Chapter 058_仲間
林檎です。
本話、いつもよりちょっと長めです。
ご了承くださいませ。
1枚目の便箋には沢山の人が集まった事。沢山言葉と共に旅だったこと。ロティアが弔ってくれたことが書いてあった。
2枚目の便箋には急なことでみんなが驚いたこと。泣きながらもロティアが頑張ったこと。それと、沢山の・・・私に向けた・・・励ましの言葉が綴られていた。
最後に一言。
「フォニアちゃん。先生たちならこんな時…あなたになんて言ったかしら?きっとこう言ったわ。…しっかりやれ。って…」
1枚目の診断書は簡潔に。死因を完結に。そして一言。
「…ごめんね。」
2枚目の診断書は詳細に。徹底的に。私が疑念を持たないように・・・帰る事がように・・・容赦のない現実を突きつけるように。
最後に一言。
「…フォニア。力及ばなかった私がこんなこと言うのもなんだけど………あなたは、あなたが今そこで出来ることを頑張りなさい。応援しているわ。」
・・・
・・
・
「・・・んんっ・・・」
ふやけた瞼の隙間から漏れ入る光・・・
「…」
肌に触れる柔らかなシーツ。
「・・・う・・・」
甘い花の香り。
「…お目覚めですか?お嬢様?」
耳になじんだ優しい声。
そして・・・
『クー・・・』
「・・・///」
・・・
・・
・
「・・・いただきます・・・」
「あぁ!…たんと食え、嬢ちゃん!!」
目が覚めると・・・
私は寝室のベッドに寝かされていた。
「・・・むにむに・・・美味しい。」
「だろぅ!?」
「パイはボクが捏ねたんですよ!!如何ですか!?」
「・・・サクサクで美味しい。」
理由も告げずに泣いて。挙げ句に眠って。起き抜けにお腹が空いたと鳴いた我儘三昧の私に
皆は呆れる事もなく。とても良くしてくれた。
ローズさんはずっと寄り添ってくれて、
アメリーさんとレアさんはフカフカ毛布とキレイなシーツでお包みしてくれて、
ベルタさんは寝室をお花でいっぱいにしてくれて、
クリストフさんとノエル君はアツアツのパイシチューを用意してくれた。
今はココにいないけど・・・シュシュも心配して、ずっと側に居てくれたらしい。
「・・・みんな。ありがと。」
「…うふふっ。当然の事をしたまでです!」
「私達も…ね?」
「勿論です!!」
「お庭のお花は全部、お嬢様の為に咲いているのですから!!」
「オレたちは…まあ、いつも通りだよな?」
「はい!あ、お替り持って来ますね!!」
私はいい仲間を持った。と・・・
改めてそう思えた。
・・・
・・
・
「フォーニーアーッ!新学期早々、ズル休みしてんじゃないわよー!!」
「・・・う~?」
太陽が西に傾き始めたころ。
「ナ、ナターシャちゃん!そんな騒いじゃ悪い…よ!」
「そうだよ。病気かもしれないんだから…あ。フォニアちゃんお邪魔しまーす…」
「…大丈夫?」
学園のみんながお見舞いに来てくれた!!
「・・・みんな・・・わざわざありがとう。私は大丈夫。」
ヘビさんに凭れて『ぽけー・・・』っと。おじいちゃんに貰った短剣・・・本当に形見になってしまったソレ・・・を眺めていた私は体を起こして皆に答える。
「…ホントに大丈夫?侍女さんは病気じゃ“ない”って言っていたけど…」
そんな私の様子に気付いたナターシャちゃんは
扉を『バーンッ!』と開けた勢いから一転。
私の頬を両手で優しく包み、気遣う声でそう言った。
「熱は…うん。無さそうね。でも…」
「お顔がちょっと赤い…ね。だいじょう…ぶ?」
「・・・大丈夫。これは、その・・・泣いていたから。」
そのまま私の顔をペタペタと触るナターシャちゃん。コレットちゃんも心配そうな顔で、私の膝に手を置き、そう言ってくれた。
そして…
「これ…実家の領地で取れた林檎だよ。甘くて美味しいから。よかったら食べてよ…」
「…クイニーアマンを買ってきた。」
男の子2人は、抱えた紙袋を示してそう言った。
みんな・・・
「・・・ありがとう。・・・ローズさん。みんなで食べるから・・・切って貰っていい?」
「もちろんです!…お預かりいたします。」
その後、部屋を出て行ったローズさんと入れ替わるようにアメリーさんとレアさんが部屋に入ってきて、椅子とテーブルを準備してくれて・・・
「…それで?何があったのよ?」
林檎とクイニーアマンをお菓子に、ほんのり甘いミルクティーを囲むお茶会となった。
「い、言いたくなければいい…よっ!」
「・・・んーん。大丈夫。・・・実は・・・」
・・・
・・
・
「…そう。お爺様が…」
「それは…残念だったね」
「…気を落とさないで。」
午前中、泣き通しだったおかげか・・・事のあらましを、なんとか最後まで言い終えることが出来た。
みんなは私が話し終えるまでずっと、静かに聞いてくれて・・・そして最後は、励ましの言葉をかけてくれた
「・・・ん。・・・半日泣いちゃったし、それに・・・皆が聞いてくれたから。だいぶ気持ちも落ち着いた。もう、大丈夫だと思う。」
それに・・・
「・・・だから・・・そんなに泣かないで。コレットちゃん。」
「えぐっ…ひぐっ…フォニアちゃぁぁ~んっ!!」
それに、途中からコレットちゃんが私以上にわんわんと泣き出し、縋りついてきたので・・・
「・・・よし、よし。」
「ふぇ~んっ…フォニアちゃんのおじいちゃぁぁ~~んっ!!」
「・・・よ、よしよし。」
私まで泣いてなんていられなかったし・・・ね
「ちょ、ちょっとコレット…あんたが泣いてどうすんのよ!」
「でゃってぇ~!!」
「…励ましに来たのに」
「でぇみょぉ~~!」
「・・・いい子、いい子。」
「ふぉにあちぃやぁ~んっ!!」
「は、はは…」
みんなで苦笑いしながらその様子を見守っていると…
「…そうだ。…ナターシャちゃんノート。」
・・・ノート?
