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まほー(物理)  作者: 林檎とエリンギ
1st Theory
16/476

Chapter 015_憧れの後先

林檎です。

一部、誤字修正を行いました。(21/10/10 -14:00)


もっかい修正しました!

・・・よろしくね。(22/03/13 -12:35)


説明不足の箇所があったの-で追記しました!

・・・よろしくね!(22/07/18 -10:20)

これは一般にはあまり知られていない事らしいけど…

治癒術師は常に人材不足のため、教会は非正規の治癒術師を“その”教会の判断で雇っている。

そういう非正規の治癒術師は大抵、助産師や薬師なんだけど…中には例外的に、銀色の瞳を持って生まれたけど巫女にはなりたく無くて…それでも治癒魔法は宿したくて…治癒術師としてアルバイトをする傍ら治癒術の技を学ぶ者もいる。


…私みたいに



地元の教会で10歳から見習いヒーラーとしてアルバイトをしていた私は、学園に通っている間もコネを使って大聖堂のヒーラーに教えを乞う事が出来た。

そのお陰でほとんど毎日、学園と大聖堂を往復していたからクタクタ…

部活も出来なかったし学園祭にも行けなかった。花の学園生活とは程遠い…


そうまでして教えを乞うた理由は、もちろん治癒魔法の知識を得たかったからだ。

治癒魔法は唱えれば現れるような単純な魔法じゃなくて、人体の構造や生理反応、病気やケガ、呪いにまで及ぶ膨大な知識が必要。それがないと診断結果はぼんやりとしてしまい、その後の治癒もうまくいかないのだ。

そして、治癒魔法では治しきれない時…体の中に異物が残っていたり、怪我の程度が酷くて繊細な治療が必要な時…には患者の体にナイフを立てて患部に直接触れる事もある。


呪文と効果さえ知っていればいい他の魔法とは違う。


先輩ヒーラーの診断に触れさせてもらっても、知識がないうちはチンプンカンプン。

小さな傷1つ治すのだって…何十人・何百人という人の痛みを見て聞いて知って、初めて出来る技だ。

目の前で尊敬する術師が…力及ばぬ事を嘆き、糾弾(きゅうだん)されて、命まで狙われて…それでも続ける姿を見てきたからこそ、今の私がある。



私は子供の頃からお母様に憧れて、冒険者になるのが夢だった。

だから、自分に与えられた銀の瞳に頼るしかなかった。


目的は自分の憧れのため。でも…これでも沢山の痛みを治めてきた!

大げさかもしれないけど、命も救ってきた。

私は自分の治癒術に自信がある。

仲間の…友達の…命を預かる自信だって!











だから…


「でも、本当は…叶う事なら、髪の色だけじゃなくて、瞳も…………赤が良かった。最強のお母様と同じ色が…」


…なんて、言わないよ


………

……






「あ、あんな小さな子が…セコンド!?」


ヒナ教会も、いくら人手不足とはいえ責任の持てない人…才能と、知識と、技術と、人格と、その他…が無い人に治癒術師の【位】を預けたりしない。非常勤の治癒術師は、大抵“ただの”治癒術師で、まれに“見習い”なのだ。

プリモ、セコンド、テルツォの名前は重い。


どれくらい重いかというと…人の命くらい。



「そ、そんなっ…わ、私は“位”なんて一度も…。…ど、どうして!?あんな小さな子が!?…仮に治癒魔法を宿していたとしても、それだけじゃ…」

「治癒術がどれほど難しい物かは…すまん。オレには分からないが。…とりあえずあの子は1人で治癒院を任されることがあるらしい。」

「はぁぁっ!?」


ちょっと待って!!

なにそれ!?あの子もあの子だけど…ここのプリモ、バカじゃないの!?



