Chapter 051_注文の品
林檎です。
読者様からのご指摘を受け、ミスリルの「存在の重ね合わせ」の部分で言葉を追記しました。
ご指摘ありがとうございます! この場を借りて御礼を・・・
・・・よろしくね。(2022/03/28 13:20)
「はぁ~…済まねぇ。ついカッとなっちまった…」
「イ、イエ…」
『ゴゴゴ…!!』・・・を1分ほど続けた環様は、そう言って眼光を緩め、鳶君を解放した。その間私はずっと彼の手を握っていたのだった。
「・・・もう大丈夫ね?」
「う、うん…あ、ありがと。烏ちゃん…」
・・・まったく。男の子の癖に情けない。
告白してきたときは粘り強くてかっこよかったのに、いつの間にか私に依存するようになって・・・
「・・・よし、よし。」
「…///」
仕方のない子。
「…パチュラはお前さんに憧れててな。」
鳶君に謝った環様は、今度は私に向き直ってそう言った。
「・・・う?」
私に・・・?
「まぁ…なにもパチュラが特別なわけじゃねぇ。あのくらいの歳の子供はみんな、お前さん…“魔女”としてか、“錬金術師”として。あるいはその両方…に憧れてるだろ。9つで綴られる大発明をして、10で魔女になったんだ。当然だな。…おおかた、そこのボーズもそうだろ?」
「ボ、ボク!?は、はい!そうです…」
「あの子も同じだな。だから…お前さんが弟子をとってるのを知ってショック…というか。パニックになったんだろ。自分が…と、思ってるみてーだしな。」
「・・・」
それは・・・何と反応して良いものやら・・・
「…ま。あの子はまだまだ…こんな田舎育ちだからな。常識もねーし教養もなってねぇ。仮にお前さんがいいと言っても人様に預けるつもりはねぇよ。あの子の両親…バカ息子とその嫁も同じ意見だ。…今のところはな。」
「・・・ん。」
・・・本人に言われたわけじゃないので、私からは何も言えないけど・・・
「で、だ。それはいいとして…お前さんの弟子なら無碍には出来ねーな。…仕事があんなら持ってきな。話くらい聞いてやる。」
「・・・ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます!!」
本題に戻って・・・
普通の素材ならギルドで手に入れる事もできるんだけど、魔道具造りでは特殊な素材を使うことが多いから発明を目指すなら冶金師との繋がりが必須だ。
円様・・・そして嘘様。
尊敬する2人の錬金術師から勧められた環様の腕前は私自身が証明済み。
この先、鳶君がどんな魔道具を開発するか分からないけど・・・きっと力になってくれるだろう!
「だがなボーズ。」
「へっ…」
少し冷めたお茶をズズッとすすってから環様は『ゴゴゴ…!!』の視線で鳶君を再び睨み・・・
「師匠…それも、自分より小さい女子に…おんぶにだっこしてるようじゃ、この先思いやられる!男ならしっかりせんかっ!情けない!!」
「ず、ずびばぜん…」
んふふふっ・・・おかしいの。
・・・
・・
・
「なんでぇ…。それじゃあボーズ。お前、まだ何もやってねーじゃねーか?」
「お…おっしゃる通りで…」
その後、赤い顔をしながら『そ~』っと部屋に戻ってきたパチュラちゃんを交えて魔道具の話や最近の鉱物資源の採掘具合。そして鳶君の話などをしていると・・・
「…おじーちゃん。そろそろご飯の時間だよ…」
「おっ…」
パチュラちゃんと環様がそう言った途端
『カーンッ…カーンッ…』
お昼を知らせる鐘の音が響いた。
『クー…』
「・・・///」
お腹もお昼を訴える。すると・・・
「がっはっは!!」
「…ふふふっ。」
「おらっ!飯にするぞ!!お前さん方も食ってけ!!」
「・・・えっと///」
そんなつもりは無かったんだけど・・・
「お母様もそのつもりで、沢山作っていましたので…ぜひっ!」
「遠慮すんな!魔女のお前さんが大食らいな事ぐれー、盛り込み済みだ!」
そこまで言われると断るのも悪いので・・・
「・・・で、では・・・お言葉に甘えて。・・・ローズさん。シュシュ。お手伝いを…」
「もちろんです!」「にゃんです!」
その後、環様のアトリエ兼お家で・・・息子夫婦さんとパチュラちゃんを交え・・・食卓のおコタを囲んで【すいとん】みたいな料理をご馳走になった。
あぁ・・・ドワーフ王国いいなぁ・・・すっごく温かいっ!!
卒業したら移住しようかなぁ・・・
・・・
・・
・
「…で?満足したか?魔女さんよ。」
ランチをご馳走してもらった後、再びアトリエに戻ってきた私達。
「・・・ご、ごちそうさまでした。美味しかったです・・・お、お腹いっぱいです///」
「はわぁ…1人で土鍋空けちゃいました…」
「・・・///」
こ、これでも遠慮したんだよ!?ホントだよ!!