「そうだそうだっ。それがあった!!…ほら、フォニア!!魔術Ⅴの講義ノート!!先輩から借りてきてあげたわよ!!…ってかあんた。なんで5年生の講義受けてんのよ!!なに?3年で卒業するつもり!?」
「・・・う!?これって・・・今日の講義の!?」
「そうよ!!」
「紋章学Ⅱのノート。先輩に借りてきたけど…これ、騎士科4年の専門講義だよね?…フォニアちゃん。騎士科にすすむの?」
「ふきょく(舞曲)しゃん(Ⅲ)らけわらしらし(私達)ろ(と)りっしょ(一緒)ぉぉ~!!」
「・・・う?う!?・・・か、貸してくれるの?」
「感謝なさい!!」
「で、出来れば早めに…。先輩に返さないといけないくって…」
「ろんろりっしょりりぇんしゅ~しょ~…にぇ~(訳:今度一緒に練習しよう…ね)!!」
「・・・あ、ありがとう!!今夜中に写すね!!」
講義を休んでしまった私のためにわざわざノートを持ってきてくれたようだ!
尊い・・・
「…あとコレ。」
「・・・プリント?」
チコ君が渡してくれたのは1枚のプリント。内容は・・・
「…実習の連絡。」
「まだ概要だけだけどね~」
「・・・実習。そうだった。」
学園3年生になると夏休み期間を使って低級ダンジョンに向かう【実習】という名のガチキャンイベントがある。今日はその説明があったようだ・・・
「…まだ候補地すら決まっていないらしい。」
「大した説明もなかったから…プリント読んでおけば十分だと思うよ?」
「・・・そうなんだ。・・・ありがと!」
「先輩も後輩も心配してたわよ!無理しなくていいけど…元気になったら研究室にも顔を出しなさい!!」
「・・・ん!そうするね。・・・明日は通学する。」
「む、無理しないでね!」
「しょおらよぉ~!!いちゅれもおしぇれあげゆらら~~!」
「・・・んふふっ。大丈夫!・・・みんな!本当にありがとう!!」
ノートを貸してもらった後、ちょっとお喋りして4人は学園へと帰っていった・・・
4人とも、部活を抜け出してきてくれたそうだ。
忙しいのに、私のために・・・
本当に・・・本当にっ
ありがとう・・・
・・・
・・
・
「・・・」
「…」
「・・・・・・喚んでないけど。」
「…喚ばれた気がしましたので。」
夕方。
屋根に上がって夕日と、沈む上弦の月を眺めていた私の隣にお節介天使が現れた。
召喚していないのに現れるとは・・・
さすが、理の“堕”天使。
『ルルルッ…』
「・・・んふふっ。ほんとね、ヒュドラ。」
「蛇の分際で…」
「・・・んふふふっ・・・」
「・・・ね。サリエル。」
「…はい。」
「・・・どうして人は死んじゃうんだろうね?」
「…それは、それが理だからです。」
「・・・あなたは理を冒涜したんじゃないの?」
「治癒属性はもう1つの理であって、他の理が無くなる訳ではありません。」
「・・・墨を引くのに?」
「アレは…一種の自己否定ですね。」
「・・・非合理ね」
「本当ですね!」
リブラリアの魔法には絶対に覆せないルール・・・理がある。
「・・・死は治せない・・・か。」
「そもそも【死】とは病気でも怪我でもありませんからね…」
「・・・終わっている・・・状態?」
「綴られたという事…と、言っても良いかもしれません。」
「・・・なら、書換魔法で書換ることが出来ないのはオカシイ。」
「理由は…ロードなら分かりますよね?」
「・・・・・・ん。」
魔法とは何か?
何ができて、何ができないのか・・・
だんだん分かってきた気がする
「ふふふ…さすがはロード!また真理に近づきましたね!」『ルッ!』
魔法を極めるのは楽しい。
新しい魔法を知れば強くなれるし、リブラリアの秘密を紐解く作業は何物にも代えがたい。
知的好奇心を刺激される・・・快感だ。
でも、だからと言って・・・
「・・・だとしても・・・おじいちゃんが帰ってくる事は無い。」
「…」『…』
それが・・・理。
「ですが…新しい仲間を。次の定理を見つけることは…出来るのではないでしょうか?」
「・・・う?」
「人はそうやって生きてきた。それが理…ですよね?」
「・・・・・・そう・・・ね。」
「ロードにはきっと…間違いなく!この先も新しい出会いがありますよ!…目の前に真理が見えているのに…」
「・・・手を伸ばさないなんて・・・どうかしてる。」
「それでこそロードです!!…っと!そろそろ私はお暇させていただきますね!…続きは従順な子狐ちゃんにバトンタッチしましょう!」
『ブシュルゥ!!』
そう言うとサリエルは飛び上がり、ヒュドラはヘビさんのヌイグルミに擬態して・・・
「・・・2柱ともありがとう!これからも・・・よろしくね。」
「はいっ!」
『ルッ!!』
林檎です。
ちょっと気になる箇所があったので修正しました。
・・・よろしくね(2022/06/15 7:40)




