Chapter 052_テスト
「・・・ありがと。ローズさん。」
「ありがとうございます!ローズ様!!」
「いえ…」
ご主人様に連れられて初めて訪れた“どわふぅ”の国。
「・・・大丈夫?寒くない?」
「へっちゃらです!」
真っ白な雪は冷たくて、お外は寒いけど…ご主人のお側はいつも温かい!
「…シュシュちゃん。あなたもちゃんと、お嬢様をお守りするのよ?」
「勿論ですっ!」
スイ様…リリさんのご主人様…が用意してくれたという、狐耳まで覆ってくれるフード付きのコートを着せてもららったシュシュは、ご主人様から預かった2本のナイフをベルトに取り付けてローズ様にお答えした。
ローズ様とシュシュの2人は“まほー”の練習に行くご主人様と一緒に“ナントカ山”っていう雪山に登ることになった!
ご主人様の新しい武器(指輪と、槍みたいなヘンな武器…武器?)の練習が目的みたいだけど…シュシュはまだご主人様が戦っている姿なんて見た事が無い。
ご主人様の魔力は確かにスッゴイし…リリさんによると、ご主人様はマジョ様(?)とかっていうスゴーイ魔法使いらしい。
ご主人様はシュシュのお目目を治してくれたし…魔力の色も珍しい。量も、ものすごーく多いから本当に凄い魔法使いなんだろうけど…
いつも優しいご主人様が魔物と…戦う?
「…んじゃ、入り口まで案内すっか。」
「わ、私も行きます!」
「ボクも!」
「・・・よろしくお願いします。・・・鳶君も、ありがと。」
「ほら。私達も行くわよ?」
「にゃんです!」
本当かなぁ…?って。思うけど…
とりあえず、ご主人様をお守りすればいいんだよね…?
………
……
…
「このダンジョンの難易度は中級。…ま。龍殺しの魔女様なら余裕…どころか、もの足りねーだろうがな。」
「し、深部には“スノータイガー”というトラの上級魔物がいますです!遭遇することは無いと思いますが…」
「・・・ん。深部までは行かないから大丈夫。ご案内頂きありがとうございました。・・・2人も・・・準備できた?」
ご主人様に続いていくと、足跡の残る山道に辿り着いた。
気配は感じないけど…ここから先に魔物がいるのかな?
何が出てきてもシュシュがご主人様を守らなくっちゃ!
雪が積もっているから足元が悪いし、寒くてお手手も冷たいけど…頑張るぞぉ!
「・・・んふふ。・・・それじゃあ・・・」
ご主人様の問いかけに力強く頷いたローズ様と、『グッ』っと拳を握るシュシュに微笑みかけてくれたあと、ご主人様が出発の合図を出そうとした時…
「か、烏ちゃん!やっぱりボクも…」
ブタさんがそう言った。
むぅ…行かないって言ってたのに、今更なにを…
「足手まといです!」
キッパリそう言っきったのはローズ様。
「そうだそうだぁ!足手まといだ!!ご主人様をお守りするのはシュシュの仕事だ!邪魔をするな!」
…と。心の中で訴える。
「ぐぅ…。からすちゃぁん…」
シュシュの思いが伝わる前にローズ様の厳しい剣幕に押されたブタさんは情けない声でそう言った。
…畔邸のみんなが言う通り、本当になんで…ご主人様はこんな人をお弟子様に?
しかも…
「・・・う~・・・いいよ?」
ご、ご主人様!?
「・・・付いてきていいよ。」
「「えぇぇっ!?」」
その言葉に、シュシュとローズ様は驚きと落胆の声を上げてしまう。
一方…
「やったぁ!!」
ブタさんは大はしゃぎ。
怖いから行かないって。自分で言ったのに…
「お、お嬢様!彼は本当にあしで…」
「・・・今回は“はつどーし“のテストが目的だから彼にも見てもらったほうが良い。・・・“とんび"君。これも修行よ。」
「は、はいっ!」
「・・・私から離れちゃメよ?」
「もちろんっ!」
嬉しそうなブタさんと…
「…んもぅっ!お嬢様が優しいからって…」
激オコのローズ様。
シュシュは…
「…」
ご主人様が決めた事なら、
何も言わないけど…
………
……
…
・
・・
・・・
「・・・準備できた?」
「う、うん!ご、ゴメンね。待たせちゃって…」
ストレージバッグに入れている予備の装備を貸してあげると、鳶君はそう言って頭を下げてきた。
「・・・んふふっ。いいの。」
「///」
今回は発動子の試験であって、錬金術師としての仕事じゃ無いけど・・・
私の場合は錬金術の知識を魔法に応用しているから。彼にとっては勉強になるはず!
