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Chapter 051.5_理の紐解き① 貫通力と殺傷力<閑話>

林檎です。


今日のお話はいかにも“理系っぽい”…“物理な”お話。



万象の魔女様による【エネルギー保存則】に関わる講義となります。

どうぞお勉強ください!


・・・なんちて XD



テストには出ないからw

のんびり楽しんでいってくださいね!

「・・・では始めます。今日のテーマは“弾の硬度”について。よろしくお願いします。」


魔弾部隊顧問 フォニア・シェバリエ・ピアニシモ…万象の魔女様の講義が始まると、私達、部隊員は一斉にノートに向かった



「・・・前回お話した通り、スナイピングで用いる弾の形状は一般的に用いられる“球形”ではなく“流線型”が基本となります。」


(ことわり)”とは恐ろしいものだ。

ボクより4つも年下であるにも関わらず、どこにも綴られていない…ドワーフ達でさえ知らない…真理を。彼女だけが知っている…


これまでの常識を覆す数々。

普通なら「子供の戯言(ざれごと)」で済まされてしまうような突拍子(とっぴょうし)もない話も少なくないが…



「・・・ではまず、前回のおさらいでもある“流線型”の弾丸を完全に被甲(ひこう)で覆う・・・基本中の基本。“フルメタルジャケット”について。」


この部隊には国王軍の中でもエリート中のエリートが集められている。

このため当然と言えば、その通りなのだが…

相手は魔女様…そうわかっていても初めのうちは彼女の言葉を半信半疑で聞いていた隊員も少なくなかったそうだ。特にボクが入隊してスグ…発足して約1年半が経った去年の夏頃はそう考える隊員が多く、上達しないことに腹を立てて移動を願った者までいたそうだ。


けれど…



「・・・前回の講義で皆様にフルメタルジャケットにした弾丸の“模型”をお渡ししましたよね?あれを思い出してください。・・・今もお持ちでしたら、眺めながら聞いてくださってもかまいません。」


けれど、ライフル(型の発動子。部隊内では魔女様に(なら)って単純に“ライフル”と呼んでいる。)の導入により部隊の実績が向上した今では、誰一人として彼女の実力を疑っていない。

僅か1か月で22ペアと5人が100mの魔弾(ライフリング)に成功。

遂に魔弾部隊が至った。と…

誰もが魔女様の指導…その実績…を称えた。


ライフルの導入により多くの隊員が魔弾の射手となった今。魔女様の指導は次の段階へと進んだ。


より遠くに弾を飛ばす手段…

動く標的に対する命中精度の向上…

相手を確実に仕留める手筈…


どれも高い知識と技量を要する…紛れもない“秘技”だった


敵の射程外…超長距離から一方的に攻撃ができる魔弾は圧倒的な力を有する。

けれど…強力な“技”である分、術者は限られ・育成にも時間がかかる。

また、発現時には大きな隙が生まれるという欠点もある。


創造者である魔女様は誰よりもそのことを理解している。そしてボク達に…それとなく…(ほの)めかす。


魔弾は“諸刃の剣"であるという事を。

失敗は“死”を意味するということを…


戦争の足音に気が付いていたボク達は、文字通り“必死”だった…



「・・・以前お伝えした通り、“すないぴんぐ”の鉛弾は薬莢(やっきょう)付きの円(すい)形で、側面には【ライフリング】の・・・らせん状の溝を切る必要があります・・・っと。ここまでの内容は、ここにいる皆様・・・特に“すないぱー”(魔弾の“射手”の事。ちなみに、魔女様が“すぽったー”と呼ぶ射手の補助要因…スコープが付いた事で“導き手”としての役割が無くなったものの、周囲の警戒や【仮想バレル】の形成。的までの距離の測定など、今でも重要な役割を果たしている。…もっとも、ボクはパートナー無しの方が上手くいくから、そのままだけどね…のことは“導手”と呼んでいる。)の方々にとっては、常識・・・ですよね?」



「「「「「…」」」」」


無論、ここにいる全員がそのことを理解している。

静かに首肯すると



「・・・では“すないぱー”の皆様にお聞きします。弾頭の材質は・・・どのようにイマジネートしていますか?素材である、鉛のままですか?」


弾頭の…材質?



「・・・当然ですが、弾頭は的に衝突します。その時、弾頭の材質が柔らかい金属である鉛の()()だと、どうなるでしょうか?・・・試してみますね。すー『老い錆らし囚人・・・閃け』レド・バレット!」


あっさりと魔弾を生み出した魔女様は練習場にあらかじめ用意されている的…他でもない、魔女様自身が土魔法で造られた鉄のように硬く、分厚い(部隊員は誰一人破れない)壁…に向かって



「・・・『火種よ』イグニッションふぁいあー!」

『パチィンッ!!』



魔弾を発射。



『ダァァァァァーーーーーンッッ!!』


すると、

轟音が轟いたのち…



「・・・と。このように・・・」


ガラガラと音を立てて崩れる壁には背に向けて、あっさりと。

まるで当然のことのように…



「・・・壁を壊してしまいます。」

『『『『『ごくっ…』』』』』


息を飲むボクたちには気を留めず。彼女は話を続けた…




「・・・防護壁の破壊・・・これはこれで、確かに強力です。時と場合によっては有用なのですが・・・“無駄”だと。“スマートではない”と・・・思いませんか?・・・“すないぴんぐ”の目的は敵の無力化であって、壁の破壊ではありません。壁が破壊できても、その先にいる敵が無事なら魔法で壁を再構築され、それで終わりです。」

「「「「「‥‥」」」」」


い、いやぁ…

そんなことは無いだろう…?


