Chapter 057_奴隷のぴーえむ
「…そう。プチマイスターのお爺様とお婆様が…」
「にゃんです…」
奴隷ショウでお勉強した後お昼を食べにお家に戻ると、レアさんからご主人様は泣き疲れて眠っていると聞かされ、そして…ご主人様の涙のワケを教えてもらった…
「確か…その、お爺様に体術を教えてもらったとか言っていたな。」
「あら?そうなの?…って、何でジャナがそんな事知ってるのよ?」
「何度かプチマイスターと手合わせした事があってな。そのときに…」
「あぁ…水浸しで黒焦げで雁字がらめで穴に落ちてた。あの時…」
「ぐっ…そ、それより前の時だ!」
ご主人様はシュシュの事をとても大切にしてくれる。きっと、その2人の事も大切に思っていたのだろう。
ご主人様が子供の頃、すっごくお世話になった人みたいだから、余計に…
「…シュシュは、ご主人様に何をしてあげれば良いんだろう…?」
「「…」」
シュシュのその呟きに答えてくれたのは…
「んなん…悩むことじゃねーだろ?…もっと強くなればいーだろがぁ!」
「「ダラ!」」
「ダラさん…」
もう一人のシュシュの先生…ダラさんだった。
「だいたい、その為に紡歌に来てるんじゃねーのか?」
ご主人様が初めて紡歌に連れてきてくれた時、コーインの皆さんが仲良くしてくれて、色々教えてくれるようになり…それ以降、ほとんど毎日遊びに来ている。
シュシュはこれまで戦いも、魔術も習った事は無くて。見よう見まねだったんだけど…
リリさんによると、狐の獣人である私は【変化】の技を行使できる筈だし、
ジャナさんによると、魔法と魔力と気配(魔法が行使された時。魔法以外の魔術が行使された時。単純に人が動いたり喋ったりした時は…全部、違う“感じ”がする)に凄く敏感で、
ダラさんによると、体力が有るのにすばしっこくて器用…だ、そうだ。
「いいか?シュシュちゃん!?前にも言ったが…プチマイスターが獣人を名付ける(自分の奴隷にする。という意味。シュシュはご主人様に奴隷にしてもらったとき、同時に本当の【名前】も、もらったけど…)事もあるって分かった今。うかうかしてるとその座を取られちまうぞ?…それでいいのか?」
「にゅう…イヤです…」
紡歌のコーインさんたちは、みんな名無しの奴隷だ。
名無しの奴隷はつまり、頼るアテも無いってこと。
錘様に身を寄せているお陰で食べることはできているらしいけど…不安定なことに変わりはない。だからやっぱり、名付けてくれる主人が欲しいと思っている人も多いみたい。
ご主人様はコーインさんたちから見れば錘様…つまり、自分達の(“名付けてもらってはいない”とは言え)主人の弟子に当たる人物だから遠慮しちゃうし、さらに未成年だから…奴隷を名付ける事なんて無いと思われていたらしい。
でも、シュシュが現れて…
「…シュシュちゃん。ダラが言ってる事は…厳しいコト言うようだけど…本当よ。」
「プチマイスターもシュシュちゃんが強くなりたいって言ったから…だから、ここに通わせてくれているんだろう?なら、シュシュちゃんが強くなる事が、プチマイスターに“してあげられる事”なんじゃないのか?」
「これから強くなって、プチマイスターを守ってやりゃあ良いんだよ!!」
「ご主人様を…守る…」
あんなに強いご主人様を守るなんて…
「シュシュに…出来るのかな…?」
すると、ダラさんは…
「…おらよっ!」
…と。
2本の大きなナイフを投げて来た
「にゃ!?」
慌てて受け取った…その瞬間!?
「悩んでる暇なんかねーだろっ!やるっきゃねーんだよっ!!」
曲刀で斬りかかってきた!!
