Chapter 058.5_それぞれの将来<閑話>
萌え出した木立の木漏れ日に冬の終わりを感じる。ある、赤い夕暮れの事だった・・・
「・・・ターニャ先輩!?」
「ほ、ほぇ…?」
学園の図書館で小テストの対策をするみんなと別れ、置きっぱなしにしていた魔導書を取りに火魔法研究会の部室に向かった私を迎えたのは・・・
「フォニア…たん?」
「・・・どうしたんですか!?」
「…どう…って?どうもしな…」
「・・・と、とにかく・・・拭きますね。」
「ふ…く?………あ、あれ?わたし…な、泣いて…」
「・・・んしょ。・・・失礼します。」
「………」
・・・
・・
・
「あ、あり…」
「・・・んーん。それより・・・大丈夫・・・ですか?」
ターニャ先輩はひとりで。定位置の席で音もなく静かに涙を零していた。
その手には1枚の製紙が・・・
「う、うん…ご、ゴメンね。お世話してもらって…お、お茶まで淹れてくれて…」
魔力の感じからして、エミー先輩の・・・
「・・・お安いご用です。」
「…ありがと。」
「・・・いいえ。」
「…」
「・・・」
・・・
・・
・
「…エミーが…ね。」
先輩をほおっておくことが出来なかった私はそのまま部室で。
特に話をするでも無く、日が暮れ後もじっと黙り込んでいた。
「・・・はい。」
訳を話すのを急かしているみたいでイヤだったけど、今は・・・
「学校…やめちゃった…」
聞いてあげるべきだと・・・
「・・・はい・・・」
思ったから・・・
「…ジルっちはいいヤツだよ。でも…ロザリーちゃんとエミーは、たまたま姉妹そろって瞳に恵まれたからパトロンを見つけて学園に通っているけど…出身は“壺”なんだって。だから…おカタイ伯爵様のジルっちの家はきっと、彼女を迎えてはくれない。」
リブラリアの貴族制度は世襲制ではなく氏族制。
実力があれば社会は寛容だけど・・・
家柄が無関係・・・と言うほど、単純でもない。
貴族のパートナーになれるは、やっぱり・・・
「けど、ジルっちはジルっちで家を大事にしてる。良い意味でも、悪い意味でも…アイツは優しい。だからエミー“だけ”を愛してはくれない…たぶん。…でもって、エミーはそれを許しちゃうくらいアイツに夢中…絶対…ぜったい。」
「・・・でも」
「もちろんエミーがそれを承知で後を追ったんだって分かってる!でも…でもでもでも…」
「・・・」
「でも…」
「・・・」
「………な、なんていうか…」
「・・・・・・」
「も…も、“もったいない”なっ…て………」
「・・・それを」
「それを決めるのもエミーだって!?そんなの分かってるよ!でも…でもでもでも!」
「・・・先輩。」
「なによぉ!?」
「・・・落ち着いて。・・・また泣いてるよ?」
「えっ。あっ………」
「・・・寂しくなりますね・・・」
「…っ…んぅ………」
・・・
・・
・
「…な、なんか…ど、ドキドキしちゃうね…」
「・・・んふふっ。」
夜。
月の綺麗な夜。
「誰かと寝るなんて久しぶり…」
「・・・そうなんですか?」
「ほら。私のルームメイトはエミーだから。そ、その…ま、毎晩…えぇと…」
「・・・分かりました。もう、十分です。」
「あははは…フォ、フォニアたんは…1人じゃないの?」
「・・・毎日家臣の獣人の女の子を抱いて寝ています。もっふもふです!」
「何それズルい!私もモフりたい!!」
「・・・呼びますか?」
女の子には慰めてほしい夜があるものだよ。
今夜みたいな・・・無駄に綺麗で、静かな夜は特に。
「…やめとく。」
「・・・そうですか。では、不肖ながら私が。」
「…ホントにいいの?」
「・・・今更言いますか?・・・う?あ。でも・・・ちゅーはメですよ?」
「し、しないよ!そんなこと…お、女の子同士なんだし…」
「・・・そうですか。・・・ヴィエノワズリー50個くらいで交渉しようと思っていたのですが・・・残念です。」
「ぷっ…なにそれ!?お菓子で買えちゃうわけ?」
「・・・んふふふっ。質と量によりますがっ。」
「ふふふっ…」
こらこらヒュドラ。今夜はおとなしくしていなさい。
シュシュも・・・呼び出そうとしちゃってごめんね。でも、大丈夫だから・・・
おねー様の会話に聞き耳立てちゃ、メよ?