「…この話をしてくれた奴…隣の席で飲んでいた男…が言うには、馬車に轢かれて千切れた部下の足を繋ぎ直してもらったことがあるとか…」

「あんな子供に第6階位の上級外科処置魔法(トリートメント)が行使できるものですかっ!!?」


複雑骨折と神経断裂を伴う傷…もはや部位破壊といってもいい程の損傷は下級外科処置魔法(リカバー)では治しきれない。それを治した…ですって!?そんなはずはない!

私だって上級までは…


…なのにっ!



「そ、そうなのk」

「そうよっ!ヴァル兄もそんな酔っ払いの話、う呑みにしないでよ!!」

「す、すまん!だが…そんなに凄い事なのか?」

「どう考えても凄いでしょ!?それは奇跡よ!!…普通、そういう時は足は諦めて痛み止めして止血して増血して…それが精一杯なの!…いい!?エディステラの大聖堂に【滝洸(ろうこう)の記憶】という治癒術師の聖書と言われる魔導書があるんだけど、そこに綴られた最高位の魔法こそ、上級外科処置魔法。そしてその書こそ、治癒魔法に関する人類の知識の全てなの!上級外科処置魔法を宿している人は世界に数人しかいない筈よ!?」


治癒術にかかれば何でも治ると勘違いされがちだけどそれは違う。

治癒魔法には限界がある。

治せる傷も癒せる病も多くはない。だってそれが…理だから。


ヴァル兄は軍人だけど、まだ若いから知らないのだろう…



「ヴ、ヴァルラム様。なんでそんな話を…」


そう!そこだ!

幾ら知識が無いとはいえ、そんな酔っ払いの言葉を拾い上げて来るなんて…普段は冷静なヴァル兄らしくないぞ!悔い改めよ!!



「いや、その…」

「その?」

「…そいつ、酔っ払いとはいえ…この街の衛兵隊長だったんだよ。」

「え…」


「ヴァルラム様。その人…本当に?」

「い、いくらオレだって銀勲<騎士位の勲章の事>を見誤ったりするものか!」

「でも酔っ払いだったんすよねぇ?」

「それは間違いないさ。…一緒にエールを飲んだからな。だが、奴も今のオレと同じ程度には話せていたぞ?」

「あれ?ヴァルラム様も素面(しらふ)では無いので?無いので?」

「…まあな。」


じゃあ…本当の事だとでも…いうの?



「………なに、それ?」

「ペチカ?」


気持ちも力も抜けてしまった私は…



「…ズルいよ。」

「ペチュカ様!?」


ベッドに頭から倒れ込んで…



「なんでよ…どうして?努力も…時間も…諦めも…我慢も…全部………全部無駄だったの?才能があれば…瞳の色だけで…全部手に入るっていうの?憧れも?私の憧れも!?ねぇ、そうなの!?」

「ぺ、ペチカ!!落ち着いて!!」「ペチュカ様!どうどうっ!!」


「何よそれ!!ズルい!!ズルいよ!ズル過ぎだよぉ!!まだ子供のクセに!何にも知らないクセに!!運が良かっただけのクセに!!なんで全部手に入れてるのよぉぉぉーーー!!!!!」