「にゃぁ~!?」
慌てて受け止め、距離をとると…
「オラオラオラァ!!」
「にゃっ、にゅっ、にょぉ~!!」
わわわ…!っと攻めてくるダラさんの相手に精一杯で…シュシュは悩むの一端、置いておく事にしたのだった…
………
……
…
「・・・お帰り。シュシュ。」
「ご主人様…」
夕日が沈んで少し経ったころ…
シュシュがお屋敷に帰ると、レアさんからご主人様が呼んでいるからお部屋に行くようにと言われた。
「・・・おいで。」
「にゃん。です…」
中に入るとご主人様の姿は無く…でも、話し声がするからスグにベランダの横から屋根に上がっているのが分かって…行ってみると、優しい笑顔でシュシュを迎えながらクッション代わりの蛇の…ご主人様の魔力で満たされた、生き物?…をポンポン叩いて、隣に座るように促してくれた。
いつもの笑顔を浮かべていた…
「・・・心配かけちゃって・・・ゴメンね?」
ホンの少し、顔は赤いものの…ご主人様は朝のように泣いてはいなかった。
心なしか、すっきりしたような…穏やかなお顔をしていた。
けど…ご主人様の心音には、まだ…少しの痛みと悲しみが潜んでいるように聞こえる。
そうれはそうだろう…
「そ、そんなっ…。ご、ご主人様…その…」
悲しんでいるご主人様に何をしてあげれば良いのか…
なんて言ってあげれば良いのか分からないシュシュは、そこで黙り込んでしまった。
すると…
「・・・今日はどんな1日だった?」
…と、尋ねられた。
「…【雨宿り(奴隷ショウの名前)】ではジューシャとしてのさほーを教えてもらったです…。お馬さんとの歩き方とか、ご主人様とどれ位キョリを取れば良いかとか…」
「・・・そうなんだ。でも、シュシュには出来るだけ私の側にいて欲しいな。」
「ご、ご要望とあらば…」
「・・・錘様の所は?」
「えぇと…今日はダラさんが手合わせしてくれましたです…」
「・・・う?ダラさん・・・あぁ。あの人か。・・・んふふっ。楽しかった?」
「に、にゃんです…けど…ま、負けちゃいました…」
「・・・そっか。悔しいね。・・・怪我はない?」
「にゃんです…す、擦り傷もないです…」
「・・・それはよかった。」
ご主人様はそう言うと…
「にゅふ…」
今朝と同じように、シュシュの頭を撫でてくれた…
「・・・よし、よし。頑張ったね・・・」
上目遣いで見たご主人様はいつも通り優しくて、お手手は気持ち良くて…
「…///」
甘えてしまう。
でも…
「ご、ご主人様!」
「・・・う?」
でも、それだけじゃ…ダメ
それだけじゃ…貰ってばかりじゃダメなのっ!!
「シュシュは…シュシュは!シュシュはこれから、もっともっと強くなって…ダラさんもリリさんも、ジャナさんだって倒せるくらい強くなって!!ご主人様をお側でお守りしてみせます!!だから…だ、だから!ご主人様に寂しい思いなんてさせませんっ!!」
シュシュの言葉にご主人様は…
「・・・」
パチクリと。大きな瞳をまばたきしてから…
「・・・んふふふふっ!」
「にゃふっ!?」
腕を伸ばして、シュシュをギューッと抱き締め…
「・・・お願いよ。」
「にゃうっ///…ね、願われ…ひゃう//////」
………
……
…
「…」
夜。
主寝室にて。
「…お休みなさいませ。お嬢様。」
「・・・お休み。ローズさん。」
「…」
「・・・」
『パタンッ…』
ローズさんがお部屋から出ていってから
シュシュの、その日最後のお仕事が始まる…
「・・・シュシュ。」
「にゃんです…」
「・・・おいで。」
「にゃん…です…」
「・・・はぁ・・・あったかい・・・」
「にゅ…」
「・・・もふ・・・もふっ」
「んっ…あっ…」
「・・・もふっ・・・もふ。」
「はにゃぁ///」
「・・・しっぽ、フワフワ。・・・あったかい。」
「にゃう…ふ、普通…です…」
「・・・これが普通なんて・・・砂狐族。恐ろしい子・・・」
「り、リリさんはもっとフッサフサです…」
「・・・リリさんは触らせてくれない。・・・狐の姿すら、見たことない。」
「リリさんはお客様の対応とモデルのためにいつも人間の姿でいるようにしているらしい…です。…シュシュはまだ、あんなに長い時間、変化していられません…」
「・・・変化できること自体、凄いと思う。・・・正直、意味が分からない。」
「にゃ、にゃはは…シュシュも、どうして自分にそれが出来るのかは…わかん…にゃふっ!?」
「・・・もふ・・・もふっ」
「にゃぁっ///」
ご主人様はお喋りしながらシュシュのことを…尻尾の先から耳の先端までくすぐるように触って…
「・・・・・・気持ちいい」
「///」
トロンと…して…
「・・・・・・おやす・・・み。シュシュ・・・」
「…おやすみなさいませ。ご主人…さ…ま…」
「・・・くー」「すー…」