「で、では…し、失礼して…ぎゅ」
「・・・ふに。」
「…」
「・・・」
「…」
「・・・」
「フォニアたん…。ちっちゃいのにおっきいんだね…」
「・・・いやん。・・・でも、大きさなら先輩の方が・・・」
「いや。比率がさ…。そ、それに…寝間着だからって、そんなエッチな服をサラッと着れちゃうのも普通じゃないと思う。」
「・・・魔女ですから。」
「…いろいろズルい。」
「・・・ご興味があるなら仕立てて差し上げますよ?」
「えっと…」
「・・・ちなみに。ナターシャちゃんもコレットちゃんも。レベッカ先輩も持っています。」
「えぇぇっ!?い、いつの間に…。み、みんな会長を差し置いて進み過ぎだよ!?」
「・・・ちなみのちなみに。エミー先輩も・・・」
「あぁ…察し…」
・・・
・・
・
「…」
「・・・」
「エミーはいま、アイツと一緒かな?」
「・・・たぶん・・・」
「…来年も一緒かな?再来年は?8年後は?」
「・・・それは・・・」
「そんなの分かんないよねぇ…明日だってどうなるかわからないのに、その先のことなんて…」
「・・・」
「私には、分からないなぁ…」
「・・・そう想える相手が出来ない限り、分からないのではないでしょうか?」
「ををぅ!?大人な発言っー!…なになに?フォニアたんにはいるわけ?そーゆー相手が!?」
「・・・さてどうでしょう?」
「あっ!毎朝一緒にいる、あの男の子!?」
「・・・ルクス君ですか?彼はただのクラスメイトです。・・・先輩も朝練で会っているではありませんか。」
「朝練でも、良い雰囲気だなぁーって思ってたよん?」
「・・・んふふ。ただ練習に付き合ってもらっているだけですよ。」
「ふーん…。ただ練習に。ねぇ…」
「・・・はい。それ以上でも以下でもありません。」
「ふーん…」
「私にもいつか、エミーみたいに想える相手が…できるのかな?」
「・・・いないのですか?」
「う、うん…そ、そりゃあ…子供のころにちょっと。家庭教師のお兄さんに憧れてたけど…そ、それだけ…かな?」
「・・・そうですか。でも・・・ターニャ先輩ならきっと。素敵な相手が見つかります。」
「そうかなぁ…。というか、そういうの面倒だからどうでもいいって言うか…」
「・・・好きな人とのハグは格別ですよ?」
「うぐぅっ…お、大人な発言パートツー!?」
「・・・ちゅーは天国に行けちゃいます。」
「もうやめてー!!ターニャちゃんのライフはゼロを超えてマイナスよー!」
「・・・んふふふっ。このまま新しいページを開いちゃいましょう!・・・さあ今こそ。ヴィエノワズリー50個を渡すと唱えるのです!そうすれば・・・」
「やだー!このままのターニャちゃんでいたい!魔女と契約なんかしないぞっ!」
「・・・それは残念。」
「はぁ、はぁ~…。い、今ほどフォニアたんが“魔女”だって実感しことは無いよ…」
「・・・んふふふっ。」
「ふぅ~…」
「・・・」
「…」
「・・・」
「ねぇ…」
「・・・う?」
「あ、ごめん…もう眠いよね?」
「・・・大丈夫ですよ?」
「そう…こ、これで最後にするから…聞いて。」
「・・・はい。」
「いつかこうなるとは思っていたの。」
「・・・」
「…私は来年、学院に行く。エミーはきっとアイツのところに行っちゃう。そう、分かってた…。」
「・・・学院。決まったのですね?おめでとうございます。」
「ふふふっ…ありがと。というか、魔女様の推薦状があって落ちるわけないよ…」
「・・・お役に立てて光栄です。・・・あ。お話の途中で失礼しました。続きを・・・」
「うん…。エミーと私はどのみち、学園を卒業すればお別れだった。それが半年ばかり早くなった…それだけの事。」
「・・・」
「悲しいのは…た、たった1枚の便箋で済まされちゃったこと。かな…。焦っていたのは、なんとなく分かるけど…」
「・・・」
「お別れ…したかったよ。エミー…」
「どうして?」
「私の言葉は受け取ってくれないの?」
「そんなの悲しいよ…」
「こ、こんな私を見捨てないでいてくれた貴女に、私がどれほど感謝しているか…それをちゃんと伝えたかったのに…」
「それが出来ないのが…悲しい。」
「また、逢えるかなぁ…。逢いたい、逢いたいよ。」
「エミー…」
林檎です。
春は出会いの季節ですが。別れの季節でもありますね。
本小説でも切ないお話が続いてしまいましたが・・・
季節は巡り。次話からは、また。
明るいフォニアが帰ってきてくれます!
そうぞお楽しみに!!