「わーわー!ペチュカ様!マズいよマズいよ!!」


「ひどいっ!ひどすぎるよっ!!何で!?ねぇ、何で!?私が欲しかったもの、全部持ってるなんて…こ、こんなのってないよぉぉぉ!!」

「ペチカ!落ち着けっ。」






大声で泣き叫んだ私は結局、仲間と宿のお客さんに大迷惑をかけて…眠ってしまった。


羨んで、駄々をこねて、泣き叫んで…


自分がホントに嫌になる。


まるで、子供みたい…
















「…」


「よし!ソレでいこう!!」

「…す、すごくたのしみだけど…でも、ほんとうに?」

「ぼくはふあんですねぇ…ですねぇ…」

「だが、これくらいのことは…」



「………んんぅ…」


「それにしても、さっすがヴァル様!分かってるぅ~!」

「ど、ドキドキしてきた…」

「ホントですか?ホントに行っちゃうんですか?」

「最終的にはペチカに決めてもらう事になるがな…」






「…ふぇ?」


カピカピする瞼を開けると…



「うっ…まぶしっ…」


明るい部屋の中、涙で滲んだ光の向こうに人影…



「あ…おはようペチュカ様。…だいじょうぶ?」

「…うん~?」

「ほら、これ…顔拭いて!」

「…ありが…と…ふあぁ…。あったかぁ…」


よく見えないけど…リーザがホカホカ濡れタオルを渡してくれた。

気持ち良くて顔をうずめていると、さらに隣から声が…



「…水飲むか?」

「……う~ん…うん」

「『湧水よ』スプリング…ほら。」

「ありがと……ヴァル…」


…え!?



「ヴァル兄!?」

「おう…」


「アリョーシャ君!?」

「よ、よぉ…」


「ポタまで!?」

「どもども…」


なに?なになに!?!?!?

なんで男の子たちがいるの!?私…寝起き…だよね!?

って、あっ…そ、そうだ昨夜!!



「…っ~///…きゃぁっ!!」

「あらら…」


思わぬ事態に驚いたと同時に、昨日の出来事を思い出した私は恥ずかしくて枕にダイブ!



「えぇぇっ!?…って、あぁっ…」

「ど、どうした…?」


ま、枕が湿っぽい!?というか…濡れてる!

ひょっとして私の涙でぐっしょり!?

どうしよぉ…宿の人に怒られるぅ…



「はっ…」

「???」


…と、一瞬焦ったけど。

よく考えたらリーザから受け取った濡れタオルを枕とサンドしていただけだった。



「…///!!っ///!!…」


ペチュカ!冷静になるのよ!!






「…大丈夫?」

「…ぃ…」

「…え?」

「……なぃ…」

「…え?」

「…じゃなぃ。」

「…え?」

「大丈夫じゃない!!」

「大丈夫そうね。」

「っ~~~!!!」


顔を上げると、そこには…



「おっはーようっ!」

「おっはよー!ペチュカ様!」

「おはようございます!ございます!」

「…よ。」


明るい部屋の中、ランタンと地図、薬と剣、魔道具と保存食で散らかした机を囲んだ私の仲間たちは、ベッドの上で目覚めた私に笑顔を向けてくれた。

まるで、昨日の事なんて無かったかのように…



「…………おはよ…。あの、みんな。…昨日は!」

「すとーっぷ!」

「…ふぇ?」


謝ろうとした私の唇にリーザが人差し指を立てる



「…もういいよ。」

「リーザ…」


「ペチュカ様。その…オレ達もすみませんでした!全部…ペチュカ様におんぶにだっこで…」

「アリョーシャ君…」


「だからボク達話し合ったんです!これからどうするか…皆で考えようって!みんなで!!」

「ポタ…」


「…で、一応案は出た。だが、まだ決めちゃいない。…ペチカ。お前も参加するんだ。これからオレ達が、この街でどうするか…」

「ヴァル兄…」


リーザは私を優しく抱きしめて、唱えてくれた…



「ペチカ。私達は天才じゃ無い。魔法も剣も、実力は中途半端よ。…でも!でもっ!!それでもここまで、みんなで来られたじゃない。私は…無駄じゃなかったって思ってるわよ!!」


「リーザ…」



「…ペチュカ様!今まで甘えていた分、ここから先はオレが道を拓いてみせます!稼ぐぞぉぉ――!!」

「ちょ、調査と斥候は任せて下さい!森の地図は頭に入れました!!任せて下さいぃ…!」

「…ま、楽しくやろうや。」



「みん…な…」


お母様。

私…がんばってみるよ。



「…うんっ!がんばろー!」


仲間と一緒にやってみるよ



「「「「おぉー!!!」」」」」


どうか、見守っていてください…

林檎です。



本話でペチュカルートは一旦お終い。


閑話を挟んで、次から舞台が変わります。

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