Chapter 054_帰郷の便り
「ふーん…」
カレント2,183年 白約の月25日。お天気は…久しぶりの雪。
「ベルタちゃん!それで…お嬢はなんと?」
「…予定通り、24日の汽車に乗るって書いてありますよ。到着は…えぇと…」
「30日ね!」
お嬢様たちがドワーフ王国へ出発してから約半月。
お嬢様自ら家人の為に筆をとって寄こしてくれた手紙によると…
「お目当ての錬金術師様にも無事に会うことが出来た…とあります。」
「そうか!」
「良かったわね!」
お嬢様の旅行は…もちろんバカンスも目的の一つだけど…一番の目的はお知り合いの錬金術師様にご挨拶することだった。…手紙によると無事にそれもできたようだ。…良かったね!お嬢様!!
「ミルクティーボウル…とか言う。ミルクティーを、手で包んで飲む為のボール状の可愛い陶器の茶器を見つけた…と。熱く綴られていますね。」
「…なんじゃそりゃ?」
「ミルクティーボウル??聞いたことないわね…ドワーフの伝統工芸品か何かかしら…?」
「さ、さぁ…?」
「…取り敢えず。また茶器が増えるのは間違い無さそうだな…」
お嬢様ったら…これ以上茶器を増やしてどうなさるつもりかしら?
今だって、茶器専用の食器棚が3つもあるというのに…お茶屋さんでも開くつもりかな?
お茶屋さんのお庭造りか…
それはそれでステキかも?…なんちゃって。
「それでそれで!?」
「他には何と?」
っと。そうだった…
「は、はい!えぇと…」
続きは…
「鹿と、猪と、山鳥が美味しかった…」
お嬢様…
地方…それも冒険者の街…で幼少期時代を過ごされたせいか、お嬢様は魔物肉も平気で食べるワイルドなお方だ。今回は野性味あふれる山の幸を堪能されたご様子。
グルメだなぁ…
「ゲッ…」
なんて思っていたら…
「…どうしたのムッシュ?」
我が家の料理番。クリストフさんが妙な声をあげた…
「どうしたもこうしたも…ついにお嬢がジビエの味まで覚えちまったのかと思うと…な。」
「…難しい料理なんですか?」
お嬢様のお食事はクリストフさんにほぼ一任されているけど、時々…ローズさん経由で…お嬢様からリクエストが出る事がある。
お嬢様のそんな我儘を叶えるためにクリストフさんは相当なレパートリーを備えているみたい…
「う~ん…難しいっつか。素材がなぁ…」
「あぁ…」
「いくつかレシピは持ってるし、“鴨”なら何度か出したこともあるんだが…天然モノ故、素材のムラが大きくて手間がかかる。急なリクエストに対応するのは…」
「なるほど…」
腕を組んで「ウンウン…」と悩むクリストフさんだけど…
「でもぉ…ムッシュの事だから、何とかしちゃうんでしょ!?何しろ、魔女の魔力を支える料理番だもんねぇ!?」
アメリーさんがそう言うと…
「ふっ…」
と、不敵に笑い…
「まーなぁ~…イザって時のアテはあるぜぃ!なんたって俺ぁ…【魔女の料理番】だからな!!」
『グーッ!』としながら、そう答えたのだった。
ふふふっ…
私もいつか、自分は【魔女の庭師】だ~…なんて。
胸を張って言える日が来るのかなぁ…
「…で?それは良いとして…ほかにも何か書いてあったの?」
「あっ、はい!えぇと…」
………
……
…
…
……
………
「…楽しかったって?」
「はっ。そのようで…」
次の日…
私は降りしきる雪の中、報告のために王城を訪れていた。
「ふ~ん…。バカンス…か。いいなぁ~…」
レオノール様が差し出す書類にサインしながら聞いていたディアナ陛下…姫様…は、ペンの柄を唇に当て、そう呟いたのだった
「…ま。それはいいとして…それより。…あの子。ちゃんと部隊で使う発動子を手に入れたのよね?」
1番気になるのは、やっぱりソコか…
「明記はされていませんでしたが…目当ての錬金術師に無事に会えた。との事でしたので…まず、間違いないかと。」
「…そう。」
姫様は私の答えに素っ気なく答え、再び書類に向かい始めた。
聞きたいことは聞けた…と。
…相変わらず、お忙しいことだ。
