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Chapter 055_奴隷のえーえむ

「…ゅ。」


朝…


シュシュの朝は早い。

このお屋敷で1番…いや。2番目かな…



「・・・くー・・・・・・すー・・・」


シュシュの2色の瞳が最初に捉えるのは、命の恩人でもある主の長い睫毛と健やかな寝顔。



「・・・くー・・・・・・すー・・・」

「………///」



透き通るような薄い瞼の向こうに悠久の夜が眠っている。

シュシュの全部を包んで飲み込む黒い熱…



「・・・くー」

『トクッ、トクッ…』

「すー・・・」

『トクッ、トクッ…』

「…///」


あぁ…なんて愛しいんだろう…



「…に。」


…っと。

いつまで見()れてはいられない!

ちゃんとお仕事しないと…しなくても。ご主人様は何も言わないけど…ローズさんに怒られちゃう!!



「にゅ…」


起こさないように。そ〜っと、そ〜っと…



「・・・うぅん・・・」

「にゃふゅっ!?ふとみょみょ!?」


ハワハワに負けないように。しっかり。しっかり…



「よいっ…しょっ…」


気付かれないように。ゆっくり、ゆっくり…




「………ふぅ。」


絡まる腕と脚を解き、漆黒に満たされたベッドから命からがら抜け出して…



「………にゅふふっ。」


この特権を奪われたヌイグルミ達の恨まし気な視線に見送られつつ…



「…」


おはようございます。ご主人様。

行ってきます…


『パタンッ…』


………

……











「…おはよう!チェス!!」


ゴミ出しの次はチェスのお世話!

シュシュの朝は忙しい!!


力もいるし…くしゃいけど。

でも…今までに比べればぜんっぜん!!

…なんて考えてたら



『ヒュブブブブッ!…ヒュブッ!!』


畔邸いち番の早起きであり、いち番のワガママ者であるお馬様から不満の声が…



「す、スグにお世話させて頂きます。ハイ…」

『ヒュフッ…』


…チェスはご主人様には素直だけど、他の人にはとにかくワガママだ。



『ヒュブッ!!』

「ご、ごめんなさい!!スグに片付けます…」


特にシュシュに対しては…

シュシュがこのお屋敷でいち番、下っ端だって知っているチェスはシュシュの言う事をぜんぜん聞いてくれない。

ワラがちょっとでも汚れていると文句を言うし、毛づくろいが行き届かないと怒って暴れる。



『ブフフフッ…』

「にゃふー!?…い、いくらチェスでもお耳はダメなの!!これはご主人様だけなの!!」

『ヒュフッ!!』


けど…

頭のいいチェスは、ちょっとくらいワガママを言っても自分が怒られることは無いと知っている。

ご主人様がとてもとても…“乗り物”以上に大事に想っているチェスを“むげ”には出来ないから…私たちも強く訴えることが出来ない。


でも。



「にゃあぁ〜!?…こ、こらぁ~あぁ~!」

『ヒュフフフッ!!」


あんまりおイタが過ぎる時は…



「ご、ご主人様に言いつけるよ!チェス!!」


これに限る!



『ヒュフ…………』

「…うん!そのまま大人しくしててねっ!!今日もご主人様はガッコーだから。チェスもお仕事!キレーにしないとね!!」


『…ブブッ…』

「うんしょ、うんしょ…」


『ヒュ…』

「よいしょっ…よーいしょっ!」


『…』

「にゅっ、にゅっ…」


『ヒーヒュブブブブッ!!』

「うわぁぁあ!?チ、チェス!?暴れるとご主人様に言いつけるよ!!」


『ブフッ…』


いち日に何回もこれを繰り返すチェスは…

本当に頭がいいのかなぁ…?



………

……






「・・・お手紙?」

「にゃんです!お店の人が渡してくれましたですっ!」


お屋敷からご主人様とローズさんの声が聞こえるのを待って。お屋敷の前でお掃除をしてい時にラレ…なんとか…しょー会の人に渡された紙の袋…オテガミ?…を届けると…



「・・・ん。ありがとシュシュ。」

「にゃふっ…///」


ご主人様はシュシュの頭を撫でてくれた!



「…んもぅ!」

「・・・まあまあ、ローズさん・・・ね、シュシュ。今日は寒いね。・・・大丈夫?」

「へっちゃらですっ!!」


お掃除していた時の服のままだったからローズさんは怒っているみたい(お屋敷に入る前に水浴びして着替えろと言われている)だけど…ご主人様はそんなの気にしないもんね!



