手だしはせず、見守る事にしている。

みんなの訓練にならなくなっちゃうからね・・・



「…上手(うま)くできた。」

「さっきよりスムーズだった…ね!」

「あぁ!タイミングもばっちりだ!!」


最初はぎこちなかったけど・・・今回の狩りは大成功!

個人の動きも、みんなの連携もイイ感じ!



「…プロの評価は?」

「・・・良かったと思うよ?」

「より良くするに…は?」


うーん・・・

改善点が無いわけでもないけど。そういうのは、まだ・・・



「あたしとしては…」


口を開いたのはナターシャちゃん。

何か思うところがあるのかな?



「チコとデュエットしなくても…あたし1人でも倒せたんじゃないかなぁ~って。思っているんだけど…」


なるほど・・・

ナターシャちゃんは確かに、このメンバーの中では最大火力を誇る。

接近戦用のレイピアの扱いにも長けている。

でも、そうだなぁ・・・



「・・・もしナターシャちゃんがソロで唱えるのだとしたら・・・火矢魔法(ファイアーアロー)の方が良かったかな?」

「…火矢?なんでよ?」

「・・・魔物3尾は確かに。“ある程度”は密集してたけど・・・ナターシャちゃんソロの火球魔法(ファイアーボール)じゃ、届かなかったと思う。」 

「うっ…た、確かに…」

「…ナターシャちゃんに任せた方が良かった?」

「・・・どうだろう?魔物を縫い留めたのはチコ君だし・・・その時の感覚で、余裕があるかどうか判断すればいいんじゃないかなぁ?」

「…そう言われても…難しい。」

「ホントよね…」


「わ、私…も…」


悩む二人の横で声を上げたのはコレットちゃん・・・



「アラン君がスグに対処してくれたから何とかなったけど…あの場面なら、発現に時間がかかるうえ、そのまま泥に逃げられちゃったかもしれない孔穴魔法(フォール)より、柵魔法(フェンス)とか棘魔法(ニードル)の方が良かったかなっ…て…」


先ほどコレットちゃんが唱えた孔穴魔法は土属性第3階位の・・・文字通り。落とし穴を生み出す魔法だ。


土魔法は基本的に発現が遅いし。発現してから構造物が出来上がるにも時間がかかる。ついでに、穴の壁が(イマジネーション次第で硬くすることも出来る。とはいえ・・・)土だから・・・

今回のように、半地中で暮らしている魔物のフィールドで戦うと、そのまま逃げ出されてしまうリスクもあったわけだ。


でも・・・



「・・・どうだろう?得意じゃない木魔法で、上手くできたかな?」

「そ、それ…は…」

「・・・効率で言えば今言った方が良いかもしれないけど・・・でも、ここは地面が泥で。土台が悪いから木魔法は本来の力を発揮できない。っていう問題もある。」

「あぁ…さっきボクが唱えた棘魔法も()()だったね…。」


何より・・・



「・・・魔物退治は、つまるところ結果だから。」

「けっ…か…」

「・・・魔力の節約とか、効率も大事だけど・・・それで死んじゃったら、元も子もない。」

「それは…うん。その通りね…」

「・・・先ずは魔物の撃破を目指して。それ以外の事はその後でいいんじゃないかな?魔力の最適化や戦いの効率化は・・・リスクでもあるから。」


ゲームと違って

怪我をしたら生理的に痛いからね・・・



「リスク…確かにそうかも。咄嗟(とっさ)には出来ないからね。」

「・・・ん。こういうのは経験だから。・・・今は、油断さえしなければ。それでいいんじゃないかな?」

「実地訓練は今日が初日だし、焦る必要はない…か。」

「・・・ん!あと5日間・・・みんなで頑張ろうね!」

「「「「おーっ!!」」」」


・・・

・・






夜・・・


『パチパチッ…』

「・・・もくもくもく・・・」


マスティアラーネ潟はほぼ全域が干潟だけど・・・起伏もあって。

丘のようになっている場所もある。満月も近い今の時期は干潮の差が大きいため、休む時は丘に上がってキャンプをするのだ。



「「「「…」」」」

「・・・も?」


実習(テントの張り方や緊急時に助けを呼ぶ方法などを学ぶ講習もある。)の中でも、生徒たちが班単位で行動する実地訓練(ガチキャン)の間、食事は学園から支給され、出発地点からみんなで分担して運ぶことになっている。

飲み水を魔法で生み出せる分、荷物は多く無いけど・・・

子供1人で背負える量なんてたかが知れてる。


当然。足りない。



じゃあ、どうするのかって?