「…アメリー殿ご苦労だったな。帰る前に一応…手紙の内容だけ別室で書き写しておいてくれ。この場は下がってよし。」
姫様のそんな様子を察したレオノール様はスグに私に退席を促した。
もちろん私も、こんな肩の凝る場所に長居するつもりはない。
「…はっ。」
姫様にお世話になったのは本当だけど…
辞めた後まで利用されているのは、決して気持ちいい事じゃないからね。
そう思って扉に向かい…
「…失礼いたします。」
一礼。
扉を閉め…
「それにしても…」
と…
「開戦の機運が高まっているっていうのに…あの子も呑気ねぇ。」
「万象様は…」
『バタンッ』
「…」
………
……
…
「…そう。そんな事を…」
「…えぇ。」
ところ変わってラレンタンド商会本店の会議室。
相手は…
「アノ人がそんなボロを出すとは思えない。ワザと聞かせた…?」
次期会長のカトリーヌ様…
2重スパイをしている私の、もう一人の雇い主だ。
「…十中八九、そうでしょうね。」
「そうよね…。目的は?」
そして、お嬢様…当の魔女様…は。
私の正体に気付いている。
私とは少し距離を取ろうとするし、質問してもはぐらかされてしまう事がある。
本当に大事な事はローズさんとしか話さないし…こと、魔術に関しては彼女にすら伝えていないようだ。
家に置いてある魔導書は上級までで…必ず持っているはずの王級、そして失伝…魔法の魔導書は、何処をどう探しても見つからない…
錬金術のことも、質問しても一切答えてくれない。
今回の旅行も同行を断られてしまった。肝心の…手に入れたハズの“ご自身のための”発動子…その詳細を教えてくれる事は無いだろう。
あまりしつこく質問をするとローズさんがいい感じにお嬢様に助け舟を出す。“ガードが硬い”なんてものじゃない
私が探りを入れていることは、とっくの昔にあの二人にはバレている。
でも、それなのに…
彼女は私を離そうとはしない。
そして、いいように利用する。
「・・・新しい制服風私服が本当に制服になればいいのに」とか、
「・・・中途半端に近づいてくる彼。どんな子なんだろう・・・」とか。
そんな事ばかり私に語りかけてくる。
陛下とカトリーヌ様からお嬢様の監視を仰せつかっている私は、それらを彼女らに伝えないわけにもいかない。
彼女は分かっているのだ。
自分の行動や言動が姫様に伝わり、それがカトリーヌ様に伝わり、結果を伴って帰ってくることを…
普段は無邪気に振る舞っているクセに…本当に、アレで13歳なのかと疑ってしまう。
「…魔弾部隊の進捗が思うように進んでいない。との事ですので…お嬢様に危機感を持たせたいか。或いは…カトリーヌ様に調べさせるため。」
「…たぶん両方ね。…ホンっと。面倒な事してくれるわ!」
そして…私の正体に気付いているのは他の2人も同じだ。
要するにこれは…三つ巴の出来試合。
仲が良いフリ(“フリ”ではなく、実際のところ仲は良い。互いに掛け替えのないパートナーで有るのは間違いない。)をして、裏で腹の探り合いをする女達の…奇妙な意地の張り合い。
「…いかがいたします?」
「無論、裏をとってから必要に応じてお伝えしますわ。…貴女は余計な事をしないように。」
「…はい。」
「あぁっ///あなたのカトリーヌが、かならずお役に立ってみせますわ!」
「…」
間に挟まれた私の身にもなって欲しい。
何だってこんな訳の分からない…ややこしいだけの情報戦をしているというのだ?
素直に集まってお茶でもすればいいのに…
「…ふふふふっ!アナタからも今度また、ウチに戯れに来て下さるようにお伝えしておいてね!頼んだわよ!」
「………頼まれました。」
「お待ちしておりますわぁ!フォニアしゃま~///」」
「…失礼します。」
『バタンッ』
「…はぁ。」
林檎です!
ハウスキーパー:アメリーさんはスパイだった!?
元王宮付き(しかも、カトリーヌちゃんの紹介)だから怪しいとは思っていたんだよぉ・・・(棒)