「・・・それじゃあ改めて。行ってきます。」
「きーつけろよ!」
「行ってらっしゃいませ!!」
準備ができた所で、環様とパチュラちゃんに挨拶して・・・
「・・・それじゃあ、みんな。ダンジョン【ワイトート山】にしゅっぱーつ!」
「はいですっ!」
「にゃんです!」
「おー!」
久し振りのダンジョンへ出っ発ーつ!
・・・
・・
・
…
……
………
お嬢様との久し振りのお出かけ!
夕食までの短い時間だけど…魔女様のカッコいい姿を見れると思って、とっても楽しみにしていたの!
なのに…
「すんすんっ…ご主人様っ!コッチから魔物のニオイがするですよ!」
「・・・ほんと?そこまで案内してくれるかな?」
「にゃんで~す!シュシュにお任せくださいです!」
は、八百歩譲って家人のシュシュちゃんはいいとして…
「それにしても。か、環様…だっけ?あの爺様。指輪に…は、発動子?…こんなものまで造れるなんて…凄い人なんだね…?」
「・・・金属加工に関してなら環様は綴られた中でもトップだと思う。・・・汽車の部品も造っているし、円様の時計に組み込む歯車も環様の品なんだって。」
「へ、へぇ…。烏ちゃんと一緒にいるとスケール大き過ぎて、なんだかよく分からなくなってくるなぁ…」
コイツは許せない!
お嬢様の優しさに付け込んで、足手まといでしかないのに付いてくるなんて…何様のつもり!?
お嬢様の手前、出来ないけど…今すぐ斬ってやりたいっ!
なんて事考えながら、お嬢様の半歩後ろで豚を睨みながら歩いていると…
「…みゅ。」
「・・・う?」「うん?」「あらっ?」
尻尾をふりふり。先頭を歩いていたシュシュちゃんが突然立ち止まり、
「…すんすん」
小さなお鼻でスンスンと言った。
ニオイを…調べているのかな?
「どうしたの?シュシュちゃん?」
そう尋ねると
「み…」
お嬢様に振り返り…
「血のニオイがするです。…いっぱい。」
…そう、唱えた。
………
……
…
・
・・
・・・
「・・・すー『鳥の願い 翼に孕みて 影の森を往く』アシスト!ローズさんは鳶君をお願い!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」
「・・・シュシュ!案内して」
「にゃんです!コッチです!」
ローズさんの答えを聞かずに走りだしたシュシュの後を追って走る!!
「シュシュ!距離と数は?」
「距離は…い、1km以上離れています!数は…ご、ゴメンナサイです。“いっぱい”としか…」
1kmか・・・
ワイトート山は火山なせいか、グスェーブの町の周囲に広がる森を抜ければ、なだらかな登りが続く開けた山だ。
因みに標高は7,000mもあって、裾野だけで異世界島国の北方にある、じゃがいもと牛乳とカニとお肉と・・・が美味しい!大きな島くらいある。
スケールがパない。
「・・・このまま真っ直ぐ?」
「にゃんです!」
ならっ
「・・・シュシュ!そのまま先に行って、助けてあげて!」
シュシュはまだ子供(歳は本人も分からないらしくてハッキリしない。種族として体が小さいのもあって、推測も難しいけど・・・6〜7歳?)だけど、故郷がかなり厳しい環境だったらしく、幼いけど私より足が速いし持久力もあり身のこなしも軽やか。そして魔物との戦闘経験もあるらしい。
魔法無しで手合わせすると派手に手加減される。
要するに「うわぁ・・・幼女強い。獣人チートォ・・・」な、女の子である。
魔纏術+援風魔法で補助した私に合わせるより、一人で走らせた方がよっぽど速い。
「にゅ?ご、ご主人様は!?」
「・・・後ろから魔法で補助する!抜刀許可します!!」
そして分別もはある。
何より・・・私の奴隷だから。
「にゃんです!!行ってきまぁすっ!!」
よっぽどな事は出来ない。
「・・・お願いね!」
「願われぇ…」
答え切る前に走り出したシュシュは一気に加速し、雪の積もる山道をモノともせずに、風のようにぶっ飛んでいった。
「・・・」
うわぁ・・・幼女速い。
どわふぅ! XD