それは勿論・・・



「フォニア。あんた…」

「よ、よく食べられる…ね…」

「・・・ふぉいふぃーへほ?」


今日のオカズはゴビーの丸焼き。

内臓はクチャくて食べられないけど・・・ちゃんと処理すれば美味しいよ!!



(たくま)しいというか、何というか…さ、流石だね。」


子供の頃は知らなかったけど・・・

リブラリアにおいて魔物素材はゲテモノ・・・とまでは言わないけど。

一種のB級グルメとして認識されている。


グールーみたいに高級食材の地位を確立している場合も有るけど、ゴビーに関しては泥だらけの見た目も相まって前者の色合いが濃い。


特にこのメンバーは、出自(しゅつじ)()()子だから余計だろう。



「…ボクも食べてみようかな?」


そんな中、声を上げたのはグルメマスターのチコ君!

グルメ王国出身だけあって、ちょっと珍しい食べ物もチャレンジした事があるらしい。


お昼は見ているだけだったけど・・・決心がついたのかな?



「・・・ふぉーふぉ。」

「…ありがと。」


道中、みんなが戦っている横で捕まえた獲物はドレインゴビー8尾とアウトゴビー1尾。

(学園支給の荷物とは別に、小型のストレージバッグを持参した。因みに、このストレージバッグには冷却と酸素吸着をする魔道具入りで中身が腐りにくい!)


ちょっとくらいあげても、どうということは無い。



「…い、頂きます…」


私は料理が苦手だけど・・・修行時代にガブさんが教えてくれたお陰で簡単な(ナイフでお腹抜いて、魔法の水で洗って、魔法で生み出した小枝を口から刺し入れて、魔法で焚いた火で炙っただけだけどね・・・)サバイバル料理なら出来る。



『…パクッ』


果たして、グルメマスターの判定やいかに!?



「………うん。思ったより悪くないかも。」

「・・・んふふふっ!」


だよねー!



「ほ、ホントに!?」

「お、美味しい…の?」

「魔物が、おいしい…」


皆はまだ、半信半疑みたいだけど・・・



「…うん。淡白な味だからフォニアちゃんみたいに素焼きにするのはセンス無いケド…」


「・・・・・・う?」


・・・あ、あれ?

「・・・だよね!美味しいよね!?」って言おうとしていたのに・・・ちょっと計画と違くない?


なんか私

唐突にdisられてない!?



「…こうして…」


私の気持ちなどお構い無しのチコ君は荷物から塩コショウとハーブを取り出して振りかけ。味付けと魚の臭みを消して・・・



「…こうして…」


ゴビーが刺さった枝を火の前でじっくりユックリ回して。余分な脂を落としてから・・・



「…こんな所じゃない?」

「「「「(・・・)おぉ〜!!!」」」」


ソトはサックリ。中はふんわり。

香ばしい白身魚のローストを作り上げたのだった!!


こ、こんなに変わるなんて・・・コレが匠みの技!?何ということでしょう!?



「…どう?」

「・・・いいの!?」

「…もち。」


そう言ったチコ君は“でき立て”を渡してくれた。

勿論、そんなことされたら・・・



「・・・いっただっきまーす!!もくっ!!」


悔しい・・・けど食べちゃう!!



「・・・ふぉ、ふぉいひぃふぉっ!!」

「…それは良かった。」

「・・・ふぁひふぁふぉーっ!!!」

「…どういたしまして。…ボクも食べたいから。もう1尾もらっていい?」

「・・・ふぉひふぉん!!」


そんな私達の様子を見たみんなも・・・



「や、やるじゃない。チコ…」

「す、凄くいい匂いだ…ね…」

『ゴクッ…』


「・・・」「…」


私とチコ君は顔を見合わせてから・・・



「・・・んっく。・・・みんなもどーぞ!!」

「…残り全部、やっちゃおうか。」

「・・・ん!」


「「「やったぁー!!!」」」

林檎です。


あぁっ・・・久しぶりの“ちゃんとした”ダンジョン攻略・・・

書いててとっても楽しいです!!



僕たちの夏(ガチキャン)はまだ始まったばかり!

どうぞお楽しみに!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