「がははっ!そんなところは歳相応なんだなぁ…お前さんは!」
「・・・///」
「ま。満足出来たんならいいさ。…んじゃ、本題行くぜ?」
「・・・は、はい!」
環様はそう言うと真面目な顔になり・・・
「まずはお前さんの分。…ほら。てー出せ」
大きな手をグーにして突き出した。
「・・・はい。」
その下に両手を伸ばすと・・・
「…ほらよ。」
そのゴツゴツとした拳から小さなリングが零れ落ちた
「・・・これが・・・」
私が受け止めたのは2つの対照的な・・・
全ての熱を飲み込む・・・“黒体”のような・・・粗く多角形に削られた無骨な黒い指環
自ら輝いているかの様な・・・“星”のような・・・滑らかでシンプルな青銀の指輪
「…純度99.9%のアダマンタイトの指輪と、“存在率”802.1%のミスリルの指輪だ。」
アダマンタイトはとても・・・マンガンやモリブデン以上・・・純度によっては超硬合金より・・・固い金属(本当に金属なのかな?でも、金属光沢があるし合金化もできる。展性と延性もある(展性と延性:引っ張ると伸びて、叩くと潰れる金属の性質の事)んだよね・・・)で、魔力を通し辛いという特殊な性質があるため魔道具(武器に使われる事も多い)で多用されている。
けれど一方で、純度が上がるにつれて加工を受付けなくなる難しい素材である。魔道具として使う時は純度75%以下が基本(因みに、卵の外殻は純度73.5%±0.5%)。
純度99.9%なんて滅多に手に入らない超超一級品!!
「アダマンタイトの方は…すまんな。それが加工限界だった。」
「・・・まさか!こんな素晴らしいのに・・・これ以上なんて望めません!!」
そしてもう一つの指輪の素材である、魔力を通し易い素材であるミスリルは・・・“存在の重ね合わせ”が出来るという、アダマンタイト以上に摩訶不思議物質だ。
簡単に言っちゃうと、手の平に乗っている指輪は1つだけど・・・存在率802.1%だから・・・8.021個の指輪が同時に同じ場所に存在している・・・という意味。
存在は8.021個分あるけど、物として手の平に乗っている指輪はあくまで1つ(純度で言うと、100%)だから、重さを測ると指輪1つ分。
・・・なるほど。分らん。
質量保存の法則?・・・何それ美味しいの?
不確定性原理は・・・ちょっと関係している・・・してるのか???
「ミスリルの方は…希望通り8階位超え(存在率800%以上。という意味)にしたが…そんなに使いこなせるのか?」
「・・・実際にやってみないと分かりませんが・・・たぶん、何とかなります。全部を並列に使わなくても・・・例えば、2本、3本まとめて使う・・・デュオやトリオにする・・・という手もありますし。」
「その発想が出てくる事自体、恐ろしいな。全く…」
他の異世界がどうかは知らないけど・・・リブラリアでは魔力に直接的に影響を与える物質(金属)がアダマンタイトとミスリルの2つで。その含有比(因みに、加工性や見た目、強度の関係で鉄や銀など他の素材を添加して、合金の形で利用する。因みの因みに、アダマンタイトとミスリルの2つを合金化する事は出来なくて、分離してしまう。どうしてもそういう事をしたい場合は、別々の素子にして回路上で並べるしかない。だから私も別々の指輪として造ってもらい、同じ指にはめている。)で魔力の通し易さが決まると言われている。
アダマンタイトは魔力の障壁となり、ミスリルはスイスイ流れる通り道となる。
そして、アダマンタイトは純度100%になると魔力を全く通さなくなり、ミスリルは純度100%を超えると魔力を並列に流す事が出来る。
この二つの指輪をどう使うかと言えば・・・そうだなぁ。
例えるなら、アダマンタイトは魔力を溜める“ダム”で、ミスリルは“水路”だ。
魔法は魔法の種類ごとに異なる閾値・・・発現に必要な最小の魔力量・・・以上の魔力を込めると発現出来るんだけど、アダマンタイトのダムは、この魔法の閾値を押し上げる・・・要するに、魔法の発現に必要な最小の魔力量を増やす・・・効果がある。
こうすると、同じ魔法なのに込める魔力量が増えるから魔法の効果が段違いに高くなる。
もっとも、アダマンタイトが無くても魔力を込めることは可能だし、今までもそうやってきたんだけど・・・魔力を込めるのに少し時間がかかるし、その間、高い集中力が要求されるから難しい。ついでに、階位の低い魔法は呪文が短すぎて魔力を込める前に発現してしまう。
指輪という発動子でその時間と手間を省略すると同時に、魔法の基本的な効果を高めているわけだ。
ミスリスは水路・・・パソコンで言うところの“メモリ”と言ってもいいかもしれない。
8階位越えのミスリルの指輪は一度に8つの魔法を並列に並べることができるから、8つの魔法を同時行使出来るようになる。
魔法を発現させるための“処理”自体は瞳でできるし、3つくらいまでならミスリルに頼らなくても何とかなるんだけど・・・「あれも考えて、これも考えて・・・」って、なっちゃうから大変なんだよね。戦闘中だと余計に。
だからそれを発動子で補助しよう・・・というわけ。
「送ってくれた型どおりに造ったから平気だと思うが…確認してくれ。」
「・・・ん!・・・それじゃ、早速・・・」
右の人差し指に2つの指輪をはめて感触を確かめる。
結果はもちろん・・・
「・・・んぅ!・・・いい感じっ!サイズもピッタリ!!さすが環様!!!」
これまで同時行使は5つが限界だった。
滝洸大聖堂(サリエルと戦った時)では旧指輪の・・・アダマンタイトの・・・純度が足りなくて煉獄魔法に耐えられなかったけど・・・
「・・・早速試し打ちしてくる!」
今度はきっと大丈夫!!