壁の向こうに人がいれば破片で負傷するだろうし…何より。目の前の鉄壁が突然粉砕されれば誰でも脅威を感じる。

とは思うものの。


誰も何も言わないし…

と、とりあえず黙っておこう



「・・・そこで。です。今度は弾頭を“硬く”イマジネートして、同じことをしてみます。・・・すー『老い錆らし囚人・・・閃け』レド・バレット」


再び的(もちろん、“まだ”無事でいる壁…)に向かって唱え始めた魔女様の姿に思わず身構え…



『パチィンッ!!』


指を擦ったと同時に飛び出した閃光に耐え、轟音を覚悟して見つめていると…



『ダァァァァァーーーーーンッッ!!』


…と。

やはり轟音はしたものの…



「…あ、あれ?」

「壁が…無事?」


中央に穴の空いた窪みがあるものの…



「・・・先ほどとは結果が違いますよね?どうしてかというと・・・弾が壁を破壊すること無く・・・貫いたからです。」

「つ、貫いた!?」

「・・・はい。その証拠に・・・壁の後ろ、陛下が造って下さった“部屋の壁”を見てください。」


魔弾部隊は主に、王城の地下にある秘密の練習場で活動している。この練習場の壁は…

恐れ多いことに、他でもない陛下自らが…魔法で強化してくださった特別製だ。


一同魔女様に続いて立ち上がり。

回り込んでみると…






「え、えぇェ~…」

「ほ、本当に…」


魔女様が撃ち貫いた壁にできた穴の先に、さらなる



「穴が…」


魔女様自身が「・・・これを壊すのは難しい」と言っていた。

鉄壁以上に強固な“恵土(けいど)の壁”には真円に近い穴が空いており、奥には鈍い輝きが…



「・・・・・・まずい。思ってたより食い込んでる。怒られちゃう・・・か、かなぁ?」


い、今の魔女様の言葉は…

き、聞かなかったことにしよう!…うん!



「・・・こ、このように・・・」


あくまで平静を装いながら振り返った魔女様は…



「・・・弾頭の硬度を上げると貫通力が増し、硬い装甲を貫く事が可能となります。今回は極端な例を示しましたが・・・例えば、相手が鎧を(まと)っている時など、有効な手となるでしょう。」

「な、なるほどっ!」


「・・・しかし。貫通するという事は、“弾の威力が通り抜ける”という事に他なりません。・・・ダメージはピンポイントとなります。相手の急所に命中できれば仕留められるでしょうが、例えば・・・四肢に当たった時。手や足を不能にする事が出来ても、対象そのものを“倒す”ことは出来ないでしょう。」

「確かに…」


「・・・弾頭の硬度が低い時・・・つまり、(比較的)柔らかい時・・・に壁が壊れたのは、弾が壁に衝突した瞬間、弾頭が潰れて変形したのが原因です。表面積が拡がったので衝突力が“面”で伝わり、壁に大きなダメージを与えたのです。・・・一方、弾頭の硬度が高い時は壁に衝突しても潰れることなく・・・“点”で。刺し貫いたのです。」

「か、貫通力がある弾頭なら敵が複数人…縦で並んでいる時…まとめて貫くこともできますね!?」


「・・・おっしゃる通りの方法で攻撃することも可能でしょう。ですが・・・当然ですが、高い命中精度が要求されます。また、敵に当たる度に弾の威力が減衰していることに注意しなければなりません。さらに、衝突の衝撃で弾道が変わることも考慮しなければなりません。」


「足止めや威嚇の時は硬度が低い弾の方が有効なのではないでしょうか!?」

「相手を確実に葬りたいときにも、大ダメージを与えられる低硬度の弾が有効だな…。」

「・・・そうですね。硬度が低い弾頭は衝撃力を余すことなく相手に伝える事が出来ます。魔纏術で強化しているなどの理由で最悪、倒せないにしても・・・吹き飛ばす事くらい出来るかもしれません。しかしもし、倒せなかったとしたらどうしますか?敵に仲間がいた時は?・・・こちらの位置は発射音と閃光で確実に気付かれます。次弾の発射までは時間が掛かります。きっと・・・絶対。報復に来ますよ?・・・自分に仲間がいれば、それで良いかもしれませんが・・・。」

「そ、それは…」


「・・・もちろん、時と場合によっては相手を“絶命”させるより“傷を負わせる”方が有効な場合もあります。また、例え硬い鎧を身に纏うていたとしても、“瞳”などは高確率で露出していますから、そこに命中させられるのであれば、弾頭など無関係に仕留める事ができるでしょう。・・・そうであるならば、煩雑(はんざつ)で頭が痛くなるイマジネートなどせず、とにかく早く撃てばよいのです。その方が余程、効果的です。」

「奥が深いですね…」

「・・・最適解は何か?それはきっと、皆様の知識と。状況と。得手不得手によります。ですから各個人が、ご自身に最適な技を見つけて磨いてください。答えはきっと・・・皆様の、瞳の奥にあります。」

「「「「「…」」」」」



「・・・では実際に。練習してみましょう。」

「「「「「イエッサー!!!」」」」」

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