「・・・そう?でも無理しないでね?・・・頑張ってくれてありがと。」

「にゅふふふっ!にゃーんで〜す!!」


ご主人様にお耳をふにふにされ、尻尾をふりふりしていると…



「そ、そんな事よりお嬢様!!お手紙をご覧になっては!?」


ローズさんが大きな身振りでそう言った。



「・・・そうだった。」


その言葉で紙の(オテガミ)の事を思い出したご主人様、シュシュの頭から手を離し、袋に瞳を移して…



「に…」


むぅ…気持ち良かったのに、、、



「…どなたからです?」

「・・・えと・・・・・・」


シュシュはまだ文字を習い始めたばかりで、何て書いてあるの分からないけど…



「・・・実家・・・と。イレーヌのレンメイ?・・・ハトビン??」

「…ご実家から?先日来たばかりなのに?それにイレーヌ様は…。ご実家のあるルボワ市のプリマヒーラー様ですよね?ハトビンまで使うなんて…。と、ともかくお嬢様。ペーパーナイフを…」

「・・・ありがと。」


ご主人様はオテガミをクルクルひっくり返しながらローズさんから小刀を受け取り、それで背中の赤いのを『ピッ』てして。袋を開け…



「・・・なんだろう?」


紙の袋の中から、畳まれた4枚の紙を取り出した。



「…」


あの紙のうち2枚は…この間、ご主人様がご主人様のお母様からのモノだって教えてくれた魔法の紙と一緒の物。


けど、もう2枚は…

知らない人の魔力の感じがする…?


なんて事を考えていたら



「・・・ぅ・・・」


ご主人様の心臓が『トクンッ』と大きく跳ねて…速くなった。



「…お嬢様?」

「ご主人様…」


きっと何か、よくない事が…



「・・・うそ・・」


「・・・うそだっ」


「・・・そ、そんなっ・・・」


「だって・・・」


「・・・そん・・・なっ・・・」


………

……






「・・・ひぐっ・・・えぐっ・・・」



オテガミを読んでいたご主人様は「・・・うそだ・・・だって・・・」と呟きながらハラハラと涙をこぼし、

ベッドの上でしばらくそうした後…



『ヒュブブブッ…』

「・・・チェスぅ・・・ひぐっ・・・」

『…』


ウマやに駆け込み。

チェスにしがみついて。涙を…



「ご主人…さま…」


ご主人様が悲しんでいるのは分かるけど…シュシュには訳が分からなくて。何も出来なかった…



「…お嬢様。よし、よし…」

「・・・ひぐっ・・・うぐっ」

「…よし…よし…」

「・・・ふえっ・・・えぐっ・・・」



けど…

ご主人様の手からこぼれ落ちたオテガミを見たローズさんは、何があったのか分かっている。

寝間着のままだったご主人様に背中から毛布を被せ、自分も一緒に抱きついてご主人様の頭を優しく、ゆっくりと撫でていた。



「…」


シュシュは、何も………











「・・・っ・・・っっ・・・」

『ヒュフ…』

「よし…よし…」

「…」


何十分か、あと…



「…」

「…アメリー…さん?」


大きな毛布を持って。アメリーさんがやって来た。



「…ローズさん。これを…」

「…」


アメリーさんはローズさんに毛布をそっと掛け

返事が無いのも気にせず。

今度はシュシュに振り返り…



「…シュシュちゃん。お仕事に戻りなさい。」

「でも…」


ご主人様をほおっておけない…

そう言おうと思ったら



「あなたに…そして私に。この場で出来ることは何も無いわ。…ローズさんに任せるのよ。」

「…」

「あなたにはあなたのお仕事が有るでしょ?…違う?」


悔しいけど…

ご主人様が選んだのはチェスで、

そんなご主人様をなぐさめる事が出来るのはローズさんだけだ。


シュシュはお外のお掃除を投げ出してきている…



「にゃん…です…」


ご主人様のお役に立てないなんて。

悔しい…


………

……






「行ってきます…」


お外のお掃除を終わらせて…ウマやをちょっと覗いて。

まだご主人様がチェスに抱き着いているのを見てから…お屋敷に戻ると食卓にはシュシュのご飯がポツンと残され。ほかのみんな様は忙しそうにしていた。


今日はお掃除が遅くなってしまった上、ご主人様がいつもと違うから…みんな様と食べる賑やかなご飯は無しみたい。

仕方なくシュシュは1人でご飯を食べ。お仕事…じゃ無いけど…奴隷ショウ(“カトリーヌちゃん”様の、お知り合いがやっているらしい。シュシュはここで読み書き“けーさん”と“れーぎさほー”を教えてもらっている)へ向かう事にした。


いつもは家人の誰かが送り迎えしてくれるんだけど…今日は1人。

みんな忙しくって。それどころじゃ、無いみたい。


上町は奴隷の1人歩きが禁止されているから、本当はシュシュひとりじゃダメなんだけど…



「…ご主人様の折り紙も…ぅん。ちゃんと有る。」


これがあれば、大丈夫。



「行ってきます。ご主人様………」

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